「復興の最大の妨げ」――福島県議会の決議どう受け止める
笠井亮議員 東日本大震災、東京電力の福島第1原発事故から8カ月です。「こんなときにTPP(環太平洋連携協定)か」「復興の最大の妨げだ」と(「そうだ」の声)。これが被災地共通の声であります。
10月20日、福島県議会がTPP交渉参加に反対する決議を全会一致で採択しました。こう書かれています。
「東日本大震災、さらに原子力災害とそれに伴う風評被害等により農林水産業が受けた被害は計り知れず、今後の再生産に向けた経営の維持等、生産者・団体・行政が一体となって取り組んでいる最中、TPPの参加によって本県の農林水産業はもとより、地方そのものが崩壊するものと懸念される。また、TPPは貿易だけでなく、金融や知的財産、労働、医療分野なども幅広く含まれるため、第一次産業のみならず、多くの産業が危機にさらされ、日本人の雇用も不安定になる危険性をはらんでいる」、よって「拙速にTPPに参加することは、福島県の復興の足かせになるものであり、TPP交渉参加に反対することを決議する」。
総理はこの福島県議会の決議をどう受け止めておられるでしょうか。
野田佳彦首相 被災地等のとくに農林漁業の復興ということを意識して、10月25日に政府決定した「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針」がございます。こういう取り組みを行いながら、そうした不安をなくすように全力を尽くしていきたいと思います。一方、TPPについてはいまの福島県のそういう声もあります。慎重なご意見も、推進すべきというご意見も、時期尚早という意見もあります。さまざまな意見を踏まえながら、早期に結論を得るというのがいまの私ども姿勢でございます。
笠井 「農地を復旧しても、TPPによる米価暴落で地域農業はつぶされてしまう」「参加を検討していると聞いただけで、復興への気持ちがなえてしまう」。総理はこの被災地の声を本当に真剣に受け止めているのかと思います。
全国の市町村は「反対」、世論も「政府は説明していない」
笠井 福島県議会だけではありません。農水省のまとめによると、昨年10月から現在までに、「TPPに関する意見書」が、被災県をはじめ44道府県議会からあがっています。そのうちで、「参加すべきではない」が14、「慎重に検討すべき」が28です。市町村議会では、あわせて1425件、「参加するべきでない」だけでも、約8割です。全国町村会、934町村が入っていますが、ここも3度にわたって反対決議をあげている。総理は、こういう状況が全国にあるときに、目前のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議の場で、TPP交渉参加表明を行うという結論が出せると本当に思ってらっしゃるんでしょうか。
首相 さまざまな不安や懸念にお答えをしていくために、これまでも情報収集に努め、必要な説明をやってきたと思います。ただそれは不十分だという声もいただいておりますので、さらにそうした情報収集と説明責任は果たしていきたいと思います。その上で、議論が熟した段階においては一定の結論をだすということが必要だと思っています。
笠井 「議論が熟した(段階で)」といわれましたが、熟していないんです、まさに。直近の世論調査でも、「政府は説明していない」が8割、「よくわからない」が4割、とても国民的にしっかりした議論が行われていないことは明らかで、まさに熟したなんていう状況じゃありません。(「その通り」の声)
昨日、国技館では6000人の大集会が行われて、JAや日本医師会など広範な団体はもちろん、国民的な不安と怒りが広がっています。与党・民主党の中でも大きく賛否が分かれて、22回も議論したって、結局、交渉参加決められないんでしょう。衆参の国会議員の過半数363人が、1千万を超えるTPP反対署名の請願紹介議員になっている。なぜこうなっているかといえば、なによりもTPP交渉の大前提が大問題だからだと思います。
笠井 関税ゼロ・貿易制限撤廃が交渉の前提
玄葉外相 そのとおり
笠井 食料の安定供給を壊すことになる
笠井 政府はよく、交渉に参加しないとルールづくりに入れないといわれます。いかにもこれからルールをつくる交渉を始めるというふうに聞こえますが、あらためて確認したいんです。
TPPというのはすでに4カ国、P4といわれるシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイが入っている協定がある、この協定を引き継ぐ交渉だということです。その協定にあたっては、二つの基本的な原則、ルールがすでにあるということだと思うのです。
