高校生に夏目漱石の『こころ』の授業をしている時に気がついたこと。下の42章。
お嬢さんへの恋を告白したKがどうしたらいいか相談に来たKに対して、「先生」は「精神的に向上心のないものは馬鹿だ。」と言い放つ。この言葉は以前Kから言われたものである。しかし実は「先生」自身がお嬢さんを好きだったために、Kにお嬢さんをあきらめさせるために策略的に言った言葉だ。
さて、Kはこの言葉に追い詰められていく。自分の言葉によって追い詰められていくのは一番つらいことだ。人間は自分を裏切りたくないからだ。追い詰められたKは「もうその話はやめよう」と「先生」に言う。しかしそれに対して「先生」は「君の心でそれをやめるだけの覚悟がなければ、一体君は君の平生の主張をどうするつもりなのか。」と追い打ちをかける。ひどい男だ。
問題はここの「それ」とは何かということだ。普段読み飛ばしてきたが、生徒に指摘されてわからなくなった。なんとなく思い込みで「お嬢さんへの恋」と考えてきたが、話の流れから考えると「話を続けること」ととるべきではないか。しかし「話を続けること」と考えると文の意味が通らなくなる。
あきらかにここで「先生」は言葉の意味を捻じ曲げてしまったのだ。ここに冷静さを欠いた「先生」の姿があらわれているとも言える。生徒に指摘されたところだがおもしろい発見だ。
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