本の迷宮

漫画感想ブログです。「漫画ゆめばなし」(YAHOO!ブログ)の中の本の感想部分だけを一部ピックアップしています。

星の時計のLiddell (内田善美)

2007-09-11 11:08:46 | 漫画家(あ行)
(1985年発行)

くまさん(くまのお気楽日記)から全巻お借りしてようやくこの作品を読むことが出来ました。
ありがとうございます♪



さて・・・感想なんだけど、それが実に難しい。
どういう切り口で見ていくべきなのか・・・?

絵の美しさは言うまでもない。
人物がどれも美しい。ちょっとした仕草、目線、髪の毛、服装・・・。
特にウラジーミルの「目線」がいい。
<目は口ほどにものをいい>・・・まさしくそういう感じだ。

背景も美しい。部屋の中、建物の外観、花、木々、自動車、小物に至るまで・・・。
しかし、ラスト近くの見開きの下が木々、上に三日月という構図、「イティハーサ」(水樹和佳)を連想してしまったのだが、どちらも<ぶ~け>掲載という事で、何か関連があるのだろうか?


いい作品は冒頭部分も素晴らしい。

幽霊になった男の話をしようと思う

この書き出し部分、まるで何かの名作小説の冒頭部分のようではないか!!

1ページ目は古いセピア色の写真。
2・3ページ、見開きタイトル。
4・5ページ、どこかの部屋の中。屋根裏部屋、階段、窓から差し込む月のあかり、
そして・・・夜空に輝く月。
6・7ページ、ベッドに横たわる男性がゆっくり目を開け、朝の街に出る。
8・9ページ、見開き全てを使って、街の俯瞰図!



ビル、ビル、ビル・・・。
大友克洋の描くビルは凄いけどなんだか無機質な感じがする。
内田善美の描くビルは、そこに<想い>のようなものが漂っている。

この9ページの間に、読者を話の中に引き込むんでしまう魅力が十分に詰まっている。


この作品は<哲学的>だとか<難解>だとか言われることが多い。
確かに、この作者独自の”世界観”を理解しなければ、非常に解り辛い作品ではあると思う。
だから作者もそれを読者に理解してもらうために、登場人物たちに観念的なものについての会話をさせているのではなかろうか?
もしかすると、この作品は”ヒューの夢”の話と、ヒューを取り巻く人々の会話を同列に考えない方がいいのかもしれない。
人々の会話はあくまでも、この作品の世界観を理解するためのテキスト的なものなのかもしれない。

リチャード・ロイドや葉月やジョン・ピーター・トゥーイたちの会話がこの作品中ではちょっと浮いてるような気がするのだが、そういう風に考えると私にはしっくりする。

作者はこの作品ではもっともっと言いたかったこと、表現したかったことがあったにも関わらず、
締め切りだとかページ数の制限、或いは掲載していた雑誌の対象読者に合うかどうか編集部と意見の相違があったとか・・・(あくまでも想像です。)そういったことで、作者自身にとってこの作品はイマイチ不本意なものになってしまったと考えているのかもしれない・・・なんて、ちらっと思ってしまった。

もちろんそれは現時点で何となくそう感じただけで、
もし、20年前にこれを読んでいたら違う感じを受けたかもしれないし、
20年後によんだら、また違う感じを受けるかもしれない。

タイトル「星の時計のLiddell」って何を意味しているのだろう?
ただ単に少女の名前って言うだけではないだろう。

「Liddell」は<謎>或いは<謎々>。
「星の時計」は<悠久の時><無限の時><永遠の時>・・・というような意味を指すのか?

「星の時計のLiddell」は言い換えれば
「永遠の時の謎々」なのだろうか?

では、なぞなぞの答えは何だろう?


風は風のままに
季節は季節のままに
想いは想いのままに
何に変わる必要もない
何に語る必要もない


これが、ひとつの答えなのかもしれない。


この作品はウラジーミルの病んだ精神が抱える<喪失感>を埋めようとする想いがテーマのひとつだとも言えるかもしれない。
ウラジーミルがヒューに対して抱いている想いは、残念ながら、性的なものではない。・・・たぶん。
(そういうものの方が私は好きなんだけどね・・・笑)
<喪失感を埋める何か>・・・そういうものを得られるのではないかと、無意識のうちに感じてヒューに魅せられていった・・・のかもしれない。


・・・で、ウラジーミルは、それを埋める何かを得られたか?
なぞなぞの答えを出すことは出来たから、得られたとみるべきか?
いや・・・やはり彼の喪失感は永遠に埋めることは出来ない・・・そんな気がする。