一つは、TPPでは、すべての貿易にかかわる関税はゼロにしていくということです。もう一つは、関税以外の方法での貿易制限はこれまた原則撤廃していくということです。こうしたTPP交渉に新たに参加するには、この二つのことは基本的に認めるのが前提条件だということでは間違いありませんね。
玄葉光一郎外相 いまP4協定を引き継ぐからという話で、いわば関税の原則撤廃、そして他のルールをもっと緩めるという話がありました。たしかにTPPというのは、より高い水準の自由化を目指すという意味ではある意味その通りだというふうに思います。
外務省資料も「除外の品目も…関税撤廃求められる」
笠井 その通りだということであります。そういうTPPの交渉に参加するということが、日本にいったい何をもたらすか。なにより国民への食料の安定供給を土台から壊すことになるということが問題になっています。政府自身も重大な懸念を認めています。外務省が提出した資料で「TPP協定交渉の分野別状況」がありますけれども、これによりますと、日本側の慎重な検討を要するという懸念点が、21分野にわたって具体的に述べられているわけです。最初にでてくるところでいいますと、こうあります。
「高い水準の自由化が目標とされているため、従来我が国が締結してきたEPA(経済連携協定)において、常に『除外』または『再協議』の対応をしてきた農林水産品(コメ、小麦、砂糖、乳製品、牛肉、豚肉、水産品等)を含む940品目について、関税撤廃を求められる」
そこで、鹿野農水大臣にうかがいますが、農水省はこれまで、日本の関税率は平均していえば12%で、国際的にも十分低い水準にある、これ以上下げるのではなくて、守るべきものは守ると答弁されてきました。このTPPに参加しますと、いまの外務省の懸念点があるわけですが、農林水産品の関税もすべてゼロになっていくということでよろしいんでしょうか。
鹿野道彦農水相 いま外務大臣からお話がありましたように、TPP協定は、関税撤廃を前提としているといわれているということは承知しております。
笠井 そうなると、農産品についても関税が撤廃されていくということになる。
農水相 そのようなことだと思っております。
自給率13%・雇用減 農水相「手を打たないとそうなる」
笠井 そうなるとどうなるかということなんですけれども、新聞に出ているこの意見広告が目を引きました。「店頭から国産豚肉が消える!?」と。日本養豚協会の出した意見広告が、11月3日付で新聞に出されました。
意見広告で紹介されているのが、農水省の試算なんですけれども、全ての関税が撤廃された場合、食料自給率がこのグラフにありますように、39%から13%に急落をする。同時に豚肉自給率についても急落をするということで、現在、国内で生産されている豚肉の70%が輸入に置き換わる。この養豚協会の意見広告でも、「産業としての養豚は国内から消滅してしまうことにもなりかねません」と警告をいたしております。
米生産については、90%がなくなっていくということで、農林水産物の生産額は4兆5000億円も減少して、関連産業も含めると、GDP(国内総生産)の減少が8兆4000億円になって、雇用は340万人減る。関税を撤廃するとそういう深刻な事態になってしまうということでよろしいでしょうか。
農水相 基本的に、TPPに参加をすることになった場合に、何も手を打たないことを前提として、こういうことが予測されるということでございます。
関税撤廃と農業「再生」は両立しない
笠井 総理は、TPPの参加判断のいかんにかかわらず、「農業再生」を進めるとか、両立させるということを本会議以来、言ってこられましたけれども、政府が出した「再生」方針も、土地利用型ということになっております。平地で20ヘクタール、30ヘクタールの形態が大部分、大宗(たいそう)の構造をつくるというわけでありますけれども、そうなりますと96%の農家は切り捨てられて、10人に9人以上を離農させられるということになってしまうんじゃないか。結局関税を撤廃することによって、どうやって両立できるのかということになってくるんじゃありませんか。
農水相 まだ、交渉参加についても決めていない段階であります。私どもとしては、TPP交渉に参加するかしないかにかかわらず、食料の安定供給に取り組んでいくことは、農水省に与えられた責務であると思っております。
