約半世紀前の1975年にSONYから発売されたモノラルカセットテープレコーダー。有名なWALKMANは1979年に発売開始されるのでその4年前という事になる。シルバーとブラック(B)の2色で価格は39,800円と42,800円でブラックの方が手間がかかるのか3,000円高い。大きさは幅174mmX高さ29.5mmX奥行き113mmでカッパブックス(光文社のペーパーバック本ですでに廃刊)と同じ大きさで極薄というのが売りだった。SONYは8mmハンディーカムでも「パスポートサイズ」というキャッチコピーがありいかに小型の製品であるかを伝えるうまい戦略だったと思う。当時から「高性能、高信頼性」は日本の電気製品に共通した特徴だったわけだがそれに加えてSONY製品は小型で美しく楽しいという魅力あふれる製品群で世界を席巻していた。
半世紀前の39,800円は現代の高級スマホ並みの価格だったと思うがテープレコーダーという用途が限られる製品ということを考えるとかなりの贅沢品だったに違いない。それでも当時はよく見かけたと記憶するがオーナーのビジネスマンや学生は(たとえ使う機会がなくても)美しいガジェットを携帯するという満足感があったのだろうと想像する。家が裕福な友人が持っていて借りたことがあり私も欲しくてたまらなかったがとても手が届くものではなかった。ちなみにシルバーとブラックでは圧倒的にシルバーに魅力を感じていた。やがて音声の記録媒体はカセットやマイクロカセットから個体メモリーに移行していきカセットWALKMANとともにその役割を終えた。現在のボイスメモはスマホアプリとして使われることが多いと思う。
どれくらいの台数が生産されたかは不明だが中古市場でも多くが取引されている。電池の液漏れや酷使されて傷が目立つものが多いがケースに入れられてあったものは綺麗な状態を保っているのもある。WALKMANを除いてもポケットサイズのカセットテープレコーダーは数多いが(ちなみにWALKMANだけで150種類以上ある)この機種ほど外観の魅力を感じる製品を見たことがない。最近偶然に状態の良さそうなものをwebで見かけたのだが懐かしさもあって入手した。
残念ながらトップのパネルの一部が歪んでいる。何かに引っ掛けたか?ここのリペアーは最重要で失敗したら価値はほぼ無くなるよ。。
パネルはずして慎重に修正しました。この個体は電池ボックス(単3が4本)の腐食もなく外観は非常に綺麗で半世紀前の製品だが新品同様と言っても過言でないくらい。ケースも無傷でほとんど稼働していなかったと思われる。
数十年ぶりに再会して改めて観察すると当時の高価なアイテムらしく全体に丁寧に作り込まれている。やはり自分はNakamichi 700やB&O 4000シリーズなどのようなソリッドでプレーンなデザインが好きなのだと思う。
早速単三乾電池買ってきて動作させてみる。最近は単三より単四使う機器が多くストックも切れたままになっていた。乾電池の出番は以前より少なくなったがエネルギーの備蓄という観点からも把握がしやすく安心感があるのでもうしばらくは生き残るのではないかと思っている。適当なテープを入れて再生ボタンを押すとブー!という大きな音が出て発振している様子。軸は回転しない、、と思ったらpouseスイッチが入っていて解除すると再生、巻き戻しはテープ動作したが早送りは不動。しばらくすると発振は少し落ち着いたが再生音は小さくその割にヒスノイズはあってボリュームは効いている。バッテリーチェックボタンを押してもメーターは振れないなどやはり当たり前にすんなりとは動かない。
内部へのアクセスは容易、ネジ4本で裏蓋外すと右端は電池ボックスのスペース、その内側は結構大きくてしっかりしたモーター。モーターからの動力はL字に走行しているゴムベルトでキャプスタンのフライホイールを回す。フライホイールが小さいのは可搬性能を重視したためか?
