★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルトのシューベルト:交響曲第8番「未完成」/ グリーグ:劇音楽「ペールギュント」から        

2021-06-03 09:54:35 | 交響曲(シューベルト)


シューベルト:交響曲第8番「未完成」
グリーグ:劇音楽「ペールギュント」から
       
        ①朝
        ②オーセの死
        ③アニトラの踊り
        ④山の王の宮殿にて
        ⑤ソルヴェイグの歌

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:バンベルグ交響楽団
    ハンブルク国立フィルハーモニー管弦楽団(劇音楽「ペールギュント」)

発売:1978年

LP:キングレコード GT 9172

 これは、ドイツの名指揮者ヨゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)のシューベルト:交響曲第8番「未完成」とグリーグ:劇音楽「ペールギュント」を収録したLPレコードである。カイルベルトは、プラハ・ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団・音楽監督、バンベルク交響楽団・首席指揮者、シュターツカペレ・ドレスデン音楽総監督・首席指揮者、ベルリン国立歌劇場・音楽総監督、バイエルン国立歌劇場・音楽総監督をそれぞれ歴任し、さらにバイロイト音楽祭においても活躍、このほかザルツブルク音楽祭などにも客演するなど、ドイツ音楽の巨匠として活躍した。このカイルベルトとカラヤンは、同年同月(1908年4月)生まれで活躍した時期が重なるが、その辿った道は、カラヤンが万人向けのスターの道だったとすれば、カイルベルトは伝統的ドイツ音楽を深く掘り下げた玄人受けする道だった。つまり、知名度ではカイルベルトは、カラヤンに一歩も二歩も譲るが、そのつくり出す音楽は、多くの愛好家の支持を受けていた。「未完成」でのカイルベルトの指揮は、厳格な構成をとり、我々が期待するような情緒纏綿なスタイルとは一切関係がないかごとき演奏に終始する。最初聴くと面食らうほどの印象を持つ。ところが、改めて聴いてみると、「この『未完成』という曲は、皆が思っているほどロマンチックな曲ではない。構成がきちんと整った伝統に則った曲なのだ」とカイルベルトが言っている通りの指揮ぶりである。第1楽章は、実に堂々とした構えで、真正面から曲を捉え、一部の隙もない演奏だ。ドツ音楽の巨匠の面目躍如とした指揮に吸い込まれそうになる。第2楽章も、抒情的的な感覚というより、じっくりと腰を落ち着かせ、シューベルトの心に入って行くように、精神性の高い演奏内容に徹する。リスナーは、何か、シューベルトの独白を聴いているかのような感覚に陥る。2つの楽章を聴き終えてみると、最初に感じた違和感は何処かに消え去り、これまでベールに覆われていた「未完成」という曲の真の姿に接することができたという充足感に浸ることができる。やはりヨゼフ・カイルベルトは“真の巨匠”だったのだと、実感できた演奏内容であった。一方、グリーグ:劇音楽「ペールギュント」は、「未完成」とはがらりと変わり、起伏に富んだ劇音楽の特性を存分に発揮し、カイルベルトは実に楽しげに音楽を盛り上げる。何か、北欧の澄んだ空気がLPレコード針を通して伝わってくるかのようである。この曲のベスト録音盤と言ってもいいほどの出来栄えだ。(LPC)

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