【掲載日:平成23年3月18日】
一本の なでしこ植ゑし
その心 誰に見せむと 思ひ始めけむ
田辺福麻呂が 京へと発ってからも
宴席の弾み 止まらない
掾 久米広縄が館
四月一日
明日に立夏を控え 待ち切れない面々が集う
卯の花の 咲く月立ちぬ 霍公鳥 来鳴き響めよ 含みたりとも
《卯の花が 咲く季節来たで ほととぎす まだ蕾やが 鳴き来たどうや》
―大伴家持―〔巻十八・四〇六六〕
二上の 山に隠れる 霍公鳥 今も鳴かぬか 君に聞かせむ
《二上の 山隠れてる ほととぎす 聞かせたいんや 今鳴かんかい》
―遊行女婦土師―〔巻十八・四〇六七〕
居り明かし 今夜は飲まむ 霍公鳥 明けむ朝は 鳴き渡らむぞ
《ここ居って 朝まで飲もや ほととぎす 明日夏立つ 朝から鳴くで》
―大伴家持―〔巻十八・四〇六八〕
明日よりは 継ぎて聞こえむ 霍公鳥 一夜の故に 恋ひ渡るかも
《明日から 続いて聞ける ほととぎす 一晩早よて 聞かれんのかい》
―能登乙美―〔巻十八・四〇六九〕
夏 深まった頃
越中国分寺 先代の国師に仕えした
僧の清見が 帰京するという
僧の帰京には 酒を進呈しての宴が 持たれる
家待 惜別の心 撫子に込める
一本の なでしこ植ゑし その心 誰に見せむと 思ひ始めけむ
《一株の 撫子植えた この気持ち 誰に見せよと 思た分るか》
―大伴家持―〔巻十八・四〇七〇〕
しな離る 越の君らと かくしこそ 柳蘰き 楽しく遊ばめ
《この遠い 越で皆と 出逢たんで 柳蘰で 楽しゅう仕様や》
―大伴家持―〔巻十八・四〇七一〕
ぬばたまの 夜渡る月を 幾夜経と 数みつつ妹は 我れ待つらむぞ
《夜の空 渡る月見て 日や月を 数えて大嬢 待ってんやろな》
―大伴家持―〔巻十八・四〇七二〕
家持は 酔いに浸れない
手にする杯 往き来はあるが
気は漫ろ
心は 先日 貰い受けた
田辺福麻呂歌集と 歌綴り
目を通さねばの 心急ぎは
連日の 酒を 気抜けにしていた
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます