本の迷宮

漫画感想ブログです。「漫画ゆめばなし」(YAHOO!ブログ)の中の本の感想部分だけを一部ピックアップしています。

陰陽師  (夢枕獏)

2005-06-27 09:02:58 | 小説
文体がいい。
簡潔な文体。
実に心地よい文体だ。

まろやかでまったりとした口当たりのよい文体。
読み進んでいるうちに、いつのまにか「獏ワールド」に引き込まれてしまう。

山あいの野辺の草叢を、そのままここへ移したような安倍晴明の屋敷。
冷淡なようで優しさのある自然体の晴明。
単純で慈悲深く、まっすぐな気性の博雅。
ふたりがほろほろと酒を飲んでいる。

「なんだか、わけもなく、哀しくなってきたな・・・」
博雅が言った。
「おまえは、優しい漢(おとこ)だな」
黙っていた晴明が、ぽつりとつぶやいた。
「優しい漢か」
「優しい漢だ」
短く言った。
「ふふん」
「ふふん」
誰にうなずくともなく、ふたりは小さくつぶやいた。
それきり、ふたりは黙った。
雪を見ていた。
雪は、あとからあとから降り続いて、地上の何もかもを、白い、天の沈黙で包んでいった。


ペンが走るままに、ほろほろと文字を書いてゆく。
そんな文体。
春の宵、桜の闇、魑魅魍魎が跋扈する、百鬼夜行の平安時代。
ふと、現実を忘れさせられる不思議な感覚の世界に足を踏み入れた。

そんな気がする。

面目ないが (寒川猫持)

2005-06-24 14:23:02 | エッセイ
「当方 うた詠み、兼目医者、バツイチ、猫あり  つまり淋しいのである。」
の書き出しから、リラックスできる。

45歳の目医者、独身の猫持さんの日常の悲哀をユーモラスな短歌に詠み、随筆に記した作品集(毎日新聞大阪本社、朝刊に連載されたものに数編加えたもの)

流れるユーモアの背景にある著者の博学と類まれなるセンスに目をみはる。

一見、読み飛ばしてしまいそうな表現の裏に、古今東西の名言の引用あり、その裏返しあり、縦横無尽の表現で、日常の哀歓を描いている。

両足を互い違いに前に出し
ここまで来たが、ほぼ進歩なし。

BY:仙人

補陀落山(ふだらくさん)へ   (大路和子)

2005-06-23 18:57:15 | 小説
熊野にあたる海ぎわの町で生まれ育った作者が、自分の血の流れに染みこんだ故郷の山河に伝えられた物語を、自信に引きつけ、宗教の世界(大峰山修行、補陀落山捨身行、那智大滝捨身行)をからめて、独自の物語を綴った作品集である。
熊野灘をひかえた、熊野山河の奥深い世界で展開される物語の悲哀は人間の生そのもののエレジーでもある。

BY:仙人

レモネードを作ろう  (ヴァージニア・ユウワー・ウルフ)

2005-06-23 18:43:26 | 児童書
貧しい生活から抜け出すために、大学に行きたい。
でも、大学へ行くためにはお金がいる。
学費集めに、ベビーシッターのアルバイトを始めたラヴォーン。
行った先が、3つ年上の17才で、2人の子持ちのジョリー。
ねとねとで、べとべとの子供たち。不衛生な部屋。
ジョリーの生活は、ラヴォーンよりも貧しかった。
ジョリーと2人の子供たちとの関わりで、反発し、認め合い、影響しあって、変わって行くラヴォーンたち。
シングルマザー、ドラッグ、段ボール・ボーイ、セクハラなどの問題。
一生懸命 日々を過ごしている彼女たち。
福祉、「立ちあがる母親計画」クラス、四角四面な大人たち。
ひとり、ひとりの本音とたてまえ。

私も子育てはしてきたが、ここまで、考えていただろうか?
私の娘は、こんな考え方が出来るのだろうか?

散文詩のような、短い、とても読みやすい文章です。あなたは、レモネードを作れるでしょうか?
(この意味は、本文で!)

親子で、ぜひ読んでみてください。

BY:星川

(20世紀の群像)梶山季之    (橋本健午)

2005-06-23 08:40:13 | ノンフィクション
昭和30年代半ばから、週刊誌ブームの先鞭をつけ、「トップ屋」といわれる新造語を創り出した梶山季之のエピソードを交えての活躍ぶり、日常生活の場に現れる人柄を余すところなく語り伝えた著作である。
日常生活の交友関係、社会的な活動の中に、作品のみでは知ることが出来ない作家の姿が浮上する。

「李朝残影」の名著をのこし、死の予感の中にあってもライフワークの朝鮮問題に取り組みながら45歳という年齢で志半ばで逝った作家の無念が伝わってくる。
世上の評価とは違った作家の本質と創作へと突き動かした正義への思いが描かれている。

BY:伊野仙人

人間燦燦(さんさん)  (蛭田有一 写真集)

2005-06-23 08:14:26 | その他
20世紀を彩る103人の肖像とメッセージ。

題名の通り、20世紀に各界ご活躍した人たちの生き様思いを、瞬間のことばにのせて表現したメッセージと、個性を感じさせるポートレィトの写真集である。
音楽家あり、市井に生きる伝統芸人あり、学者、政治家、はては、青森恐山の「いたこ」あり。
人間の生き方、その中から学んだことに、じかに触れる感動がある。
人間に対する尽きせぬ興味が湧いてくる。
夜の枕辺に最適の好著です。

BY:伊野仙人

アイスマン 5000年前からきた男  (ディビッド・ゲッツ)

2005-06-22 22:10:34 | ノンフィクション
1991年、ドイツの登山家が、アルプス山中で一体の凍死体を発見した。ふつうの遭難者とは違っていた。

彼は5000年前から、氷河に閉ざされたままやって来た、先史時代に生きていた男であった。
彼の持ち物、ミイラ化した死体から、現代科学の力によって、さまざまな事実が解明されていく。

まさに推理小説を読む楽しさに惹かれて、一気に読んだ。現代科学の世界の魅力も同時に味わえる作品である。

中学、高校生の諸君にも、ぜひ読んで欲しいものである。

BY:伊野仙人

日本人の宗教感覚  (山折哲雄)

2005-06-22 22:00:40 | その他
日本人の心の奥底に感性として流れている宗教感覚を、身近な日常生活、日本の古典作品を通して、また民族的な視点から平易に述べている。

短歌的叙情の中の死生観、「夕焼小焼」と落日信仰や、日本人の「他界観」
西行法師の有名な「ねがはくは花の下にて春死なん そのきさらぎのもち月の頃」
沈む月と一緒に浄土に往生する決意とイメージトレーニングの姿。
日本人の宗教感覚や自然感が身近に読み取れる本である。

BY:伊野仙人

ちいさなくも  (エリック・カール  訳:もりひさし)

2005-06-22 21:04:28 | 絵本
大胆な色使いが魅力的な、エリック・カールの作品は、いっぱいあります。大好きな絵本をあげると、どれか一つは入っているんじゃないかな。

さて、この絵本は、真っ青な空にぽっかりと浮かぶちっちゃなくものお話です。

みなさんも、空を見上げ浮かぶくもを見て、あのくもは○○のようだったと、思ったことがあるんじゃあないでしょうか。食べ物・車・人の顔、いろんなものに どんどん形を変えていくくも。そんなくもを思い出しつつ、こどもたちといっしょに読んでみてください。

BY:星川

グリックの冒険 ・ 冒険者たち ・ ガンバとカワウソの冒険 (斎藤惇夫)

2005-06-22 19:46:09 | 児童書
所謂、「ガンバ三部作」である。

現在30代以上の人達のなかには、アニメ「ガンバの冒険」を覚えていらっしゃる方も多いかもしれない。
この三冊の中の「冒険者たち」はアニメの原作である。ただし原作はサブタイトルが「ガンバと15ひきの仲間」とあるように「15ひきの仲間」がいるのだが、アニメ作品には残念ながら、何匹か省略されてしまっている。

この三部作は、どれも「すばらしい自然」というのがテーマとなっているようだ。特に「ガンバとカワウソの冒険」では、ガンバたちが絶滅したはずのカワウソを見つけ、凶暴な野犬と戦いながら、伝説の河「豊かな流れ」をめざすのだが、カワウソも住めないような河にしてしまった人間のひとりとして、反省しなければならないと思ってしまった。

非常に個性的に描かれたネズミ達の言動は、ハラハラしたり、納得したり、読んでいるうちに色々と考えさせられてしまう事が多かったりするのだ。
この作品は、一応児童書ではあるが、大人が読んでも十分に読み応えがあって楽しめる作品となっている。子供の頃の純粋な心を忘れかけている大人が読んでみるのもよいかもしれない。

BY:みやびちと

橋のない川 (住井すゑ)

2005-06-22 19:12:17 | 小説
『差別!』と聞くと あなたなら、どう思いますか?

