goo blog サービス終了のお知らせ 

とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

夏目漱石の『明暗』2 お金 心理戦

2024-03-03 07:01:44 | 夏目漱石
夏目漱石の『明暗』について考えたころを、忘れる前に書いておきます。

1,『お金』
夏目漱石の小説でよくお金が重要な要素となる。津田も自身の入院費を工面するために奔走する。さらには小林への餞別でもお金のやりとりがある。お金のやりくりや、お金の出入りが筋を進める力となっているのである。ところが、不思議なことにお金のあてができる前に入院してしまう。現代の小説にはない特徴がある。

夏目漱石は作家になる前も、東京帝大を卒業して、松山や熊本で教師として働いていたわけなのでそれなりの収入があったと考えられるのだが、夏目鏡子の『漱石の思ひ出』を読むと、漱石は朝日新聞に入社する前などはお金には苦しんだようである。つまり当時日本人はほとんどが貧乏だったのだ。借金が当たり前であり、借金の苦しみを抱えながら毎日を生きていたのである。夏目漱石の小説にお金がはっきりと表れるのは、リアルな生活感覚を小説の底辺においていたためと言える。

2.『心理戦』
『明暗』のもう一つの重要な要素は心理戦である。津田は多くの人と心理戦を繰り広げる。妻のお延、妹のお秀、友人小林とは深刻な戦い実況中継が小説の中でおこなわれ、読者としてはかなり疲れてしまう。だれもが相手の言葉を疑い、裏を読み、スキを見つけようと必死になっている。

ここで気づくのが意外にも「お金」と「心」が同じレベルなのではないかと感じられる。「お金」と「心」を比べると、どうしても「心」のほうを上に見てしまうのが人間であろう。しかし『明暗』を読むと、「お金」の工面と同じレベルで「心」は働いているように感じられるのだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする