【掲載日:平成23年8月19日】
級離る 越に五年 住み住みて
立ち別れまく 惜しき宵かも
天平勝宝三年(751)七月十七日
昨年来の 待ち侘び家持に
少納言昇進 転任の報が届く
(長い 勤めであった
都へ 京へと 思い過ごせし日々
しかし いざ決まってみると
妙に 越の生活 懐かしい
心許しの友が 支えじゃった
そう云えば 久米広縄 租税報告に上京中
逢えぬが 心残りじゃ
そうそう これは 二月の出掛け時の歌)
君が行き もし久にあらば 梅柳 誰とともにか 我が蘰かむ
《行って仕舞て 長うなったら わし誰と 梅と柳で 蘰するんや》
―大伴家持―(巻十九・四二三八)
(せめてもの 挨拶歌 残してやらねば)
あらたまの 年の緒長く 相見てし その心引 忘らえめやも
《年月の 長う同じに 仕えした 心尽くしを わし忘れんで》
―大伴家持―(巻十九・四二四八)
石瀬野に 秋萩凌ぎ 馬並めて 初鷹狩だに せずや別れむ
《石瀬野へ 萩踏みしだき 馬並べ 一遍鷹狩に 行きたかったな》
―大伴家持―(巻十九・四二四九)
いよいよ 出発の日
介内蔵縄麻呂屋敷での 別れの公宴
家持
帰りたくもあり 帰りたくも無しの心
級離る 越に五年 住み住みて 立ち別れまく 惜しき宵かも
《ここ越に 五年の年を 過ごしたな 今宵限りや 名残りが惜しな》
―大伴家持―(巻十九・四二五〇)
皆々 見送り途上 射水郡郡司 屋敷前にて 待ち受けの餞別
玉桙の 道に出で立ち 行く我れは 君が事跡を 負ひてし行かむ
《別れ道 都へ帰る このわしは 皆の働き 伝えて来るぞ》
―大伴家持―(巻十九・四二五一)
別れにと立ち寄りし 越前掾 池主の館
なんと 偶々 帰路の久米広縄が 居合わす
三人の 飲楽 久方話に 花が咲く
君が家に 植ゑたる萩の 初花を 折りて插頭さな 旅別るどち
《池主庭 植えた秋萩 初花を 折って髪挿そや 別れの友よ》
―久米広縄―(巻十九・四二五二)
立ちて居て 待てど待ちかね 出でて来し 君に此処に逢ひ 插頭しつる萩
《待ちに待ち 待ち草臥れて 出てきたが ここで逢えたな さあ萩插頭そ》
―大伴家持―(巻十九・四二五三)
心残り消え 晴々心の家持 京へと急ぐ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます