陸自に戦車400輌は少ないのか?

2011-01-01 18:48:43 | 軍事ネタ

以下は前回の軍事ネタカテゴリの記事、
10式戦車と機動戦闘車、戦車400輌までの削減について に寄せられたコメント。
このテーマに自分の考えを回答するには長文になると思うし、
面白いと思うので新記事としてこちらで回答。




まず適切な戦車の配備数ということだが、これは敵対勢力の規模に依るもので、
日本への脅威に対処できる戦力の維持が必要となる。
近年の中国やロシアの軍拡を見ると、その内容が特に海軍の揚陸戦力や空母の増強などに指向されてるのは明白であり、
これは日本にとって軍事的脅威となる。

その直接的な両仮想敵国が軍拡態勢にある以上、日本は軍縮をすべきではなく、
拡大をしなくとも少なくとも現状の定数は維持されるべき状況であると思われる。

その観点から望ましいと思われる戦車の配備数を考えてみる。
また戦車は全て90式及び10式であるものと仮定する。


まず日本で一番戦車が配備されているのが、北海道を防衛する北部方面隊。
北部方面隊には機甲師団である第7師団があり、その他にも第2師団と2個旅団、そして第1戦車群がある。
これらの戦車隊を合計すると、北海道だけで凡そ450輌もの戦車が配備されている。

さらに本土には富士教導団、第1教育団もあり、合計で凡そ130輌。
その他に普通科師団には必ず1個戦車大隊が組み込まれており、全国で合計8個戦車大隊。
これらの普通科師団に組み込まれている戦車総数を合計すると340輌。

以上の編成を全て総括すると、凡そ920輌が必要ということで、実際これが現状の配備数。
ここから南西重視にシフトして北部方面隊の第1戦車群を廃止したりするにしても、800輌は必要だろう。


現代の陸軍編成は"諸兵科連合"が原則である。
これは異なる兵科同士を組み合わせ、相互に弱点を補完し合う編成で、
ゆえに歩兵師団であっても戦車部隊が組み込まれているし、機甲師団であっても歩兵部隊はいる。
戦車が歩兵を守り、歩兵が戦車を守るのである。

自衛隊の戦車定数400輌という数字が実現すれば、
それぞれの普通科師団に戦車大隊を配することができなくなり、
現代軍事学の基礎的な原則である、諸兵科連合を否定することになるだろう。


また日本の地形上、陸戦が行われるのならゲリラ戦的なものになるから戦車は重要ではないという意見。
しかしアフガンやイラク、そしてチェチェンや中東のイスラエルが行っている戦争では、
市街戦やゲリラ戦においても戦車は強力であり、有効で必要なものであるという戦訓が認められている。
これらの現代戦争の実例を見て、実際にカナダ軍は予定されていた戦車部隊の廃止を取りやめた。
ゲリラ戦においても、戦車の圧倒的な制圧力と装甲は必要で、歩兵の強力な盾と矛となるのである。


また個人的に最も重要視しているのが、戦車の持つ"抑止力"である。
日本に戦車が大量にあることによって、侵攻する側はそれらを撃破するだけの重戦力の揚陸の必要性を強要される。
となると船団は大規模にならざるを得ず、秘匿性も望めなくなり、
一度の揚陸作戦にかけるリスクも多大なものとなり準備することも困難となる。
戦車があることによって、結果的に、日本への上陸を企図することを難しくするのである。
この抑止力については、以前の記事で詳しく書いたのでそちらを参照願いたい。
→ 陸自は必要か不要か


以上に記述した理由から、ゆっきぃ的には、「戦車400輌は少ない」と考える。
そしてお正月らしい更新ができて満足している。

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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2011-01-01 22:19:49
ここで減らしたら、開発した10式が意味無いと思います

どんなに良い物を開発しても配備されて始めて抑止力になると思います

このままの車両数で90式 10式への更新が妥当思います
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Unknown (↑の質問者)
2011-01-01 23:00:34
あけおめ!
質問者です。
まさか新年早々こんなに長文の返答が貰えるとは思ってませんでした。
思わぬお年玉をもらっちゃった気分です。
せっかくなのでもっと踏み込んだこと聞いちゃいます。

ゆっきぃさんの書いてくれた、中国ロシアの軍拡、現状の戦車配備数、諸兵科連合の原則、市街戦やゲリラ戦における戦車の有効性、抑止力としての効果に関しては、こちらも前提として同意しています。
これらの意見の多くは過去の記事でも書かれていましたので、先の質問では日本の地理と作戦の特殊性に踏み込んだ議論を期待していました。
こちらの考えについてもう少し補足します。

