がん(骨肉腫)闘病記

抗がん剤治療、放射線治療、人工関節置換手術、MRSA感染、身体障害者となっての生活の記録を残します。

混合診療禁止は「適法」=患者側敗訴が確定-最高裁

2011年12月07日 | Weblog
http://www.jiji.com/jc/zc?key=%ba%ae%b9%e7%bf%c7%ce%c5&k=201110/2011102500543



「保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」を受けると、医療費全体に保険が適用されないのは違法として、がん患者の男性が国を相手に保険給付を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は25日、混合診療の禁止を適法と判断し、患者側上告を棄却する判決を言い渡した。患者側の逆転敗訴を言い渡した二審東京高裁判決が確定した。
 訴えていたのは、神奈川県の団体職員清郷伸人さん(64)。混合診療の禁止は憲法が保障する法の下の平等に違反し、法律上の根拠もないと主張していた。
 判決で同小法廷は、健康保険法は、要件を満たした一部の先進医療との混合診療に限って、保険診療部分への保険給付を例外的に認めていると指摘。このことから、要件を満たさない混合診療については、保険適用はできないと解釈できると判断した。
 その上で、こうした制度には「一定の合理性が認められる」として、患者側の違憲主張も退けた。(2011/10/25-19:08)」



平成22(行ツ)19 健康保険受給権確認請求事件  
平成23年10月25日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所



「主 文


本件上告を棄却する。


上告費用は上告人の負担とする。


理 由


第1 事案の概要


本件は,健康保険の被保険者である上告人が,腎臓がんの治療のため,保険医療機関から,単独であれば健康保険法上の療養の給付に当たる診療(いわゆる保険診療)となるインターフェロン療法と,療養の給付に当たらない診療(いわゆる自由診療)であるインターロイキン2を用いた活性化自己リンパ球移入療法(以下「LAK療法」という。)とを併用する診療を受けていたところ,当該保険医療機関から,単独であれば保険診療となる療法と自由診療である療法とを併用する診療(いわゆる混合診療)においては,健康保険法が特に許容する場合を除き,自由診療部分のみならず,保険診療に相当する診療部分(以下「保険診療相当部分」ともいう。)についても保険給付を行うことはできない旨の厚生労働省の解釈に従い,両療法を併用する混合診療を継続することはできないと告げられ,これを断念せざるを得なくなったため,厚生労働省の上記解釈に基づく健康保険行政上の取扱いは健康保険法ないし憲法に違反すると主張して,被上告人に対し,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,上記の混合診療を受けた場合においても保険診療相当部分であるインターフェロン療法について健康保険法に基づく療養の給付を受けることができる地位を有することの確認を求めている事案である。

なお,以下,現行の健康保険法を「法」又は「現行法」といい,平成18年法律第83号による健康保険法の改正を「平成18年改正」,同改正前の健康保険法を「旧法」,昭和59年法律第77号による健康保険法の改正を「昭和59年改正」,同改正後で昭和60年法律第34号による改正前の健康保険法を「昭和59年法」といい,保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号)を数次の改正の前後を通じて「療担規則」という。


第2 上告代理人本田俊雄ほかの上告受理申立て理由第1について


1(1) 原審の適法に確定した本件の診療に関する事実関係の概要は,次のとおりである。


ア 上告人は,健康保険の被保険者であるところ,保険医療機関である神奈川県立がんセンター(以下「本件病院」という。)において,腎臓がんの治療のため,平成13年9月から,単独であれば保険診療となるインターフェロン療法と自由診療であるLAK療法(先進医療としての位置付けは,後記エ参照)とを併用する混合診療を受けていた。なお,本件病院は,当時,旧法86条1項1号所定の特定承認保険医療機関(学校教育法に基づく大学の附属施設である病院その他の高度の医療を提供するものとして厚生労働省令で定める要件に該当する病院又は診療所であって厚生労働大臣の承認を受けたもの)の承認を受けていなかった。


