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玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

死刑をパフォーマンスにする人たち

2010年07月29日 | 政治・外交
まったく呆れるばかりだ。
千葉法相の「駆け込み死刑執行」が馬鹿げているのはもちろんだが、それに対する「死刑存続派の」批判が輪をかけてひどい。


死刑執行、落選法相続投への批判かわす狙い? : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 千葉法相が28日、昨年9月の就任以来一度も行ってこなかった死刑執行に突然踏み切ったことについては、野党などから「30日に召集される臨時国会を控え、参院選で落選した千葉氏を続投させた菅首相への批判をかわす狙いがあるのではないか」との見方も出ている。


【視点】人の死に「政治的演出」 千葉法相の死刑執行命令 (1/2ページ) - MSN産経ニュース
 28日に就任後初めて死刑執行に踏み切った千葉景子法相は、死刑制度反対論者として知られてきた。27日にも「死刑は大変重い刑」と死刑に慎重姿勢を強調していたが、実は死刑執行の命令書に署名したのは24日のことだった。法相の職責をようやく果たしたともいえるが、国民をたばかる不意打ちだといわれても仕方ない。30日召集の臨時国会で野党側からの追及をかわす思惑も透けて見え、死刑囚の命をもてあそぶ政治パフォーマンスのにおいすら漂っている。


死刑制度存続に熱心な読売・産経の両紙は、今回の死刑執行が千葉法相と菅内閣の意思によるパフォーマンスだと見ているようだ。こじつけにもほどがあるというか勘繰りすぎというか。はっきり言ってバカらしい。
今回の死刑執行をパフォーマンスと呼ぶとしたら、法務省の官僚がシナリオを書いて千葉法相に振り付けしたに違いない。そう考えるといちばんわかりやすい。「千葉法相パフォーマンス説」を取る人たちは「なぜ今なのか」と首をひねってみせるけれど、それは千葉氏が自発的にパフォーマンスを行ったと決め込んだせいで意味不明になっているだけのことだ。

いまさら言うまでもないが、法務省は「世論の強い支持」を大義名分として死刑制度を維持していくつもりである。もちろん、千葉法相のように死刑執行をサボタージュする大臣は好ましいものではない。特に、千葉氏は去年の政権交代を受けて誕生した民主党内閣の初代法相だ。何事も初めが肝心、民主党政権をしっかりとしつける必要がある。千葉氏に任期中死刑執行せずという実績を作らせてはならない。「人権派政治家」の好き勝手、逃げ得は許さない。
千葉氏個人が死刑反対論なのはどうしようもないが、法務大臣の椅子に座る以上は法に則って粛々と死刑を執行していただく。法相が執行命令書に判を押してくれるよう粘り強く説得し、水も漏らさぬ包囲網を作るのが法務省高級官僚の務めだ。
(これは私が想像した「法務省官僚の考え方」であり、私自身の意見ではない。念のため)

一方の千葉法相はこのところ気が弱っている。
参院選で落選して政界引退の決意を固め、当然法相も辞任するつもりだったが菅総理に慰留された。慰留とはいっても、千葉氏の能力が必要だと評価されたからではない。菅総理にとっては内閣や民主党執行部から誰かが辞任し、それが呼び水となって「菅降ろし」が起きるのが怖いのである。千葉氏は菅氏と民主党現執行部の都合のためだけに「9月の代表戦までは続けて」と頼まれたわけで、ずいぶん情けない話だ。
ただでさえ落選で意気消沈しているのに加えて、菅総理や党のバックアップも期待できない。これまでは個人的信条を頑なに守って法務省官僚たちの説得をはねつけてきたけれど、もうそんな元気はない。脅し(「世論は死刑サボタージュに怒ってます」「国会で責任を追及されますよ」)やらすかし(「私たちを助けると思って判を押してください」「大臣は法務省を去ればそれきりですが、部下が責任を負わされます」)やら、硬軟取り混ぜた説得に心が揺れる。
「どうせ針のムシロなら、一年近く仕えてくれた法務省の人たちに恩返ししよう」「法相として初めて死刑執行に立ち会うのは意義があるのでは」といった考えも浮かび、これまで拒み続けてきた死刑執行命令書に判を押す気になる。あるいは、「もう突っ張らなくて済む」と千葉氏はほっとしたのかもしれない。

もちろん、政治的には愚かな話だ。
いきなり裏切られた死刑廃止論者は当然怒る。そして、これまで「死刑執行命令の義務を果たさないのは無責任」と千葉法相を批判してきた死刑存置派からも評価されない。せいぜい「おや、ご立派な信念はどうしたんですかね」と冷笑されるくらいだ。ぶれたところをここぞとばかり叩かれても不思議はないし、実際そうなっている。「臨時国会で野党側からの追及をかわす思惑」どころの話ではない。
今回の唐突な死刑執行は千葉法相が法務官僚の説得に押し切られた、あるいは抵抗をあきらめて自ら乗ったと見るのがいちばんわかりやすい。千葉法相でも菅内閣でも民主党でもなく、法務官僚による死刑制度存続を誇示するためのパフォーマンスだ。
参院選の前にいきなり菅総理が消費税引き上げを言い出したのと同じである。あれは財務省の官僚が菅総理を取り込んで「財務省は何がなんでも消費税引き上げを目指す」と宣言する示威行動だった。新聞や週刊誌にも「シナリオを書いたのは財務省」「菅総理は踊らされた」という説明が見られたものだが、なぜか読売と産経は今回の死刑執行に落ちる法務官僚の影から目をそむけているようだ。


クローズアップ2010:千葉法相、死刑執行命令 信念崩し「論議」 - 毎日jp(毎日新聞)

 民主党政権で初めてとなる死刑執行が28日、前回の執行からちょうど1年を経て行われた。死刑廃止派の立場から存廃議論に踏み込もうとした千葉景子法相が執行命令にかじを切った背景には「執行せぬままの議論はあり得ない」とする法務省の強い姿勢があった。
(中略)
 死刑廃止を推進する議員連盟のメンバーだった千葉法相だが、刑事訴訟法は「死刑の執行は法相の命令による」と定める。就任後は信念と職責のはざまで揺らぐ一方、会見で姿勢を問われるたび「国民的議論を起こしたい」と刑罰論議喚起に意欲をのぞかせた。