笠井 いまの(答弁を)聞いていますと、とてもあした総理が判断するなんていえる状況じゃないなということです。(試算は)「何もしなければ」ということですが、では、政府が出している計画を聞いて、農家の方や畜産の方、いろんな関係者が、これならTPPに入ったって大丈夫だといっているんですか?(「いっていません」の声)。全然そんな納得していないわけですよ。具体的に納得できるものを出さずに、「こうよくなるかもしれない」という願望をいくらいったって、これまでも自由化ということで、どんどんつぶされてきたというのが、実際です。牛肉、オレンジ、米…。結局、バケツに穴を開けておいて、どんどんつぎ込んだって、自給率はどんどん下がってきたじゃないか。これがこの間のさんざんの経験であります。
それよりもこのTPPに入ることによって、関税撤廃することによって、具体的に生きた血の出る現実を起こす。だいたい競争相手は、世界でも最も農産物の安いアメリカやオーストラリアです。日本農業が壊滅的打撃を受けるのは避けられない。1戸あたりの耕作面積がよくいわれます。アメリカは日本の100倍、オーストラリアは1500倍。北海道の方だってかなわないといっているんですよ。競争できる強い農業なんていっても、もう幻想だということを、実際に当事者のみなさんはもう痛感している。
政府は、「守るべきものは守ります」と繰り返していうけれども、では具体的に米を守る、あるいはこれを守るということは一切いわないじゃないか。こうやれば守れるという、ちゃんと納得できるものも出ていない。
2006年には、衆参の農林水産委員会で、当時、日本とオーストラリアの自由貿易協定について、「重要品目を除外しない交渉入りには反対」を全会一致で決議してきたわけであります。TPP交渉に参加するにあたって、重要品目、センシティブな品目は守る、このことについては、主張してつらぬけるとはっきりいえるんですか。
農水相 国会決議は承知しております。政府が昨年の11月、包括的連携協定につき、まとめさせていただいたなかにおきまして、いわゆる高いレベルの経済連携をすすめていくなかで、センシティブ品目に配慮しながらという項目も盛り込まれておることも申させていただきたいと思います。
笠井 配慮しながらなんていうことでは弱くてだめなんですよ。だいたい、カナダの場合は、このTPPに交渉参加するかどうかということで、チーズやアヒルなどの家禽(かきん)類の肉については、関税撤廃を表明しなかったということで、交渉参加を断られてしまったわけでしょう。
TPP交渉参加というのは、日本の農林水産業に壊滅的打撃を与えて、国民への安定的な食料供給を土台から崩す。とくに被災各県にとっては、さらに深刻であります。日本の有数の米どころ、ワカメ、コンブ、シャケ、マスなど水産業にも甚大な被害が出てくる。TPP参加強行は、だから復興への希望を奪うという声があがっているわけであります。
政府は「国益」ということを口にしますが、私はこれほど「国益」を損なうものはないと思います。自国での農業と食料生産をつぶして、もっぱら外国に頼る国にしていいのかと、この国の根本的なあり方が問われていると、強くいいたいと思います。
笠井 米議会の承認が前提、要求のまないと交渉に入れない
外相 可能性ある。個別に対応
笠井 そこで、この交渉に新たに日本が参加するには、もう一つ前提となる条件があると思うんです。すでにTPPの交渉に参加している国は9カ国ですが、新たな交渉参加を決めた国については、すでに交渉に参加している国に、「私たちの国は参加したいです」と通報して、説明をして、それら諸国の同意を取り付けるための調整・協議を行うことになります。
そこで、玄葉外務大臣にうかがいますが、この参加各国のなかで、とくにアメリカの場合、新たな交渉参加国を認めるための国内手続きはどのようになっているか、端的にわかりやすく説明してください。
参加国の同意必要、米議会では90日かけ協議
外相 TPP協定交渉の新規参加につきましては、正式な手続き規定があるわけではありません。その上で、参加には現在交渉に参加している9カ国の同意が必要であると承知しております。ペルーとか豪州、マレーシア、チリ、これは閣議了解、閣議決定で結構だということなんです。
米国は、もともと通商権限が議会にあって授権していたという経緯があるものですから、米国政府は新規の参加国と交渉開始する場合には、少なくとも90日前に、連邦議会に交渉開始の意図を通知し、議会との協議を行う。この議会への通知は、ある程度米国政府と議会との調整・協議が進んでから行われると承知をしていて、このための時間も一定程度必要になると考えております。
笠井 いまの答弁をパネル(図)にしてみました。アメリカとの関係でいいますと、まず日米両政府の事前協議。これはすでにいろいろやってきているということもありますが、参加表明した場合、アメリカ政府は米議会との間で、調整・協議を事前にやったうえで、正式に(議会に)通知をする。その後、最低でも90日間をかけて同意・承認をうることになります。それで初めて、日本は参加国の交渉テーブルにつけるということになります。