イ 厚生労働省(平成13年1月5日以前は厚生省)は,健康保険法における保険給付の取扱いにつき,単独であれば保険診療となる療法と先進医療であり自由診療である療法とを併用する混合診療においては,昭和59年改正後(平成18年改正前)は旧法86条所定の特定療養費,平成18年改正後は法86条所定の保険外併用療養費の各支給要件を満たしている場合を除き,自由診療部分のみならず,保険診療相当部分についても保険給付を行うことはできない旨の解釈(以下,これを「混合診療保険給付外の原則」ともいう。)に基づいて,医療機関等に対するその旨の行政指導等を行ってきている。上記解釈によれば,上告人が,本件病院において,腎臓がんの治療のためインターフェロン療法に加えてLAK療法を受けると,LAK療法はもとより,インターフェロン療法についても療養の給付を受けることができなくなる。


ウ 上告人は,平成17年10月,本件病院から,上記解釈に従い,上記の両療法を併用する混合診療を継続することはできないと告げられ,本件病院においてLAK療法を受けることを断念した。しかし,上告人は,本件病院において従前どおりインターフェロン療法とLAK療法とを併用する診療を受けることを希望している。


エ なお,LAK療法は,従前,特定療養費の支給対象となる旧法86条1項1号所定の療養のうち高度先進医療に係る療養(被保険者が特定承認保険医療機関のうち自己の選定するものから高度の医療の提供として受ける療養)の範囲に含まれていたが,有効性が明らかでないとして,平成18年4月,高度先進医療に係る療養の範囲から除外され,現行の保険外併用療養費に係る制度への移行後も,その支給対象となる先進医療に係る療養(後記(2)ウの評価療養)の範囲に含まれていない。


(2) 原審の適法に確定した保険外併用療養費及び特定療養費に係る各制度の沿革に関する事実関係等は,次のとおりである。


ア 昭和59年改正前において,健康保険法の委任を受けた療担規則(昭和59年厚生省令第45号による改正前のもの)の規定により,保険医が特殊な療法又は新しい療法等を行うこと及び厚生大臣の定める医薬品以外の医薬品を患者に施用し又は処方すること並びに保険医療機関が被保険者から療養の給付に係る一部負担金
の額を超える金額の支払を受けることはいずれも禁じられていた(5条,18条,19条1項)。歯科医師である保険医については更に厚生大臣の定める歯科材料以外の歯科材料を歯冠修復及び欠損補てつにおいて使用してはならないとされていた(19条2項)ところ,厚生省は,保険局長通知によって,保険医療機関における歯科治療の過程において本来であれば使用が許されない金合金を用いた場合に差額徴収の取扱い(保険診療相当部分については保険診療として療養の給付が行われることとし,保険医療機関は保険者から療養の給付に関する費用の支払を受けることができ,本来であれば使用が許されない歯科材料の費用を患者の自己負担として患
者から徴収することができる取扱い)をすることを認めるなどした。

しかし,歯科材料費の差額徴収の取扱いについて,保険医療機関が歯科材料費差額だけでなく技術料差額をも含めて患者から徴収することが慣行化し,患者側ではその区別が必ずしも明らかでないため求められるままに差額の負担に応じざるを得ないという事情もあり,差額徴収による患者の自己負担額が高騰したほか,患者が差額の支払を事実上強要されるような事態が生じたため,昭和50年頃にはこのことが社会問題化するに至った。また,特別の病室の提供についても,入院料(室料)の差額徴収(差額ベッド代の徴収)の取扱いが運用上認められていたところ,これも大きな社会問題となり,厚生省により運用の改善に係る行政指導が行われるなどした。

他方で,高度先進医療に係る療養については,昭和59年改正前は,健康保険行政上,保険診療の対象外である高度先進医療に係る療養を一部でも加えた混合診療を受けた場合には,保険診療相当部分を含めて,被保険者が受けた療養全体を保険給付の対象外とする取扱いがされていた。


