しばらく飛鳥を彷徨っておりました。
といっても、近鉄電車に乗って奈良へお出かけてしていた、というわけではなく・・・
私が彷徨っていたのはこちらです↓
『朱鳥の陵』
坂東眞砂子
『日輪の賦』
澤田瞳子
読みたい本はたくさんあれど、年のせいか読むペースが遅くなり、
やっと読み終えるとすぐに次の本を手にとってしまうものだから、
最近本のレビューも滞っておりますが・・・
この作品は名前や歴史的背景を忘れてしまわないうちに、覚書を書いておこうと思います
どちらも讃良(ささら・さらら)皇女つまり持統天皇を扱った作品です。
もともと私は古代~奈良時代に興味があって、これまでもいくつかの歴史物を読んできました。
が、なんせこの時代、人間関係がややこしい!
まず、今と呼び名が違うでしょ。
持統天皇の名は日本史でおなじみでも、作品では当時の名前の讃良皇女。
天武天皇が大海人皇子ぐらいならわかるけど、馴染みがないとわかりづらい。
あと役職名で出てくると、それが誰だったのかわからなくなくなってしまう。
それに天皇にはたくさんの皇子・皇女がいて、その名前もいちいち覚えきれない。
しかも似たような名前だし。
その皇女たちを自分の兄弟や孫、あるいは豪族に嫁がせるので、
その利害も絡んできて人間関係がすごく複雑。
たとえば、この作品を読み始めたときも、
天智天皇の皇女である讃良は天智天皇の弟である大海人皇子(つまり叔父さん)と
結婚し、その子どもである草壁皇子は異母妹である阿閇皇女〈あへのみこ〉と結婚。
阿閇皇女の姉の御名部皇女は大海人皇子の皇子のひとりである高市皇子と結婚してて・・・???
ねっ、わかりづらいでしょ?
で、とうとう本を横に置いて、子どもの日本史の資料を引っぱり出してきました。
ついでにネットでも調べて、おおまかに歴史の流れと自分なりの相関図をつくる、
というところから始めました。ふぅ~
面倒だけど、ある程度は歴史や人間関係を知っておいた方がさくさく読めるし、
面白いこと間違いなし!
さて、同じ持統天皇を扱ったこの二つの作品ですが、イメージは全く違います。
片や夫や息子まで毒殺してしまう、妖しくてすさまじいまでに強い女帝。
片や新しい国づくりに自らを捧げる孤高の女帝。
父・天智天皇と夫・天武天皇の意思を引き継ぎ、自ら天皇となって
国の礎を築いた讃良という女性に、作家は想像力をかきたてられ
自分なりのイメージができあがるのでしょうね。
『朱鳥の陵』では、夢解きをする力を持った白妙が貴人の夢解きを頼まれ、
いつのまにかひとりの少女・讃良の心の中を覗いてしまう、というところから
話が展開していきます。
その少女こそ後の持統天皇。
讃良の中に入り込んでしまった白妙は、彼女の恐ろしい事実を知ってしまいます。
また、讃良も自分の中に入り込んだ白妙の存在気づきはじめ・・・
ちょっとおどろおどろしい感じのストーリー展開ですが、
文章に訓読みの大和言葉が多く使われているせいか、今の時代とは
明らかに違う雰囲気を醸し出しています。
妖しくて神秘的で・・・そう、どこか異世界に迷い込んでしまったみたいな。
また、宮仕えをして帝紀旧辞を唱えていた白妙の兄の帛妙〈くろたえ〉が
後に教科書にも載る有名な人物だった、とか
持統天皇が詠んだ「春過ぎて 夏来るらし白妙の 衣干したり 天の香具山」の歌に
恐ろしい謎が隠されていた、などあっと驚くような仕掛けも満載。
歴史に興味がある方にオススメです。
一方、『日輪の賦』の讃良皇女ですが。
こちらは、父・天智天皇、夫・大海人皇子がこの国のために成しえなかったことを
自らを犠牲にしてまでやり遂げた孤高の女性として描かれています。
この作者の澤田瞳子さん。
私、『弧鷹の天』からの大ファンでして。
(『弧鷹の天』のレビューはこちら→*)
今回、仏師定朝を描いた『満つる月の如し』とこの作品と立て続けに読みました。
『弧鷹の天』もそうでしたが、新しい時代を築き上げようとする若者の真っ直ぐな思いが、
