アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

19cカシュミール-モチ刺繍(3)

2016-06-24 00:03:00 | 刺繍











製作地 インド ジャンムー・カシュミール州 ※グジャラート州の可能性あり  
製作年代(推定) 19世紀後期 ドグラ期
素材/技法 木綿地、絹刺繍、天然染料 / 平地、タンブルワーク(モチ様式刺繍)
種類(用途) 祝祭儀礼用の敷き布 ルマル
サイズ 約170cm×約170cm

本品は外観的には19世紀中後期のドグラ期(英国植民地下のヒンドゥ藩国)にカシュミールで手掛けられた刺繍(アームリカル)作品中の”ミニアチュール(細密画)風ショール”等と呼称されるデザイン様式のもので、布全面を彩る人物・鳥獣の具象モチーフ及び地模様が“鉤針=アリ(ari)”を用いた”タンブルワーク(ルーピングステッチ)”で細密に表現された作品となります。

しかしながら、カシュミールにおける”ミニアチュール風ショール”は概ね織り地及び刺繍(織りの場合あり)、若しくはそのいずれかに”カシミヤ(パシュミナ)”が用いられるものであり、本作品のように織り地に木綿、刺繍に絹が用いられたものは類例が限られる特殊なものと位置づけられ、カシュミール作と特定するに至る要素・根拠には欠けるものと考察されます。

人物や馬等の描き方は明らかに近世グジャラートにおいて宮廷・貴族・富裕商人のための刺繍を手掛けた職能集団モチ共同体の手による”モチ刺繍”の影響を伺わせるもので、カシュミールに存する刺繍職人がグジャラートの宮廷・貴族の求めによりモチ様式の作品として製作したもの、或いはグジャラートにおいてカシュミール・ショール風デザインの敷き布ルマルをモチ刺繍職人が製作したもの、双方の可能性が想定されるところとなります。

いずれにせよ、並々ならぬ高度かつ熟練した職人技術と手間隙が掛けられたもので、作品の全体及びディテイルからは当時の宮廷・貴族向けモチ様式刺繍に固有の意匠の完成美・濃密な色香が薫ってまいります。歴史の浪漫が薫るインド・アンティーク刺繍の名品です。




●本記事内容に関する参考(推奨)文献
  

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