イ 以上の経緯を経て,昭和59年改正により特定療養費に係る制度が創設された。その制度は,被保険者が,保険医療機関等から選定療養(被保険者の選定に係る特別の病室の提供その他の厚生労働大臣が定める療養。旧法63条2項)を受け,又は特定承認保険医療機関から高度先進医療に係る療養その他の療養を受けた
場合に,その療養に要した費用について特定療養費を支給する(旧法86条)というものであった(後記(3)イ参照)。
上記特定療養費に係る制度の創設の趣旨は,国民の生活水準の向上や価値観の多様化に伴う医療に対する国民のニーズの多様化,医学・医術の進歩に伴う医療サービスの高度化に対応して,必要な医療の確保を図るための保険の給付と患者の選択によることが適当な医療サービスとの間の適切な調整を図るものとされ,この制度により,入院料(室料)や歯科材料費等の差額徴収の取扱いが,法令上明確に位置付けられた。昭和59年改正に係る国会答弁(衆議院社会労働委員会)において,厚生省保険局長は,従前の保険診療においては,保険診療の範囲内の診療と健康保険で認められていない診療とを同時に行った場合には費用の全額が患者の自己負担となるが,今後高度先進医療が出てくる場合に,保険診療で見られる部分は保険診療で見て,保険診療に取り入れられていない部分だけは自己負担とすることとし,保険診療で見られる部分については特定療養費に係る制度を設けることとした旨の説明をした。さらに,同局長は,昭和60年2月25日付けで,都道府県知事宛てに通知を発し,特定療養費の支給対象となる高度先進医療は,質的・量的に高水準の医療基盤を有する医療機関において実施する場合にはその安全性及び有効性が確立されているが,その実施についてはいまだ一般に普及するには至っていないものであり,当該医療が一般に普及して保険に導入されるまでの間,特定療養費に係る制度の対象としたものであると説明した。

そして,昭和59年改正後も,健康保険行政上,高度先進医療に係る混合診療が行われた場合において,それが特定療養費の支給要件を満たすものでないときは,保険診療相当部分についても保険給付の対象外とする取扱いがされていたものであり,この取扱いの基礎とされてきた前記解釈(混合診療保険給付外の原則)は,健
康保険法の委任を受けた療担規則において引き続き原則として特殊な療法又は新しい療法等が禁止され,厚生大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し又は処方することが禁止されていたこと等とあいまって,混合診療禁止の原則と称されてきた。


ウ 平成16年に至り,内閣府に設置された規制改革・民間開放推進会議は,「中間とりまとめ」として,上記のような混合診療禁止の原則を改め,混合診療を全面解禁し,混合診療における保険診療相当部分についても保険給付の対象とすべきである旨の意見を公表した。これに対し,厚生労働省は,国民皆保険の下,社会保障として必要十分な医療は保険診療として確保することが原則であり,他方,医療に対する国民のニーズの多様化や医学・医術の進歩に伴う医療サービスの高度化に対応するため,適正なルールの下に混合診療を可能とする特定療養費に係る制度が設けられており,このような仕組みによらずに無制限に混合診療を認めることは,医療の安全性及び有効性を確保することが困難になり,不当な患者負担の増大を来すなどのおそれがあるため,今後も特定療養費に係る制度を活用し,その範囲の拡大や承認の簡素化及び新技術の導入の迅速化によって対応すべきであるとの考え方を示した。
このような観点等から,特定療養費に係る制度は,平成18年改正により,支給の対象が将来的にも療養の給付の対象に組み入れられることを前提としない選定療養と将来療養の給付の対象に組み入れるかどうかの評価を行う評価療養(厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって,療養の給付の対象とすべきものであるか否かについて適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養として厚生労働大臣が定めるもの)として再構成され,評価療養の内容には従前の高度先進医療のほか必ずしも高度でない先進医療技術も加えられ,手続的にも特定承認保険医療機関の制度が廃止されて保険医療機関等による届出制とされて,現行の保険外併用療養費に係る制度に改められた。その制度は,被保険者が,保険医療機関等から,評価療養(法63条2項3号)又は選定療養(同項4号)を受けた場合に,その療養に要した費用について保険外併用療養費を支給する(法86条)というものである(後記(3)ア参照)。


(3) 保険外併用療養費及び特定療養費に係る各制度に関する関係法令等の定めは,次のとおりである。


ア 法は,健康保険の被保険者に保険給付を受ける権利があることを前提として(61条参照),現物給付たる療養の給付と金銭支給たる各種療養費等の支給を定めている(52条)。
法は,療養の給付として,「診察」(63条1項1号),「薬剤又は治療材料の支給」(同項2号),「処置,手術その他の治療」(同項3号)等を掲げており,その具体的な内容等についての詳細を厚生労働省令に委ねている。また,法は,保険医療機関から療養の給付を受ける者は,その給付を受ける際,療養の給付に要する費用の額に所定の割合を乗じて得た額を一部負担金として当該保険医療機関に支払わなければならない旨を規定する(74条1項)とともに,保険者は,上記療養の給付に要する費用の額から上記一部負担金に相当する額を控除した額を療養の給付に関する費用として当該保険医療機関に支払うものとする旨を規定しているところ(76条1項),上記療養の給付に要する費用の額の具体的な算定方法についてはこれを厚生労働大臣の定めに委ねている(同条2項)。
法70条1項及び72条1項の委任を受けた現行の療担規則は,保険医が,厚生労働大臣の定めるもの以外の特殊な療法又は新しい療法等を行うことを禁止する(18条)とともに,厚生労働大臣が定める場合を除いて,厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し又は処方することを禁止しており(19条1項),これらの規定の委任に基づいて厚生労働大臣が定めた平成18年厚生労働省告示第107号が,特殊な療法又は新しい療法等を行うことができる場合として,法63条2項3号所定の評価療養を(第五),厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し又は処方することができる場合として,一部の先進医療に係る薬物を使用する場合等を(第七)それぞれ定めている。また,法76条2項の委任を受けた「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)は,療養の給付に要する費用の額の算定方法について,点数制度をもって具体的に定めており(なお,同項の委任を受けた厚生労働大臣の定めとしての告示は,昭和59年以前から現在に至るまで,新告示の制定と旧告示の廃止が繰り返されているが,上記算定方法を点数制度をもって具体的に定めている点では同様である。以下,一連の上記告示を併せて「診療報酬の算定方法」という。),さらに,上記療担規則は,保険医療機関が,療養の給付につき,被保険者から,前記の一部負担金の支払を受けるものとし,これを超える金額の支払を受けることを禁止する趣旨の規定を設けている(5条1項)。


また,法は,療養の給付に含まれない療養に係る保険給付として,特に,被保険者が評価療養(63条2項3号)又は選定療養(同項4号)を受けたときのその療養に要した費用につき保険外併用療養費(86条)を,特定長期入院被保険者以外の被保険者が受けた食事療養(63条2項1号)に要した費用につき入院時食事療養費(85条)を,特定長期入院被保険者が受けた生活療養(63条2項2号)に要した費用につき入院時生活療養費(85条の2)をそれぞれ支給する旨規定している。


このうち,保険外併用療養費の額は,当該療養につき療養の給付に要する費用の額に係る厚生労働大臣の定め(診療報酬の算定方法)を勘案して厚生労働大臣が定めるところにより算定した費用の額(その額が現に当該療養に要した費用の額を超えるときは,当該現に療養に要した費用の額。以下「保険外併用療養費算定費用額」という。)から,その額に療養の給付に係る一部負担金の割合と同じ割合を乗じて得た額(療養の給付に係る一部負担金について減免等の措置が採られるべきときは,当該措置が採られたものとした場合の額。以下「保険外併用療養費一部負担額」という。)を控除した額とされている(法86条2項1号)。また,同号の委任を受けた平成18年厚生労働省告示第496号は,同条1項に規定する療養(食事療養及び生活療養を除く。)についての費用の額の算定については,基本的に診療報酬の算定方法の例によると規定しており,保険外併用療養費については,実質的に療養の給付と同内容の保険給付が金銭で支給されることとされている。