 しかし、省内には「執行をしないままで議論を始めれば『まず廃止ありき』とも取られかねない」との慎重論が大勢。裁判員制度で市民が死刑を選択する可能性もある中、千葉法相も徐々に死刑を受け入れたとみられる。

執行後の会見では省内の勉強会設置も発表し、法務省が消極的だった刑場の公開にも踏み込んだ。勉強会は千葉法相在任中の来月にも始動する。絞首刑が適切かどうかや、執行当日になって本人に告知する方法を改めることの是非、外部との接触が極端に限られる処遇のあり方などを議論する見通しだ。議論は開かれた場で行うとし、情報公開に向けても一歩踏み出した。

 任期終盤とも言えるこの時期、信念を崩しての執行命令と引き換えに「公約」だった刑罰論議をようやく呼び起こしたとも言える。


どうやら今回の死刑執行は「法務省内に死刑制度についての勉強会を設けること」とのバーターだったらしい。千葉法相にとって死刑執行は政治的な国会や国民に向けたパフォーマンスではなく、役人にお願いを聞いてもらうための人身御供。いやはやなんとも、「政治主導」を謳う民主党政権にしては情けない限りである。
読売や産経の「千葉法相による政治的パフォーマンス論」は、千葉氏を強く批判するように見えて実は庇っている。すでに操り人形あるいはゾンビ化している千葉氏を、自らの意志でパフォーマンスを打つ気力のある政治家のように見せかけている。とっくに目が濁り生臭くなった魚を「取れたて、生き作り」と称して売りつけるようなものだ。詐欺じみていて見るに耐えない。


<追記>
読売も「駆け込み死刑執行」は官僚主導だったことを書いた。遅ればせにしても書かないよりはマシだ。産経はいつまで見て見ぬふりを続けるつもりだろうか。

落選後になぜ?廃止論者の死刑執行 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 千葉法相は就任直後から、「死刑に関する議論を巻き起こさないといけない」と繰り返し、刑場を国民に向けて公開する必要性も説いていた。ただ省内には、執行を先送りしたまま公開だけを進めれば、死刑廃止に向けて歩を進めていると受け取られる恐れがあるという懸念もあった。「執行とセットでの情報公開」が、双方のぎりぎりの妥協点だった。




参考記事
 もはやこの国に死刑を執行する資格などありはしないだろう - Consideration of the history

白票と砂糖玉

2010年07月14日 | 政治・外交
ホメオパシーで使われるレメディ(砂糖玉)と選挙で投じられる白票は似ている。
どちらも白い(見たままかよ!)。
科学(医学)と社会の基本原理から外れていて効果が期待できない。
そして信じるものには自己満足を与える。


「ビタミンK与えず乳児死亡」母親が助産師提訴 : 週間ニュース : 九州発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 生後2か月の女児が死亡したのは、出生後の投与が常識になっているビタミンKを与えなかったためビタミンK欠乏性出血症になったことが原因として、母親(33)が山口市の助産師(43)を相手取り、損害賠償請求訴訟を山口地裁に起こしていることがわかった。

 助産師は、ビタミンKの代わりに「自然治癒力を促す」という錠剤を与えていた。錠剤は、助産師が所属する自然療法普及の団体が推奨するものだった。

幻影随想: ホメオパシー助産師のビタミンK2の問題が裁判になった
ホメオパシーとビタミンKと刑事罰 - fuka_fukaの日記

Twitter / きっこ: 「白票を投じる」ということは無駄な行為ではありません ...
「白票を投じる」ということは無駄な行為ではありません。棄権する人が多くて全体の投票率を下がれば宗教団体などの大きな支持団体を持つ候補者が当選する確率が高くなってしまいます。これを阻止するのが白票なのです。

はてなブックマーク - Twitter / きっこ: 「白票を投じる」ということは無駄な行為ではありません ...
白票は 棄権するより なお悪い みたいな。 « おれせん?

ホメオパシーに具体的な医療効果がないのはあたりまえのことで改めて言うまでもない。
しかし、残念ながら現代医学よりもホメオパシーを信じた助産師の愚かな行為によって乳児が死亡する悲劇が起きてしまった。実に実に腹立たしい。法律的なことはよく知らないが、件の助産師には刑事罰を含めた厳しい報いが与えられることを望む。そして、厚生労働省と各自治体には医療関係者がホメオパシー等のニセ科学・オカルト「代替治療」にのめりこまないようしっかりと指導してほしい。

アルファブロガーであるきっこ氏が推奨する白票も、効果のなさではホメオパシーで使われる砂糖玉(レメディ)と同じようなものだ。
レメディの有効成分はゼロである。100分の一希釈を30回も繰り返せば元の物質は一分子も残らない。
白票にも候補者・政党名という「有効成分」は含まれない。無効票扱いとなり選挙結果に与える影響はゼロだ。

しかしながら、どちらにも「効果がある」と主張する人たちがいる。
「効果があると思う人にとっては効果があるんでしょうね(自己暗示として)」とは言えるけれど、人体の生理的に(ホメオパシー)あるいは選挙制度的に(白票)は何も根拠がない。思い込みだけだ。白票の意味は「政治への抗議」だとか「立候補者すべてに対する不満」といった説がある。政治への不満を示すのは悪いことではないけれど、白票で不満を示された政治家のほうも対応に困るだろう。
たとえばレストランに行って、サービスに不満を感じたとする。店員に文句を言うのも面倒だが、レジの横にアンケート用紙が置いてあるから何か書いてやろうと思う。単に「気に入らない」とか「ひどい店だ、もう来ない」とだけ書いて回収箱に突っ込んだら何の意味があるだろう。客は悪態をついてストレス解消になるかもしれないが、店側は「気に入らない」とだけ書かれたアンケートを見てもどこが問題なのかわからず、具体的なサービス改善につなげようがない。まして白紙だったら不気味なだけだ。

「政治家は白票に込められた思いを汲み取ってくれ」と言う人もいるだろうが、私には思い上がりか甘えているように見える。
政治家はエスパーではないし、気まぐれでわがままなご主人様の気分をうかがう召使でもない。さらに言えば、白票という無言の脅しのような無効票に気を遣っておたおたするような政治家は頼りない。私は白票の意志とやらに媚びる政治家よりも「白票は単なる無効票です、自己満足にしかなりません。私は自分に一票を投じてくれた有権者のために働きます」と言える政治家のほうがよほど肝が据わっていて信用できると思う。