心の真ん中にストレートに入ってきます。
まだ「日本」という名さえなかったこの時代に、身内との権力闘争に明け暮れ、
国力が衰え、他国からの侵略を憂える人々が、律令の必要性を説き、
それを反対する古い勢力と立ち向かっていく姿が描かれています。
その中心となるのが讃良大王。
その一方で、地方から官僚を目指して京にやってきたひとりの若者・廣手の目線で
ストーリーは展開していきます。
この廣手をはじめ、男装の女官として讃良に仕える忍裳〈おしも〉、
滅亡した百済からの渡来人・高詠、壬申の乱で敗れた大友皇子の長子・葛野王など、
まわりに登場する人物たちが実に生き生きと描かれているのですね。
なので、遠い昔の出来事なのにすごく身近に感じられ、国を侵略される恐ろしさや
律令制度を整える意味などが、身をもって感じられるのです。
・・・というか、時代は違っても、今も似たような状況じゃない?と思えてしまうほど。
どの時代にも「この国をよくしたい」という思いを持つ若者が必ずいます。
そんな彼らが古い体制を打破し、新しい国づくりを模索していく中で
歴史って綴られていくわけですよ。
時の権力者が歴史を変えるんじゃない、ひとりひとりの熱い思いが大きなうねりとなって
時の権力者を動かし、歴史を動かしているんだな~とつくづく思います。
讃良が息子の草壁皇子を毒殺したという設定は、こちらにもあります。
『丹生都比売』
梨木果歩
こちらは不思議な美しさを感じる作品です。
讃良が排除した悲劇の皇子といえば、忘れてならないのが大津皇子。
こちらは大津皇子の蘇りを描いた作品です。
『死者の書』
折口信夫
若い頃、これを読んで何ともいえない衝撃を受けました。
私の持ってるのは古い文庫本なので、字は小さいし、旧仮名づかいも読みづらいのに、
どこまで理解できていたのやら。
もう一度読み直そうとして、数ページで頭が痛くなってしまいました~
といっても、近鉄電車に乗って奈良へお出かけてしていた、というわけではなく・・・
私が彷徨っていたのはこちらです↓
『朱鳥の陵』
坂東眞砂子
『日輪の賦』
澤田瞳子
読みたい本はたくさんあれど、年のせいか読むペースが遅くなり、
やっと読み終えるとすぐに次の本を手にとってしまうものだから、
最近本のレビューも滞っておりますが・・・
この作品は名前や歴史的背景を忘れてしまわないうちに、覚書を書いておこうと思います
どちらも讃良(ささら・さらら)皇女つまり持統天皇を扱った作品です。
もともと私は古代~奈良時代に興味があって、これまでもいくつかの歴史物を読んできました。
が、なんせこの時代、人間関係がややこしい!
まず、今と呼び名が違うでしょ。
持統天皇の名は日本史でおなじみでも、作品では当時の名前の讃良皇女。
天武天皇が大海人皇子ぐらいならわかるけど、馴染みがないとわかりづらい。
あと役職名で出てくると、それが誰だったのかわからなくなくなってしまう。
それに天皇にはたくさんの皇子・皇女がいて、その名前もいちいち覚えきれない。
しかも似たような名前だし。
その皇女たちを自分の兄弟や孫、あるいは豪族に嫁がせるので、
その利害も絡んできて人間関係がすごく複雑。
たとえば、この作品を読み始めたときも、
天智天皇の皇女である讃良は天智天皇の弟である大海人皇子(つまり叔父さん)と
結婚し、その子どもである草壁皇子は異母妹である阿閇皇女〈あへのみこ〉と結婚。
阿閇皇女の姉の御名部皇女は大海人皇子の皇子のひとりである高市皇子と結婚してて・・・???
ねっ、わかりづらいでしょ?
で、とうとう本を横に置いて、子どもの日本史の資料を引っぱり出してきました。
ついでにネットでも調べて、おおまかに歴史の流れと自分なりの相関図をつくる、
というところから始めました。ふぅ~
面倒だけど、ある程度は歴史や人間関係を知っておいた方がさくさく読めるし、
面白いこと間違いなし!