アメリカは、これまでも日本に対して、対日要求報告書を繰り返し出しながら、日本に貿易の制限を取り払うように強く要求してきている国であります。そのアメリカから、日本が交渉参加の同意・承認を受けようとすると、政府だけじゃなくて議会も含めてこういう手続きが必要で、3カ月プラス事前にということで、期間は定まっていない。官房長官はかなり長くなるかもしれないということも記者会見でいわれた。そういう時間もかけて、交渉に参加したいならアメリカの対日要求をちゃんと聞いて受け入れなさい、アメリカの要求をのまなかったらこういう承認手続きをえられませんよ、交渉に入れませんよ、こういうことをいわれることになるんじゃないでしょうか。
外相 確かにTPP協定のめざす高い水準の自由化交渉をする準備があると、少なくともそれに対する信頼を参加国からそれぞれえていかないといけないということは確かだというふうに私自身も考えております。
ただ同時に、現時点でいまおっしゃったような個別の2国間の懸案事項をあらかじめ解決していくことを交渉参加の前提条件として示している国はありません。その上で申し上げますと、特定国から個別の2国間の懸案事項への対応が求められる可能性はゼロではないと思います。その場合、やはり何が対応可能で、何が困難かということを、TPPの協定とは別に、個別にしっかりと対処することが、日本政府としては大切なことではないかと考えております。
笠井 いま大臣がいわれました「信頼をえるためには」ということは、要するに、TPPの原則、関税は基本的にゼロにしていく、関税以外の規制も撤廃するということをちゃんといわないと、信頼がえられないわけです。そういう世界ですから。あらかじめ前提条件としてはいっていないといいますが、前提条件としていっていなくても、アメリカは実際には、この要求をのまなかったら交渉に入ることを同意しないといってくる可能性はあるわけですね。2国間の交渉といいますが、アメリカは結局、日本が入るかどうかを同意・承認する側なんですよ。
対等・平等ではないんです。アメリカからは承認してもらわなければいけないのです。そのときに、信頼を得るためにはこれが必要となったら、それがTPPに入る前提になってくるわけです。
米国は遺伝子組み換え食品の表示撤廃を求めている
笠井 TPPというのは、食料、農業だけではありません。暮らしと経済のあらゆる問題がかかわってきて、いま24分野が交渉対象とされています。貿易の制限撤廃が求められてくるということで、いろんな議論がある。ではアメリカは、実際に日本に対して何を求めてきているか。
外務省が10月25日に提出した文書がございますが、米通商代表部(USTR)が公表した「2011年外国貿易障壁報告書」で、日本に言及した部分であります。さらにそれ以外にも、貿易の技術的障害に関する報告書なども含めると、数えてみましたらざっと約60項目にもわたって、要するにアメリカ・ルールで自由化せよという要求を列挙しております。
例えば、いまとりわけ国民の関心が高い食の安全にかかわる部分をみますと、遺伝子組み換え食品の表示義務の撤廃を求めてきております。通商代表部の報告書にはこうあります。「アメリカのバイオテクノロジー食品の輸出が妨げられ、場合によっては完全に締め出される」。こういう批判をして、「不当な貿易障壁」だということで、表示義務の撤回を日本に求めています。玄葉大臣、そういう要求がアメリカからありますね。あるかないかだけ答えてください。
外相 2国間の経済対話ですから、不断にこういう話はあるということなんですね。ただ、この遺伝子組み換えの表示はまず一つは、WTO(世界貿易機関)のなかでSPS協定(衛生・植物・検疫措置に関する協定)というのがあって、いわゆる科学的知見に基づけば、国際水準より高い水準の措置を行うことができると書いてあります。現に、いま議論がTPPの中では行われていませんが、行われる可能性は否定できないと思います。
笠井 私の質問に答えていただきたい。私はそういうことが要求としてありますかと聞いたので、そこをはっきりいってください。あるんですね、そういう要求が。
外相 先ほど申し上げたように、不断に2国間ではあるんです。いろいろこれまでもあったから、あるかもしれないと申し上げてそれについての私の考え方を申し上げたんです。
笠井 あるかもしれないじゃなくて、外務省が出した文書に書いてあるじゃないかといっているんですよ。アメリカから、「非関税障壁の撤廃なのだから、表示を撤回せよ」と。
