とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

劇評『民衆の敵』(12月2日シアターコクーン)

2018-12-03 08:12:26 | 演劇
作:ヘンリック・イプセン
翻訳:広田敦郎(シャーロット・バースランドの英語逐語訳による)
演出:ジョナサン・マンビィ
出演:堤真一、安蘭けい、谷原章介、大西礼芳、赤楚衛二、外山誠二、大鷹明良、木場勝己、段田安則

 シアターコクーンで『民衆の敵』を見た。戯曲、演出、役者、そしてスタッフのそれぞれのよさが見事にかみ合っていたすばらしい舞台であった。

 シアターコクーンが海外の演出家を招いて上演するシリーズを始めた。以前から海外の演出家を招いての公演は行っていたが、今年からはこれを一つのシリーズとしていくようである。海外の演出家がいいのかはまだわからないが、おもしろい企画である。さまざまな気づきがある。今回はジョナサン・マンビィが演出する。

 ジョナサン・マンビィは過去にやはりシアターコクーンで『るつぼ』を演出した。むずかしい作品で、あまりいい印象をもっていない。しかし舞台転換でのインパクトはよく覚えている。イギリスの演出家でRSCでシェークスピア作品を多く演出しているらしい。

 今回の作品はイプセンの『民衆の敵』。最近イプセンの作品がよく上演される。古い作家のように思っていたが、実際に見てみると、現代に通じることが多い。今回の『民衆の敵』は現代の日本の状況とまるで一致しており、古さなんてまったく感じない。多数派は実際には間違っていることが多く、民衆のほとんどが自分の利益のために知らず知らずに多数派に寄って行く。自分でも気づかぬうちに、間違いを正しいものと思い込んでしまうのだ。民主主義なんて本当なのだろうか。そんな世の中で正義を貫くことは困難である。「民衆の敵」と呼ばれ、家族や支援者までもがつらい思いをするからである。それでも負けるわけにはいかない。正義の厳しさがよく描かれている芝居である。

 演出の大きな特徴は群衆処理の見事さである。場面が転換する時、アンサンブルが現代舞踊のような身体表現を見せる。そのイメージは場面転換が終わった後も観客の頭に残る。転換場面の印象が強いのにも関わらず、主たる役者の演技がしっかりとしているので、決して負けていない。その結果、重層的なイメージが成立している。効果的である。
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