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8 コメント

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永遠の謎 (くま)
2007-09-11 15:13:41
早速の素敵なレヴューをありがとうございます!
>「イティハーサ」(水樹和佳)を連想~
>内田善美の描くビルは、そこに<想い>~
>「永遠の時の謎々」
>何に変わる必要もない 何に語る必要もない
などなど、読ませて頂きながら「なるほど~~!!」と目からウロコな思いでした。

アッシが気になるのはやっぱりヒューの旅立った先…なんですが、違う次元なのか夢の中の世界なのか、呼び名は色々あっても、共通して思い浮かぶイメージは「スローターハウス5」のトラルファマドール星人の立つ場所…です。
そこに立てば「全であり一である」みたいなことが自然と理解される場所。
だけど「全であり一である」ってことは他に何も「無い」ってことで…ウラジミールの感じる<喪失感>の中には、こういうことも含まれてるのかな…とも思えます。

コインの裏表のようなことがどちらも真実のように感じられるなんて…やっぱりこういうことは「永遠の謎」として、考えるより先にただ感じていればいいものなのかもしれませんね…
返信する
ううううう~ (満天)
2007-09-11 15:51:44
レビューを読んでいるだけで
頭が爆発しそうになりやあした~(ハハハハ)
この絵には毎回フラフラ~っと来るのですが
他の漫画好きさん達の話によると
大変難しいと聞き二の足を踏んでおりやす~~

>「イティハーサ」(水樹和佳)を連想~
イティハーサは大好きな作品なので
興味がむっくりっと来ました~(笑)
そういえば表紙の女の子の雰囲気が似てるかも~
そうか~確かにアレも難解だったが・・・
理解出来なくもなかったな~っと思いました
機会があったら読んでみたい作品に
シフト変更です~
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くまさんへ (ちと)
2007-09-11 20:18:37
素敵な本を貸して頂いて本当に感謝です!
今、気になる箇所を再読しています。
この感想だけではまだ言い足りない事がいっぱいあるんですが、どこから書くか・・・足りない脳みそを必死で酷使しているのだけど、どうも上手く働いてくれません。(笑)

>ヒューの旅立った先…
それが問題なんですよね。。。
ウラジーミルがあの家を出るとき振り返ったけれど、あれは何を見ていたのか?
次の見開きで描かれた家の全景。
あの家の中に存在する<異次元空間>にいるのか?
それとも???

>「スローターハウス5」
お読みになったんですね。
私もこの作品を読みながら「スローターハウス5」を連想していました。
内田さんも読んでいたのでしょうか?

>考えるより先にただ感じていればいいものなのかも・・・
それが一番いいのかもしれませんね。
そんな気がします。
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満天さんへ (ちと)
2007-09-11 20:23:21
くまさんのおっしゃるように
<考えるより先にただ感じていればいい・・・>
・・・そういう感じで読めば結構すんなり読める作品かもしれません。
二の足を踏まずに是非、読んでみて下さいませ!

イティハーサがお好きならば、是非!!
満天さんの感想記事が読みたいです~~!!

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立派です! (トミー。(猫とマンガとゴルフ~の管理人))
2007-09-12 09:05:53
 トラバありがとうございます。m(_ _)m私からもしてみました。

 しかし、こちらでは私が感じてたことをちゃんと言ってくれてる~。記事を書きにくいこの作品をしっかり分かりやすく書いてくれてるので、読んだことのない人でも分かりそう。
 そうか~、こんな見方も、ということがいっぱいでくまさん同様 目からウロコ でしたね。

 「イティハーサ」は読みたいと思っててまだ未読なので、俄然読む気が起きてきました。まだまだ読みたいものがいっぱいです!
返信する
トラバありがとうございました^^ (たれぞ~)
2007-09-12 09:08:40
こちら他の記事にもいっぱい書き込みしたい事があるんですが、バタバタしてまして、なかなか来れずにすみません。

「星の時計のLiddell」は内田作品の中でも読み手の年代、状況によって色んなことが感じられたり、読み取れる作品なのかもしれませんね。

それだけ、練り上げられた深い作品なのかも知れません

それにしても、絶筆なのは惜しいですよね
また書いて欲しいと思うファンは多いはず・・・・
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トミーさんへ (ちと)
2007-09-13 00:54:13
褒めて頂いて嬉しいですけど、
全然、立派じゃないですよ~!
何だかわけのわからない感想になってしまった気がします。
もっともっと読み込まなければ深いところはわからないです。

「イティハーサ」はとってもいい作品です。
機会があれば是非読んでみて下さい!
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たれぞ~さんへ (ちと)
2007-09-13 00:57:30
>読み手の年代、状況によって色んなことが感じられたり、読み取れる作品・・・
たぶん、そういう作品だと思います。

絶筆というのは本当に惜しい!残念です!!
作者にもいろいろと都合があるのでしょうけど、また描いて欲しい作家の一人です。
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