だいたい、加工食品の表示というのがあります。だれでもお店にいきまして、まず食べ物を買うときに加工食品の場合でいえば、(商品で)まずみるのがこういう表示だと思うんですよね。原材料は何か、大豆なら遺伝子組み換えであるかないかが大きな注目点になります。消費期限、賞味期限はいつか、保存方法はどうか、そして、だれがどこでつくったかを確認してから買うんだろうと思います。
だいたいこの消費期限とありますが、これだってもともとは「製造年月日」とあったわけですよね。その表示があったのに、アメリカも要求することが大きな要因になって、1994年に廃止されました。当時のアメリカの議論は、製造年月日表示ではアメリカから日本に輸出する食品の方が輸送期間が長い、そうすると日本の店頭で並べられたときに比べられて、アメリカがつくったのが古いね、だから新しいのを買おうということで、売れ行きに影響が出てアメリカに不利になるという要求があって、それが消費期限、賞味期限表示にされてしまったわけであります。
今回も、まずTPP交渉に入る前の段階で、それに入るためには、こういう要求どうするんですかと突き付けられて、豆腐、納豆、みそなど、30品目に表示が義務付けられている「遺伝子組み換えでない」という表示を消せというのがアメリカの要求ですから、それを受ければ(表示は)消えてしまうということになります。やはり消費者からみればこれは本当に心配でしょうがないわけですよ。こういうことになりますと、食の安全・安心が本当に総理として、保証できるとお考えでしょうか。
小宮山洋子厚生労働相 食品の輸入につきまして、食品安全に関する措置を実施する権利というのは、WTOのSPS協定で、日本を含む各国に認められていますので、飲食品については、これをもって、的確に監視していくことができます。TPPの協定交渉で、今後、その食品安全基準の緩和などが提起される可能性は排除されませんけれども、仮に日本が参加をする場合、TPP協定のような複数国間の交渉では、ある国の食品安全に関する措置の変更を他の国から一方的に求められることは考えられないと思います。
BSE月齢引き下げのように結局譲歩することになる
笠井 いまあれこれいわれましたが、先ほど「TPP協定交渉の分野別状況」ということで、政府が内閣官房以下出している文書で、具体的に各分野についての規定というなかで、「現時点では議論はないが、仮に個別分野別に規則が設けられる場合、例えば遺伝子組換え作物の表示などの分野で我が国にとって問題が生じる可能性がある」という懸念が表明されています。
どういう問題が生じる可能性があると考えているのですか。先ほどは問題はおきないといいましたが、どういう問題が生じると考えているのですか。
外相 その文章の趣旨は、まさに日本が求める表示と違う基準を主張する国がTPP協定の交渉の中で出てくる可能性は排除されないという意味です。その上で先ほど申し上げたように、現時点では議論されていないけれども、そういう主張がなされたときには、われわれは、すでに認められているWTO、SPS協定を曲げるような規定を受け入れるという考えをとっていないということです。事実関係で申し上げれば、オーストラリアとかニュージーランド、韓国もそうなんですが、非常に厳しい表示を求めています。それが変わったかといえば変わっていません。
笠井 米韓のFTAでは、撤廃されているはずですよ、遺伝子組み換え(表示)は。まさにそういう点でいいますと、私がさっきから言っているように、TPP交渉の舞台になる前段が問題なんですよ。アメリカからいわれるわけですから。これまでだってこの表示変えられてきたじゃない、アメリカの要求で。またやられるのではないかという話をしているのです。いろいろいってもそこのところに説得力がありません。
BSE(牛海綿状脳症)の月齢引き下げのように日本は結局、アメリカに譲歩することになるという懸念が実際に国民にあるわけです。とにかく、日本に売りたいというアメリカに対して、国民の食の安全・安心を守るという立場から絶対に譲歩しないと国民の前に言えるのかといえば、そうなっていないじゃないですか。そして、日本国民の食の安全を脅かす要求を列挙し突き付けてきているのがアメリカであります。
それでなくても、この食の安全というのは、今度の福島原発事故で大量の放射性物質が拡散されて、子育て世代はもちろん、多くの国民は放射能汚染を心配して、神経をとがらせている。その上でTPP参加によってさらに脅かされる。政府にしたって、少なくとも問題は生じるようなことは起こるということでしょう。そんなことは許しちゃいけないと思うんです。よく考えるべきだ。
混合診療解禁も「排除されない」(外務省)