仮に白票に意味があるとしたら、議会制民主主義を否定する思想の表現としてだろう。独裁志向あるいはその反対のアナーキズム。
たとえば阿久根市で独裁的な市長を支持する人たちが「市長の足を引っ張るだけの」市議会に不満を持っているとする。市議会議員選挙が行われるときに「市議会の存在自体にノーを突きつける白票を投じよう」という運動が起きるかもしれない。
逆に、「国家とか政府とかいらないよ」というアナーキストが白票を投じるのもラジカルな思想の表現として理解できる。アナーキズムのシンボルは黒旗なので白票ではなく黒く塗りつぶした「黒票」を入れるほうがもっとインパクトがあるだろう。
首長選で白票を入れる目的は「どの候補者も気に入らない」以外になさそうだが、結局は誰かが当選するわけであり、無効票(白票)を投じるのは棄権と同じく「誰が当選してもかまわない、有効票を入れる有権者の選択に任せます」という意味にしかならない。無駄なことである。

なんだかんだ書いてきたけれど、私はひとりひとりの有権者が自分の意思で白票を投じるのは勝手にすればいいと思っている。
投票用紙に「坂本龍馬」と書くのと同じくらい馬鹿げていると思うが、やりたい人は好きにすればいい。だけれど、「白票には積極的な意味がある」として正当化したり広めようとする言説は気に入らない。ホメオパシーの砂糖玉も白票も自己満足にしかならず、人間の健康を、政治のあり方をよくする力はないし、時には有害でさえある。

鳩山辞任

2010年06月02日 | 政治・外交
鳩山総理辞任。
惜しむ気持は全然ないけれど、とりあえず「お疲れ様でした、後はゆっくり休んでください」と申し上げる。
まあ、「ルーピーさんは引っ込んでろ」という意味なんですが。

個人的にはどんなに鳩山おろしが吹き荒れてもやめない確率が6割と思っていたので、微妙に予想が外れてしまった。昨夜のあのサムアップはなんだったのかとちょっぴりムカつく。ずいぶん面白いことになりそうだと思ってワクワクしたのになあ。暴走するエヴァンゲリオンのごとくブラックルーピーが民主党をメチャクチャにするのを期待したのに。もちろん民主党だけでなく日本の政治や日本という国そのものまでメチャクチャにされたらたまらないから、「無事に」お辞めいただいたことは適切な判断と言える。
とはいえ、参院選直前のこの時期に総理を辞めさせるのはいかにも選挙目当てのようで(実際そうなのだが)みっともない。小沢幹事長を道連れにするのは結構なことだが、半年遅い。鳩山氏と小沢氏のみならず、これまで小鳩体制に文句ひとつ言えなかった民主党議員も恥を知るべきだ。

次の総理が誰になるにせよ、かつて野党時代に民主党が主張した「総理を自民党の都合でコロコロ変えるのは許されない、国民の信を問え」という批判のブーメランからは逃れられない。鳩山総理がヤケを起こして敢然とダブル選挙に打って出ればいちばんスッキリしたのに、惜しいことである。

迷い道ふらふら

2010年06月01日 | 政治・外交
世論ははっきりしているけれど、やっぱりよくわからない。
鳩山総理が国民から決定的に見放されたのは、普天間基地移設問題で迷走し無能さと誠意のなさ、ルーピーぶりが明らかになったことが大きい。マスコミ各社の世論調査も基地移設問題について詳しく質問している。
国民が怒りかつ呆れていることは間違いないのだけれど、かといって基地移設問題自体についてどういう考えを持っているのか、いまひとつわからない。

内閣支持19%、首相「退陣を」59%…読売調査 : 世論調査 : 特集 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 普天間問題に関しては、移設先を「最低でも沖縄県外」などとした首相の一連の言動を「問題だ」と思う人は81%を占めた。首相の資質に疑問を感じる人は多く、民主支持層でも「問題だ」は62%に上った。

 移設先を明記し、訓練の県外移転を拡充し、鹿児島県・徳之島の活用を検討するなどとした日米合意については「評価する」30%、「評価しない」58%だった。沖縄県の基地負担に関しては「軽減につながる」は19%にとどまり、「そうは思わない」が69%だった。

 首相が社民党党首の福島消費者相を罷免したことについては「当然だ」56%が「必要はなかった」35%を上回った。社民党の連立政権離脱には66%が「当然だ」と答えた。

asahi.com(朝日新聞社):世論調査―質問と回答〈5月29、30日〉 - 世論調査
毎日世論調査:福島社民党首罷免「適切」56% - 毎日jp(毎日新聞)
【世論調査】主な質問と回答 (3/5ページ) - MSN産経ニュース


いったい世論は普天間基地移設問題についてどう考えているのだろうか。
「左」側からの批判は、「5月中の決着にこだわる必要はない、あくまでも国外・県外への移設を目指して粘り強く交渉すべきだ」というものだ。だが、まさにそういう主張をした福島消費者相が罷免されたことを世論は当然視している(「当然だ」56%「必要はなかった」35%)。どうやら世論の大勢は「左」側の批判に乗っているわけではないらしい。
「右」側から鳩山総理が批判されているのは、「以前は海兵隊の抑止力について知らなかった、学べば学ぶほど知るようになった」という発言に見られるような安全保障(日米安保)問題に対する見識のなさだ。「海外・県外移設という空手形を切って日米の信頼に傷をつけ日本を危うくした」ことを何よりも問題視している。しかし、世論が「右」からの批判に同調しているのであれば「現行案回帰、5月中の政府方針・日米共同宣言発表」をもう少し評価しそうなものである(「評価する」30%、「評価しない」58%)。「右」の考えが広く受け入れられているわけでもないようだ。