他方で,法63条2項3号の委任を受けた平成18年厚生労働省告示第495号は,評価療養の内容について,「別に厚生労働大臣が定める先進医療(先進医療ごとに別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合する病院又は診療所において行われるものに限る。)」等と定めており,これを受けて,平成20年厚生労働省告示第129号(同告示制定前は,平成18年厚生労働省告示第574号等)が,所定の要件を満たすものとして届け出られた保険医療機関等において受けることのできる先進医療の内容を具体的に定めている。


そして,療担規則は,保険医療機関が,被保険者に係る療養の給付以外の保険給付につき,被保険者から,食事療養,生活療養,評価療養又は選定療養に関し,当該療養に要する費用の範囲内において入院時食事療養費,入院時生活療養費又は保険外併用療養費の額を超える金額の支払を受けることができるものとし,その範囲を超える金額の支払を受けることを禁止する趣旨の規定を設けている(5条)。また,評価療養又は選定療養に関してみると,保険医療機関が被保険者から保険外併用療養費算定費用額(法86条2項)を超える金額の支払を受けることができるのは,あらかじめ,患者に対しその内容及び費用に関して説明を行い,その同意を得た場合に限るものとされている(5条の4第1項)。


イ 旧法の特定療養費に係る制度も,療養の給付と各種療養費の支給との関係及び診療行為の安全性や費用に係る規制等の内容は,基本的に現行法と同様である
(なお,健康保険法は,平成14年に大幅に条項を変更する改正が行われており,上記特定療養費に係る制度につき,以下では旧法の条項を掲げるが,制度の概要は昭和59年法以来同様である。)。
旧法は,療養の給付に含まれない療養に係る保険給付として,63条2項所定の選定療養を受けたとき(86条1項2号)のその療養に要した費用につき特定療養費を支給すると規定するとともに,特定承認保険医療機関から高度先進医療に係る療養その他の療養を受けたとき(同項1号)のその療養に要した費用につき特定療養費を支給すると規定していた(同項柱書き)。この旧法における特定療養費の額は,当該療養に食事療養が含まれないときは,当該療養につき療養の給付に要する費用の額に係る厚生労働大臣の定め(診療報酬の算定方法)を勘案して厚生労働大臣が定めるところにより算定した費用の額(その額が現に当該療養に要した費用の額を超えるときは,当該現に療養に要した費用の額)から,その額に療養の給付に係る一部負担金の割合と同じ割合を乗じて得た額を控除した額とされていた(同条2項1号)。また,旧法の下において,同号の委任を受けた平成18年厚生労働省告示第101号は,同条1項に規定する療養(食事療養を除く。)についての費用の額の算定については,基本的に診療報酬の算定方法の例によると規定しており(なお,同条2項1号の委任を受けた厚生労働大臣の定めとしての告示は,昭和59年改正以後平成18年改正に至るまで新告示の制定と旧告示の廃止が繰り返されているが,基本的に診療報酬の算定方法の例によるとしている点では同様である。),特定療養費について,実質的に療養の給付と同内容の保険給付が金銭で支給されることとされていた。


なお,上記の特定承認保険医療機関から受けた高度先進医療に係る療養その他の療養に係る特定療養費の支給は,現行法の評価療養としての先進医療に係る保険外併用療養費の支給(法63条2項3号,86条)とは異なり,旧法の明文において療養の給付に含まれない保険給付であるとは規定されていなかったが,病院又は診
療所は同時に特定承認保険医療機関及び保険医療機関であることはできない(旧法86条7項)とされ,病院又は診療所が特定承認保険医療機関の承認を受けたときは,当該病院又は診療所においては療養の給付(入院時食事療養費に係る療養を含む。)は行わない(同条10項)などとされていたことから,保険医療機関等のう
ち自己の選定するものから受けた選定療養に係る特定療養費と同様に,療養の給付とは異なるものと位置付けられていた。


2(1) 前記1(2)の保険外併用療養費及び特定療養費に係る各制度の沿革及び同(3)の上記各制度に関する関係法令等の定めを前提として,まず,上記各制度の趣旨及び目的について検討する。


