家待・政争の都編（26）雁が音(ね)寒く

【掲載日：平成23年11月22日】

今朝けさの朝明あさけ　雁が音ね寒く　聞きしなへ　
　　　　　　　　　　　　野辺のへの浅茅あさぢぞ　色づきにける




運命さだめを背負っての誕生であらせられた
奇しくもの　同年　光明こうみょう皇太后こうたいごう様　ご生誕
父君　文武もんむ帝は
天武大帝たいてい　皇子らとの　後継争いに
祖母持　統帝・義父藤原不比等殿の支え得ての
帝位継承けいしょう　
その父君を　齢よわい七才にして亡くされ
後を継ぐべくの　運命責務せきむ
帝位は　祖母元げん明みょう帝　伯母元げん正しょう帝と渡り
やがて　　即位
即位間　なしには　
夫人ぶじん光明子との子　基もとい王おう　一歳待たずの身罷みまかり
追うように　長屋ながや王おうの変事
治世は　律令制度下での　藤原氏専横せんおう
国の主あるじたる者として　懊悩おうのうの日々

やがて　襲い来たった　疱瘡いもがさの大嵐
藤原四　兄弟の　相次ぐ死去
廟堂びょうどう中心に　躍おどり出られた　橘諸兄もろえ様
帝の信任厚く　皇親こうしん政治復活の兆きざし
突如とつじょ起こった　藤原広嗣ひろつぐ蜂起ほうき
彷徨ほうこう五年の流浪るろう
藤原仲麻呂なかまろ台頭で　燻くすぶる政情不安
安積あさか皇子みこの　不審死
大仏開眼かいげん
橘諸兄もろえ様失脚と　帝の崩御ほうぎょ

家持は　父大伴旅人たびとから聞かされ
自ら　の　目で見　耳に聞いた
帝位を廻る　権謀けんぼう術数じゅっすうの数々を思い
暗澹あんたんたる　思いでいた

文ふ机づくえの上
帝　　並びに　関わりの人々の　歌が並んでいる

（これは　これは　何とも爽さわやかなお歌
　未いまだ　帝にお着きになられる前であろうか
　　伸び伸びとして　
　心　穏おだやかで　あらせられたか）

秋の田の　穂田ほだを雁がね　暗くらけくに　夜よのほどろにも　鳴き渡るかも
《朝まだき　まだ暗いのに　秋の田の　穂の上雁かりが　鳴き飛んで行く》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―聖武天皇しょうむてんのう―（巻八・一五三九）
今朝けさの朝明あさけ　雁が音ね寒く　聞きしなへ　野辺のへの浅茅あさぢぞ　色づきにける
《明あけ方がたに　雁かり寒々さむざむと　聞いたあと　野辺のべの浅茅あさじの　色付いろづき見たよ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―聖武天皇しょうむてんのう―（巻八・一五四〇）


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