今何処(今の話の何処が面白いのかというと…)

マンガ、アニメ、特撮の感想ブログです。

『バトルスピリッツ少年激覇ダン』ラスト・ボス、その男、異界王。

2010年09月14日 | アニメ
【脱英雄譚の命題】



異界王「激突王、この闘いでお前が勝てば私はこの世界を去ると約束した。それはグラン・ロロ(異界)の崩壊を意味する。それでもよいのか?」

ダン「信じるもんか!滅亡なんかさせない!させてたまるか!」

ユウキ「ならば、お前が異界王を倒したその時、この膨大な知恵の世界を継承するしかない。そしてお前がマザーコアを守り、グラン・ロロも地球も救う…悪くない話だ」

(第27話 メテオヴルム散る・異界王VS激突王!より)

『バトルスピリッツ少年激覇ダン』(2009年制作)のラスボス・異界王が良かったです。『悪役』好きの僕にはたまらんキャラだった…。同時に、相当、すっごく“惜しい”キャラでもあったんですよね。…いや、惜しいキャラだなあ…と思って検証してみたんですが、やっぱりコイツ、チョー凄い……かも。(←なに?)

『バトルスピリッツ少年激覇ダン』は、トレーディング・カード・ゲーム『バトルスピリッツ』のカードバトラー・馬神弾(ダン)が不思議な少女と出会い、バトルスピリッツによるカードバトルこそが至高の戦いとされる異界(グラン・ロロ)へと飛ばされてしまう物語。
そしてグラン・ロロは異界王と名乗るバトルスピリッツ最強の男が支配している世界で、そこに住む人々の苦しみを見たダンは自分のバトルスピリッツの力で、この世界を救うために立ち上がります。

かつて異界王に闘いを挑んで敗れ、魔力のほとんどを奪われてしまった異界魔女マギサの導きで他の戦う仲間達…コアの光主たちを探す旅に出かけるのですが……と、ここまでは割と定番というか分かりやすい話でw
そして様々な闘いを乗り越えて(けっこうダンくん負けるんですけどね)仲間も集まり始めたシリーズ中盤、ある意味、不意に、いきなり異界王との対決が実現します。その対決で交わされたセリフが上掲の引用です。

いや、まず先に異界王の正体から説明しましょう。彼は名前は不明ですがスペイン出身の1451年生まれで、大航海時代に外海へと乗り出した船長の一人。グラン・ロロにはどうやら時空を超えて様々な時代の人間が飛ばされて来ているみたいなんですが、この異界王の正体がそのまま彼のキャラクターを顕している。
大航海時代…という時代は角度によって様々な見え方をしますよね。人類(の中の西洋人)がフロンティアを目指して世界中を駆け巡った時代。またそれは西洋による侵略の時代。でも、ものすごいエネルギーを感じさせる時代。
その強烈なエネルギーを放つ最前線にいた男。一代の力で以て地球を乗り渡った、不屈の冒険者にして侵略者、それが異界王…と言いえます。異界王の正体が名もなき船乗りである事の意味は、そのエネルギーをバックボーンとしているからだと思う。

そしてその登場の仕方もカッコいいw最初は、車椅子に乗った白髪の老人として登場してダンと戦うんですが…なんでか知らないけど、ダンの攻撃を受けてライフが減るたびに、段々、異界王若返ってきて!w
最後には壮年のおっさんになって、ドカーン!!と車椅子蹴っ飛ばしてバトル台から叩き落として、振り返り「さあ!バトル再開と行こうか!」とか言い出されて、ダンくんすっかりビビっちゃうんですが……すげえカコイイ!!(゜∀゜)
いや、何かこの若返りの秘密自体はよく分からないんですが、どうも異界王はバトルの激突を何らかのエネルギーに変換させる技術を持っているみたいなんですよね。要所要所でそのテクノロジーを使って大掛かりな事をしています。



そしてそのままバトルは続き、上のような「私がこの世界を去れば、崩壊が起こる~異界と地球はリンクしていて地球の力が人間の脅威によって弱まれば異界のマザーコアも弱まる。この状態でマザーコアの保守管理ができるのは自分だけだ」という投げかけがあって、ダンはその問題に答える事もできず(一応「グラン・ロロの人々を信頼して任せて見れば?」みたいな事は言うんですけどね)バトスピでも自らの未熟さをさらけ出して敗れ去って行きます。
そして異界王に心を折られてしまったダンは呆然自失状態になってしばらく戦えなくなってしまうんですけどね。

