【掲載日:平成23年4月8日】
父母が 成しのまにまに 箸向ふ 弟の命は・・・
「なになに これは 弟との別れ?」
〔確か 田辺福麻呂殿は 一人子のはず
他人の身に起こりしを
自分のこととして 詠んだか
・・・おおぅ 書持じゃ
これは 書持への 挽き歌
違いない
父を思い出させ 今また書持まで
田辺福麻呂殿
なんという 気遣い〕
父母が 成しのまにまに 箸向ふ 弟の命は
《父母が 生んで育てた 弟は 一緒飯食た 弟や》
朝露の 消やすき命 神の共 争ひかねて
葦原の 瑞穂の国に 家無みや また還り来ぬ
遠つ国 黄泉の境に 延ふ蔦の 各が向き向き 天雲の 別れし行けば
《儚い命 そのままに 神さんお召 逆らえず
この日の本に 居場所ない 家も無い言て 逝って仕舞た
あの世この世の 境目で あっちとこっち 違う向きで 別れて仕舞て 消えて仕舞た》
闇夜なす 思ひ惑はひ 射ゆ猪鹿の 心を痛み
葦垣の 思ひ乱れて 春鳥の 哭のみ泣きつつ
味さはふ 夜昼知らず かぎろひの 心燃えつつ 悲しび別る
《目先真っ暗 虚が来て 悲しみ暮れて 胸痛い
何も手つかず 取り乱し 声張り上げて 泣き通し
夜昼けじめ 分らんと 切ない気持 胸溢れ 涙に暮れて 野辺送り》
―田辺福麻呂歌集―〔巻九・一八〇四〕
別れても またも逢ふべく 思ほえば 心乱れて 我れ恋ひめやも
《別れたが また会えるなら こんなにも 辛う悲しゅう 思わへんのに》
―田辺福麻呂歌集―〔巻九・一八〇五〕
あしひきの 荒山中に 送り置きて 帰らふ見れば 心苦しも
《野辺送り 寂しい山に 葬って 帰える人見ると 胸抉られる》
―田辺福麻呂歌集―〔巻九・一八〇六〕
読み終えた 家待
頬が 濡れている
書持がため
田辺福麻呂の 友思心がため
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます