【掲載日:平成22年12月14日】
天離る 鄙に月経ぬ
しかれども 結ひてし紐を 解きも開け無くに
宴が進むにつれ 杯の廻りは 速くなる
ふと沈む家待の面差し
それと気づいた池主
どちらも 規則ゆえの 独り身赴任
自らに言寄せ 家待の心持を詠む
秋の夜は 暁寒し 白妙の 妹が衣手 着む縁もがも
《秋の夜は 明け方寒い そやけども お前の衣を 着ることできん》
―大伴池主―〔巻十七・三九四五〕
霍公鳥 鳴きて過ぎにし 岡傍から 秋風吹きぬ 縁もあら無くに
《ほととぎす 鳴き飛んでった 岡辺から 秋風吹くよ 独りは寂し》
―大伴池主―〔巻十七・三九四六〕
顔ほころぶ家待 心のままの 歌の遣り取り
今朝の朝明 秋風寒し 遠つ人 雁が来鳴かむ 時近みかも
《明け方の 秋風寒い 遠い国の 雁鳴いて来る 季節は近いな》
―大伴家持―〔巻十七・三九四七〕
天離る 鄙に月経ぬ しかれども 結ひてし紐を 解きも開け無くに
《遠いここ 越来て月日 経ったけど お前結んだ 紐そのままや》
―大伴家持―〔巻十七・三九四八〕
天離る 鄙にあるわれを うたがたも 紐解き放けて 思ほすらめや
《遠い越 暮らすこのわし 紐解くて 思てるもんか 都の妻が》
―大伴池主―〔巻十七・三九四九〕
家にして 結ひてし紐を 解き放けず 思ふ心を 誰か知らむも
《家で妻 結んだ紐を 解かへんで 慕てる気持ち 誰分かるかい》
―大伴家持―〔巻十七・三九五〇〕
雁がねは 使に来むと 騒くらむ 秋風寒み その川の上に
《秋風の 寒い川辺で 雁の奴 使いに行こと 騒いどるかな》
―大伴家持―〔巻十七・三九五三〕
うち続く 妻恋し 都恋しの歌
これでは ならじと 守家持は 歌を転ずる
馬並めて いざ打ち行かな 渋谿の 清き磯廻に 寄する波見に
《さあ行こか 馬を並べて 渋谿の 清い磯辺の 寄せる波見に》
―大伴家持―〔巻十七・三九五四〕
ぬばたまの 夜は更けぬらし 玉匣 二上山に 月傾きぬ
《とっぷりと 夜が更けたよや 玉匣 二上山に 月傾いとおる》
―土師道良―〔巻十七・三九五五〕
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後日 秦八千島の館での宴
奈呉の海人の 釣する舟は 今こそば 舟棚打ちて あへて漕ぎ出め
《奈呉海人の 釣りする船は 今時分 船縁叩き 漕ぎ出すのんや》
―秦八千島―〔巻十七・三九五六〕
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