担当授業のこととか,なんかそういった話題。

主に自分の身の回りのことと担当講義に関する話題。時々,寒いギャグ。

調べもの。

2011-12-30 23:27:31 | mathematics
いまだに年賀状を書いていない。なかなか書けないのである。
とにかく明日には投函しようと思っているが,実現のめどは立っていない。

年賀状は多くの人に出すわけではなく,あて先は十に満たない。そしてほとんどが身内である。
ただ,そうは言ってもお世話になった方々も数名含まれている。一言二言メッセージを入れようと思っているのだが,そのために今年一年,どんな風にお世話になったかを思い返している。

年賀状は世間体的には挨拶の手段として重要な役割を持っているのだろうが,僕のように枚数が少ないと,じっくり考えることになり,その結果,ちょうど一年を振り返り,そして今度はどう世話になろうかと,新年へも思いをはせることへとつながるのだと,いまさらながらに気がついた。

今年一年の総括は(年賀状を済ませてから!)また改めて書くこととしたいが,つい,Wikipedia の記事を書くという,結局まだ果たしていない野望を思い出してしまった。

Frenet-Serret の公式の項目を狙っているのだが,歴史的なことも少し述べたいので,いろいろ調べてみようと思い立った。

その際,半年ほど前に見つけてダウンロードしていた Richard S. Palais 氏の講義資料を思い出したので,ちらっとのぞいてみた。

※ R. S. Palais 氏は1931年生まれとのことで,やはり Nirenberg,Browder,J.-L. Lions らとほぼ同時期に活躍を開始した方である。(Wikipedia の記事は,なぜか英語のはなく,ドイツのものしかない。)
そういえば,まったく関係ないが,ふと John Milnor 氏のことも思い出したが,奇しくも Milnor 氏は Palais 氏と生年が同じであった。一応両氏はまったくの無関係というわけではなく,「モース (Morse) 理論」という両者に共通の研究背景がある。
近いうち,Palais 氏と Smale 氏の共著の "A Generalized Morse Theory" という,変分法の分野における基礎文献の一つを読む(というより,眺める)予定である(ここ数日,机の上に置いてある)。
P氏とM氏はどちらもご健在である。
あと,どうでもよいことだが,Palais 氏の奥さんは教え子らしい。
そして何より驚いたのは,最近,まったく異なる興味から調べていた Gleason 氏と Mackey 氏が Palais 氏の学位論文の advisor に名を連ねていることである。どうやら,

George D. Birkhoff

M. H. Stone

G. Mackey

A. M. Gleason

R. S. Palais

という系譜のようだ。
M. H. Stone のある論文についてもいずれ話題にする機会が来るだろう。
Mackey,Gleason についても読みたい論文が一本ずつある。
なお,別の線で追っている角谷静夫と Mackey には内積空間の特徴づけに関する共著の論文がある。
こうした研究者同士のつながりが見えてくると,その分野に関する見通しもよくなるような気がしてならない。


Palais 氏の講義資料は以前もざっと眺めたが,今回改めて見てみると,最初の部分,特に Euclid 群の話が目に飛び込んでくる。
距離保存の写像は内積保存でもあるというような演習問題などが目を引く。
設定が内積空間だというのも,僕にとっては実にタイムリーである。
そして,微分幾何の専門家は,もはや Serret の名を落として,Frenet の名のみを諸公式に冠するということも窺われた。
ただし,歴史的なことに関する記述は特に見当たらない。

※※ つまらないことだが,Palais 氏の講義ノートにおいて,内積に関するコーシー=シュワルツの不等式のシュワルツのつづりが間違っている。これは有名な話で,Schwartz ではなくて Schwarz が正しい。なお,史実をふまえる限りでは,有限次元のベクトルに関する不等式の場合は Cauchy の不等式と呼び習わすのがよいと思う。
それに,Frenet-Serret の公式の名称に Serret の名を入れないという精神に基づけば,Schwarz の名を入れずに Bunyakovski(ブニャコフスキー)の不等式と呼ぶべきであろう。これは旧ソ連で書かれた関数解析の教科書に実際に見受けられる流儀である。

僕が最近夢中になっていた「内積空間の等距離写像」というのは,おそらく,非常に有名な Klein のエルランゲン・プログラムに端を発する,140年間もの伝統を持つ現代幾何学の基礎的な対象であって,有限次元実内積空間においては「Euclid の運動」と呼ばれるものであるということが,このところの調査でわかってきた。そして例えば2次元平面内の等距離写像の分類などはもっとも古い伝統を持つものだろうと思われる。おそらくエルランゲン・プログラムの発表前後にすでに基本的な結果が発表されていたに違いない。そしてそれを複素平面で考察するということも同時期に解決していると期待される。このあたりのことは,19世紀の半ばから後半にかけて書かれたしかるべき教科書などを調査すれば解決するだろうという見込みがある。Alhors の『複素解析』の参考文献から調べてみるというのは有益なアイデアかもしれない。

歴史的なことに関しては,Struik 氏の "Lectures on classical differential geometry" という本に簡単に触れられている。この本は微分幾何の入門書としてとてもよさそうである。

あと,そういえば,今年度のベクトル解析の講義を準備する際の参考書として手に取った松本幸夫氏と川崎徹郎氏の共著の教科書『空間とベクトル』の前半部分で,3次元空間における Euclid 群関連の話題が扱われていたようなことが思い出されてきた。その頃はほとんど関心がなかったが,今は俄然興味がある。
年が明けて図書館が開いたらさっそく見てみようと思う。


この記事は,今年一年の調査活動の一側面の振り返りにちょうどなったので,結構満足である。
(編集中に二回ほどPCがブラックアウトしたのだが,寒いせいだろうか・・・?)
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年齢が気になるお年頃。

2011-12-30 14:50:28 | mathematics
気になる数学者はたくさんいるが,最近とりわけ興味があるのは,Louis Nirengerg と Felix E. Browder,そして George J. Minty である。

Nirenberg と Browder は活躍し出した時期が非常に近いので,ほぼ同世代だろうと思っていた。
今回,Wikipedia で調べてみたところ,

L. Nirenberg は1925年生まれ,

F. E. Browder は1927年生まれ

であり,予想は概ね正しかった。両名ともまだご健在のようである。
いずれも非線形偏微分方程式論に重要な貢献をなしているが,両者は非線形楕円型偏微分方程式への位相的写像度の理論の応用において接点を持っているようである。
そのあたりの事情はいずれ調べる機会もあるだろう。

なお,Browder 氏はなんとなく非線形関数解析の人というイメージが強いが,昔から偏微分方程式論に携わっていたので,むしろ『応用関数解析』とでもいったような分野を開拓したと言えるかもしれない。

彼ら,特に Browder はソ連の Vishik 氏と研究内容がかぶることがあり,ソ連の研究者たちとも熾烈な競争を繰り広げたが,おそらく1970年代に入って H. Brezis と関わることにより,ヨーロッパ,特にフランスの研究者たち(Jacque-Louis Lions など)とも交流が生じたと思われるが,まだそこまで調査が進んでいない。

ちなみに,ふと思い立って J.-L. Lions を調べてみたら,1928年生まれ(2001年に逝去)とのことで,N氏,B氏と同世代であった。
また,Vishik 氏は1921年生まれだそうで,他の人たちに比べて「お兄さん」である。氏もまだご健在のようである。


さて,G. Minty 氏は最近の「マイブーム」なのだが,1960年~1970年のほんの10年間に僕のかかわっている分野において非常に優れた業績を挙げており,消息が大変気になっている。
二本ほどの論文に書かれていた謝辞等から,Rothe の弟子ではないかと思っていたが,その認識は正しいようだ
(その Rothe はというと,Schimidt や von Mises といった錚々(そうそう)たるメンバーの下で学位を取得している。)

また,すさまじいヘビースモーカーで,それが原因かはわからないが,59歳で亡くなったらしいという情報も得た。
そして奥さんは日本人だそうである。


50年ほど前から爆発的に発展してきた非線形偏微分方程式論の端緒を切り開いてきた,当時若手として活躍した研究者たちは,まだご健在の方々もいらっしゃるようだが,亡くなられた方も多い。

自分に科学ジャーナリストとしての腕と才能と熱意があれば,今すぐにでも行動を起こして,当時の状況をよく知る先生方にインタビューをするなどして記録を残すことも出来るだろうが,残念ながら,そのようなことは僕の手に余る。
何しろ,そうした分野の専門家に話を聞くインタビュアーとして備えていてしかるべき知識が今の僕には全然足りないのである。
ある程度の水準に達するまではもう少し時間がかかる。そうなったら,ときどき年配の先生方の思い出話を聞かせていただこうと思う。

研究内容そのものだけではなく,ある期間の研究活動を総括するというような,周辺の話題にもかなり興味が出てきた今日この頃である。自分がそういうお年頃になってきたということの証であろう。
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J. H. Conway による The Free Will Theorem の講義ビデオ。

2011-12-30 13:24:47 | physics
J. H. Conway 氏の公式サイトからたどれるが,講演リスト一覧からいちいち探し出すのは面倒なので,自由意志定理関連の講演のみを抜き出したリストを作成した。
リンクは動画ファイルに直接つながっていて,クリックするとすぐさま再生が始まるので,利用する際には驚かないように。

  1. Free Will and Determinism in Science and Philosophy, March 23, 2009.
  2. The Paradox of Kochen and Specker, March 30, 2009.
  3. The Paradoxes of Relativity, April 6, 2009.
  4. Quantum Mechanics and the Paradoxes of Entanglement, April 13, 2009.
  5. Proof of the Free Will Theorem, April 20, 2009.
  6. The Theorem’s Implications for Science and Philosophy, April 27, 2009.


ついでにフリーでアクセスできる文献もいくつか挙げておこう。

Conway and Kochen,
The Free Will Theorem,
arXiv.org (2006).

Conway and Kochen,
The Strong Free Will Theorem,
Notices of The AMS, Vol.52, No.2 (2009).

Goldstein, Tausk, Tumulka,and Zanghì,
What Does the Free Will Theorem Actually Prove?,
Notices of The AMS, Vol.57, No.11(2010).

僕自身はまだ講義ビデオを観ていないし,論文もまったく読んでいないけれども。
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