前記1(2)ア及びイの事実関係等によれば,昭和59年改正前において,入院料(室料)や歯科材料費に係る差額徴収の取扱いが明確に法定されていなかったため患者の高額かつ不明瞭な自己負担が社会問題化したことに伴い,医療に対する国民のニーズの多様化等に対応して,必要な医療の確保を図るための保険の給付と患者の選択によることが適当な医療サービスとの間の適切な調整を図るため,昭和59年改正によって選定療養に関する特定療養費に係る制度を創設する法改正がされたものということができる。これは,保険医療における安全性及び有効性の確保,患者と医療機関との間の情報の非対称性によって生ずる患者側の不当な負担の防止,所得等による医療アクセスの格差の防止,保険財源の限界による保険診療の範囲の縮小の防止等の要請を図りつつ,特別の病室の提供や高額の歯科材料の支給など,本質的な医療サービスの提供の周辺にある付随的な医療サービスについて,患者の取捨選択に委ねることが適当なものを選定療養として法定し,その健康保険上の地位を明確化することにより,その提供と費用の徴収につき適正な運用が図られるようにしたものと解される。


また,前記1(2)ア及びイの事実関係等によれば,昭和59年改正前は,健康保険行政上,保険診療の対象外である高度先進医療に係る療養を一部でも加えた混合診療を受けた場合には,保険診療相当部分を含めて,被保険者が受けた療養全体を保険給付の対象外とする取扱いがされていたところ,質的・量的に高水準の医療基
盤を有する医療機関において実施される場合にはその安全性及び有効性が確立されている一方でその実施がいまだ一般には普及していない高度先進医療については,当該医療が一般に普及して療養の給付の対象に組み入れられるまでの間,金銭支給たる保険給付の対象とすることを認める趣旨で,混合診療保険給付外の原則を引き続き採ることを前提とした上で,昭和59年改正によって,特定承認保険医療機関から受けた高度先進医療に係る療養その他の療養に関する特定療養費に係る制度を創設する法改正がされたものということができる。これは,前記のような要請を図りつつ,医療に対する国民のニーズの多様化や医学・医術の進歩に伴う医療サービスの高度化に対応して,高度先進医療に係る療養の提供と費用の徴収につき健康保険制度の弾力的な適用が図られるようにしたものと解される。


そして,前記1(2)ウの事実関係等によれば,平成18年改正により導入された保険外併用療養費に係る制度も,金銭支給たる保険給付の対象となる診療が評価療養と選定療養として再構成されるとともに,従来の特定承認保険医療機関に係る制度が廃止され,所定の要件を満たすものとして届け出られた保険医療機関等において評価療養の一つとしての先進医療を実施することができると改正され,実施医療機関の選定手続が簡素化されている点などが異なるだけで,基本的には前記内容の特定療養費に係る制度を引き継ぐものであって,金銭支給の基本的な構造を共通にするものであるといえ,その趣旨及び目的は,特定療養費の場合と同様に,医療に
対する国民のニーズの多様化や医学・医術の進歩に伴う医療サービスの高度化に対応するため,患者に対する事前の説明義務等を含む適正なルールの下に高度先進医療又は選定療養に係る混合診療を可能とする特定療養費に係る制度の構造を基本的に維持しつつ,その範囲の拡大や承認の簡素化及び新技術の導入の迅速化を図るものであると解される。


以上のような立法の経緯等に照らすと,旧法における特定療養費に係る制度及びこれを引き継いだ現行法における保険外併用療養費に係る制度のいずれも,国民皆保険の前提の下で,医療の公平性や財源等を含めた健康保険制度全体の運用の在り方を考慮して,混合診療保険給付外の原則を引き続き採ることを前提とした上で,被保険者が所定の要件を満たす評価療養(旧法では特定承認保険医療機関から受ける高度先進医療に係る療養その他の療養)又は選定療養を受けた場合に,これと併せて受けた保険診療相当部分をも含めた被保険者の療養全体を対象とし,基本的にそのうちの保険診療相当部分について実質的に療養の給付と同内容の保険給付が金銭で支給されることを想定して創設されたものと解される。


