とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

村上春樹『騎士団長殺し』⑧「信じる力」

2017-04-29 05:52:38 | 騎士団長殺し
 村上春樹の『騎士団長殺し』を読み終わった。気になったことをメモ的に書き残す。その8回目。

 「私」は別居中の妻と再会し、妻が生む子供の父親は自分かもしれないと言う。性行為が行われていないのだから現実的にはあり得ないのだが、観念的に妊娠させたという仮説を立てる。そして言う。

「この世界には確かなことなんて何一つないのかもしれない。でも少なくとも何かを信じることはできる。」

 私たちは常に不安定な中にいる。自分は何で生きているのであろう。自分はなぜこの世界にいるのであろう。自分とは何? このような疑問を感じるのは近代人の本質なのかもしれない。その不安定な中で画家は絵を描くことによって自分を取り戻そうとする。そして小説家は小説を書くことによって確かなものを手に入れようとする。

 観念と現実は別物ではない。観念は現実としっかりとつながっている。そういう確信が得ることができることが、小説家としての願いである。

 「信じる力」

 これを得るために我々はもがき苦しみながら生きているのだ。それを教えてくれる小説だった。
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