私の見るところでは、国民の大多数(現行案を評価せず、福島党首罷免を当然視する人たち)は安全保障問題についても沖縄問題についてもはっきりした考えを持っていないのである。前の記事に書いたように、どちらの問題も他人事のように思っていて、自分たちが方向性を定めて必要なコストを負担する覚悟を持っていない。
鳩山総理の体たらくに大いに不満は抱いているが、その不満をどうすれば政治的に解決できるのか、具体案はもちろんミギヒダリの方向性も何もない。地図が読めないナビゲーターが道に迷った運転手に怒っているようなものだ。これではルーピーな運転手がますます混乱するのもあたりまえである。




かといって、私は別に愚民論を叫んで鳩山総理を擁護したいわけではない。もとはといえば、基地移転実現に向けて自民党政権が選んだ「渋滞気味の国道」から飛び出したのがはじまりである。友達(側近)からもらった手書きの地図(腹案)を信じて、同乗者には「抜け道のほうが空いていて景色もいいよ」と説明したまではよかった(いや、ちっとも良くはないけど)。ところが、トラストミーと鼻歌混じりに突き進んだ「できれば海外、最低でも県外」の道は曲がりくねってどんどん細くなり、とても目的地にはたどり着けそうにない。むしろ逆方向に進んでいるようだ。ようやく間違いに気付いたルーピー運転手が「ごめん、迷ったから元の道に戻ろうか」と言ったとたん、「えーっ!?何やってんの、バカじゃないの、あんた本当に免許持ってるの」とブーイングの嵐。ほとんどコントである。

この車はいったいどこに行くのだろう。
もしも「運転手」が替わるとしたら、新総理には自分でちゃんとした地図を見てまともな道を進んでほしいと願うばかりだ。いい加減な地図を鵜呑みにするとか、あるいは地図が読めないナビゲーターのいいなりになってあてずっぽうの運転をされたら、それこそ泥沼にはまり込んだり崖から転落しかねない。くわばらくわばら。

鳩山政権失速と「次の神輿」

2010年05月30日 | 政治・外交
鳩山内閣の支持率がまた下がったらしい。

「首相辞任を」過半数 世論調査、内閣支持率19% - 47NEWS(よんななニュース)
 共同通信社が29、30両日実施した全国電話世論調査で、米軍普天間飛行場移設問題の5月末決着を果たせなかった鳩山由紀夫首相の政治責任に関して「辞めるべきだ」が過半数の51・2%に上った。内閣支持率は20%台を割る19・1%まで続落。政党支持率や参院選比例代表投票先ともに自民党が民主党を上回り、党勢は逆転した。普天間対応では「評価しない」が66・1%、「評価する」が25・4%だった。

 首相は28日に普天間移設の政府方針決定後の記者会見で続投意欲を強調したが、政権運営は厳しさを増した。夏の参院選に向けて民主党内で「鳩山おろし」が一気に広がる可能性も否めない。

 政党支持率は自民党21・9%で民主党20・5%を上回った。比例投票先でも自民党20・9%、民主党19・9%だった。首相進退に関し続投支持は44・4%にとどまった。

 社民党の連立対応について「離脱すべきだ」が67・3%、「連立を維持すべきだ」が21・6%。福島瑞穂党首の閣僚罷免では「当然だ」の51・4%に対して「罷免すべきでなかった」は40・8%だった。


当たり前だ、と思う人が多いだろうけれど、私自身はちょっと意外だった。
なんとなく5%か10%くらい支持が戻るんじゃないかと思っていた。別にそれを期待していたわけじゃないけれど。

28日の「普天間移設の政府方針決定」は右からも左からもたいへん評判が悪い。新聞の社説を見ても、産経の「国益を損なう「愚かな首相」は、一刻も早く退陣すべきである」から朝日の「首相の政治責任は限りなく重い」「いばらの道を、首相は歩み続けるしかない」まで濃淡はあるが批判一色である。
鳩山総理のあまりにもloopyな政治手法がアメリカ・沖縄県民そして日本国民(50音順)すべてを呆れさせ、政権への信頼は地に落ちた。特に安全保障(日米安保)にこだわる「右」の人たちと「沖縄県民の怒りと悲しみ」に共感する「左」の人たちが激怒するのは当然だ。

だが、気合の入った「右」や「左」の人たちは少数派にすぎない。たぶんどちらも有権者の一割くらいだろう。合わせて二割を激怒させても、残りの八割が「政府方針決定」を受け入れれば支持率は回復する。鳩山総理はそう考えただろうし、私もそうなる可能性が高いと思っていた(別に鳩山さんの読みが優れてるとは言わないけれど)。
気合の入った「右」「左」以外の人たち、普通の有権者にとっては安全保障問題も沖縄の痛みも基本的には他人事である。自分が心配することじゃない、誰かが(政府が・役人が・物好きな人たちが)なんとかしてくれるだろう、くらいに思っている。鳩山総理の迷走ぶりはさすがに危なっかしくて見ていられなかったが、「勉強した」成果として元の案に戻るならとりあえずいいじゃないか、いつまでもフラフラしたりグズグズ引き伸ばすよりはよほどマシだ、それよりも「仕分け」や「子ども手当て」支給をしっかりやれ…
そういう風に考える国民がたぶん6割くらいいて、彼らが「鳩山さんもようやく正気を取り戻したか」と思ってくれたら支持率は回復するはずだった。

ところが、福島瑞穂消費者・少子化担当相を罷免し、連立政権の一角が崩れる危険を冒してまとめた政府方針・日米共同声明も人気回復にはつながらなかった。鳩山総理と政府・民主党幹部はさぞがっかりしているだろう。
どうやら鳩山総理はこれまでの三代の総理(安倍・福田・麻生)の政権末期と同様に、なにをやっても嫌われる死のスパイラルに入ったらしい。鳩山氏自身は続投する意欲充分のようだが、これでは参院選を戦えないという悲鳴が民主党内から沸きあがり、いよいよ本格的な「鳩山降ろし」が始まりそうだ。

参院選前に党首を(総理を)取り替えるとして、後継は一体誰になるのか。
渡部恒三氏は「菅直人副総理兼財務相、前原誠司国土交通相、岡田克也外相のうちの1人なのは間違いない」と言っているけれど、どれも昔の顔で新鮮味がない(彼らの政治家としての実力、総理が務まるかどうかはとりあえず考えないことにする)。
鳩山総理を引きずりおろして次の神輿を担ぐ、となったらやはり小沢幹事長がすべてを仕切ることになる。かつて海部政権のとき「神輿は軽くてパーがいい」と言ったと伝えられる小沢氏の眼鏡にかなうのは誰だろう。前原氏はことあるごとに反小沢的なポーズを見せるから論外、岡田氏は頑固だから小沢氏の振り付けに従わないかもしれない、菅氏は「パー」的な意味で適役(失礼)だけど逆風に立ち向かう選挙の顔として通用するかどうか。

