家待・越中編（一）（14）継(つ)ぎて見に来(こ)む

【掲載日：平成23年1月25日】

白波の　寄せ来る玉たま藻も
　　　　　　　　世の間あひだも　継つぎて見に来む　清き浜辺はまびを


〔おう　　これは　先を越された
　わしが　先と思うたに　さすが守かみ殿どの
　ようし　　負けてなるものか〕

藤波ふぢなみは　咲きて散りにき　卯うの花は　今そ盛さかりと　あしひきの　山にも野にも　霍公鳥ほととぎす　鳴きし響とよめば　
《藤の花　咲いて散ったで　卯うの花は　今盛さかりやと　ほととぎす　鳴き知らせとる　山や野で》　
うち靡なびく　心もしのに　そこをしも　うら恋ごひしみと　思ふどち　馬うち群むれて　携たづさはり　出で立ち見れば　
《その声聞いて　胸躍り　野山の盛さかり　見たいなと　友達同士　連れ立って　馬駆かけさせて　来て見たら》
射水川いみづかは　湊の洲鳥すどり　朝凪なぎに　潟かたにあさりし　潮しほ満てば　妻呼び交かはす　羨ともしきに　見つつ過ぎ行き　
《射水いみずの川の　洲すの鳥は　朝あさ凪なぎ潟かたで　餌漁あさり　潮が満ちたら　連れ呼ぶよ　見てたいけども　先急ぐ》　
渋谿しぶたにの　荒磯ありその崎に　沖おきつ波　寄せ来る玉たま藻も　片縒よりに　蘰かづらに作り　妹がため　手に巻き持ちて　
《渋谿しぶたに崎の　荒磯ありそでは　沖おき波寄せた　玉たま藻も採り　撚より合わせして　蘰かずらにし　お前にやろと　手に巻いて》
うらぐはし　布勢ふせの水海みずうみに　海人あま船ぶねに　真ま楫かじ櫂かい貫ぬき　白栲しろたへの　袖振り返し　率あどもて　わが漕こぎ行けば　
《布勢ふせ水海みずうみで　海人あま船に　梶取りつけて　皆みんなして　袖靡なびかして　漕こいでくと》
乎布をふの崎　花散り乱まがひ　渚なぎさには　葦鴨あしがも騒さわき　さざれ波　立ちても居ても　漕こぎ廻めぐり　見れども飽あかず　
《乎布をふの崎では　花散って　渚なぎさ味あじ鴨がも　騒さわいどる　気持ち昂たかぶり　見る景色　何処どこを漕こいでも　見飽あけへん》
秋さらば　黄葉もみちの時に　春さらば　花の盛りに　かもかくも　君がまにまと　かくしこそ　見も明あきらめめ　絶ゆる日あらめや　
《秋になったら　黄葉もみじ時　春が来たなら　花はな時どきに　守殿あんた良ええ時　此処ここへ来て　楽しみ遊び　仕様しょやないか　飽あきること無い　この景色》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九九三〕

白波の　寄せ来る玉たま藻も　世の間あひだも　継つぎて見に来む　清き浜辺はまびを
《白波が　運ぶ玉たま藻もの　この浜辺　生きてる限り　ずっと見に来こよ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・三九九四〕
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【四月二十六日】