ここで僕は異界王の貫禄を楽しむと同時に、この“決戦”がシリーズ中盤で行われている事に注目しました。

【今週の一番付記「魔法先生ネギま!」情報圧縮して描かれる先の物語】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/a83c0e2d45de438ef5d547bc9c1e6b7d
それは何かというと「いや、それって結局何も解決していないよね?」と言うかねw最強最後の敵・アンチスパイラルは、主人公たちのパワーとしている螺旋エネルギーこそが宇宙に破滅をもたらすものだと示し、自分のプランに従わなければその破滅は不可避であると説いた。それに対して主人公シモンは「破滅など来させない!人間はそんなに愚かじゃねえ!!」と絶叫して、アンスパをブッ倒すんですが……つまりノープランなんです!!(`・ω・´)

【魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」~「先の物語」という意味(その2)】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/463b4de3919163ad00aa98250584512b

(↑)これらの記事を読んでもらうとわかると思いますが、僕はずっとこの類型の『物語』を追っている所があって。要するに、この異界王とダンの対決/会話がシリーズの最終回付近で行われていたなら、そんなに身を乗り出さなかったというか「ああ…まあ、そのパターンだよねえ」くらいの感じだったのですが、これが中盤で、しかもダンの敗北によって終わった事の意味は、大きい…と思ったのです。

「私を倒すと世界が滅ぶ。故に(悪であっても)私を倒してはならない」…この様々なヒーローものの最終盤で出てくるラスボスのロジックの定番の一つ。これを「天元突破グレンラガン」(2007年制作)にちなんで『アンチスパイラルの命題』と名付けるとしてw(ちなみに「私を倒しても第二、第三の私が…(ry」は『ブラックゴーストの命題』かな!w)
この命題が何故、不問にされるかと言うと、ヒーローがラスボスに勝つからなんですよね。負けるからアンチスパイラルも、後は上手くやってくれとばかりに託さざるを得なくなる。…基本、ノープランのはずなのに!w
じゃあ、負けなかったらどうなるか?また、逆らったヒーローを殺さなかったらどうなるか?バトスピのバトルは互いの命運は賭けますが、必ず生命を賭ける必要はない。つまり反逆者もバトスピのルールに従う限り生き残りもするワケです。…その時、アンチスパイルはなんて言うんでしょうね?可能性の一つに過ぎないですが…。

「私を倒したかったら、世界を救う明確なプランを持って来い!!」って言いませんかね?少なくともこの時の異界王はそう言っているんじゃないかって僕は思ったんですね。

それが無い限り、そもそもの信念でお前に負けるわけがない!!…とまでは言いませんが。(←言ってる)同時に異界王はどこかダンやユウキといった見込みのある“勇者”に甘い所がある。これは細かく述べませんが。とまれ、この時点でのダンの完全敗北は、次の再戦の時、ダンが異界王に対抗し得る答えを持って来る事を意味していると、そう思ったんですよね。
いえ、先に言ってしまうとダンはその答えを持ってくる事はできなかった……と思います。故に最後に異界王は分かりやすい“悪”となって敗れ去って行くのですが………ちょっと、話を続けます。

物語は終盤に入ると異界王はそれまで構築していたホライゾンラダーからのエネルギーを使ってグラン・ロロと地球の空間を繋ぎ、異界王軍を率いて地球制覇に乗り出します。ここに至っても異界王のカッコ良さは健在でした。
まず、地球に出たからって地球征服宣言は出すんですが、辺り構わず街を攻撃したり人々を追い立ててりとかしないんですよね。アメリカ合衆国をはじめとした各国代表と交渉をはじめるw世界経済を牛耳る黒幕みたいな組織を見付け出してそいつらとも交渉するw
いや、武力で威圧もするんですが、同時にこれまでグラン・ロロで培ったコア(魔法)技術を使って、砂漠化した土地を緑化して行ったり、汚染された土地を再生したり…そういう技術提供を行いもする。表向きはともかく裏の経済界の方はそれで異界王の存在を黙認しはじめるんですよね。
ダンたちは抵抗を続けるんですが、異界王を“悪”と認識しづらい。実際に弱い国、貧しい国々ではコア技術による再生は歓迎されたりもするんですよね。

これねえ…異界王は「お前たち(地球人)の抱えている問題は総て解決してやる!だから支配されろ!」って言っているんですよね。

「愚かな人類を俺が導く!」…ってな大義名分で人類管理に乗り出す悪の首領は数多いるんですけどね。やっぱり異界王みたいに自分の支配する世界はどうなるか?を“支配前に”明確に見せてくれる“悪”は少ないはずです。
しかし、異界王は“支配前に”見せている。コア技術によってエネルギー問題、食料問題、公害問題が解決する事を見せている。その上で一見、傲慢に振る舞いながらも、各国の首脳との交渉を地道に続けている。キッズ・アニメとして、支配のプロセスがカッコ良過ぎてぐうの根も出ないw



しかし、そこまでやっておきながら、最後に突然「私は私を追放したこの世界に復讐してやるんだぁああ!!とりあえずマザーコアを使って地球を氷河期にして人類を強制的に進化させてやるぅうううう!!」…とか言い出してコア技術を引き上げて大暴れをはじめちゃうんです………異界王……気でも触れたのでしょうか?(´;ω;`)

そしてダンたちは、マギサのデッキを取り戻して(この取り戻しも不自然に迂闊な気がするんですが…割愛します)、異界魔女マギサを完全復活させ、その勢いに乗じて異界王との最終決戦を果す。事ここに至っても異界王はバトスピでの決着を受けて立つ。
それでまあ、最終回なんで…当然と言うかなんと言うか、異界王は敗れ去り、塵となって消え、マザーコアはマギサが取り込む事で、事無きを得(?)つながれたグラン・ロロと地球は再び時空を別ち、ダンはマギサや異界の仲間たちと別れて行く…というラストになります。

何とか上手く行ったものの…遂にダンくんは異界王に対して“別の答え”を持ってこれなかったと僕は見ています。しかし、マギサがマザーコアを何とかしてくれたので、その結果をそのまま受け止めれば、異界王は自分勝手な嘘をついていた事になりますかね?(つまり、正しくない問題だったから答える必要はなかった)…その結末は“惜しい”なあ…と思っちゃいますね。地味だけどいいところついていたと思います。

それにしても異界王は最後までバトスピの掟に従いました。これ、異界王自身が発した法令なんですよね。(元々伝統的にあった習慣みたいですけど)自身もその法を頑なに守り続けた。そして重要なのは「バトスピで決着する」という掟は、物語の“お約束”よろしく、誰も疑問を持たないルールとして存在しているのではなく、あくまで異界王の法令に従っているという描写が取られている事です。劇中でバトスピの決着と関係なく事を強行してしまおうという描写が取られたりするんですよね。

…これ、ちょっと思ったんですけど。「バトスピで決着をつける」というこの掟のおかげで人的被害がかなり軽減されている気がするんですよね。当たり前ですけど。
さっきも言ったように決着と関係なく行動取ろうとする奴もいる。でも、異界王の傘下にいる者も、逆らう者も一様に「バトスピで決着した事に従わないのは卑怯だ!」という意識のようなものが生まれている事は否めない。
これは逆らう側もそうです。異界王は屈強のバトラーたちを多数従えているのですが、反乱があっても彼らがバトスピで収めてしまう。多分…というか当然、反乱者がその結果に従わなければ武力鎮圧に移行するので、結局、反乱側もバトスピの結果に従う方が賢明な判断になって行く。
反乱側が勝ったら…?もしかしたら、それを無視する管理者もいるかもしれないけど、その結果にそのまま従ってもそれを咎める法は異界王軍の中にはないんですよね。
劇中の描写を見る限り、異界王の支配に流血沙汰が全くない事はあり得ない。でも、死傷するものをある程度、軽減していた面があったのでは…と思ったりしました。異界王はそこまで考えていた…と言ってしまうのは穿ち過ぎでしょうかね?