そこで気になるのが細野豪志副幹事長だ。私自身は見ていないけれど、最近頻繁にテレビに出てサンドバッグ役を務めたり、鳩山批判めいたことを言ってカッコいいところを見せているらしい。
細野氏といえば、かつて女子アナと浮名を流したこともあるマスコミ公認のイケメン政治家である。自民党のホープ、小泉進次郎議員とルックスを競わせてもひけを取らない。そしてなんといっても「小沢の腰ぎんちゃく」と呼ばれるくらい小沢氏との関係が良好だ。見映えがよく、軽くて、パーかどうかは知らないが、小沢氏が神輿として担ぐにはまさに絶好の人材といえる。
仮に「ルーピー」鳩山総理の後任が「モナ夫」細野総理ということになれば、日本の政治の浮つき加減は史上類を見ないほどになるだろう。まさかそんなことにはならないよね、悪い冗談にもほどがあるよねアハハ、ということにしてとりあえずこの稿を終わらせることにする。

(でも… ……まさか?)

総理の資質(麻生スピーチと鳩山の嘘)

2010年05月23日 | 政治・外交
思えば去年の今ごろはマスコミも国民も寄ってたかって麻生総理を馬鹿にしていたものだ。
いわくバー通い、いわく漢字が読めない、あるいはホッケの煮付けだの、総理自身が定額給付金を受け取るかどうかはっきりしろだの。
支持率は20%を割り込むほど下がり、総選挙で「歴史的な政権交代」を成し遂げたのまではけっこうだが、日本の明日を託した鳩山総理(民主党政権)はびっくりするほどルーピーさん。それが国民の選択だから受け入れるしかないけれど、どうにも理不尽に思えて仕方がない。

麻生太郎オフィシャルサイト きょうたろう 2010年5月20日
「例会挨拶10・05・20」
【要旨】
● きょうの新聞に「ハトる」という言葉が書いてあったのが目にとまったが、早い話が「できないことを約束をすること」、こういうことになるんだと思いながら見た

● たとえば普天間基地移設の話。月内に共同声明を出すとか、日本とアメリカの間で最終調整するとか、いろいろなことが言われているが、その中に辺野古への移設を明記すると書いてあるものもある。それは、過去約13年にわたって自由民主党が、地元や米軍との間で作り上げた話に戻るということだ

● 民主党はその13年間の話を、去年の9月突如「NO」と言った。なぜ「NO」なのかという説明は一切ない。とにかく「県外移設、できれば国外移設」と言っていたものが元に戻るわけだが、それならこの1年間はなんだったのか

● この1年間、沖縄や移設に関係するの人たちの気持ちはもてあそばれた。これは全くふざけた話で、そう感じている人は多いと思う。この1年間、混迷を極め、首相本人が抑止力の意味が理解できていなかったとか、そんな話で日本の対外的な信用を落とし、日米関係がぎくしゃくし始め、数え上げれば切りがないほどの問題が生じ、大変国益を損なった

● そういった意味では「ハトった」結果、このようなことになったんだろうが、こういった点は追及されてしかるべきだ。一切責任取らないのも「ハトる」ことなのかもしれないが、私はそういった点が一番問題だと思う

● また、口蹄疫の話だが、10年前に発生した時は、江藤隆美先生や山中貞則先生のご指導もあり、我が党の担当者が遅滞なく対処した。お二人の先生方は亡くなられているが、ご記憶の方も多いと思う。この時と比べてみたら、初動が遅かったことは明白ではないか

● 農相が海外に行っていたとか、いろんな話があるが、ことの重要性を「役人から聞いていなかったから」と言うのは、それは役人を信用していないからそうなるのだ。政治主導と言うが、こういう対応ができない政治主導は問題だ。農相の発言を聞いていると、何か勘違いしておられるのかなという感じがする

● 我が党としては議員立法の提出も検討している。感染していない牛や豚を殺処分することは、私有財産を侵すことことにもなるので補償も必要だろうし、また処分した家畜を埋設する場所の問題もある。いずれにしても、我々としては、政府に対応を急がせなければならないのはもちろんだが、責任についてもきっちり追求していくべきだと思う

● 通常国会の会期があと1カ月ということで、与党は強行強行で話を進めているが、明らかに異常な状態が続いてることは確かだ。我々は、この異常な事態になっていることをはっきり主張し、どこが問題なのかという点をさらに詰めていく必要もある

為公会例会でのあいさつを書き起こしたもの。
公の演説ではなく身内向けのスピーチなのに、論旨が明快でよくまとまっている。まるで何度も推敲したコラムのようだ。
「原稿を読んでいるんじゃないか」と思う人がいるかもしれないが、youtubeに動画が上がっている。




原稿もプロンプターも見ていない。私ごときが言うのもなんだが、さすがに立派なものである。



一方の鳩山総理。

普天間移設は「最低でも県外へ」/鳩山代表訴え | 全国ニュース | 四国新聞社
 民主党の鳩山由紀夫代表は19日、沖縄県沖縄市の集会で、衆院選で政権を獲得した場合の米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)移設に関し「『最低でも県外』の方向で積極的に行動したい」と述べた。移設候補地であるキャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市)の新基地建設については「沖縄の過剰な基地負担をこのまま維持するのは、納得がいかない」と指摘した。

asahi.com(朝日新聞社):「最低でも県外、自分の発言」 鳩山首相、党公約を否定 - 政治
 鳩山由紀夫首相は6日午前、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先を県外とする方針の転換を沖縄県側に説明したことについて、「『最低でも県外』と言ったのは自分自身の発言。自分の言葉を実現したいと思い、政権の中で努力してきた」と釈明した。その上で、県外移設は民主党の昨年の衆院選マニフェストに盛り込んでいないことを挙げ、党の正式な公約ではないとの認識を示した。首相公邸前で記者団の質問に答えた。

