A Rider's Viewpoint

とあるライダーのものの見方

BILLY JOEL in CONCERT 2006

2006-12-02 16:50:55 | つれづれ
 11/30 ビリージョエルのコンサートに行った。 当日会社を休んだのは仕事が終わってからでは間に合わないと思ったからだ。
 17:30開場、19:00開演。18:00頃東京ドームに着く。席に向かう通路を確認した後、ホットドッグとビール。席に着いたら隣の人に気を使うし、ゴミを片づけるのも大変だし。
 結局ビールをもう1杯と唐揚げ串を1本。ほろ酔いで席に向かう。席は3塁側2階席。最前列が空席のため前から5番目の席だ。両隣には既に座っている人がいる。一声かけて席に着く。荷物をシート下に置きジャケットを膝の上に。ちょうど開演20分ほど前だ。

 アリーナ席はまだがらがらだが、三々五々人で埋まってゆく。開演前のこの雰囲気が好きだ。やっと席に座った安心感、少しずつ高まってゆく期待と興奮。同じ目的で集まってくる見知らぬ人々とのささやかな連帯感……。

 19:05頃、場内のライトが消えコンサートが始まる。最初の曲は『怒れる若者/Angry Young Man』冒頭のピアノの連打がとても印象的な曲だ。
 次の曲は『マイ・ライフ/My Life』。ちょっとでも口ずさめるフレーズがあるのはうれしい。「I don't care what you say anymore,this is mylife.Go ahead with your own life and leave me alone.」 もうおまえの言うことは気にしない。これがおれの人生なんだ。おまえはおまえの人生を生きればいい。もうおれのことはほっといてくれ。(拙訳)……思わず一緒に口ずさんでましたよ。(^^;

 他にも次々に懐かしい曲が続く。『オネスティ/Honesty』、『ニューヨークの想い/New York State Of Mind』、『アレンタウン/Allentown』、『ストレンジャー/The Stranger』などなど。
(曲目は、ウドー音楽事務所のホームページより。http://www.udo.jp/artist/BillyJoel/news.html)
 
 前半は懐かしい曲、後半に比較的新しい、*album『ストーム・フロント/Storm Front』('89)・*album『リヴァー・オブ・ドリームス/River of Dreams』('93)からの曲が続く。*album『グラス・ハウス/Glass Houses』('80)からの曲がないなあ、と思っていたら、ほぼ終幕に近いあたりで2曲。『ロックンロールが最高さ/It's Still Rock & Roll To Me』と『ガラスのニューヨーク/You May Be Right』ロックテイストのこの2曲で会場は盛り上がり、コンサートは終了。暗いままの会場に手拍子の音は尽きない。アンコールである。

 アンコールの1曲目は『イタリアン・レストランで/Scenes From An Italian Restaurant』ピアノの出だしと曲間のサックスが特徴的な曲だ。曲が終わってまたバックステージにビリーが戻る。

 『おい。まだあの曲やってないよな!』 僕だけではなく会場のほとんどのファンは同じ思いだったに違いない。

 後列の方から「なあ、ストレンジャーやってないよな!?」という声が聞こえる。
 『もうやってるよ! 待ってんのはソイツじゃねぇよ!! 』と心の中で大声でツッコミながら、やってないもう1曲を期待してビリーを待つ。