こういう話はまだあります。異界王の大義は力の弱まったマザーコアの管理にありますが、マザーコアの力が弱まる事はグラン・ロロの生命力が弱まる事を指しているはずです。生命力が弱まった土地の政治を取り仕切っている者はしばしば圧政者として語られる事はないか?とも思うんですよね。
実際にダンの最初の異界の友達ズングリは異界王を圧制者と捉えていましたが、彼らの住んでいる土地は痩せこけていました。逆にある程度豊かさが確保されている土地では、それほど異界王が圧政を布いているように見えない。これはこの作品を見た相当数の人が感じる事じゃないかと思います。

だからと言って異界王がグラン・ロロの人々を大切に扱っているワケでもないんですけどね。しかし、描写としてあった強制労働なんかはホライゾンラダーという謎のマザーコアを支える施設の建設のために割かれていたと思います。
このホライゾンラダー、最終局面でグラン・ロロと地球を繋ぐための施設だった事が明らかになり、そこから異界王軍の地球征服がはじまるのですが…。
あれ?そういえば異界王はマザーコアが弱まったのは地球が人間たちの争いによって汚されているからだとか言ってなかったっけ?

そして「地球を征服してやる!」とか大見栄切っていた異界王がやっていた事って、コア技術を持ち込んで砂漠を緑化させたり、汚染した土地を再生したりする事じゃなかったっけ?各国を支配するための交渉カードとして速やかにコア技術を輸出していたはず。
あれ?じゃあ、ズングリたちをこき使って建設していたホライゾンラダーは、グラン・ロロと地球を繋ぐためで、二つの世界を繋いだのはマザーコアが弱っている力を回復させるため、その直接の原因である地球を再生させるためのだったりする?無論、同時に両方の世界を支配する事は目論んでいたと思うけど…。

…少なくとも最終決戦までの異界王の行動はこれで通ると思います。その後、彼はコア技術の威光を引き上げてしまうので通らなくなります。そこから何故か“時間切れ”でも来たかのように、異界王は狂って。そしてダンと決戦を行い果たして塵に消えてしまいます。
異界王の思惑とは別の所で異界魔女・マギサが総て丸く収めてしまったので彼が本当に何を目指していたかは最早分かりません。

わざと悪を演じて負けた…みたいな『読み』は止めておきます。それを疑う情報は実はいくつかあって、まあこの形かなあ?とも思わないでもないんですけどね。『悪役』好きの僕の持つイメージとして、ちょっと異界王には似合わない。大航海時代を駆け抜けた彼は、もっと胸張った侵略者だったと思うんです。


バトルスピリッツ少年激覇ダン1 [DVD]
大浦冬華,櫻井孝宏,本多陽子,小野大輔
Happinet(SB)(D)


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (みやも)
2010-09-14 20:01:57
今週から始まった第二シーズンすごいですね。「異界王を追い出したら結果的に悪い未来をやってきたので、どうにかしないといけない」というミッションにバトルジャンキー化しつつある主人公が放り込まれるという。
マギサは異界王の世界結合がハードすぎたんで改めてソフトランディングさせるためにいったん保留しようと世界を引き離したんだけど、それがアダになったという皮肉。
返信する
Re:みやもさん (LD)
2010-09-14 23:47:35
こんにちは、みやもさん。

> バトルジャンキー化しつつある主人公

やっぱり、ダン、バトルジャンキーになっているように見えましたよねw
僕としては今回の記事の流れから、ダンは異界王にちゃんとした“答え”を返せなかった事(マギサに全部任せてしまった事)が遠因となって、あの正義感に満ちた少年が戦いに飢えた青年に変わってしまったのかも…などと考えたりしていました。

あと、地味に、魔ゐもかつてブログにいそしんでいた自分を「痛い子」と評したりしていて、自分的にボディーブロー…(汗)
なんか『ブレイブ』は以前の自分を切り捨ててしまっているようにも感じました。

ただ、シリーズ構成は同じ冨岡先生なんで、この違和感は前作から繋いでいるようにも思います。
マギサの再登場はあるか?ひょっとしたら異界王も?…というかレオンは普通に出てこれないか?と楽しみにしています。
返信する

コメントを投稿