蒲田耕二の発言

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オークション

2013-12-15 | 社会
しかし、オークションってのはやってみるもんですなあ。マリア・カラスが60年前に録音した『椿姫』の全曲CDが、たったの950円で手に入った。

カラスの『椿姫』? ンなもん、いつだって新品が手に入るじゃん。アマゾンで検索してみ、数え切れないほどヒットするよ、――とまあ、皆さんおっしゃるでしょうな。さいです。私も数え切れないほど持ってます。

しかしですね、このたびヤツガレめが入手いたしましたのはEMIのクソ・ライブ盤なんかじゃなくて、カラス唯一の正規スタジオ録音の初期プレス盤(1984)なんでございますよ。そう、かつてキングから出ていた伊Fonit Cetra(ワーナーに吸収された)のCDC-2なんざます。


チェトラはその後、この録音のマスターにノイズ・フィルターだのエフェクターだのリバーブだのを掛けまくり、音質をメチャメチャに歪めてしまった。同社はこのプロセスをSound Rebirthと称していたが、冗談でしょ、正しくはSound Massacreだよ。

改悪盤『椿姫』(ネット上の書き込みにいわく、"unlistenable")が発売されたためにオリジナル音質の初期プレス盤は市場から姿を消し、幻のCDになっていた。かくいうオレも、当時はリマスタリングした方が音質がよかんべと浅はかに考えて、初期盤を手放していた。ドイツ・プレスのLPを持ってたせいもあるけどね。

ヤフオクで表示されていた情報は、タイトルとCallasの文字と値段だけ。ジャケット・デザインが日本盤とは異なる。だからそうとは知らず、闇鍋ノリで入札した。有効期限の近づいたヤフーポイントを消化するつもりだった。で、送られてきたCDを見たら、上記の激レア盤だったワケ。目を疑ったね。出品した方も価値を知らなかったんじゃないかな。

先だってはeBayでカラス主演の『仮面舞踏会』全曲盤を落札したら、新品のドイツ・プレスLPだった。たしかに "New - sealed" と書かれてはいたが、中古盤業者って、中古品にラップを掛けて新品と称したりするからね。信用してなかった。50年前のレコードだよ。

ところが、届いたレコードはノイズ皆無、音はつやつやと色気をたたえて鮮度最高。間違いなく未通針盤である。さすがに値は張ったが、大枚はたいた甲斐がありましたよ。なぜなら、この全曲録音のCD版はEMIの酷いマスタリングの中でもとりわけ酷く、カラスの声がガチョウの声になっているからだ。LPのカラスは、それに対してセイレーンだ。甘く妖しく、人を狂わせる魔力を放っている。

こういう掘り出し物があるからオークションは怖いよ。脱けられない。

とはいえ、落とし穴もある。自動入札ってヤツだ。入札額を小刻みに加算して、できるだけ安値で落札できるようにする、との甘い謳い文句だが、これを真に受けて、競争相手があきらめるように少し高めに値づけしとこう、実際には安く買えるかも知れないし、なんて考えてると痛い目に遭う。

あなたが書き込んだ最高入札額は、他の入札者には知らされないが、出品者には通知される。ヤフオクは、同一人物が幾つものIDを使い分けてログインできる。だから、競合する相手のいない商品でも、出品者が自らの出品商品に別IDで入札して価格をつり上げることが可能なのだ。

当初の廉い入札価格のまま値動きがないな、シメシメ、などと思ってると、終了間際になって、アレレ~、にわかに価格が急上昇をはじめ、あなたの最高入札額にどんどん近づいていく。

あなたはドキドキハラハラ、焦りまくって情報更新をくり返す。かろうじて50円差で逃げ切りに成功し、フー、ああよかった、と胸をなで下ろす。だがこれは、別に運がよかったのでもなんでもない。出品者が次々入札して、あなたの設定した最高入札額スレスレまで価格をつり上げただけなのだ。

ま、出品者にすれば、これだけのカネを出してもいいという人がいるんだから、その値で買ってもらおうじゃん、て理屈だろうけど、あんまり見え見えだとヤッパむかつくよなあ。

オークションとは要するに、圧倒的に売り手有利のシステムなのだ。街で売ってない商品を売る市場なのだから。
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