まずは日本特有の事情とそれに適した戦略についてこちらの思うことを並べてみます。
現状の規模では兵器が陳腐化するよりも早く更新し続けることができておらず、実効性に乏しい兵器を多数保有することに余分なコストを費やしている(74式戦車550輌など)。
戦争が数年に及べば現状の920輌でも不足であるし、人的・物質的資源および生産力のすべてで中国ロシアに劣る日本はそもそも長期戦を極力避けるべき。
北海道を除けば、内陸部の複雑な地形のために大部隊を運用する機会が上陸阻止以外にない。
内陸部では地形上、敵の進攻ルートは限られており、地雷の設置やトンネル・橋の破壊によってさらなる誘導が可能。
都市間を結ぶ道路は1~4輌しか並走できないほど狭く、戦闘をすれば残骸で道が塞がれる。道路のすぐ脇は森林に覆われた山であり、迂回が困難。
一方で、道路は狭い国土のいたるところに張り巡らされており、地理を把握している日本にとっては、素早く援軍を送ることが可能。
日本の空海戦力では中国ロシアに匹敵しており、米軍の支援も期待できるので、本土上空の制空権を奪われる危険性はあまり高くないと思われる。
以上のことから、陸上自衛隊は敵国の地上部隊と正面から戦うのではなく、遅延戦術によって敵を海岸線に停滞させ、その間に空海・米軍との連携による迅速な反撃によって数か月以内に補給線を断つことが有望な戦略になると思われる。
これを達成するためには、量よりも質を重視した部隊を各地に点在させ、動的な運用を可能にすることによって、局地戦に負けない体制を整えることが重要であると考えられる。

以上の考えのもとでゆっきぃさんの記事を読んでいきます。

まず、現状の日本の陸上兵器更新ペースを顧みると、
>また戦車は全て90式及び10式であるものと仮定する。
という仮定が成立しないように思うのです。
戦車の寿命は一般に25年程度、各部隊に10式が行きわたるには十数年、ということは、10式が主力となる頃には既に90式は陳腐化しており、日中露ともにそろそろ次世代戦車の配備も始まるであろう時期です。
ゲリラ戦的な小規模戦闘において1~2世代前の陳腐化した兵器は戦力になるのでしょうか。
現状において74式は戦車保有数の水増し程度の役割しか果たしていないように感じられます。
それならば、ハッタリ的な戦力は切り捨てて実効的な戦力の増強を急いだ方がいいのではないかというのが私の前回の質問の意図です。

>アフガンやイラク、そしてチェチェンや中東のイスラエル
これらの国では、米軍は容易に制空権を確保することができ、市街地の外は平地の中に広い道路が通っているような地形が多くありました。
そのため、都市間では比較的安全かつ迅速に車輛を移動させることができたのだと思います。
日本の場合、上記の航空戦力における優勢に加え、太平洋・瀬戸内海側に多数の空港を持っていることもあり、本土上空の制空権を完全に奪われる危険性はあまり高くないと思います。
都市間を繋ぐ道路も、上記のように待ち伏せや破壊が容易です。
一方で制海権に関しては、攻撃型潜水艦の保有数(日16・中60・露14)を考えると劣勢も十分にありうるでしょう。
すると、敵国は制空権を十分に確保しきれないまま、制海権のみを確保し物量で強引に上陸を試みることになると思います。
その場合、上記の地理的条件を活用した遅延戦術をとれば、大量の陸上戦力が海岸線に停滞することになります。
そこに太平洋・瀬戸内海側の空港から空爆を加えることで有効な反撃を行えると思います。
日本の細長い国土のため、これらの空港からは1時間以内で日本海海岸線に到達できるので、敵の本土や日本海上の空母からの迎撃は困難でしょう。
このようにして敵の第一波を阻止したのち(または平行して)、敵国の港を破壊して補給線を断ちます。

以上のような作戦を遂行するために、大隊規模の戦車隊が多数必要でしょうか。
部隊を再編成し、400輌で上記の遅延戦術を展開できるような効果的な運用が可能かどうかが適正な戦車数を判断する基準になると考えています。
どこに何台配備すればこのような作戦が可能かまでは、まだ考えが及んでいないのですが…。
このような考えに対してゆっきぃさんが意見をお持ちでしたらぜひお聞きたいです。
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Unknown (Unknown)
2011-01-02 08:40:49
ものすごいレベルの話だ・・・
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Unknown (Unknown)
2011-01-02 12:15:53
コメントのレベルが高い・・・・
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Unknown (ゆっきぃ)
2011-01-02 18:36:27
質問者さんへ。
次の記事で新しく回答を書いといたよ!
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