「辺野古は断固反対」名護市長、首相と会談 : 基地移設 : 特集 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 鳩山首相は23日昼、名護市内で稲嶺進・同市長ら沖縄北部市町村長と会談した。

 稲嶺市長は、首相が米軍普天間飛行場を名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブに移設する方針を正式表明したことについて、「『ようこそ』という気持ちにはとてもなれない。これまでの思いを裏切ることで怒りを覚える。断固反対する」と述べ、受け入れを拒否する考えを表明した。

 これに対し、首相は「私もかつては『辺野古の海を汚してはいけない』という思いで頑張ってきた。『できれば最低でも県外』といったのは事実だ。みなさんの気持ちにそえない結果になっていることをお詫びしたい」と陳謝した。


嘘に嘘を重ねる「ルーピー」鳩山総理。浮ついた言葉が無残とも情けないとも言いようがない。
去年の七月に沖縄の集会で「最低でも県外」と安請け合いしておきながら、迷走したあげく都合が悪くなると「できれば」の話にすりかえる。これがスタンフォードで学んだオペレーションズ・リサーチの成果なんでしょうか。ここまで不実だと沖縄県民が怒るのも当然だ。

沖縄タイムス | 県内反発 不信も増幅 鳩山首相きょう再来県知事、「困難視」変えず
首相、県民歓迎と認識か

 鳩山由紀夫首相は4日の初来県後、周囲に「自分はそんなに反対されたとは思わない」との感触を漏らしている。周辺によると「首相はむしろ歓迎されたと思っている」という。

 4日は県庁前広場をはじめ、首相が立ち寄る各地で抗議行動が起きていた。しかし首相は「どこでも、同じ人が集まっている印象がある」と感じ、「車で走っているときは(沿道で)みんな手を振ってくれている。ほかの県を訪ねたときと比べてそれほど嫌われているとは思えない」と話しているという。

 このエピソードを聞いた与党議員は「宇宙人にもほどがある。本当に石を投げないと分からないのか」と吐き捨てるように話した。
いくらなんでも、いやまさかそんな。
とても信じられないような話だけれど、鳩山総理のこれまでのルーピーぶりを思い出すと、「ありそうなことだ」と思ってしまうのが情けない。

参考
 鳩山由紀夫首相の嘘: 極東ブログ

恥知らずな鳩

2010年05月05日 | 政治・外交
鳩山総理の沖縄訪問の体たらくを見て本当にあきれ果てた。

これまでは基地問題の複雑さと沖縄県民の心情を慮ってなるべく批判を避けてきた。
「できれば海外、最低でも県外」の安請け合いに大いに不安を覚えたけれど、ジョークの形で疑問を示すだけにとどめた。「腹案」とやらにまったく期待できなかったけれど、最初からダメだの無理だの決め付けたくなかったので総理が本音を明らかにするのを待っていた。だが、もはやどうしようもない。

【首相訪沖】首相「海兵隊が抑止力と思わなかった」 - MSN産経ニュース
 鳩山由紀夫首相は4日、米軍普天間飛行場の移設問題に関し「昨年の衆院選当時は、海兵隊が抑止力として沖縄に存在しなければならないとは思っていなかった。学べば学ぶほど(海兵隊の各部隊が)連携し抑止力を維持していることが分かった」と記者団に述べた。

「最低でも県外」党の考えではない…首相 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場移設問題で、同県を訪問中の鳩山首相は4日午後、移設先について「最低でも県外」と発言したことについて、「公約というのは選挙時の党の考えということになる。私自身の代表としての発言だ」と述べ、党の公約ではないとの考えを示した。

首相、沖縄負担軽減で米の理解度疑問視?発言 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 鳩山首相は沖縄県宜野湾市で開いた4日の住民との対話集会で、沖縄の基地負担の軽減について、「オバマ大統領として、あるいは米国がどこまで理解しているか、まだ判断がつかない」と発言した。

あごが外れそうになった。まったくバカじゃなかろうか。いや、バカにもほどがある。
鳩山総理は無知にして無恥、無能で無責任きわまる夢想家だ。
いやしくも内閣総理大臣を侮辱的なあだ名で呼ぶのは下品なことだと思っていたけれど、鳩山氏自らloopyぶりを余すところなく見せ付けるようではそれも空しい。私はもはや鳩山総理をルーピー呼ばわりするのを躊躇しない。


参考
普天間、善意による混迷 - リアリズムと防衛を学ぶ
鳩山さんが首相であり続けることが国家安全保障上の問題: 極東ブログ
鳩山総理の沖縄訪問でハッキリしたこと|小泉進次郎オフィシャルブログ

いまこそ思い出す「ガソリン値下げ隊」

2010年04月14日 | 政治・外交
民主党って馬鹿じゃなかろうか、と思ったけれど、間違いを認めて正すのは良いことなのであえて言うまい(書いてるけど)。

民主党:参院幹事長「暫定税率を維持」…環境と整合性なく - 毎日jp(毎日新聞)
 民主党が昨年の衆院選マニフェスト(政権公約)に盛り込んだガソリン税などの暫定税率の撤廃について高嶋良充参院幹事長が参院選マニフェストに関する毎日新聞のインタビューに応じ、「野党時代に作った公約は、基本的に環境の観点から言えば整合性が取れていなかった」と述べ、11年度以降も税率を維持する考えを示した。


自民党政権だった二年前、当時の町村官房長官は「ガソリンの値段を下げればそれだけで日本の環境問題はそんな程度の取り組みなんだということになる。そのマイナス効果は計り知れないものがある」と批判し、高村外相も「日本が北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)を主催しようとしているとき、『ガソリン税を下げました、もっとガソリンを使いましょう』という態度でリーダーシップが取れるのか」と疑問を示している。
まったく正論だが、なぜか当時はやたらに批判された。

痛いニュース(ノ∀`):「“ガソリン税を下げてガソリンもっと使いましょう”という態度で環境問題に取り組めるのか」…高村正彦外相&町村官房長官
はてなブックマーク - 痛いニュース(ノ∀`):「ガソリン税を下げてガソリンもっと使いましょうという態度で環境問題に取り組めるのか」…町村官房長官&高村正彦外相が強調

