巻七（雑歌・比喩歌・挽歌）編（33）なほや老いなむ

【掲載日：平成24年10月12日】

かくしてや　なほや老おいなむ　み雪降る　大荒木おほあらき野のの　小竹しのにあらなくに


巡り合わせの　良ええ人居おれば
憂うき目会う人　その裏居おるぞ
臆病おくびょ油断に　間ぁ悪い人
嘆きそれぞれ　いろいろ世間せけん

伏越ふしこえゆ　行かましものを　守まもらふに　うち濡らさえぬ　波数よまずして
《伏ふせ越えを　行った良よかった　躊躇ためろうて　波間なみま計はかれで　濡れて仕舞しもたで》【海に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一三八七）
（びくついてたら　見つかって仕舞もた）

白菅しらすげの　真野まのの榛原はりはら　心ゆも　思はぬ我われし　衣ころもに摺すりつ
《白菅しらすげの　真野まの榛原はりはらの　榛はんの木きで　その気無ないのに　衣ふく染そめて仕舞もた》【木に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一三五四）
（意に染そまへんに　契って仕舞しもた）

膝に伏す　玉の小琴をごとの　事なくは　いたく幾許ここだく　我あれ恋ひめやも
《あの小琴こごと　思いがけ無のう　失うしのうて　恋しさ募り　辛抱しんぼ堪たまらん》【琴に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一三二八）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（事なくは＝変事がなかったら）
（一寸ちょっと油断で　取られる破目はめや）

葛城かづらきの　高間たかまの草野かやの　早はや知りて　標しめ刺ささましを　今ぞ悔しき
《高間たかまある　萱野かやの早はように　知ってたら　唾つば着けたのに　手遅ておくれやんか》【草に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一三三七）
真ま玉たまつく　越智をちの菅原すがはら　我れ刈らず　人の刈らまく　惜をしき菅原
《悔しいで　越智おちの菅原すがはら　わし違ちごて　他所よその誰かが　刈る云ゆうのんは》【草に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一三四一）
山高み　夕ゆふ日ひ隠かくりぬ　浅茅あさぢ原はら　後のち見むために　標しめ結ゆはましを
《山高たこて　日ひィ早はよ暮れた　浅茅あさじ原はら　次来る標しるし　した良かったに》【草に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一三四二）
（　後の祭りや　言われてみても）

かくしてや　なほや老おいなむ　み雪降る　大荒木おほあらき野のの　小竹しのにあらなくに
《こないして　年取るんかな　人も見ん　雪の荒木野あらきの　篠竹しのだけみたい》【草に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一三四九）
（もっと良男えおとこ　思もてる内に）

世間よのなかは　常つねかくのみか　結びてし　白玉の緒をの　絶ゆらく思へば
《世の中は　こんなもんかい　繋つないだる　白玉たまの紐ひもかて　切れるんやから》【玉に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一三二一）
（あんな固かとうに　契ちぎったくせに）





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