本の迷宮

漫画感想ブログです。「漫画ゆめばなし」(YAHOO!ブログ)の中の本の感想部分だけを一部ピックアップしています。

ガラスの地球を救え<二十一世紀の君たちへ> (手塚治虫)

2005-08-17 23:12:13 | エッセイ
この本は未完のまま手塚さんが急逝された為、講演やテレビ、雑誌での発言を加え出版したもの。(初版発行は1989年4月30日)

「ぼくのマンガ人生」と内容的に被っている所もあるが、それは仕方ないだろう。
どちらの本も手塚さんが生涯を通じて訴えたかったことが非常によく伝わってくる。
特にこちらは副題が「二十一世紀の君たちへ」とあることからもよく分かるように子どもたちへ向けたメッセージであるから、是非とも「未来人」である「子どもたち」に読んで欲しい。
今は夏休みだから、読書感想文の宿題などが出ているのならこの本を選ぶというのはどうだろうか?
うちの子どもたちにもこの本の感想文を書かせていたら良かった。と、今ちょっと後悔している。(苦笑)


感銘を受けた箇所を幾つかピックアップしてみる。


「『鉄腕アトム』も、科学至上主義で描いた作品では決してないことは、よく読んでいただければわかることです。
(中略)
つまり、『鉄腕アトム』で描きたかったのは、一言で言えば、科学と人間のディスコミュニケーションということです。
(中略)
そういう疎外感、哀しみといったものをビルの上に腰かけているアトムで表したつもりなんですが、そういうところは全然注目されず、科学の力という点だけ強調されてしまった。たいへん残念でなりません。
(中略)
アトムも人間の中にあっては、”差別される子”なのであって、”ふつうの子”ではありません。けれども、信念を持って行動し、決してあきらめたりしない。ときには、どう考えても勝ち目のなさそうな相手にも、ぶつかっていく子として描いています。
これはもちろんマンガの上でのことですが、本来、子どもというものにはそんなエネルギーがあるのではないでしょうか。いや、そうであってほしいというぼくの願いでもあります。」

「生きがいのある人生とは、お仕着せの、画一的な、ステロタイプ的な人生に、人それぞれが自分の個性を加味して独特のものにかえていく、そういうことではないかと思います。
何度もやり直しのきく人生が約束されているのならともかく、有限の一度だけの自分の人生です。狭い囲いの中で、息苦しいものにしたくないではありませんか。
山を越え、海を越えてさまざまな人々と大いに交流しながら、たくさんの発見をしていきたいものです。他の国々にも学ぶことで自分の国や自分自身も、もっと見えてくるようになるでしょう。」

「科学の進歩は大いに喜ばしいことにはちがいありません。(中略)しかし、一方で、科学の進歩によって多くの生命、人命が失われたことも忘れるわけにはいきません。
人間の”善”が、常に”悪”より一歩だけでも忘れるわけにはいきません。
(中略)
生命の不思議を追うあまりに、生命そのものを滅亡させることがないように願うのみです。」

「人間は”善”の心もあれば、”悪”の心もある。善行もすれば悪行もする存在です。そういう人間認識が希薄になっているのだとしたら、これは問題だと思います。」

「危険はすべて排除されるかわりに、失敗は許されない。それでは子どもは大きくはなれません。
いろいろな挑戦をさせ、たとえ失敗しても抱きとめるゆとりのある社会、そして再度チャレンジ精神を子どもが培えるような文化状況を、ぜひともつくりたいと思います。」

「IF-もしも、ぼくが、わたしが、宇宙からの眼差しを持ったなら、想像の力は光速を超えて、何万何千光年のはるかな星々にまで瞬時に到達できるでしょう。
その想像力の力こそ、人類ゆえの最高に輝かしいエネルギーなのです。」


まだまだ、書き出したい所はいっぱいあるのだけど、書ききれません。

もっともっと、手塚さんには長生きして欲しかった。
・・・でも、
私たちにこんなにたくさんの素晴らしいメッセージを遺して下さったことに感謝します。
使い古された陳腐な言葉だけど、
私たちの心に残ることで「永遠の生命」を得た・・・そんな気がします。


マンガからはいる法学入門  (矢野達雄)

2005-08-14 05:23:46 | その他
この本、実は現役の某大学法文学部教授が書いたもので実際に共通教育科目でこの本をテキストとして使っている。
その講義は学生たちに人気があって受講するには抽選で当たらねばならないぐらいらしい。
「マンガ」というのが受けるのか?・・・或いは単位を取るのが簡単というのがいいのか??・・・両方かな?
講義はまず、取り上げるマンガの説明をした後、法学の説明になるらしいが学生によってはマンガの説明が多すぎると不満だという輩もいるらしい。
私ならマンガの説明が多いのは大いに結構だと喜ぶところなのだが・・・。

で、漫画を使った理由として教授は
「法学というのは、独特の論理、特別の思考方法を要する。(中略)社会と密接な学問であるはずなのだが、法学の独特の世界にのめり込んで、社会とのつながりが見えなくなってくる。非常識な社会人を育てて送り出しては、申し訳ないから、全国の法学を教えている大学では、学生が法の働く社会の実態を知ること、いわば現場感覚を身につけさせるためにいろいろな方法を試みている。」
と語っている。
要するに、新聞記事や小説などを取り上げることによって学生が法学における「現場感覚」をつかむきっかけを作るという考えを一歩進めて、学生の好きな「マンガ」でやってみよう!と考えたようだ。

しかし、それにしてもこの大学教授、この本を読んでいると漫画を結構深く愛しているんじゃないのかな?と思えてくる。
漫画の内容に関して書いてる部分を読んでいると好きなんだなーって事が行間から感じられるのだ。
講義中に漫画の中のセリフを読む時も単なる棒読みではないらしいから、やっぱり結構好きなんだろう。(笑)

「本の中でたまに薀蓄を傾けることがあるかもしれないが、それは副次的なものと考えていただきたい。あくまでもマンガは素材で、「法を考える」というのが趣旨である。」
・・・と、わざわざ書いてるところがちょっと笑えるのだが・・・
どちらかと言うと、「たまに」というよりは「薀蓄を傾ける」箇所が、非常に多い本である。(笑)


ま、それはいいとして、ここに取り上げられている漫画は

手塚治虫「鉄腕アトム」「ブラック・ジャック」「ネオ・ファウスト」
青木雄二「ナニワ金融道」
毛利甚八作・魚戸おさむ画「家栽の人」
高田靖彦「ざこ検○潮(マルチョウ)」-検察官
中嶋博行作・カワニラサイ画「ホカベン」
周良貨作・能田茂画「監査役野崎修平」
関口夏央作・谷口ジロー画「『坊ちゃん』の時代」
かわぐちかいじ「沈黙の艦隊」
山本おさむ「どんぐりの家」


なかなか「良い作品」を選んでると思うし、当初の目的である
「学生に『法学もけっこう面白いじゃないか』と興味をもってもらうこと」
にも成功しているように思える。

こういう講義を受ける事が出来るのなら学生の振りをしてこっそり講義室に入りたいと思っている私です。(笑)