(2) 次に,法86条等の規定の解釈について検討するに,同条1項において,被保険者が「評価療養又は選定療養を受けたとき」に「その療養に要した費用」について保険外併用療養費を支給するものとされ,同条2項1号において,「当該療養」についての保険外併用療養費算定費用額を「第76条第2項の定め」すなわち療養の給付に要する費用の額に係る厚生労働大臣の定め(診療報酬の算定方法)を「勘案して厚生労働大臣が定めるところにより」算定すべきものとされており,前示の制度の趣旨及び目的に照らせば,法86条にいう「その療養」及び「当該療養」は,評価療養又は選定療養に相当する診療部分だけでなく,これと併せて被保険者に提供された保険診療相当部分をも含めた療養全体を指し,基本的にそのうちの保険診療相当部分について保険外併用療養費算定費用額,ひいては保険外併用療養費の額を算定することを想定して規定されているものと解するのが相当である。このことは,上記療養全体の中で評価療養又は選定療養の中に含まれない保険診療相当部分と評価療養又は選定療養の中に固有に含まれる基礎的な診療部分とを切り分けることが実際には困難であることや,旧法86条1項柱書きにいう「その療養」が同項1号との関係において被保険者が特定承認保険医療機関から受けた高度先進医療に係る療養その他の療養をいい,被保険者の受けた療養全体を指すものとして規定されていたこと(昭和59年法44条1項においても同様である。)からも首肯することができる(法86条2項では,「当該療養に食事療養が含まれるとき」又は「当該療養に生活療養が含まれるとき」と規定され,「当該療養」の中に評価療養の内容を成す先進医療とは別に「食事療養」又は「生活療養」が含まれ得ることが当然の前提とされている。他方,入院時食事療養費は,平成6年法律第56号による健康保険法の改正により創設されたものであり,入院時生活療養費は,平成18年改正により創設されたものであるが,いずれも「療養の給付と併せて受
けた」食事療養又は生活療養に要した費用について支給されるものであって(法85条1項,85条の2第1項),療養の給付が行われることを前提に,これにいわば上乗せするものとして支給されるものであることが法文上明らかにされているから,このような規定の内容や文言等を異にする制度の存在は,上記の解釈を左右するものではない。)。法の規定の委任を受けた省令や告示等の定めにおいて,評価療養(旧法では上記高度先進医療に係る療養その他の療養)又は選定療養の要件に該当するものとして診療が行われた場合に支給される保険外併用療養費の金額の算定方法について,特定療養費の場合と同様に,療養の給付に要する費用を算定する
場合に適用される診療報酬の算定方法の例によって算定された費用額(保険外併用療養費算定費用額)から,療養の給付に係る一部負担金の算定割合と同じ割合によって算出された被保険者の自己負担額(保険外併用療養費一部負担額)を控除した額とされているのは,前示の制度の趣旨及び目的を踏まえて保険外併用療養費の額を実質的に療養の給付と同内容のものとすることとして定められたものであり,法の委任の範囲内にあるものということができる。なお,法86条1項の「その療養」の意義につき,評価療養又は選定療養に係る診療部分を指すと解する余地も規定の文理の解釈としてあり得るところではあるが,以上に説示した立法の趣旨及び
目的並びにその経緯や健康保険法の法体系全体の整合性,療養全体中の診療部分の切り分けの困難性等の観点からすれば,その文理のみに依拠してこのような解釈を採ることについては消極に解さざるを得ないというべきである(選定療養との関係における旧法86条1項柱書きの「その療養」の意義についても,同様である。)。