笠井 国民の命と健康にかかわる医療の分野ではどうか。アメリカの通商代表部の報告書では、日本では「厳格な規制によって、外国事業者を含む営利企業が包括的サービスを行う営利病院を提供する可能性等、医療サービス市場への外国アクセスが制限されている」と批判し、日本の医療を外国企業に開放するよう要求しています。
私は、こういう要求を受けるとたいへんなことになると思います。医療に利益第一主義が持ち込まれて、保険のきかない医療拡大で自己負担が増え、お金持ちしかよい医療が受けられなくなる。不採算部門が切り捨てられ、地域からの医療機関撤退がいっそうすすみかねないという懸念があります。こういうことが、交渉対象にならないという保証がありますか。
外相 混合診療の解禁とか営利企業の医療参入、これは議論の対象にはTPP交渉ではなっておりません。同時に、TPP協定交渉参加国間のFTAを調べてみますと、公的医療保険制度は適用除外になっているところです。いずれにせよ、仮に議論の対象になったと仮定した場合であっても、わが国としては、やはり国民皆保険制度を維持をするということで対応していくべきものというふうに考えております。
笠井 外務省が一昨日、民主党に対して提出した追加資料のなかでは、「TPP協定は交渉中であり、その内容は予断できないものの、混合診療の全面解禁がTPPで議論される可能性は排除されない」と書いてあります。そう言わなかったでしょ、いま。これは一体どう違うんですか。民主党のなかでは排除されない問題があると言っているじゃないですか。可能性は排除されないんでしょう。
外相 可能性はどういう場合であってもまったく0・0%かと言われれば、それはそうじゃないかもしれません。ですから、先ほど申し上げたように、仮に出てきた場合は、こういう対応をしますと申し上げたわけです。
笠井 どんな場合でも可能性はゼロではありませんという話じゃなくて、ここでは「混合診療の全面解禁がTPPで議論される可能性は排除されない」って書いてあるんですよ。
TPPでは、このことがいま問題になっていないと大臣も言われましたが、日本が入っていないから問題になっていないんですよ。保険証一枚でどこでも医者にかかれるという日本の国民皆保険制度は、WHO(世界保健機関)の年次報告書のなかでも、世界の成功例とされてきました。これまでの9カ国の交渉では対象になっていないのは、そういう国がないからなんで、その日本が交渉に入ったら、対象になる可能性が大いにあるってことなんですよ。
アメリカ政府、議会からこういう規制を取り払わないと、TPP交渉に入れてあげないと言われたら、どうするか。米側の要求どおり、混合診療が全面解禁されたら、窓口の3割負担だけじゃなくて、10割負担の自費診療もあわせて入ってきて、必要な医療はすべて保険で行う皆保険制度が壊される。医療格差がおこるわけですよ。
そういう問題についてアメリカが要求している。結局、日本がTPP交渉に参加の意向を表明したときに、アメリカ政府、議会の承認を得るときに、入りたかったら、そういうことものみなさいよと。相手はアメリカですよ。これまで、さんざんそういうことでやってきた相手でしょう。断るならはっきり断るという保証はあるんですか。絶対、それをさせないと言えますか。
外相 いまおっしゃったような公的医療保険制度は、維持しなきゃいけないというふうに思います。
笠井 アメリカとの関係でいえば、個別の対処が結局、TPP交渉に入るかどうかの前提条件になってくるわけですよ。先ほど、あなたが言われたみたいに。
米韓FTAでは、医療分野に株式会社が参入するということで、現に仁川(インチョン)ではベッド数600の「ニューヨーク・キリスト長老会病院」というのが建てられている。すべて個室のみで完備されて、医療にかかわる費用を病院経営者みずからが決めることが可能になっているんです。結局、アメリカ・ルールでやれということになってきて、それを受けなかったら、(アメリカは)いいですよ、受けないんだったらTPP参加については保留しましょう、入れてあげませんと。アメリカが認めなかったら入れないということになります。
笠井 守るものは守るというが、具体的に一覧を示せ
外相 すべてを交渉のテーブルに乗せるのが原則
野田首相 国益で判断
事実上の日米FTA、米国の輸出戦略に取り込まれる
笠井 そこまでして、どうしてTPP交渉参加に前のめりなのか。総理は、TPP協定について、アメリカだけじゃなくて、「幅広い参加国が参加するものであって、世界の成長エンジンであるアジア・太平洋地域の成長力をとりこむことができる枠組みだ」と言われました。しかし、アジア・太平洋諸国たくさんありますけれども、現在のTPP交渉参加国は、そのうち9カ国だけです。それに日本が加わったとしても10カ国。そのGDPを計算してみますと、日本とアメリカで全体の91%を占める。残りの9%のうち、だいたい5%はオーストラリアです。それ以外の国が数%という比率になっている。日本のTPP参加というのは、結局のところ、事実上の日本とアメリカのFTA、自由貿易協定ということになるんじゃないですか。
