現在好調を謳歌している会社は・・・:
私は持論として「その時に好調だと見える会社は、そう遠からぬ将来低迷するものだ」と唱えてきた。具体的な例を挙げて見れば、私が新卒で就職した昭和20年代後半には「三白景気」と言われて製紙、砂糖、セメント会社が絶好調だった。その後に「糸偏景気」とか「ガチャ万景気」と言われた繊維産業が我が世の春を謳歌していた。21世紀の現在に、繊維だけで経営が成り立っている紡績会社があるだろうかということだ。
ここ数日の間にGAFAMではないが、イーロン・マスク氏は買収したTwitter社(この綴りを何で「ツイッター」としたのか)で半数の従業員の解雇を発表した。更に、メタ(Facebook)は約1万人、アマゾン(Amazon)も約1万人のリストラを発表した。マスコミの報道の仕方を見ていると、アメリカの景気に陰りが見えた上に激化するインフレーションの影響があるかのようだ。
GAFAMは確かにアメリカの好景気の先導役だったし、恰も製造業が終焉を迎えICT業でなければ会社ではないかの如き空気が醸し出されていた。1993年末で実質的に製造業界から引退した超後期高齢者の私には、「果たしてGAFAMに『現在好調な会社は・・・』論が当て嵌まるかどうか」などは考えてもいなかった。訳も解らずにPCも導入したし、「らくらく」が付いてもスマートフォンにも切り替えた。そこに、上記3社の大規模リストラが来た。
私はこの流れをアメリカの景気衰退とGAFAM+Tの退潮と見るのは早計ではないかと思うのだ。それは、何度も何度も指摘したことで「アメリカ人たちの思考体系は二進法であり、『進むか、引くか』や『止めるか、止めないか』のようにしか考えられないのだ。そこに加えるに彼らは先行きの見通しを付けるのが早い事も看過できない。
その意味は「彼らMとAはアメリカの景気の先行きは弱いと見るから、煙が立った程度の現時点で先手を打ってリストラをするかしないか」と考えて、二進法的思考で「リストラ実行策」を取ったのだと見ている。私が言いたいことは「彼らは果断なのではない。二択だっただけ」なのだ。即ち、彼らは言わば中間を採って「経過観察でも遅くはなるまい」のようには考えないのだ。
更に、リストラに簡単に打って出られる背景には「景気が回復したら、我が国では一寸考えられない『その時が来たら、募集をかければまた社員を集められる』という社会通念というか中途採用の雇用の流動性があるから」なのだ。
先行きの見通しの速さという点では、実例として紙パルプ産業界を挙げておきたい。それはウエアーハウザーが2005年にICT化が急速に進み、印刷(紙)媒体がインターネット広告等に圧されて印刷用紙の需要が激減すると読んで、アメリカ最大の非塗工印刷洋紙(上質紙)事業部をスピンオフしてしまった。それに次いで世界最大の製紙会社インターナショナル・ペーパーは、2007年にアメリカ最大級の塗工印刷用紙(アート紙)事業を惜しげも無く売却してしまった。
今やアメリカで印刷用紙を製造している大手メーカーは皆無だし、新聞用紙メーカーは軒並みChapter 11という我が国の民事再生法と同じような保護の下にある。要するに、これが「二進法的思考体系」の下での経営判断なのだ。だが、我が国は印刷用紙の製造から撤退したメーカーもなく、新聞用紙の生産も継続されている。但し、先日家庭用紙の値上げを発表した大王製紙は、その陰で静かに新聞用紙マシン1基の停止を発表していた。
私はその国の文化によって、その国独特の思考体系や物事の判断の基準があると見ている。二進法的思考体系のアメリカの経営者たちの決断は早い。それを十進法か百進法で物事を考える我が国から見れば、非常に果断であり、賞賛すべき素早い判断力に見える場合が多いと思う。長い間彼らの中に勤務してきた私に言わせて貰えば、それは単なる思考体系の違いであり、評価するとか尊敬する必要などない「文化と思考体系の相異」だと見ていれば良いと思う。
私は文化と思考体系の違いに惑わされてはならないと思う。だが、GAFAM+Tがリストラに走り出した以上、アメリカの景気の先行きには不安材料があると見ても、大きな誤りではないと言って良いと思うのだ。