基板はネジ2本、フライホイールの樹脂製軸受を支えているプレートはビス3本でとまっている。
この状態で4本のゴムベルト全てが交換できる。一番大きいのがモーターからの駆動ベルトでこの手配が一番困難かと思う。幸い手持ちの中に適当なものがあって助かった。オークションを見るとベルト4本セットで販売されていた。ただし価格は本体よりずっと高いがどうしても入手が困難ならこれも止むを得ない。
ところがベルトを交換したがやはり早送りは動かない。電池から外部電源に切り替えて電流を測ってみると通常は200mA程度の電流なのだが早送りだけ3倍になっていてこれはいったい、、?原因は単純でモーターの負荷が高まって回りづらいため消費電力もアップしただけのよう。早送りの時に介するアイドラーの回転が渋い。
取り外してクイックドライクリーナーで軸と共に洗浄給油して解決した。巻き上げ軸の回転が止まるとオートストップがかかる構造。これで駆動系の問題は解消した。しかし再生すると発振したり大きなノイズが入る。しばらく触っていると再生、録音の切り替えスライドスイッチの接触不良とわかりこちらも同様に洗浄して解決した。しっかりメンテナンスするためにはハンダ付けされているスライドスイッチを基板からとり外す必要があるがここはスルーした。内蔵マイクから録音できることも確認した。
基板上の古い電解コンデンサーは時代を感じるが結構生きていることが多い一方でタンタルコンデンサーも使われているがこちらは意外に寿命が短い。でもどちらもスルーしてしばらく古いテープを聴いてみた。ワウフラッターが思ったよりも大きいがこの構造では致し方ない気もするがもうすこしブラッシュアップすれば多少の改善が見込めると思う。今の時代に新たにカセットテープに録音する局面は殆ど無いと言って良いだろう。カセットを常用するメリットもないだろうと思っていた。
あまり気にしていなかったのだが今回色々と調べてみると限られた範囲だと思うがカセットテープを取り巻く状況が随分と熱いことがわかった。過去に発売されていた一部の高級カセットデッキが高騰していることは知っていたが驚いたのはWALKMANの一部の機種も高騰していること。特にWALKMAN professionalの人気はすざまじく最終型の取引価格はTC-D5のそれを上回っている。また上蓋が透明アクリルタイプのWALKMANに見栄えのするカセットテープ(これもかなり高価)を装着するのが流行っているらしい。さまざまなデザインがあるからお気に入りもそれぞれかと思っていたがどうも万人の趣向は一致する傾向のようだ。
久しぶりのテープレコーダーのメンテナンスを楽しみました。
カタログの説明によるとメーターは特に問題ないようです。
お読みいただきありがとうございました。
後日談1
しばらく聞いていたがやっぱりワウが気になる。ゴムベルトをもう数mm短いものに交換してフライホイール、ピンチローラーなどを掃除、注油してみる。
フライホイールは2つあり大きい方はキャプスタン軸、小さい方はL字に走行しているゴムベルトの折れ曲がっている部分のガイドとして回っている。注油後はキャプスタン軸とアイドラーを十分に脱脂する。これで聴いてみると少し改善したか、、と思う程度でちょっとがっかりする。
後日談2
早送りが元気がないかな、、と思っていたが再生時に巻き上げが止まるようになってしまった。
キャプスタンのフライホイールから回転を伝達するアイドラーとオートシャットオフを司るローラーとがスリップする。無水アルコールで清拭したりスプリングの荷重を変えてみたりするがあまり変わらない。これはゴムが劣化、硬化ゆえのスリップらしい。ワウが大きいのもピンチローラーの劣化の可能性が高い。ゴムをサンドペーパーで一層削って解決したがいずれ交換が必要になる。ゴムパーツは一応汎用品が市販されているがちょうど良いサイズのものがあるかは不明。テープレコーダーはゴム部品が多く使われていて対応が悩ましい。ゴムパッキンやOリングを流用することもある。