彼らが今どう思っているか知りたいものだ。
私自身、「ガソリン値下げ隊」のバカ騒ぎには大いに疑問を感じて批判記事を書いている。「だから言ったのに」とつぶやいても罰は当たらないだろう。


「皇室デマ」と「皇室関連デマ」

2010年04月14日 | 政治・外交
昔からそうだと思うが、九重のうちにおわしますやんごとなきかたがたをめぐる怪しきお話、つまり皇室についてのデマに興味をもつ人は少なくない。
いわく、明治天皇はすりかえられた別人である。いわく、秋篠宮の実の母は別にいる。「皇室デマ」の多くは扇情的でおどろおどろしいが、それこそ荒唐無稽な話であり、まともな人が信じこむことはない。

そのものずばりの皇室デマは畏れ多いという気持もあって表で公言されることは少ないけれど、それとは別に「皇室関連デマ」というのもあって、こちらは畏れがブレーキとして働くことがないぶん広がりやすくて厄介である。
「皇室関連デマ」というのは、主に政治家が皇室に対して無礼なことを言った・やった・考えている、というデマである。皇室に仇なす逆賊、朝敵認定、みたいなものだ。今はともかく、明治憲法体制の頃にデマのため「朝敵」と認定された人はさぞひどい目にあったことだろうと想像できる。21世紀の今になっても「皇室関連デマ」はなくならない。このブログで以前にも取り上げたことがある。

「岡田質疑応答メモ」デマの下らなさ
踊る大捏造戦

標的にされたのは岡田外相だ。「天皇陛下の国会開会式でのお言葉は見直すべき」という発言(これは事実)が一部の右翼・保守派のあいだで「不敬」と受け取られ(私はそうは思わないが)、気の毒に岡田外相はデマの餌食にされた。デマを作ったのは誰でどういうつもりだったのか知らないが、喜んで、あるいは怒りに目がくらんでデマを広めた人たちは岡田外相のみならず皇室にも迷惑をかけている。右翼がみだりに不敬だの売国だのと騒ぎたてること自体がわずらわしいのに、デマとなればなおさらのことだ。


小泉元総理も「皇室関連デマ」の標的にされている。

きまぐれな日々 志の低い野合新党「たちあがれ日本」に議席を与えるな
新自由主義者と新保守主義者を分裂させたのは、2005年の「郵政総選挙」における小泉純一郎だった。新自由主義に特化してこの選挙に勝った小泉は、翌年には「皇室は最後の抵抗勢力だ」と発言して、「郵政総選挙」で小泉に自民党から追い出された平沼赳夫の激しい怒りを買ったといわれている。

この話自体は前から知っていたけれど、それこそ怪しい話であり、まともな人はデマとして相手にしないと思っていた。ところが、kojitakenさんのように(私と考え方は違うけれど)議論に対して誠実なブロガーまでが真に受けているのを知ると捨てては置けない。
いや、「kojitakenさんがデマを真に受けた」と書くのはもしかしたら言い過ぎかもしれない。文脈をたどれば、小泉不敬発言(デマ)を真に受けたのは平沼氏で、平沼氏が激しく怒ったという話も「~といわれている」と真偽をぼかして書いてあるから「kojitaken氏自身はデマを信じていない」と読むこともできる。とはいえ、全体的には肯定的で「小泉不敬発言」がデマだと明記していないから、「子ども手当て590人申請」デマを受け売りした人たちとやっていることに変わりはない。

「小泉不敬発言」はデマだと断じてきたけれど、実を言えば「これはデマである」と確認できるはっきりした証拠は持ち合わせていない。あくまでも私の考えだ。だが、「岡田外相不敬発言」や「子ども手当て590人申請」と同じく、常識的に考えればとてもありえない話なので確証がなければデマと決め付けてさしつかえない。立証責任は「デマではない」と主張する側にある。

少し調べてみたところ(といってもgoogleで検索しただけだが)、このデマの火元は旧皇族出身の竹田恒泰氏のようだ。

皇室典範議論の行方4~皇室は最後の抵抗勢力!? - 竹田恒泰日記 - Yahoo!ブログ
いった小泉総理は、皇室に対するどのような思想に基づいて女系天皇を成立させようとしたのでしょうか。
 その答えは、私が懇意にしている自民党のある国会議員から知らされた情報に見出すことができます。
 秋篠宮妃御懐妊が発表される直前の、皇室典範改定問題が最も激しく議論されていた最中の平成18年1月、小泉総理が自民党幹部と会合を持った際に、総理は

「今国会で皇室典範改正案を必ず上程する。典範改正は構造改革の一環だ」

と述べたあと、少し声を潜めて、静かに、しかし力強く

「皇室は最後の抵抗勢力」

と言ったというのです。
 さらに、その場にいた自民党幹部の一人が

「では、皇室典範改正法案が国会で否決されたらまた解散ですか?」

と聞くと、総理はかすかににやけた表情を見せ、大きく片手を挙げ、何も答えずに退席したため、その場に居合わせた自民党の国会議員たちは、「皇室典範改正」を覚悟したといいます。
 小泉総理は平成17年に郵政民営化の是非を問う「郵政解散」を断行し、圧倒的な勝利を収めたばかりでした。
 もし秋篠宮妃御懐妊がなく、国会で皇室典範改定法案が否決されたなら、日本の憲政史上前例のない、女系天皇の是非を問う「皇室解散」が現実のものになっていた可能性があったことになります。

なんというか、その、えーと。
率直に感想を言えば「ゲンダイかよ」みたいな、あからさまに怪しい「お話」である。竹田氏が嘘をついているとは言わないが、又聞きを鵜呑みにして触れ回るのはうかつとしか思えない。竹田氏がどれほど「懇意にしている自民党のある国会議員」を信じていたとしても、読者にとっては正体不明のミスターXにすぎない。周知のように小泉元総理は平沼氏を初めとする「真性保守」の政治家からは憎まれている。竹田氏と懇意にしているのはおそらく皇統護持(男系維持)を望む「真正保守」の政治家だろう。ミスターX氏が小泉憎さのあまり話を作ったり歪曲した可能性は高い。