 アンコールに応えてビリーが舞台に戻ってきた。高まる興奮と拍手。ところが何とビリーはピアノの前で行ったり来たりしながら観客をじらし始めた。笑いとともにさらに高まる拍手。
 ビリーはピアノに着くと、手元からハーモニカを取り出し、首元にセッティングした。ピアノとハーモニカが入る曲、まだやってない待望の1曲。
 やがて始まるピアノとハーモニカ、会場に感動的に、最後のアンコール曲『ピアノ・マン/Piano Man』が流れ始めた……。
    *
 じつはこのコンサートのちょうど一週間前、エリック・クラプトンのコンサートに行く機会があった。僕は彼はあまり詳しくはなかったもののCDを1枚持っていたこともあり喜んで会場に出かけた。「ギター・マン」である彼のコンサートはとても刺激的に楽しく、あっという間に2時間の演目が終わってしまったのだが、残念なことに僕が彼の曲を知らなすぎる。
 音楽自体は楽しめても、その曲の発表当時のバックボーン、アレンジの違い、その時代の自分自身の思い出を楽しむには至らない。
 反面、ビリージョエルに出会ったのは高校時代。初めて東京に出て来た1年間の浪人時代、そして大学生活。ずっとビリージョエルを聞き続けてきた。ミュージックカセットを初代ウォークマンで聴き、LPレコードを買い、そしてCDを集め直す……。(そういえば、初めてCDとして製品化されたアルバムが、ビリーの『ニューヨーク52番街/52nd Street』なんだよね)
 そして集めたCDを今はデジタル・ミュージック・プレイヤーに入れ好きな曲をランダムに編集しながら聴く。その年代の音楽メディアの変遷とともに彼の曲を聴き続けてきた。
 ビリージョエルの曲ならば、曲自体も、アレンジの違いも、自分自身の思い出も、すべて揃っている。コンサートを楽しめない訳はないのだ。
   *
 「ピアノ・マン」の演奏中、ビリーがふと歌をやめた。「Sing us a song you're the piano man.Sing us a song tonight.~歌ってくれよ、ピアノ・マン、今夜もあの曲を」……という部分だ。ビリーは耳を傾け、みんなの口ずさんでいた声が会場に響く。

 そうなんだ。僕等はビリーにそう言いたくて、この会場に足を運んだのではなかったのか?
 「歌ってくれよ、ビリー。僕等の思い出のあの曲を」と。

 同じフレーズの次のリフレイン。ビリーの歌も、バックの演奏も、確信犯的に止まった。ビリーは首を傾げて会場に顔を斜めに向け、僕等のコーラスを聴こうとする素振りを見せてくれる。

 瞬間、静かになった会場にみんなの歌声が響く。もちろん僕も歌った。

 「Sing us a song you're the piano man.Sing us a song tonight.Well we're all in the mood for a melody.And you've got us feelin' alright.」

 (歌っておくれよ ピアノ・マン 今宵 歌っておくれ あの歌を 俺たち全員 歌い出したい気分なのさ ああ 今宵はなんて素敵な夜だろう)……(対訳・山本安見氏 ライナーノーツより抜粋)

 コンサートのもう一つの醍醐味がここにあった。どこの誰とも知らない人々、ただビリージョエルが好きでこの会場に足を運んだ多くの人々。彼らと僕は、この曲の、このワンフレーズを確かに共有した。同じ思いが会場に溢れていた。数分後にはバラバラになってしまう数万人の人々の心は、この一瞬だけは重なっていた。……思わず涙ぐんでしまった。

 やがてコンサートは終わり、東京ドーム特有の風圧に押し出されながら、人々はそれぞれに家路につく。(回転ドアは風圧は感じないけどね)
 会場との距離が開いてゆくほど、熱気が少しずつ少しずつ冷めていって、いつもの僕に戻ってゆく。

 でも、今回は少し違うのだ。コンサートを終えまだ2日。頭の中にビリーの歌声と「ピアノ・マン」でビリーが僕等にコーラスを促したときの表情がまだ鮮明に残っている。

 『なあ、そうだよな? あの日あの時、俺たちはビリーと一緒に、あの雰囲気を、空気を、世界を、あの親密な一体感を一緒に創り上げたんだよな!?』……そんな思いが、今も僕の胸に残って去らない。

 その思いは高い熱価ではないが、薪が燃えたあとの熾火のように今も僕の心の奥をじんわりと暖めてくれている。
 ビリーを好きでいてよかった。今回のコンサートに足を運べてよかった。数多くのファンと同じ時間を共有できて本当によかった……。
 また機会があれば、僕は彼のコンサートに行くだろう。多少面倒でも時間を設けて、億劫がらずに、出かけてみたいものだと思っている。