先日「一日一日をていねいに生きよう」と決意(!)してから、とりあえずじっくり本を読むことから始めよう、と手にしたのが、須賀敦子さんの『ヴェネツィアの宿』です。
須賀さんの名前をどうして知ったのか、はっきりと思い出せませんが、森まゆみさんのエッセイの中にも須賀さんの名前が出てきて、そのとき「なんだかすごい人らしいぞ」とインプットされたのは確かです。
その後、図書館でいくつかのエッセイを見かけて、初めて読んだのがこの『ヴェネツィアの宿』でした。
実はそのこと(つまり、最初に読んだのが『ヴェネツィアの宿』であったこと)をすっかり忘れていて、京都の恵文社一乗寺店で須賀さんの本を見つけたとき、どれを買おうか迷って選んだのがこの本だったのでした・・・(おいおい)
須賀敦子さんのことを少し説明しておくと・・・
1929年芦屋生まれ。清心女子大学を卒業、ソルボンヌ大学に留学。
いったん帰国されたものの、今度はイタリアに渡られ、コルシア書店をとりしきっていたペッピーノ氏と結婚されましたが、6年後死別。
1971年帰国後、上智大学の教授を勤める傍ら、イタリア文学の翻訳を手がけられます。
1990年に初のエッセイ『ミラノ 霧の風景』を出版し、講談社エッセイ賞、女流文学賞を受賞。
1998年逝去。
驚くのは、ソルボンヌに留学されたのが今から50年も前のことだということです。
日本でも大学院まで進み、ぐずぐずいってないではやく嫁に行け、それがいやなら修道院にはいればいい、と言われた時代に女が女らしさや人格を犠牲にしないで学問をつづけていくには、あるいは結婚だけを目標にしないで社会で生きていくには、いったいどうすればいいのかということを模索し続けた須賀さんは、異国の地で生きることを選ばれました。
そんな彼女の潔い、凛とした生き方は、文章にとてもよく反映されています。初めて彼女のエッセイを読んだときに感じたのは、なんて気品のある文章を書く人なんだろう、という驚きでした。今まで、本を読んでいるときに、「気品」なんて意識したこともなかったので。
しかし、こちらもある程度覚悟してかからないと、軽いエッセイを読むつもりでいたなら、とてもじゃないけど彼女の世界には入っていけない、そんな厳しさも感じました(単に私に読解力がないだけかもしれませんが)。
この『ヴェネツィアの宿』は、彼女の3冊目のエッセイです。
両親、夫、友人など身近な人々のことを描いた自伝的エッセイとは言いながら、単に遠い日の思い出としてではなく、エッセイを超えた物語性が感じられます。
12編のエッセイはそのまま12編の短編小説のように、登場人物(筆者も含めて)の人生や生き方が切実に描かれていて、深く胸を衝かれるのです。
裕福な家庭に生まれ、渡欧した経験を持つ父。
周囲の反対を押し切って結婚したにも関わらず、愛人と暮らすようになった父を待つ母。
異国の地で知り合った、いろいろな生き方をしている友人たち。
若くして結核で兄妹を、続いて両親までも亡くした夫。
その夫に不吉な予感を持ち続け、結婚後わずか6年で最愛の彼を失った筆者。
そんな彼ら(あるいは自分の)ことが、静かにそしてとても確かな筆づかいで描かれています。
こういう美しい文章に身を委ねてるときって、至福のひとときですね。
秋の夜長に、じっくり味わってみてはいかがでしょう。
11月5日にBS朝日で「イタリアへ・・・ 須賀敦子 静かなる魂の旅」という番組があるそうです。
残念ながら、我が家では見れませーん
わたしも須賀敦子さん、大好きです。
何冊か読んだので、どの本か忘れましたが、(多分「霧のむこうに住みたい」かな?)山の中で犬と、パンを抱えたすらりとした少女と夕方に出会うという文があって、その美しい光景にうっとりとして、何度も読み返した覚えがあります。
確かに秋にふさわしい本ですね。
私も読み返してみようっと。
ひょっとして・・・とは思っていましたが、やはりjesterさんも須賀さんをお好きだったのですね。
私はまだ2冊しか読んでいませんが、本当に大人の、美しい文章を書かれる方で、その生き方をみても信念の強さに心を打たれます。
今は、前に読んだ『ミラノ 霧の風景』をもう一度読み返しています(jesterさんの書かれてるのはこれかな?)。
今日は図書館でも1冊借りてきました。
私の中でマイブームになっています(笑)。