軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

住民説明会

2023-03-03 00:00:00 | 日記
 最近、長野市と軽井沢町で表題の住民説明会に関係する出来事が相次いだ。私も、行政とは言えないまでも、その末端を預かる区の仕事をしている関係で、こうしたできごとを関心を持ってみている。

 長野市で現在も進行中の出来事である「青木島遊園地」(同市青木島町大塚)の廃止問題は、全国的に知られるようになり、大きな話題となっているが、2021年10月31日に行われた長野市長選挙で初当選した荻原健司新市長にとっても頭の痛い問題となっているようである。

 ニュース記事によると、「遊園地近くの公民館で開かれた2月11日の非公開の地元説明会に出席した荻原市長は、公園廃止について『【地域に戻して考えさせて欲しい】という複数の意見があった』とその後の記者会見で説明。今回の問題について、『(市として)もう少し地域の意見を聞くべき点があったと反省している』と話した。」という(2023.2.16 朝日新聞デジタル より)。

 一方、軽井沢町では新庁舎と周辺の複合施設の建て替え工事計画が、町長選挙の重要な争点になり、新庁舎等の建設計画の凍結・見直しを訴えた新人の土屋三千夫氏が当選した。

 藤巻進軽井沢町長は2月9日、任期満了に伴い町長を退任し、その際、町役場で開かれた退任式で、集まった職員らに感謝を述べ「嬉しく楽しく充実した12年間でした」と振り返るとともに、町長選で争点となった庁舎等建設事業については「行政として情報発信不足だった一語に尽きる」とし、町の課題や政策について丁寧な説明を心掛けるよう職員に伝えたと報じられている(2023.2.9 軽井沢ウェブニュース)。

 こうした町民の気持ちが町長選挙に反映し、新庁舎建設計画の見直しを訴えた新人3候補に、合わせて70%以上の票が集まる結果となったものと思われる。

 土屋三千夫新町長は2月10日町長就任式に臨むとともに、その後行われる新庁舎検討委員会に出席し、挨拶と方針演説を行うことが、町のホームページに掲載された。

 軽井沢Webニュースによると新町長は、「・・・2月10日初登庁の日に検討委員会が開かれるので、公約通り、凍結の方針を伝えます。その上で、なぜ高額になったのか、プロセスなどを関係者にヒアリングし、今後の方向性を半年で出す。DX推進と合わせて、機能や場所も含めて総合的に見直し、審議の過程を公開して進めていきたい。外観でなく、機能と中身を重視することが大切。機能美は追求できる。(2023.2.10 軽井沢ウェブニュース インタビュー)」と述べたと、この問題への取り組みについての考えが伝えられた。

 また、軽井沢町議会の3月会議日程をみると、2月24日初日の会議で町長の挨拶が予定されていて、3月1日には本会議終了後「庁舎改築周辺整備事業検討特別委員会」予定されている。

 上記3月会議の行われる当日の朝、次のような異例とも思える前町長・藤巻進氏の署名入りのB4判の意見広告が一般家庭に配布された。

 
家庭にポスティングされた前町長の署名入りの意見広告

 ここには、今回の町長選挙で心ならずも争点となってしまった、庁舎改築問題に対する藤巻進氏の思いがにじんでいる。こうした藤巻進氏の思いは、地元の情報紙「軽井沢新聞」2月号の次の記事にも表れている。

 「軽井沢町長選挙 新人の土屋氏、現職ら破り当選
 藤巻氏、4期目実現ならず
  ・・・藤巻氏は支持者らに感謝を述べ『住民の皆さまの民意なので、しっかり受けとめたい』。敗因については、取材に『庁舎周辺整備事業の値段だけが強調された。自分自身は(庁舎周辺整備が)争点だと思っていなかった。・・・』と話した。」

 これら最近の2つのできごとをみていると、荻原健司長野市長にとっては、この公園問題への対応を誤ると、自身への批判につながりかねない微妙な問題となっているという感じがしてくる。

 藤巻進前軽井沢町長にとっては、町行政側を通じての情報発信不足がまさに自らの蹉跌につながってしまった。

 こうした住民への事前の情報発信や協議の不足はどうして起きてしまうのか。これは、それぞれの課題にたいする行政側の認識が、知らず知らずのうちに住民感情とズレてしまっていることによって起きているのではないかと思える。

 日常的に多くの案件を処理し、事業を進めていく行政や一般の事業主にとって、個々の案件に細かい配慮が行き届かなくなることはある程度避けられないのかもしれないが、その中で、どのような案件が住民側にとって、場合によっては受け入れがたい内容となるのか気が付かなくなっているということかもしれない。

 さて、今回の2つの出来事は、行政側自体の問題であるが、他方で市や町はそれぞれ一般の事業者にたいして住民説明会を開催するよう義務付けるという立場でもある。

 軽井沢町の場合、町内の開発事業に対する規制が全国レベルで見てもとても厳しい所として知られていて、「軽井沢町の自然保護のための土地利用行為の手続き等に関する条例」と「軽井沢町の自然保護対策要綱」を定め、これを守るよう要請している。

 次の図は、この条例で定めている事前協議についてのものであるが、この中に近隣説明会についての記述がある。


軽井沢町、「軽井沢町の自然保護のための土地利用行為の手続き等に関する条例」・「軽井沢町の自然保護対策要綱」P4より

 近隣説明等を定めている条例の第8条の内容は次の通り。
「(説明の実施) 
  第8条 事前協議をしようとする土地利用行為者は、あらかじめ、町民等、近隣の土地所有者
 等その他協議対象土地利用行為の実施により、 その生活環境に支障が及ぶおそれのある者に対
 し、当該協議対象土地 利用行為の内容その他必要な事項を説明しなければならない。」

 こうした条例・要綱の制定は、軽井沢町の自然環境およびそれにより形成される景観を保護することを目的としていて、土地利用行為者には条例第8条で、上記の通り事前協議の中で、近隣の住民等に対して説明の機会を設けることを義務付けている。

 私はこれまでに3回、こうした説明会に出席する機会があった。

 その中の1つは、2020年1月30日開催の、三笠地区に計画された企業の保養施設建設に関するものであり、この場合は区長/事業者連名で説明会の開催が地区住民に通知された。

 この時の実施計画と町が定めた条例との関係は次のようなものであり、当然であるが条例違反項目などはなく、説明会は予定された1日で終了した(*は筆者)。

 

 もう一つは、開催順では3番目であるが、2022年9月9日に行われた、軽井沢を代表する「Mホテル」の大規模改修・改築についての説明会であった。
 
 1894年に創業したMホテルは日本の西洋式ホテルの草分けの一つともいわれるクラシックホテルで2024年には130周年となる。今回の計画ではハーフ・ティンバー風の外観意匠や、和洋折衷の室内意匠をもち、国の登録有形文化財にも指定されている「アルプス館」の大規模改修と、他の4棟の建替えが行われる。

 建蔽率、容積率、階数、建物高さなどの各項目は前記の軽井沢町の条令を満たすものであることが、近隣事前説明会で示され、特段の問題もなく説明会は終了した。

 私が参加したもう一つの住民説明会は上記のMホテルの開催日より約1か月前、2022年8月8日に開催されたもので、「(仮称)軽井沢ワタベウェディング跡地計画」についてであった。

 通常は、旧軽井沢公民館で行われている説明会であるが、この時は都合で隣接した諏訪神社の広間で行われた。

 また、区民への開催案内だけではなく、商店会を通じて各商店に連絡されたことも手伝い、商店主、別荘住民など多様な立場の方々が参加した。そして、この日の説明会は、冒頭から荒れ模様で、その後の展開を予想させるものであった。

 配布資料から要点だけをまとめると次のようである(*は筆者)。

  

 この場合も当然であるが、工事の内容には条令や要綱に違反するものはなく、法的には問題のないものであることが示された(容積率はわずかに条令の定める上限を上回っていることが、事後に確認できたが、最終的には変更された)。
 
 しかし、この説明会では、初回から数多くの質問、意見や要望が出され、この後2022年9月13日に第2回、2022年10月14日に第3回、2023年2月16日に第4回の最終説明会が開催されることとなり、この間にも、開発事業者と商店会関係者、地区関係者、近隣住民との個別協議が行われた。

 住民側からは、上記会合での質問や要望の他、文書による申し入れも行われてきた。
 
 建設予定の建物についての協議が続く中、開発事業推進のため、現有建物の解体工事についてのお知らせの会が2022年12月2日に開催され、現在解体工事が進行している。
 
 この新ホテル建設計画が、先に紹介した他の2つの案件とは異なり、なぜこのように何回も住民説明会を重ねることになったか、事業者が用意した「これまでの主なご要望・ご意見に対するご回答」を改めて読んでみると、そこから見えてくるものは、この建設予定地に対する地域住民や軽井沢の歴史・景観・自然に関心を寄せる人々の強い思いである。

