巻七（雑歌・比喩歌・挽歌）編（16）由良(ゆら)の岬に

【掲載日：平成24年8月14日】

妹がため　玉を拾ひりふと　紀伊きの国の　由良ゆらの岬に　この日暮らしつ




行幸みゆきお供か　私わたくし旅か
紀ノ川下り　雑賀さいかに出いでて
玉津島たまつ訪ねて　黒牛くろうし潟がたへ
巡り巡れ　ど　まだ飽き足りん

【　南海道　紀伊（妹背山～由良）藤原卿作】
麻衣あさごろも　着ればなつかし　紀の国の　妹背いもせの山に　麻あさ蒔まく我妹わぎも
《麻の衣ふく　着たら思うで　麻の種たね　妹背いもせの山で　蒔まいてたあの児》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―藤原房前ふじわらのふささき―（巻七・一一九五）
紀の国の　雑賀さひかの浦に　出いで見れば　海人あまの燈火ともしび　波の間まゆ見ゆ
《雑賀さいか浦　出て沖見ると　海人あまの灯が　波間なみまちらちら　揺ゆれてん見える》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―藤原房前ふじわらのふささき―（巻七・一一九四）
玉津島たまつしま　見れども飽あかず　いかにして　包つつみ持ち行かむ　見ぬ人のため
《見て見ても　玉津島たまつ飽あかへん　どしたなら　持って帰れる　ここ来こん人に》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―藤原房前ふじわらのふささき―（巻七・一二二二）
若の浦に　白波立ちて　沖つ風　寒き夕ゆふへは　大和やまとし思ほゆ
《和歌の浦　白波しらなみ立って　沖風おきかぜが　寒さむ吹く晩は　大和やまと恋しで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―藤原房前ふじわらのふささき―（巻七・一二一九）
黒牛くろうしの海　紅くれなゐにほふ　百磯城ももしきの　大宮人おほみやひとし　漁あさりすらしも
《黒牛くろうしの　海紅あこなった　大宮の　女官おつれ浜辺で　釣り真似してる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―藤原房前ふじわらのふささき―（巻七・一二一八）
妹がため　玉を拾ひりふと　紀伊きの国の　由良ゆらの岬に　この日暮らしつ
《お前贈やる　玉を拾ひろおと　紀の国の　由良ゆらの岬で　丸一日や》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―藤原房前ふじわらのふささき―（巻七・一二二〇）
我が舟の　楫かぢはな引きそ　大和やまとより　恋ひ来こし心　いまだ飽あかなくに
《大和やまとから　来たい来たいで　来たのんや　まだ飽あき足たらん　楫かじ回まわしなや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―藤原房前ふじわらのふささき―（巻七・一二二一）



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