(3) 以上に鑑みると,評価療養の要件に該当しない先進医療に係る混合診療においては保険診療相当部分についても保険給付を行うことはできない旨の解釈(混合診療保険給付外の原則)が,法86条の規定の文理のみから直ちに導かれるものとはいい難いものの,同条において評価療養について保険外併用療養費に係る制度
が定められたことについては,一つの疾病に対する療養のうち,保険給付の対象とならない自費の支出を要する診療部分(先進医療に相当する診療部分等)のあることを前提として(法86条4項において準用する法85条5項参照),基本的に保険給付の対象となる診療部分(保険診療相当部分)について金銭支給をすることを想定して設計されたものと解してこそ,被保険者が一部負担金以外には支払を要しない現物給付としての療養の給付に係る制度とは別に,これに含まれない金銭支給としての保険給付である保険外併用療養費に係る制度を設けたことが意味のあるものとなることに加え,前記の制度の趣旨及び目的や健康保険法の法体系全体の整合性等の観点からすれば,上記の解釈が導かれるものと解するのが相当である。

すなわち,保険医が特殊な療法又は新しい療法等を行うこと及び所定の医薬品以外の薬物を患者に施用し又は処方すること並びに保険医療機関が被保険者から療養の給付に係る一部負担金の額を超える金額の支払を受けることが原則として禁止される中で,先進医療に係る混合診療については,保険医療における安全性及び有効性を脅かし,患者側に不当な負担を生じさせる医療行為が行われること自体を抑止する趣旨を徹底するとともに,医療の公平性や財源等を含めた健康保険制度全体の運用の在り方を考慮して,保険医療機関等の届出や提供される医療の内容などの評価療養の要件に該当するものとして行われた場合にのみ,上記の各禁止を例外的に解除し,基本的に被保険者の受ける療養全体のうちの保険診療相当部分について実質的に療養の給付と同内容の保険給付を金銭で支給することを想定して,法86条所定の保険外併用療養費に係る制度が創設されたものと解されるのであって,このような制度の趣旨及び目的や法体系全体の整合性等の観点からすれば,法は,先進医療に係る混合診療のうち先進医療が評価療養の要件に該当しないため保険外併用療養費の支給要件を満たさないものに関しては,被保険者の受けた療養全体のうちの保険診療相当部分についても保険給付を一切行わないものとする混合診療保険給付外の原則を採ることを前提として,保険外併用療養費の支給要件や算定方法等に関する法86条等の規定を定めたものというべきであり,規定の文言上その趣旨が必ず
しも明瞭に示されているとはいい難い面はあるものの,同条等について上記の原則の趣旨に沿った解釈を導くことができるものということができる。


(4) 以上のとおりであるから,法86条等の規定の解釈として,単独であれば療養の給付に当たる診療(保険診療)となる療法と先進医療であり療養の給付に当たらない診療(自由診療)である療法とを併用する混合診療において,その先進医療が評価療養の要件に該当しないためにその混合診療が保険外併用療養費の支給要件を満たさない場合には,後者の診療部分(自由診療部分)のみならず,前者の診療部分(保険診療相当部分)についても保険給付を行うことはできないものと解するのが相当である。所論の点に関する原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。


第3 上告代理人本田俊雄ほかの上告理由のうち憲法14条1項,13条及び25条違反をいう部分について


論旨は,憲法14条1項,13条及び25条違反をいうが,前記第2に説示したところによれば,健康保険により提供する医療の内容については,提供する医療の質(安全性及び有効性等)の確保や財源面からの制約等の観点から,その範囲を合理的に制限することはやむを得ないものと解され,保険給付の可否について,自由診療を含まない保険診療の療法のみを用いる診療については療養の給付による保険給付を行うが,単独であれば保険診療となる療法に先進医療に係る自由診療の療法を加えて併用する混合診療については,法の定める特別の要件を満たす場合に限り療養の給付に代えて保険外併用療養費の支給による保険給付を行い,その要件を満たさない場合には保険給付を一切行わないものとしたことには一定の合理性が認められるものというべきであって,混合診療保険給付外の原則を内容とする法の解釈は,不合理な差別を来すものとも,患者の治療選択の自由を不当に侵害するものともいえず,また,社会保障制度の一環として立法された健康保険制度の保険給付の在り方として著しく合理性を欠くものということもできない。


したがって,混合診療保険給付外の原則を内容とする法の解釈が憲法14条1項,13条及び25条に違反するものであるということはできない。以上は,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁)の趣旨に徴して明らかというべきである。所論の点に関する原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。


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