【掲載日:平成23年3月15日】
可敝流廻の 道行かむ日は
五幡の 坂に袖振れ 我れをし思はば
宴遊び 尽きはせぬが
役目終えての 帰りが 気を急かす
三月二十六日
掾 久米広縄館での 宴が 打ち上げとなった
遊び疲れもあるが
別れ思いが 酒宴を 湿めらせる
霍公鳥 今鳴かずして 明日越えむ 山に鳴くとも 験あらめやも
《ほととぎす 今鳴かへんで 明日行く 山で鳴いても 手遅れ違うか》
―田辺福麻呂―〔巻十八・四〇五二〕
木の暗に なりぬるものを 霍公鳥 何か来鳴かぬ 君に逢へる時
《木の繁み 色濃成ったに ほととぎす なんで鳴かへん 福麻呂と居るに》
―久米広縄―〔巻十八・四〇五三〕
霍公鳥 こよ鳴き渡れ 燈火を 月夜に擬へ その影も見む
《ほととぎす 影見たいんで 灯火を 月や思うて ここ鳴いて来い》
―大伴家持―〔巻十八・四〇五四〕
可敝流廻の 道行かむ日は 五幡の 坂に袖振れ 我れをし思はば
《可敝流道 通って行く日 五幡の 坂で袖振れ わし恋しなら》
―大伴家持―〔巻十八・四〇五五〕
別れに際し 田辺福麻呂は
歌集一冊と 歌綴り一草を 残していった
「田辺福麻呂歌集」
それには 添え書きが附いていた
《家持殿 お手元に 本歌集 残し置き候
我輩の拙き筆痕 残すに躊躇いあるも
古今の歌 集め編みの試み 聞き及び
我が作 片隅にてもの心 斟酌賜りたく
本来 口頭にてのお許し 得べき処
恥を忍びての所業ならば 書面にてのお願い
寛容賜りたく 非礼の段 平にご容赦
いま一草の歌綴り
これなん
過ぐる 天平十六年〔744〕難波宴にてのもの
当時様子 伝えよと
橘諸兄様から託されしにより 持参
「君臣絆 読み取り頂き
公への 心致し 変わりなく」
との お言葉 お伝えいたし候》
〔さすが 田辺福麻呂殿
橘諸兄様の使い と聞き及びしに
何の言伝ても無しの 数日
訝り思いしが よもやの用心であったか
それにしても 良き歌集と歌綴り
有難くの 頂戴といたそう〕
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