「A-440A」はALTEC最初の民生用プリアンプで発売は1954年、価格はキャビネット付きで$139。なかなかユニークな構造で蓋を閉じて正面から見るとダイアル1個とパイロットランプだけ(!)ダイヤルは電源スイッチ付きのボリュームで「普段はこれだけの操作でしょ?」と言わんばかり。蓋を開くと
組み合わせるパワーアンプはA-340Aだったようです。このアンプもALTECのアンプ群では比較的珍しいもの。
セレン整流器でB電源とヒーターを直流化してます。ここはMarantz Model7Cと同じだがB電源は倍電圧整流。使用真空管は珍しく12AY7 x 2と12AU7の3本。
拙宅の「ALTEC A-440A」です。
セレン整流器はB電源、ヒーター共に生きていました。カップリングコンデンサーはセラミックコンなども使われている(値が回路図と異なっている所があるがオリジナルらしいのでこのまま)。他も奇跡的に問題なさそう。
点検、掃除して組み立てたら今までなかったハム音が発生するようになってしまった。 いや単に気がつかなかっただけかも知れない。やはり電源を疑う。B電源の平滑コンデンサーにパラに適当なのを繋いでみる。
これで聴いてみると明らかに改善するのでやはりこのブロックコンデンサーは寿命のようです。
電源トランスからのコードが接続されていないのがあるなぁ、、? とのんびり眺めていたら
なんと!倍電圧整流は直接AC117Vからになっている!トランスレスラヂオか〜。ピアレスの電源トランスは断線のようです。このままではやっぱりマズいのでトランスを外してコアを分解してボビンの皮をむいてみる。
まず現れたのはヒーター巻線です。0.5mmで160ターン、中点と43ターンにパイロットランプの端子があります。これを解くと問題のB電源ですが「とーっても細くて」何ターンかは解りませんでした。太さはマイクロメーターで測ってみると
0.08mmという極細。多分2段に巻いている。(マイクロメーター使うと高度な作業をしてる気がしてちょっと気分が良ろしい)
最内側は117Vが接続される一次巻線。太さは0.2mm。
一次側は無事なのでこのままとします。問題は中間層の高圧巻線が何ターンかだがヒーターはセレン整流後が両波整流で15Vなので両端で24Vくらいと考えてB電圧は倍電圧整流で255Vなので130Vくらいと判断して160:24=X:130 X=867ターン位と考えた。
巻線機は無いので電動ドリルを使うことにします。まずボビンを作ってみる。
手持ちのエナメル線は0.2mmしかないのでこれを巻いて行きます。ホントはボードを使ってしっかり固定すべきだが、、
こうなりました。。こんなんでいいのか??とにかく巻いてみよう。。周波数変換機もないのでスライダックで低電圧にして
一応数えながら巻いて行ったのですが途中でよくわからなくなった(カウンター無いからではなく集中力の問題)。1段ごとに紙絆創膏を巻いていく。途中で1回切れたのでどの程度のテンションをかけれるかを学習した。あまり大きくなってもコアが入らなくなるのでテキトーに切り上げ多分800回位は巻いたと思われるトコでオシマイにした。その周りにヒーター巻線を巻いたが0.5mmは持って無いので解いたのをそのまま巻くという暴挙にでる。
引き出し線はラグ板を介して取り付けた。
これで通電してみると唸る。やはりニスでコアを固める必要がありそう。手持ちの色付きニスを塗ってみたら唸りは止まりました。
早速取り付けて電圧を測定すると、B電圧は幸運にもほぼ規定値、ヒーター電圧は残念ながらかなり低い値でアウト!です。またトランスの発熱が結構あることからレアショートの可能性が高い。トランスが唸ってたのはこれが原因でした。やっぱり0.5mmのエナメル線を買ってこなくてはダメそう。またコアの分解からやらなくては。。
、、、というわけでわざわざ隣町まで行って0.5mm エナメル線買ってきました。エナメル線ではなくてポリウレタン銅線。
1パックが10mだったので中点までの距離を解いたエナメル線で改めて測ってみるとギリで10m。。というかコアが収まる幅ギリギリまで巻くわけだが実際やってみたら20mを4段で巻けた。ターン数は不明(、、これが一番大切なのですが)巻きは手巻きで1ターンずつ確認しながら行いました。もう一度組みたてて取り付けてみる。
これで117V入力で測定すると整流後のヒーター電圧は10.3V。少しさみしいがセレンにダイオードをパラ接続すると11.7V位にはなる。何よりトランスの発熱が気にならない位になったのでホッとします。もちろん唸りもありません。電圧を上げるには0.4mm線を使って巻数を上げるなどが考えられるがそのためには大きな単位で購入しないといけないのです。1次側の引き出し線もそろそろ破折の危険があるのでこれ以上の深追いは諦めました。PEERLESSのシールっぽいのを作って貼って完了。
パイロットランプは「GE 51」というものだが多分6.3V球。トランスからの専用引き出し線があって忘れていたわけでは無いのだが(気持ちの)余裕がなくって設けなかった。24V球に変更して両波整流の片一方から供給します。というのは中点からのワイヤーの長さは10mで一緒なのだが4段にわたっての巻線なので次第に直径が大きくなって巻き数が減ってしまう。それを見越して長さを異なるようにして調節するかは不明。真ん中で分けて2つのコイルにするのが良いとは思うがそういう構造ではなかった。電圧を測ってみると0.3V程度の差異があったので高い方へパイロットランプを繋ぐ。ちょっと暗いランプが郷愁を誘うということにして電圧を測ると0.1Vしか下がらず。もともと電流には余裕のあるヒーター回路なのかもしれない。
気になっていたHAMもトランスを修理したら消え(気にならなくなり)ました。12AY7はX7やU7などと比べてあまり使われてません。増幅率の違い以外はよくわからないです。「A-440A」はALTECが民生用アンプを作ったらこうだ!という主張を感じるアンプでした。近代のアンプでもあまり使わないファンクションは普段はパネルの裏に隠れているのはよく見ますがここまで徹底していると痛快ではあります。しかし成功したかといえばその後のアンプではあまり採用されなかったようでツマミが多くてゴージャスなものの方が人気だった。またこのアンプのパネルもシンメトリーでツマミはMcIntoshと共通だと思われます。
「McIntosh 20W-2」でピッチからトランスを取り出して、「ALTEC A440-A」でトランスの巻き替えの真似事をやってみたわけですがトランス修理の大変さを思い知った。古いトランスには断線、ショートは付き物だが作業する人に「同じ音に仕上げてくれ」とか「引き出し線は元のもので」とか勝手なことばかり言っている(言ってました。私は。)大いに反省した。当たり前の基本的な構造の上にそのトランスの個性が載っかるわけでそのご苦労たるや、、です。でも一度はトランスを巻いてみたいと思っていたので良い経験になりました。
お読みいただきありがとうございました。
注意! 電源トランスの改造は感電、発火などの危険が伴います。くれぐれもご注意ください。