もう予告編の段階から涙腺があぶないのはいつものこと。大迫力に弱いのは昔からです。
ただ1度だけ、亡くなった人と会える。その橋渡しをするツナグという人。昔ゴーストでウーピーがやっていた役に近いでしょうか。樹木希林さんの役柄が時にユーモラスで、ふっとウーピーを思い出したので。その場の緊張を和ませる役柄で、本当に素晴らしい女優さんだと思いました。
松坂桃李くんは、どこにでもいそうな普通の高校生という役がぴったりでした(ずっと梅ちゃんを見てたので、20代後半くらいのイメージが残っていましたが)おばあさんからツナグの力を受け継ぐ孫の役。2人が一緒に住んでいる家が、昭和の雰囲気ながら洋風でとても趣があり素敵でした。美味しそうな料理が出て来るところも印象的で、食べることと生きることのつながりを表現しているのかな、と思いました。あと死者と会えるのが満月の夜で、映画の中で月がとても重要な位置にあることがうれしかったです。月の満ち欠けが人間の営みにすごく関係しているんだ、ということを再認識。
遠藤憲一さんが会いたいと言った母親役の八千草薫さんの演技が、もうたまらなく泣ける!今これを書いていても思い出し泣きです。優しくて温かくて、いい歳をした息子をまるで5歳の子供をあやすように。その笑顔を見ながら「この人はもう死んだ人なんだ」と思うと、たまらなく切ない。死者は朝が来るとすーっと消えていきます。
女子高生たちのやりとりも、何かをえぐられるような気持ちでした。詳細は割愛しますが、死んだ友達が本当にもう一度だけ会いたかったのは、両親だったかもしれない。それをある勘違いをした自分が使ってしまった。自分が死に追いやったのではないとわかっても、一生その子のことは忘れられない。死んだ女子高生役の大野いとさんの何とも悲しげな目が印象的でした。
7年前に失踪した婚約者を待つサラリーマン役の佐藤隆太さんと、田舎から出て来たハデハデギャルの桐谷美鈴ちゃんも、とても良かったです。たくさんの嘘を清算するために故郷に帰る途中、事故に会って死んでしまったけれど、偽名だったので7年間死んだこともわからない。生死がわからなければ、いつか帰って来るかも、と思ってしまう。佐藤隆太さんの押さえた演技が、男の内に秘めた想いを表現していました。一緒に住んでいた部屋の秘密の場所から、親に返して欲しいという手編みのマフラーと一緒に、デートの時に食べたキャラメルポップコーンの紙容器が出て来て、それが本当に好きだったんだということを表していました。
この映画を観て「うそっぽい」と思う人もいるでしょうけれど、私は(たぶん隣りのやすべーさんも)入り込んで入り込んで観てました。細かいところもきちんと描いてあって、観終わってずしりと胸に来るものがありました(エンドロールのJUJUさんの歌も、横に出ていた金環日食の映像も、樹木さんの朗読も、どれも素晴らしく、あんなに泣けるエンドロールは初めてでした)
今もし私が誰か1人亡くなった人に会わせてあげる、と言われたら、24歳の時に亡くなった母方のおばあちゃんに会いたい。小さい頃、泊まりに来てくれたおばあちゃんのおふとんに、わざわざ明け方に入りにいってました。私の弾くピアノが大好きだったのに、学生時代はバンド演奏しかしてなくて、ろくに聴かせてあげられなかったのが心残りで。ただ、スピリチュアル系に詳しいママに「だから今、おばあちゃんがあなたにピアノを弾かせてくれているんだよ」と言ってもらって、たくさんの人に聴いてもらう事をおばあちゃんが喜んでくれているのかな、と思えるようになりました。だからこそ、もっとたくさんの人に聴いてもらえるようにならなきゃいけない。あなたのピアノを聴いて心が元気になりました、と言ってもらえるように。
本当にたくさんの事を考えさせてくれる、とてもいい映画です。