サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 10476「ノーボーイズ,ノークライ」★★★★★★☆☆☆☆

2010年07月31日 | 座布団シネマ:な行

裏稼業で知り合った日本と韓国の二人の青年が、孤独や絶望の中で人間の温もりを知り、静かにきずなを深め合う過程を描く人間ドラマ。『ジョゼと虎と魚たち』をはじめ繊細(せんさい)なストーリーを編み出す渡辺あやが脚本を担当し、韓国の新鋭・キム・ヨンナムがメガホンを取る。キャストには家族への複雑な感情を抱える青年に妻夫木聡、孤独だが純粋な運び屋に『チェイサー』のハ・ジョンウがふんする。美しく切ないタッチでつづられた若者たちの心の軌跡を前に、深い余韻が胸に迫る。[もっと詳しく]

日韓合作映画の未来のひとつの方向を暗示している。

日韓の合作映画といっても、いろんなパターンがある。
それぞれの国の映画に、資本や配給やといったかたちで参加するもの。
音楽や美術やといった専門スタッフとして参加が求められるもの。
原作を(小説や漫画)、翻案するもの。
主役クラスを招聘するもの。
それぞれの国のユニットで撮影などを分担するもの。
スタッフ・キャストがかなり合一して、共同制作といえるもの。
日韓における、文化の交流凍結の時代を知る者にとっては、感慨深いものがある。



そうかといって、質的にレベルの高いものが揃っているかというと、かなり疑問ではある。
資料を調べたわけではないので、上記の日韓協力のどのパターンかは別として、この何年かをとってみれば、感心したのはソル・ギョングが30kgの体重を増やして挑んだ『力道山』(04年)と、これはもうペ・ドゥナの魅力と監督の力量につきるのだが、山下監督の『リンダ・リンダ・リンダ』(05年)と是枝監督の『空気人形』(09年)ということになるかもしれない。
あと、個人的にはギドク監督がオダギリ・ジョーを起用した『悲夢(ヒム)』(08年)も、ハングル語と日本語の違いを無視して話を進めるという奇手を用いて、注目させた。
人気のイ・ジュンギと宮崎あおいを共演させて、京都の観光映画のような作品となった『初恋の雪 ヴァージン・スノー』(06年)や、JR大久保駅の転落客を助けようと犠牲になった韓国青年を描いてちょっとした問題作ともなった『あなたを忘れない』(06年)や、戦後大阪の朝鮮人集落を描いた作品だが、原作ほどのきれはなかった『夜を賭けて』(02年)という作品なども思い出すことは出来る。
日韓合作ということよりも、崔洋一監督や井筒和幸監督や李相日監督など、在日の監督などが活躍しており、そこでコリアン問題などが言及されるのはお馴染みとなった。



どうしようもない駄作ももちろんある。
『火山高』のキム・テギョン監督と『デス・ノート』の脚本家大石哲也というラインアップだったので「駄目だこりゃ」と思ってはいたが、予想を裏切らず凡作であった『彼岸島』(09年)もそうだが、最悪だったのはBeeTVと称する携帯配信動画チャネルを意図したものでもあったのだろうが、『I am GHOST』という作品。
せっかく主人公に『映画は映画だ』(08年)で見事な演技をみせたソ・ジソクと谷村美月を起用しているというのに。
監督はショートフィルムやCMでまあ有名な園田俊郎に、脚本がロボット所属で『つみきのいえ』(08年)で意外やアカデミー賞短編アニメ賞を受賞した平田研也だが、どこか広告代理店が電卓片手にとってきた企画なのかどうか知らないが、切腹ものである
ついでにいうと、制作会社ロボットの事務所は、僕の恵比寿の事務所のすぐ前にあるのだが(笑)、イマジカと統合されたのがいいのか悪いのか知らないが、ちょっと品質にばらつきが有り過ぎるのではないか。
『海猿シリーズ』や『湾岸シリーズ』などはまあ人気もあるからいいとしても、『少林少女』や『逆境ナイン』をなかったものとは言わせない。
内部事情は知らないが、とんでもないプロデューサーがでかい顔をしているのかもしれない。



横道にそれたが、そういう日韓合作映画にとって、『ノーボーイズ、ノークライ』という作品には、合格点がつけられると思う。
韓国の家族の愛も知らず、やくざに使われて日本に密航させられている青年ヒョングに、ギドク作品や『チェイサー』(08年)でも御馴染みのハ・ジョンウ。
そのヒョングを浜辺で迎える青年享に妻夫木聰。享は痴呆の祖母と淫乱な妹、そしてその妹がそれぞれ別の男との間に孕んだ子供が3人の面倒をみている。末の子は難病でもある。
ヒョングと享は、ある事件に巻き込まれる中で、組織を裏切り、逃亡する中で、不思議な友情が芽生えてくる。
脚本は『ジョゼ虎』(03年)、『メゾン・ド・ヒミコ』(05年)、『天然コケッコー』(07年)で地力を見せた渡辺あや。
闇社会も絡んだ今回の作品は、やや畑違いかなという気もするが、それでもちょっとしたシーンに光るものがある。



ボートの桟家でたった一人うだるような暑さのなかでボートに大の字になって寝転んでいるヒョングの俯瞰のシーン。
行方がわからなくなった祖母を探しに出て、自転車置き場に倒れこんだ享のこれまた俯瞰のシーン。
このふたりが、さんざんな不遇な目に合いながら、ラストシーンでは、ちょっとした希望とも取れるシーンを幻想させて、気持ちのいい終わり方にしている。
ヒョングや享にとって、日韓の歴史も何も関係ない。
日本にいようが、韓国にいようが、居場所がなく重苦しい現実に、圧迫されている。
そんなふたりが、どこかで兄弟のような、感情を持ち始める。
何が通じ、何が通じないのか。
単なる言語ではなく、どこかで自分のなかの持って行き場のない怒りや孤独を、たぶん相手の中にも感じているのだろう。
今後も、ますます日韓の共同作品が増えることだろう。
そのこと自体は歓迎したい。
『ノーボーイズ、ノークライ』は、その行く先のひとつを暗示している。

kimion20002000の関連レヴュー

力道山
リンダ・リンダ・リンダ
空気人形
悲夢
チェイサー



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4 コメント

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あまり (sakurai)
2010-08-01 17:37:19
乗り気ではなかったのですが(と言いつつ、見たとは思いますが)、知り合いにジョンウをとっても好きな方がいて、その勢いで見たというか、なんというか。
話自体は、好き!な部類ではないのですが、あたしは一皮も二皮もむけた感のある妻夫木君に感心しました。
別に自分のキャラを作る必要はありませんが、このまま小さくまとまっていく・・・道を外した勇気みたいなもん?そんな感じがよかったです。
どうやら新作の妻夫木君の「悪人」が、ものすごくいいらしいので、楽しみです。
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sakuraiさん (kimion20002000)
2010-08-02 01:35:31
こんにちは。
なんか、妻夫木君、いいですねぇ。
大河ドラマの主役をやりながら、この作品なんかもマイナーですものねぇ。
暗い青年の役も、なかなかいいと思います。
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弊記事までTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2011-02-14 01:14:19
>やや畑違いかな
実際、犯罪映画的なプロットには相当難があったように思います。^^
二人の交流は大変良かっただけに残念でした。逆にその犯罪映画の部分がきちんと繋がっていたらもっと感銘も深まったでしょうに。
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オカピーさん (kimion20002000)
2011-02-14 03:56:10
こんにちは。
お話の筋には、おっしゃるように無理がありましたね。
周辺の極道たちが、救いがなさ過ぎ(笑)
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