c 小指をたてた
朝七時にシエムリアプを出たエクスプレスボートは、僕の計算より30分も早くプノンペンに着いた。
行くときにバイタクの運ちゃんはこの船なら、3時間程でシエイムリアプに着くと教えてくれたが、プノンペンからシエムリアプ迄は六時間かかり、今日はシエムリアプからプノンペン迄は五時間半だった。流れを上るのか、それとも下るのか、それによって多少はぶれるのだろう。
幅30センチぐらいの板を2枚渡しただけの桟橋を、やっとの思いで渡り終えると、バイタクの運ちゃんがウンカのように押し寄せてきた。その中の1人 が半端な日本語で乗れと半ば強制的、威圧的に言う。むっと来た。
「うるさい。」かなり怒気を含んでいた。
気がついたら、お兄ちゃんたちが回りを取り囲むように僕を取り巻いている。
対立関係が生まれ緊張が走った。 にらみ合いが続く。辺りは険しい雰囲気に包まれた。
これはまずい。ぼくはとっさに小指を立てた。
まわりの運ちゃんも一瞬のことでわからない奴もいたが、わかるやつはにやにやしている。彼は、とみると表情は、和らいでいる。
「おおう、レデイー。OK」 彼にも即座に通じたのだ。ニヤニヤしている。
ぼくもニヤニヤした。破顔一笑。意味は直通した。
場面は急転直下、転換。
そこで僕は再び人さし指と中指の間に、親指をはさんで 上下、させたら爆笑が起こった。そしてこれが極めつけだった。
ハッハッハー 。
お互いに握手。そこへ迎えのバスが来た。先日ゲストハウスから船着き場まで送ってもらった例の運転手が、やあやあといって手を振って握手を求めてきた。僕たちは友達のように親しそうに会話した。ムチャクチャな英会話だ。文法も単語も、へったくれもあったもんじゃない。なにか言ってりゃ気持は通じた。
この場で割を食ったのはバイタクの運ちゃん。レデイーの紹介料もドライバー料も吹っ飛んだ。迎えが後5分遅かったら、僕は仕方なしにバイタク運ちゃんに レデイ料とドライバー料を支払うところだった。
今朝はピックアップトラックが来るのが5時45分だから、すべて用意しておいてほしいと、ゲストハウスのボスが言った。
それが気になって、睡眠薬を飲んだにもかかわらず2時に目が覚めて、また4時に目が覚めてしまった。この間、うとうとだった 。
それ以後は、身支度をするために、起きてしまった。だから、寝たのは3時間ほどで頭がぼーっとしているというよりは痛い。
加えて、早朝だったから、食料品の調達もできなかった。文字通りのまず喰わずだった。体に疲労感が漂っている。
「何が、レデイか」そんなコンディションであった。
それにしても面白い。小指一本を立てるか否かで、雰囲気がガラリと変わる。意が通じるのだ。ただそれだけで、男同士では意味するところがわかるので便利なものだ。
多分、男の世界では、世界共通だと思うが、小指と、親指の上下は完全に通じた。何とかは身を救うと言うが、なるほどと感心した。
言葉はいらない。というより、カンボジアでは、おはようも、サヨナラも、ありがとうも知らないし、知ろうともしない僕だったけれども何とか窮地を脱することが出来た。
ところで、僕の勤めていた学校では小指は教頭、親指は校長を指す隠語である。
管理職の悪口をいうときは、違和感を感じながらも小指と親指を使った。それはところ変われば品変わる、というのではない。学校が、一般社会に比べて特異な存在の社会であっただけの話である。
朝七時にシエムリアプを出たエクスプレスボートは、僕の計算より30分も早くプノンペンに着いた。
行くときにバイタクの運ちゃんはこの船なら、3時間程でシエイムリアプに着くと教えてくれたが、プノンペンからシエムリアプ迄は六時間かかり、今日はシエムリアプからプノンペン迄は五時間半だった。流れを上るのか、それとも下るのか、それによって多少はぶれるのだろう。
幅30センチぐらいの板を2枚渡しただけの桟橋を、やっとの思いで渡り終えると、バイタクの運ちゃんがウンカのように押し寄せてきた。その中の1人 が半端な日本語で乗れと半ば強制的、威圧的に言う。むっと来た。
「うるさい。」かなり怒気を含んでいた。
気がついたら、お兄ちゃんたちが回りを取り囲むように僕を取り巻いている。
対立関係が生まれ緊張が走った。 にらみ合いが続く。辺りは険しい雰囲気に包まれた。
これはまずい。ぼくはとっさに小指を立てた。
まわりの運ちゃんも一瞬のことでわからない奴もいたが、わかるやつはにやにやしている。彼は、とみると表情は、和らいでいる。
「おおう、レデイー。OK」 彼にも即座に通じたのだ。ニヤニヤしている。
ぼくもニヤニヤした。破顔一笑。意味は直通した。
場面は急転直下、転換。
そこで僕は再び人さし指と中指の間に、親指をはさんで 上下、させたら爆笑が起こった。そしてこれが極めつけだった。
ハッハッハー 。
お互いに握手。そこへ迎えのバスが来た。先日ゲストハウスから船着き場まで送ってもらった例の運転手が、やあやあといって手を振って握手を求めてきた。僕たちは友達のように親しそうに会話した。ムチャクチャな英会話だ。文法も単語も、へったくれもあったもんじゃない。なにか言ってりゃ気持は通じた。
この場で割を食ったのはバイタクの運ちゃん。レデイーの紹介料もドライバー料も吹っ飛んだ。迎えが後5分遅かったら、僕は仕方なしにバイタク運ちゃんに レデイ料とドライバー料を支払うところだった。
今朝はピックアップトラックが来るのが5時45分だから、すべて用意しておいてほしいと、ゲストハウスのボスが言った。
それが気になって、睡眠薬を飲んだにもかかわらず2時に目が覚めて、また4時に目が覚めてしまった。この間、うとうとだった 。
それ以後は、身支度をするために、起きてしまった。だから、寝たのは3時間ほどで頭がぼーっとしているというよりは痛い。
加えて、早朝だったから、食料品の調達もできなかった。文字通りのまず喰わずだった。体に疲労感が漂っている。
「何が、レデイか」そんなコンディションであった。
それにしても面白い。小指一本を立てるか否かで、雰囲気がガラリと変わる。意が通じるのだ。ただそれだけで、男同士では意味するところがわかるので便利なものだ。
多分、男の世界では、世界共通だと思うが、小指と、親指の上下は完全に通じた。何とかは身を救うと言うが、なるほどと感心した。
言葉はいらない。というより、カンボジアでは、おはようも、サヨナラも、ありがとうも知らないし、知ろうともしない僕だったけれども何とか窮地を脱することが出来た。
ところで、僕の勤めていた学校では小指は教頭、親指は校長を指す隠語である。
管理職の悪口をいうときは、違和感を感じながらも小指と親指を使った。それはところ変われば品変わる、というのではない。学校が、一般社会に比べて特異な存在の社会であっただけの話である。