アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

トラジャ王族伝世 17c”人・動物行進文”インド更紗

2016-02-07 09:11:00 | 染織






製作地 インド中南部 ゴルコンダ?  
製作年代(推定) 17世紀
渡来地・使用地 インドネシア・スラウェシ島トラジャ
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き、茜媒染、藍描き染め、片面染め
サイズ 92cm×232cm

細く紡がれ柔らかく織られた当時の上質な白木綿地に、歩兵・踊り子・楽隊等の人物と象・馬・犬等の動物が多数連なる”行進(パレード)文”として手描きで染め描かれたトラジャ交易向けのインド更紗。17cに手掛けられ、オランダ東インド会社が当地にもたらしたと考察される一枚です。

インド国内ではムガル皇帝や藩王マハラジャが狩猟に向かう”シカール(狩猟)”模様の布に分類されるもので、これをベースに交易向け(交易相手好み)にリデザインされたものと思われます。

このデザイン様式のトラジャ渡りインド更紗は王族使用(王族のステータスを表わす)もので、当初は5m前後のサイズで製作され、野外での祭事に横断幕として用いられたと推察されます。






































明礬媒染の”赤”と鉄漿媒染の”黒(焦茶)”の茜染め及び藍描き染めにより人々の顔・衣装・剣や楽器等の持物、動物の色や模様を繊細かつ躍動感たっぷりに染め表わしており、モチーフの一つ一つは圧倒的に精緻というようなものではありませんが、人・動物には力強い生命力が宿り、茜媒染による赤・黒の発色は深く濃く、300余年~400年の歳月を経ながら、色彩が色褪せず・薄れずしっかりと保たれている点は、インド更紗の染色技術の卓越を示すものと言えます。

本布と同手の布が、統治者であったオランダの国立民族学博物館に所蔵されておりますが、それ以外の同手作例はほとんど確認されておらず、製作数自体多くはなく、世界で数枚のみ残存する極めて稀少な種類の交易向けインド更紗となります。

稀少価値とともに、本デザイン様式のインド更紗の資料的な意味(価値)として、この手の古渡り(時代)のインド更紗は、後世ジャワ島北岸地域で製作がなされる人・動物等の絵画デザイン・バティックの祖形となった点を指摘することができます。


●参考画像

オランダ・ライデン「国立民族学博物館」所蔵の同手インド更紗

※上画像はTUTTLE刊「TEXTILES OF SOUTHEAST ASIA」より転載いたしております