杉原厚吉,大学教授という仕事,水曜社,2010年。
杉原先生のご講演を聞いてからというもの,僕はすっかり自称
杉原教の信徒である。
この本は,正直なところ,一般の人が読んでも大して面白くはないかもしれない。
ところが,著者と同じ理系の大学の関係者にとっては非常に貴重な一冊なのである。
特に,これから専任教員として大学業務に携わろうとする若手研究者にとってはバイブルだと言っても過言ではないと思われる。
そもそもこの本を知ったきっかけは,敬愛する先輩の一人であるA木先生がこの本に杉原先生からサインをもらっていたのを目撃したことであった。
その先輩は大学の講師になって数年で,まさにこの本を読むべき人の一人なのであった。
その後すぐさま図書館で借りて読んだところ,実に面白い。とても参考になる。
興奮した僕は友人の gk 氏に強く売り込んだところ,彼はさっそくこの本を購入してくれたが,実は二冊目だったことが発覚し,一冊を僕にくれた。ありがたいことである。
もう一人,大学の教員に決まった大学の同期がいて,彼にも売り込んだが,売り込み方が甘かったように思われるので,春に顔を会わせる機会があったら,改めて薦めてみるつもりである。
こんな風に人に本を薦めることなどめったにしない僕をそうまでさせるのであるから,この本のインパクトたるや,いかほどであろうか,ちょっと察してもらいたい。
さて,もっと若い読者の場合はどういう興味を持って本書に向き合えるか,ちょっと考えてみたい。
例えば大学を受験しようという受験生は,7章の「入学試験」が,入試を課す側は何を考えてどんな風に取り組んでいるのか,舞台裏が垣間見えて興味深いだろう。
あるいは,学部生ならば2章「講義の担当」を読めば,講義を行っている大学の教員が一体どんな思いで教壇に立っているのか,心情の一端を知ることが出来よう。
また,卒業研究を指導されている四年生などは,3章「研究と学生指導」あたりが気になるだろう。
この本に述べられた話のほとんどは,懇親会などで話好きの大学教員と一緒になったら話して聞かせてくれるであろう内容である。
逆に言うと,そういう機会がなければ耳にすることのない話がてんこもりなのである。
そして,ここが非常に大事な点だと思うのだが,ゴシップや悪口の類は一切ない。本書の筆致は,著者の人柄を偲ばせるような紳士的な態度で貫かれているのである。
ステレオタイプな物言いを許していただければ,理系の,それも特に工学系の研究者らしく,簡にして要を得た叙述なのである。
しかし堅苦しい報告文というわけではなく,大変読みやすく,時にはユーモアさえ感じさせる,とても柔らかい文章である。
なぜそのような文体が可能なのかという点に関しては,著者自らが5章「論文の生産」や12章「著作活動」で秘密を開示しておられるので,興味のある方はぜひ目を通してみてもらいたい。
僕は本書を読んだころ,漠然と著者のと非常によく似た考えに到達しており,そのような主義をこのような大先生が明確に主張していることに目からうろこが落ちる思いがしたのと同時に,わが意を得たりと快哉をあげたものである。
かくて,本書は僕にとって忘れられない書の一冊となったのである。