「うわぁ あの話って 暗くていや!」
「わざわざ 読んでみるのも…、それに 長そうだし、難しそう…。」

なんて 思っている あ・な・た

もし、本当のことが知りたいのなら、迷わずこの本を読んでみて下さい。(読みやすいのよ)

大和の美しい自然を背景に 小森に生まれた主人公 畑中孝二、彼の成長を描いた 青春大河小説 とでもいうべき話です。
生まれに悩みながらも、親や友人達に励まされ 自分自身を見つめながら成長していく姿がすばらしい。(難しいところは とりあえず目をとーすだけにして まずは全体をつかんでみて!)

主人公や、彼を取り巻く人々の悩みは、いじめの氾濫する今の世の私達自身の悩みとも似て、共感と反発を覚えることでしょう。

今、悩んでるあなたに!
読み応えのある本が欲しいあなたに!
ちょっぴりでも差別に関心があるあなたに!

ぜひ、一読を!

BY:滝瀬未久

天の瞳 幼年編Ⅰ・Ⅱ  (灰谷健次郎)

2005-06-22 17:22:54 | 小説
『兎の眼』、『太陽の子』の作者、灰谷さんの新作!!

この本の主人公、小瀬倫太郎は とても魅力的だ。
倫太郎の自由奔放さ、生意気さ、したたかさ、そして何よりも その真っ直ぐな心に とてもひかれる。
倫太郎は、しあわせな子だ。保育園時代、「子供にどうやって添うてあげたらええの…。」と悩んだ先生、倫太郎や回りの子供たちが起こすいろんな出来事に一つ一つ考えてくれた人達。小学校時代、倫太郎に振りまわされながらも、お互いに影響を与えあった先生達や友達。それに両親、おじいちゃん、おばあちゃん、お店の人など いろんな人達に囲まれているからだ。(でもそれは、私たちにも言えることだろう。)人の心を見る目を持っているか?いないか?と、言うことじゃないのだろうか…。

「小瀬くん」
「なんや」
「ちょっと、カッコ良すぎると思わへん?」
倫太郎は言った。
「思う」…

  -やっぱ、倫ちゃん カッコえぇなあ~-と、私も思う。

BY:滝瀬未久

硫黄谷心中 (村田喜代子)

2005-06-22 15:50:03 | 小説
現実を離れ、空想の世界で遊びたい読者へのおすすめの作品。

心中物という暗さはないが、幻想的な硫黄谷に紛れ込み、偶然同宿した、男女二組の見たものは…。
死に急ぐ、哀しくもいとおしい若者たちの純愛の幻想。

現実には存在しないという硫黄谷の湯煙と噴火口の無気味さを背景に繰り広げられるドラマの世界に、ひとときのロマンに浸ってみませんか。

BY:荒刈人

子供が孤独(ひとり)でいる時間(とき) (エリーズ・ボールディング)

2005-06-22 15:41:08 | その他
私は、幼い頃、いつも孤独(ひとり)ぼっちで遊んでいた。その頃、だれから邪魔されることなく空想の世界に漂っていた。
その中で、わたしという人間は創られたのだ。
春の日のかげろうのゆらめき、夏の日のこぼれ陽の散乱、雨あがりの水たまりの油滴のひろがりのうつくしさ。

人間の成長にはひとりでいる時間の大切さを強調した作品です。

自由であること。内へ向かうこと。自分自身を発見すること。
そのためには、ひとりでいる時間をぬきにしては考えられない。
孤独でいる時にしか起こらないある種の成長があるのではなかろうか。
子供たちに、豊かで、奥深く、大きな世界の存在に気付かせるために、是非一読を!

BY:荒刈人