さて、同じ持統天皇を扱ったこの二つの作品ですが、イメージは全く違います。
片や夫や息子まで毒殺してしまう、妖しくてすさまじいまでに強い女帝。
片や新しい国づくりに自らを捧げる孤高の女帝。
父・天智天皇と夫・天武天皇の意思を引き継ぎ、自ら天皇となって
国の礎を築いた讃良という女性に、作家は想像力をかきたてられ
自分なりのイメージができあがるのでしょうね。
『朱鳥の陵』では、夢解きをする力を持った白妙が貴人の夢解きを頼まれ、
いつのまにかひとりの少女・讃良の心の中を覗いてしまう、というところから
話が展開していきます。
その少女こそ後の持統天皇。
讃良の中に入り込んでしまった白妙は、彼女の恐ろしい事実を知ってしまいます。
また、讃良も自分の中に入り込んだ白妙の存在気づきはじめ・・・
ちょっとおどろおどろしい感じのストーリー展開ですが、
文章に訓読みの大和言葉が多く使われているせいか、今の時代とは
明らかに違う雰囲気を醸し出しています。
妖しくて神秘的で・・・そう、どこか異世界に迷い込んでしまったみたいな。
また、宮仕えをして帝紀旧辞を唱えていた白妙の兄の帛妙〈くろたえ〉が
後に教科書にも載る有名な人物だった、とか
持統天皇が詠んだ「春過ぎて 夏来るらし白妙の 衣干したり 天の香具山」の歌に
恐ろしい謎が隠されていた、などあっと驚くような仕掛けも満載。
歴史に興味がある方にオススメです。
一方、『日輪の賦』の讃良皇女ですが。
こちらは、父・天智天皇、夫・大海人皇子がこの国のために成しえなかったことを
自らを犠牲にしてまでやり遂げた孤高の女性として描かれています。
この作者の澤田瞳子さん。
私、『弧鷹の天』からの大ファンでして。
(『弧鷹の天』のレビューはこちら→*)
今回、仏師定朝を描いた『満つる月の如し』とこの作品と立て続けに読みました。
『弧鷹の天』もそうでしたが、新しい時代を築き上げようとする若者の真っ直ぐな思いが、
心の真ん中にストレートに入ってきます。
まだ「日本」という名さえなかったこの時代に、身内との権力闘争に明け暮れ、
国力が衰え、他国からの侵略を憂える人々が、律令の必要性を説き、
それを反対する古い勢力と立ち向かっていく姿が描かれています。
その中心となるのが讃良大王。
その一方で、地方から官僚を目指して京にやってきたひとりの若者・廣手の目線で
ストーリーは展開していきます。
この廣手をはじめ、男装の女官として讃良に仕える忍裳〈おしも〉、
滅亡した百済からの渡来人・高詠、壬申の乱で敗れた大友皇子の長子・葛野王など、
まわりに登場する人物たちが実に生き生きと描かれているのですね。
なので、遠い昔の出来事なのにすごく身近に感じられ、国を侵略される恐ろしさや
律令制度を整える意味などが、身をもって感じられるのです。
・・・というか、時代は違っても、今も似たような状況じゃない?と思えてしまうほど。
どの時代にも「この国をよくしたい」という思いを持つ若者が必ずいます。
そんな彼らが古い体制を打破し、新しい国づくりを模索していく中で
歴史って綴られていくわけですよ。
時の権力者が歴史を変えるんじゃない、ひとりひとりの熱い思いが大きなうねりとなって
時の権力者を動かし、歴史を動かしているんだな~とつくづく思います。
讃良が息子の草壁皇子を毒殺したという設定は、こちらにもあります。
『丹生都比売』
梨木果歩
こちらは不思議な美しさを感じる作品です。
讃良が排除した悲劇の皇子といえば、忘れてならないのが大津皇子。
こちらは大津皇子の蘇りを描いた作品です。
『死者の書』
折口信夫
若い頃、これを読んで何ともいえない衝撃を受けました。
私の持ってるのは古い文庫本なので、字は小さいし、旧仮名づかいも読みづらいのに、
どこまで理解できていたのやら。
もう一度読み直そうとして、数ページで頭が痛くなってしまいました~