話の構造としては「岡田外相不敬発言」(デマ)と変わらない。「天皇は植木職人になるべき」と「皇室は最後の抵抗勢力」はショッキングさとありえなさで同レベルだ。こんな話を真に受けるほうがどうかしている。
どちらの話も「完全な密室での内輪話」ではなく「記者懇談会」「党の会議」での発言とされている。気心の知れた少人数の同志ならともかく、記者やら政敵のいる場で皇室をことさらに敵視するような発言をする保守政治家がいたらよほどの馬鹿か頭がおかしい。岡田外相や小泉元総理を憎む人には「天皇は植木職人になるべき」や「皇室は最後の抵抗勢力」という言葉も「いかにも言いそうだ」と思えるのかもしれないが、私はそんなことを鵜呑みにするほうがどうかしていると思う。

仮に小泉元総理が自民党の会合で「真性保守」から不敬とみなされるようなことを言ったとして、私がありそうに思えるシナリオはこうだ。

小泉
悠久の昔から続く皇室はこれまで何度も大きな変革をとげてきた。明治維新では肉食など洋式の生活を取り入れ、戦後には「人間宣言」や皇太子殿下ご成婚で国民との距離を縮めている。新憲法制定からすでに60年、皇位継承問題が行き詰らないうちに勇気を持って皇室典範改正に取り組むときだ。


議員X
女帝・女系を認める皇室典範改正には保守派からの批判が強い。あせって強行すれば皇室に傷を付けることになりかねない。


小泉
もたもたして時期を失えばそれこそ必要な改革もできなくなる。選挙で大勝した今こそ千載一遇の好機だ。やみくもに皇室の改革に反対する人たちは郵政民営化に反対した抵抗勢力と同じで、世論と時代の流れに逆らっている。

こういう話ならいかにも「小泉なら言いそうだ」と思えるし、政敵の「真性保守」が「小泉は『皇室は抵抗勢力』と言った」と歪曲するのもありうる話である。もちろん、これは単に私の想像であって、実際にそんなことがあったのかどうか何も知らないけれど。
ついでに言っておくと、竹田氏のブログから引用した最後の部分、「女系天皇の是非を問う『皇室解散』が現実のものになっていた可能性」というのはまさに噴飯ものである。郵政選挙でさえ「国民の生活と関係があるのか、小泉の道楽だ」みたいな反発もあったのに、皇室典範改正というそれこそイデオロギー的な問題で政治空白を作り選挙に打って出ても勝てるわけがない。「抵抗勢力」を仕立て上げて血祭りにする小泉劇場は桶狭間の合戦のようなもので、同じ手が二度と使えないのは勝った本人がいちばんよく知っている。


さて、ここまでは「皇室関連デマ」で政治家を批判するくだらなさについて書いてきたけれど、ある一人の政治家がデマがどうのという次元を超えてしまった。もちろん、民主党の小沢幹事長のことだ。
小沢氏が「天皇の外国要人接遇における一ヶ月ルール」破りの元凶と目されていたとき、小泉元総理や岡田外相のように「皇室関連デマ」の槍玉に挙げられる可能性は高かった。もしも小沢氏が「一ヶ月ルール破り」について弁明しなければ「小沢幹事長が『天皇は権威のシンボルでしかない、言うことを聞かなければ木像に取り替えてしまえ』と言った」みたいなデマが流れ、私は「ベテランの保守政治家がそんなこと公言するはずないだろ」と否定したはずだ。ちなみに、「天皇を木像に替えろ」というのは太平記に描かれている高師直(足利尊氏の家臣)の言葉である。
ところが小沢氏はデマが流れる前に機先を制して(?)会見を行い「一ヶ月ルール破り」について釈明した。そのときの態度と言葉は私の想像をはるかに超えていた。絵に書いたような傲慢無礼逆ギレである。あまりにも凄かったので記事を6本も書いてしまったほどだ。

宝剣で大根を切る
「仕分け」と「一視同仁」
自縄自「爆」の鳩山政権
政治主導という名の「政治無能」
天皇陛下の政治利用を危惧する
卑劣で傲慢な小沢一郎

小沢氏自らこれほどの醜態を見せてくれたら、デマが流れる余地はなくなる。画期的なデマ予防法というか、見事すぎるオウンゴールというか。時として現実は想像をはるかに超える。

「大統領の強い思いが、この悲劇につながったのでしょうか」

2010年04月11日 | 政治・外交
失言叩きのようなことはしたくないが、ちょっとこれはひどい。

Twitter / 鳩山由紀夫
昨晩は、ポーランド大統領機墜落、緊迫するタイ情勢などへの対応に追われました。「カチンの森事件」の追悼式典への大統領の強い思いが、この悲劇につながったのでしょうか。あらためて、ポーランド大統領をはじめ亡くなられた方々に追悼の意を表したいと思います。


「「カチンの森事件」の追悼式典への大統領の強い思いが、この悲劇につながったのでしょうか。」って。
鳩山総理はポーランドとポーランド国民に対して欠片ほどの悪意も持っていないと信じるけれど、それでもこの言い方は「大統領の強い思いが悲劇的な運命を呼び寄せた」とか「ロシアへの怒りや恨みが自分に跳ね返った、自業自得だ」という風にとられても仕方がない、たいへんに無礼な表現だ。
「(故人の)強い思いが~につながった」という言い方は、基本的に「いいこと」に対して用いるものである。
「五年前に亡くなった前社長の強い思いが新工場の建設につながった」とか、「亡き母の思いがメダル獲得の原動力となった」とか。悲劇的な飛行機事故と「ポーランド大統領の強い思い」をつなげるのは無礼きわまる。

鳩山氏の言いたかったことは想像できなくもない。たぶん「運命の蹉跌」とか「思いを実現する間際に倒れる悔しさ」みたいなことを表現したかったのだと思うけれど、逆にとんでもなく無礼な表現になってしまった。
これが高校生・大学生とかギリギリ20代前半の社会人ならまだしも、生まれも育ちも何不自由ない63歳のいい大人、しかも内閣総理大臣がこれほどまでに無礼な失言をするとフォローのしようがない。頭を抱えるばかりだ。
せめて私個人の気持として故カチンスキ大統領はじめ飛行機事故で亡くなられた方々とポーランド国民におわび申し上げる。本当に申し訳ありません。