首相 そこまでして前のめりにというお話でございましたが、日本の誇るべき公的保険制度を壊すということまでして、何かをすすめようという気持ちは、私はまったくありません。2国間の交渉があって、相手はいろいろ要求してくることはあるでしょう。それは可能性はゼロではないと思うんです。それは玄葉大臣がおっしゃるとおりです。だけど、対応困難なもの、対応できるもの、それはきちっと国益をふまえてきちっと交渉するというのが日本の立場であるべきであろうと思っております。もし、交渉に参加する場合の話ですよ。
予算委員長 日本とアメリカとの2国間のFTAじゃないかという質問です。答えてください。
首相 現状の9カ国のなかで日本が入った場合、GDP比率で見れば、そういうことになると思います。ただ、これはTPPからFTAAP(アジア太平洋自由貿易協定)への道筋もあるわけで、それからの広がりも考えると、単なる9カ国のGDPだけで比べるものではないだろうとは思います。
笠井 広がっていくんだといわれましたが、アジアの国々で、たとえばインドネシアの外務大臣は、「私たちはTPPじゃなくて、ASEANでやっていきますよ」と昨日も言われました。いま総理が冒頭に、いや、皆保険を守る、絶対そこは交渉でがんばると言われましたが、じゃあ、具体的に示してください。参加意思を表明する、それにあたっては、これは守ります、これは守りますと、その一覧表をちゃんと出して、そのうえで議論をしようじゃないですか。出しますか。
外相 まず、自由化交渉のテーブルにすべてまず乗せるというのが、すべての国の原則なんですね。そのうえで、交渉のなかで、われわれは当然何を守り、何を攻めるのかということをふまえて、しっかりと対応するということだと思います。(「交渉がわかってない」などの声)
笠井 「交渉がわかってない」という声がありましたが、そのとおりだと私は思いますよ。だって、テーブルに乗る前に日米の協議があるんですよ。そもそも最初にいったように、このTPPというのは、関税はゼロにしていく、それからそれ以外の規制も取っ払うという話の世界に入ろうというわけですから。だから、これを守るというのははっきり出して、国民と議論してという話にならなければおかしいと思うんです。
このTPPの動きというのは、アメリカ主導で、そういう自由貿易圏を日米中心に広げようということになっている。カネ、ヒト、モノさえ自由に動かせば、経済はよくなると。「妨げるものは悪だ」といってきた、そして各国の自主性を否定する。そんなやり方をやってきたマネー資本主義の典型だと思います。もう完全に失敗したわけですよ、そういうやり方は。それを装い変えて蒸し返すのがTPPで、新しいどころか古いシステムでしかない。だから、韓国だって、米韓FTAに対して、強い抵抗、反論、そして運動が起こって、批准だって問題になっているわけですよ。
総理、いまあせっているのは、アメリカのほうだと思います(「そうだ」の声)。国内の長引く不況、金融危機のもとで、失業率も増大する。経済がゆきづまっている。来年の米大統領選挙を控えていて、オバマ大統領は再選戦略をとっているというなかで、日本のTPP参加によって、アメリカの対日輸出戦略に取り込もうと必死になっている。そういうなかで、日本が早くTPP交渉に参加表明しないと入れてあげないとかいいながら、結局はこの間だって期限をずらしながら、「日本を待ってます」といっているのがアメリカ政府です。
それをなんで、「乗り遅れるから」などと慌てなきゃいけないのか。いったん交渉参加を表明したら、次々とアメリカは対日要求を突きつけてくる。それをのまなかったら参加を認めないといわれるだけじゃないですか。総理、それが、本当に「国益」を考えるなら、こんな道をとるべきじゃないと思うんですが、いかがでしょうか。
首相 私どもの政権としては、高いレベルの経済連携と農業との両立を図っていこうということが基本姿勢でございまして、日本のEUとのEPA交渉もこれは加速化させていきたい、日韓もやっている、日中韓も考えている等々、そのなかで、TPPはその可能性があるのかどうかを、いま議論させていただいているということでございまして、単にアメリカにこんな思惑があるとか、そんな話だけではなくて、日本の国益として、この交渉に参加したほうがいいのかという、主体的な判断でいきたいと考えております。
笠井 米国とは時間かけ協議、国民には意見も聞かず参加表明か
