チャチャヤン気分

《ヘリコニア談話室》後継ブログ

怪奇・伝奇時代小説選集1

2004年09月12日 20時25分37秒 | 読書
志村有弘編『怪奇・伝奇時代小説選集1』(春陽文庫、99)

 99年出版と比較的新しい本ですが、載録されている作品は、ずいぶん前のものが多い。作家も殆ど知らない人ばかり。

「柞の鬼殿」生田直親(読切特選集、昭和33年3月)
 今昔物語集に材を求めた王朝怪異譚。室生犀星の王朝物に近い雰囲気があり、引き込まれる。作者はつまらないスキー小説の人とばかり思っていたけど、こんな秀作があったんだね。

「幻法ダビデの星」多岐流太郎(読切雑誌、昭和36年10月)
 島原の乱に材を取った山風ばりの伝奇小説。森宗意軒を大物バテレン魔術師として設定し、宗意軒によって天草四郎に注入され、四郎を四郎たらしめていたダビデの星が、原城落城に際して、由井正雪にかすめ取られる。

「幽霊と寝た浪人」郡順史(時代アクション剣豪小説、昭和47年3月)
 黒姫党と称する山賊集団に食い物にされる村の頼みで、浪人白紙銀四郎は用心棒を請け負う。典型的な時代小説で、幽霊はつけたし。

「天保怪異競」九鬼澹(読切雑誌、昭和26年2月)
 無惨人形の名手、泉目吉は、三顧の礼で両国の見世物小屋のひとつに得意の死人首や幽霊首を提供することになる。初日、出掛けた目吉は、隣に恋敵で人形師としてもライバルの菊岡仙吉の人形が小屋掛けされているのを見る・・。これも典型的な時代小説で一種名工ものといえるが、超自然的要素はない。

「水鬼」岡本綺堂(講談倶楽部、大正14年1月)
 いわば大正時代の夏休み小説といえる。夏休みと怪談というセットは、つねづね私に強い相関性を感じさせるのだけれど、本篇で、大正時代に遡ってもその相関性は有効なんだなあ、と意を強くする。夏休みに帰った郷里の川に繁茂する藻を、土地の人は幽霊藻と通称していた。その幽霊藻にまつわる奇怪な事件に主人公は巻き込まれる。

「水鬼続談 清水の井」岡本綺堂(講談倶楽部、大正14年2月)
 日本の怪奇小説ジャンルに燦然と輝く傑作中の傑作。菊池氏滅亡に際して、逃れてきた由井吉左衛門が、その地に家を構えたときには、その井戸は既に存在していた。その井戸の中に打ち捨てられていた2面の鏡が、天保年間の当主の娘である姉妹を惑わせる。調べてみるとその地は源平時代以来、菊池氏に滅ぼされるまで越智七郎左衛門という武士が住んでいたことが判る。そしてかの越智氏と、かれを頼って落ちてきた平家ゆかりの二人の女性との摩訶不思議な因縁が明らかになる。600年の時を超えて甦る超自然怪奇譚。

「死剣と生縄」江見水蔭(講談倶楽部、大正14年11月)
 掲載誌にふさわしく、いかにもな講談調がたのしいお話だが、それ以上のものではない。

「猫に踊らされた男」栗田信(時代アクション剣豪小説、昭和47年3月)
 これは物語が破綻している。

「妖異きず丹波」風巻絃一(剣豪列伝集、昭和33年2月)
  本篇も破綻しているが、それは短すぎて説明不足のため。与えられた紙幅がこの枚数だったんだろうけど、きっちりと紙幅を使えばもっとよくなったはず。

「生血曼陀羅」大澤逸足(講談雑誌、大正15年9月) 
 これはまた講談そのものの口調で語られていて、読むことの悦楽が味わえる。内容も乱歩を彷彿とさせる、無惨絵巻物といった印象。
コメント
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