パン教室「カフェ・ダリエ」主宰 森本 まどか 偶然の発酵ででふっくら
ふんわり、やわらかな歯応えが魅力のパン。 そもそもは、歯が欠けるほど硬い食べ物だった のです。日本に伝わったのは戦国時代の1543 年、ポルトガル人が鉄砲とともに種子島に持ち込 みました。世界的には紀元前6000年ごろのメ ソポタミア(現イラク)で野生の麦をいったり、かゆにして食べたりした ようです。人々が定住するようになると、小麦を栽培して収穫し、乾燥 させ、粉にして保存する技術を身につけました。小麦粉を水でこねた 団子を焼いたものが、パンの原型。飢えをしのぐため、保存がきく食 糧を考え出した人間の“生”への智恵は、素晴らしいものです。ただし 当時のパンは硬くボソボソで、ほとんど味もなかったとか。遺跡から 発掘される古代人の歯はすり減り、欠けていました。そのカチカチだっ たパンにある日、劇的な変化が起りました。焼き忘れたパン種に、ワ インやビ-ルの醸造で生まれた酵母が偶然ポトリと落ち、発酵が始ま ったのです。表面にブツブツと気泡ができ、膨らむ光景だったことでし ょう。おそるおそる焼いてみると、今までにない、ふっくらとしたパンが できたというわけです。1粒の酵母の生命力と発酵のおかげで、現在 のようなパンが食べられるのですね。
※もりもと・まどか 1957年、函館市生まれ。藤女子短大卒。札幌テレ ビ放送(SYV)に3年間勤めて退社後、本格的にパンを勉強し、日本パ ン技術研究所(東京)を卒業。製パン技能士、製菓衛生士。札幌市在住。