 大正5年(1916)に名古屋の豪商・近藤友右衛門という人がこの場所に「近藤長屋」を建て、ここに銀座の老舗が軒を連ねた。これが「軽井沢銀座」の名の起こりだと伝えられている。

 その後、近藤長屋は解体され、跡地には現在解体中の結婚式場である「ワタベウェディング」が建設されたが、その時にも外観や景観をめぐって、当時の田中康夫長野県知事を巻き込むほどの議論が起こっている。それもあって、現地には多くの樹木と庭園が残され現在に至っているが、これらが失われることへの危機感が一つの要因と思われる。

 こうした過去の経緯をめぐる意見や要望の他に、今回提案されているホテルの階数や外観に対する指摘も多く、実質4階建てではないかとの意見がある。

 これに対しては、建築基準法やその他法令に準拠していて、地下1階・地上3階であり問題はないというのが事業者側の言い分であるが、最終説明会の場でのやり取りでは、住民側には納得がいかない人もまだいるとの印象を受けた。

 この点について、事業者が提示している(最終)図面を見ておこうと思う。

 次図は住民説明会で提示された図面から必要部分だけを抽出したものであるが、前面道路側からみた建物全景(と地面断面)およびA、B位置の断面図である。

 前面道路は向かって右側から左側にかけて緩やかな登り勾配がある。建物中央部付近にある玄関がちょうど前面道路と同じレベルになるように建物は設計されている。したがって、ホテルの右側は前面道路より高い位置に、またホテル左側は前面道路より低く地盤を掘り下げた形になる。

 結果、理論上地下1階・地上3階というものの、実際には住民が指摘しているように、建物は4階建てに見えることになる。また、敷地内の地盤面に見られる起伏を考慮すると、地下室の定義にどのように当てはまるのか微妙な部分もある。

 尚、建築基準法の地階の定義は、次の通り。
 ① 天井高さの1/3以上が(平均)地盤面より下にあること。
 ② ①部分が建物全周の1/2以上であること。

ホテル建物の北立面図の概略(事業者資料を基に筆者作成)

ホテル建物のA位置断面図概略(事業者資料を基に筆者作成、赤の一点鎖線は敷地を挟む前後の道路面を結んだものである)


ホテル建物のB位置断面図概略(事業者資料を基に筆者作成)

 開発事業者が最終とした、2月16日の近隣説明会を受け、地元住民らが集めた署名が新町長に提出された。

 この模様を信濃毎日新聞(2023.2.22配信、デジタル版)は次のように報じている。住民説明会はもう開催されることはないが、土地利用に関する手続きはまだ完了した訳ではない。今後の行方を見守りたいと思う。

 「『旧軽銀座』にホテル建設計画 景観への影響を懸念する地元住民ら、町に指導求める署名を提出
 
 長野県軽井沢町の旧軽井沢でT不動産(東京)が進めているホテル建設計画に対し、景観面などを懸念する地元住民らが20日、土地利用行為の手続き等に関する町の条例や要綱に基づく厳格な指導を求め、要望書と2156筆の署名を町に提出した。土屋三千夫町長は取材に、関係条例・要綱が厳格に順守されるように『しっかり見ていきたい』と述べた。

 計画によると、旧軽井沢銀座通り終端部の挙式施設跡地(4148平方メートル)に鉄筋コンクリート地上3階・地下1階、室数65のホテルを建設。高さは12・95メートル。2025年6月までに工事を終え、ホテルや飲食店を全国展開する企業が運営するとしている。

 計画地は近隣商業地域で、県景観条例に基づく景観育成住民協定の認定エリア内にある。要望書は近隣住民や、協定締結を主導した有志の『旧軽井沢の歴史と景観を守る会』が提出。『(一帯は)軽井沢の原風景が色濃く残る』、『もっと小規模で景観に調和した建物にするよう求めたが(T不動産側に)受け入れられなかった』とした。署名は昨年11月~今年2月に集め、町内外から寄せられた。

 近隣住民代表の一人、一色文枝さん(85)は『3階建ては圧迫感があると思う。夏場の繁忙期は、交通や上下水道などへの影響も心配』と話した。

 T不動産は住民説明会をたびたび開催。16日の説明会では、住民らの意見を受けて当初計画より規模を縮小したことなどを挙げ、今後は説明会を開かない考えを示した。説明会後、担当者は取材に『要望書や署名の内容は把握していない』と話し、規模については『(採算面で)持続性も考える必要がある』として理解を求めるとした。」
 

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