★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇リヒテルのベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」/第12番「葬送」

2021-06-17 10:07:48 | 器楽曲(ピアノ)


ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」
        ピアノソナタ第12番「葬送」

ピアノ:スビャトスラフ・リヒテル

発売:1980年

LP:RVC RCL-1058

 ベートーヴェンは、ピアノソナタを生涯にわたり作曲し、その芸術上の変遷をピアノの鍵盤上に刻み込んだ。そして自らの精神史とでもいうべき貴重な32のピアノソナタとして遺し、現在の我々に深い感銘を与え続けている。それらのベートヴェンのピアノソナタは、第1期が第1番~第11番、第2期が第12番~第27番、第3期が第28番~第32番で、それぞれ初期、中期、後期と分類されている。初期の作品は、古典ソナタの慣習に従い、ソナタ形式による主題の展開に力点が置かれる。中期の作品に入るとベートーヴェンは、自由な表現のために、大胆な手法を数多く取り入れ、ロマンティック色合いを強く反映させた作品を生み出していく。そして晩年の後期の作品で、ベートヴェンは耳が不自由になったこともあり、当時のピアノでは限界に近い表現を駆使し、より精神性の強い作品を作曲した。このLPレコードでは、スビャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)の演奏により、中期の傑作である第23番「熱情」および第12番「葬送」が収録されている。このLPレコードでの「熱情」におけるリヒテル演奏内容は、「熱情」の名前がぴたりとあてはまるような、男性的で力強い演奏に終始する。地の底から這い上がるような、火山が爆発するかのような、すざまじいピアノタッチに圧倒される。録音も優れており、リヒテルがピアノの弦を力いっぱい叩き付ける様が目の前いっぱいに広がり、思わず息を飲むほどだ。ピアノをこれほど打楽器的に自在に弾きこなすピアニストを私は知らない。しかし、決して単に力強いばかりでなく、その第2楽章なのでは、一転して、静かに、あくまで奥深い精神性に溢れた世界を存分に表現し尽くす。第1楽章の時の同じピアニストの演奏とは到底思えないほどデリカシーに富んだ世界を見事に構成してみせる。そして第3楽章に入ると、また第1楽章の時の力強い演奏に立ち返る。しかし、そこにはより微妙なニュアンスを含んだものとして昇華された姿が現れ、その存在感に圧倒される。この鬼気迫るほどの演奏の中に、リヒテルの真骨頂を覗き見る思いがした。一方、B面に収められた ピアノソナタ第12番「葬送」は、交響曲第1番、七重奏曲、作品18の弦楽四重奏曲と同時期に作曲された作品。第3楽章に葬送行進曲取り入られているため「葬送」ソナタと名付けられている。ここでの、リヒテルの演奏は、あたかも演奏自体を楽しんでいるかのように、あくまで素直に弾き進む。そこにあるのはただ“名人の至芸”そのものなどである。(LPC)


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