まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

フェイク・オーガズムの恐怖

2010-01-03 21:12:07 | 性愛の倫理学
年末にスカパー!で 『恋人たちの予感』 を放映していて、つい見てしまいました。
そうあの、男性たちを恐怖のどん底に叩き入れた悪名高き映画です。
それを、クリスマス・シーズンだからということで、
いくつかの恋愛映画の中にもぐり込ませて、
あたかもラブロマンス映画であるかのように放映していたのです。
この映画は、エイリアンもスプラッター・シーンも出てきはしないけれど、
哲学的な意味でのホラー映画であることは疑いありません。

物語は、恋人どうしでもない男女がある事情により、
2人でロングドライブに行くことになるというところから始まります。
まったく気の合わない2人は、しだいに本気でバトルを展開していくことになります。
物語の中盤でその問題のシーンは登場します。
途中立ち寄ったダイナーでセックスの話題になります。
男は自分のセックスによってこれまでの相手が満足していたことを確信しています。
それに対してメグ・ライアン演ずるヒロインは、
「女性がイッたフリしてあげてるだけよ」 と言い放ちます。
男性が、本当にイッたのかフリしてるだけかくらいすぐに見分けられる、と反論すると、
ヒロインはじゃあこれはどう?と言って、
その食堂のイスに座ったまま、感じる演技を始めます。
少しずつ感じ始め、だんだんと喘ぎ声が高まっていき、
最後は身体を大きく揺すって絶叫しながらオーガズムに達してしまう、
というところを最初から最後までその場で演じてみせるのです。
男性は絶句してしまい、食堂中の客や店員も唖然としています。
そして、映画の観客もメグ・ライアン迫真の演技に、
本当に女性はみんなこんなことができるのかと凍りついてしまうのです。

どうです、恐ろしいでしょう?
ある情報によれば、ほとんどの女性がイッたフリをしたことがあるそうです。
おそらくそうすることによって、男性に早く終わってもらいたかったり、
あるいは、男性を傷つけたくないからなのかもしれません。
イッたふりのことを英語ではそのままフェイク・オーガズムというのですが、
男性の皆さん、フェイク・オーガズムを見分けることはできますか?
今までの性交で、相手の示した反応はすべて自分の技巧のおかげだったと断言できますか?
少なくとも私はできません。
今にして思えば、あれは完全にフェイクだったのだろう、というのはいくつか思い当たりますし、
そうでないものに関しても、疑い始めたら、どれもこれも疑わしく思えてきます。
これは哲学的な大問題だと私は思っています。

先日、哲学には他我問題というアポリア (解くことのできない難問) があるという話をしました。
フェイク・オーガズム問題はその問題の一種であると言えるでしょう。
私たちは相手の内面 (何を考えているのか、何を感じているのか) を、
相手の外的反応 (声やことばや表情や動き) から推測していますが、
はたしてこの推測は本当に正しいと言えるのかという問題です。
たいていの場合、その推測は当たっているわけで、
例えば男性であれば、射精するという外的反応が見られれば、
内部ではオーガズムを感じている、ということは自分の経験に照らして明白です。
ところが、女性の場合はそのような1対1対応の外的反応があるわけではありませんから、
声やことばや表情や動きなどから推測するしかないのですが、
それらはすべて演技でごまかすことができるわけです。
(最近のAVで 「潮吹き」 がもてはやされるのは、
 それが男性にとっての 「射精」 と同じような1対1対応を期待させるからでしょう)
快感というごく単純な感覚ですらそうなのですから、
愛してくれているのかどうか、本当は何を考えているのかなど、
相手の内面を正しく認識することはひじょうに難しい作業です。
男のオーガズムは簡単に見分けられる女性にとっても、
彼が本当は何を考えているのか (ただヤリたいだけなのか、本当に愛してくれているのか)
を見抜くことは至難の業でしょう。
はたして私たちは相手の内面の真実を本当に知ることはできるのでしょうか。

あんまり怖いままでは夜も眠れなくなってしまうかもしれないので、
男性たちを少し安心させてあげられる話を最後に付記しておきましょう。
メグ・ライアンのあのシーンの撮影はものすごくたいへんで、
何度も撮り直してけっきょく一晩中かかったのだそうです。
ワン・テイクですぐOKが出た、
とかって言われると本当に何も信じられなくなってしまいそうですが、
あれだけの大女優でもフェイク・オーガズムを演じる (?) のにはものすごく苦労した、
ということを聞くと、女性への信頼を少しは取り戻せるような気がするのです。

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