笠井 だったら、そういう主体的判断について、もっと国民的議論をしなきゃだめじゃないですか、「国益」はなにかって。そこが問題だと思います。
私は、やっぱりいますすむべき道は、国民生活を応援する内需主導の政治に切り替える。そして世界との関係、アジアの関係も互恵・平等の経済関係をつくっていくということで、食料主権はそのなかできちっと大事にする、そして経済主権も大事にする、尊重しながらやる、そういう枠組みを大いにつくる先頭に立つべきだと思います。
政府は、国民や国会には情報を出さずに、与党に小出しに出して、そしてさまざま議論してきたといっていますが、懸念には「主体的に判断する」「最大限に努力する」「慎重に検討する」「余地は考えにくい」「可能性はゼロとはいえない」…こういう言葉を並び立てて、ことを小さく見せようとしていると思います。他方でアメリカとは緊密に協議しながら、国のあり方の根本、「国益」にかかわる重大問題で、拙速に結論を出そうとしている。こんな姿勢は許せないと思うんです。
そこで、最後に総理にうかがいたいんですが、政府は、与党のチームには資料を出し、22回(議論を)やってきたそうです。でも、日本の国会は、公式の議論の入り口に入ったかどうか、そういうところであります。
一方でどうですか。アメリカ議会のほうでいきますと、日本政府の交渉参加の是非について、米政府との事前協議に時間をかけたうえで、日本が交渉に参加するかどうかを認めるかどうかだけでも、3カ月も議論する時間があるんですよ。日本の国会では議論もこれからで、国民の意見も聞かずに、3カ月どころか、あした交渉参加は表明するなんていうことがあっていいんですか。こんな国会軽視、国民軽視はないんじゃないですか。
首相 アメリカは90日のルールがあるということはそうです。ほかの国はありません。日本は、仮に交渉参加をして、政府が署名をしたとしても、最終的には国会の承認、批准を得なければいけないわけで、国会の統制は受けるし、しっかり議論いただくっていうことはあるんです。
笠井 最終的には批准されるからいいんだっていわれますけど、まずこの段階で日本の議会にちゃんと資料を出して、国民にも資料を提示して(「そうだ」の声)、「国益」はどうなのか、これは守る、これは大事だということを徹底して議論したうえで、日本が参加するかどうかということを判断したっていいんじゃないですか。私たちは、交渉参加反対ですけれど、少なくとも民主主義を考えたら、主権国日本を考えたら、そのぐらいやっていいんじゃないでしょうか。いかがですか。
外相 国会で議論するのは、それはもちろん大事なことだというふうに思います。ただ、アメリカの場合は、もともと議会に通商(交渉)権限があった。それをTPA法という法律で、いわば授権していたという経緯があるわけです。日本は内閣に条約締結権があって、国会は承認する。まさに制度の違いなのです。
笠井 それぞれの制度の違いなど、私も知っています。しかし、こういう大事な問題で、国のあり方そのものにかかわることで、これだけたくさんの懸念が出ていて、それに対して十分答えきれたか。与党・民主党のなかだって参加しますと表明することを決められないんでしょう。政府自身も懸念事項があるといっていて、与党のなかからも、野党のなかからも、団体や国民のなかからも、たくさんの疑問や問題点が出ているときに、それについてきちっと議論を経ずして、踏み出していくということが民主主義としてあっていいのかという問題だと思うんですよ。手続き論じゃないんです。
機が熟したらといわれましたが、いま熟しているといえるのかということについては、真剣にお答えいただく必要があるんじゃないですか。何をもって熟したのかと。最後にうかがっておきたいと思います。
首相 今回の問題は、まさに日本がアジア太平洋地域の成長力を取り込んで、貿易・投資のルールづくりの下敷きにかかわっていくかということと、農業の再生との両立をはかれるかどうか(です)。そのほか、いろんなご指摘のいろいろなご懸念があることは事実でございますが、そういうものを踏まえて、なにが国益かを総合的に判断しなければいけないし、その結論は早急に出していきたいと考えております。
参考人質疑・地方公聴会を求める
笠井 こうなればよくなるといういろんな願望があったり、いろんな計画があっても、実際に起こってきたこと、起こること、マイナス面は大きいっていう問題を含めて(議論すべきです)。私は委員長にお願いしたいと思います。このTPP交渉参加の是非に関して、当委員会で参考人をお呼びいただいて質疑すること、全国各地で意見が出ていますから、地方の公聴会を開催することを理事会で協議いただきたいと思います。
委員長 理事会で後刻、協議いたします。
笠井 終わります。(拍手)