とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

現代文の参考書シリーズ 言語論4 言葉が世界を作っている例2

2016-09-26 19:17:06 | 現代文の参考書
〔具体例2 「灰色」ってどんな色?〕

 似た例をもうひとつ。色のことです。

 「灰色」ってどんな色なのでしょうか。

 「黒」と「白」はだれもがはっきりしているので問題ありません。しかし、その間にあたる灰色は、かなりの幅があります。「薄い灰色」もありますし、「濃い灰色」もあります。「薄い灰色」と「濃い灰色」を並べてみると、明らかに違う色です。イメージも違うし、ファッション業界の人や、インテリア関係の人にとってはその違いは非常に大きなものであろうと思われます。しかし。一般には「灰色」は「灰色」であって、普段その違いを意識しないで、「灰色」という言葉をつかっているはずです。

 ちょっと考えてみてください。「灰色」ということばを聞いてみなさん、どんな色を思い浮かべるでしょうか。おそらく十人十色、みんな濃さの違う灰色を思い浮かべているのではないでしょうか。しかし、その思い浮かべた灰色を特に意識して区別しない限り、みんな「灰色」としてしか意識していないはずです。それぞれの人が思い浮かべた色を具体的に提示して、
「これ何色ですか?」
と、聞いても、だれもが、どの色に対しても、なんの疑問も感じずに
「灰色」
と答えるだけです。

 「黒」と「白」の間に「灰色」という言葉しかなければ、どんなに幅があろうと、私たちはそれを「灰色」としか認識しません。

 これは、言葉(つまり「灰色」という言葉)が、存在(「黒」と「白」の間の幅の広い色)に先立つ一つの例と言っていいのではないでしょうか。

 もし、色に対して違いが重要な社会であったなら、きっと「薄い灰色」と「濃い灰色」に別の名前を与えていたと思います。現実に今の日本の社会では重要な違いです。現実に洋服の世界では灰色を「ダークグレイ」とか「チャコールグレイ」あるいは「ライトグレイ」などと分類し始めています。

 「チャコールグレイ」とは「濃い灰色」のことです。この言葉が定着することによって、ようやく幅の広かった「灰色」が、普通の灰色と濃い灰色の二つに分かれることができそうです。このことは「チャコールグレイ」という言葉によって、すでに存在していた灰色に切れ目をつけて、新たな色を創造したということになるわけです。

 このように、さまざまなこの世の中のものは、言葉によって存在を開始し、言葉によって存在を得ていると言えるのです。
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