昭和62年の講談社の文庫版、乱歩全集だ。
1987年11月6日刊行で、恐らくその日付近辺で買ったのだろうから高校1年の時だ。
東京のY町に関東ビルディングという個人経営の貸事務所がある。(人気のない)13号室に稲垣平造という美術商が美術店を経営している。女子事務員の募集をする。「17、8歳、愛嬌のある方、高給」。そこに里見芳枝という女性がちょっと気取って応募してくる。即採用され、丁度店を閉める時間なので、自宅の倉庫の品物に目を通してほしいから、家まで一緒に来てほしいと頼まれる。行ったが最後、家に帰してもらえない。そしてあっさりと稲垣は、自分は悪人だと悪びれもせず正体を明かす。何だか風呂はきれいに掃除し、浴槽には水を湛えており、小さいスーツケースが用意されている。その中をみると様々な形の刃物が入っていた。とはいえ何を企んでいるかはわからない。場面が変わり、何をされたかわからないが、着衣も捨てられ、血まみれになって、疲労した芳枝の姿がある。拷問でもされたかのように思われるが、そこまで残虐なことが行われたようではなさそうだ。
次にセールスマンの募集をし6人集まる。大した能力もない19歳くらいの青年たちだ。彼らに石膏の人体模型を美術学校に売らせる。と言うのか進呈する。それがあとの営業の布石になるらしい。6人の中に悪知恵の働く平田東一という青年がおり、学校に進呈せず、他の額縁屋に低額で売り払って小遣い稼ぎをしたのだった。翌朝平然と出勤すると事務所は鍵がかかって誰もいない。
次はガラッと変わって、畔柳(くろやなぎ)友助博士という片足が義足の犯罪学者。自称36歳。弟子が野崎三郎という24歳の青年。趣味で、興味のある事件だけ警察に協力するのだが、日常の事務作業として、新聞の行間読みで犯罪の真実を見抜くというシャーロック・ホームズのようなことをしている。特に新聞の3行広告には毎日5、6個は怪しいものがあるという。そして例の稲垣の広告、入居者募集広告が出なくなった直後の、稲垣美術商の事務員募集と、セールスマン募集広告から、既に犯罪のにおいを嗅ぎ取っていたのだった。
里見絹枝という女性が畔柳博士を訪ねてくる、妹が行方不明だという。博士は関東ビル調査に出掛けようとしていたところだったので、夕方に改めてほしいと言う。関東ビルに行って調査をしていると、例の平田がやってくる。博士は事情を聞くと、例の石膏模型(右腕の形)を売り飛ばした画材屋に行きその模型を買い取る。邸宅に帰ったら、絹枝が再訪してきた。もう予想できるが、その右腕の石膏模型は芳枝のものだった。恐らく殺害しバラバラにした右腕の部分に薄く石膏を塗り固めたものだと思われる。石膏を割ると、中には腐乱しかかった生身の腕が出てきたのだった。絹枝が言う妹の特徴と合致する。しかしこれはまた残虐な事件だ。これぞ乱歩か。起きていることはグロテスクなのだが、なぜかそう感じさせない。これもまた乱歩だ。ショックを受ける絹枝だが、これまたそこまで落ち込んでいるようにも見えない。一方、連れてきた平田が急に姿を消す。野崎は、稲垣が自分達をつけてきて、平田をみんなの隙を狙って殺害し連れ去ったのではないかと推理する。すると、明日にでも平田の石膏部品が店に並ぶんだろうかと、たちの悪い冗談を言う博士。
絹枝を家に送る野崎。絹枝に恋心を抱く野崎。
続いて右足の部分の石膏細工が中学校で見つかる。美術の時間に学生が石膏細工に服の裾を引っ掻けて落としてしまった。その割れた隙間から腐乱した肉片が見えていたのだった。中学生には刺激が強すぎるだろう。しかし今晩はご飯が喉を通らないかもしれません、と、あっけらかんとしている。やがて残り4つの部位が中学校や画塾から見つかる。
畔柳博士の推理する犯人像は、精神異常者には違いないが、意識ははっきり持った極悪人だという。そして過去にも殺人を犯しているだろう。また絹枝に似た容貌、当然妹である芳枝はじめとして、この1、2か月で行方不明となった女性の写真から5人くらい絹枝(芳枝)似た特徴を見つけたのだったつまり彼女たちは既に殺害されているのではないか、そして平田東一と合わせ、今後いくつものバラバラにされた人体の石膏細工が見つかるのではないかと予想する。
ここまでで4分の1ほど進んだが、ふと裏表紙の解説を見てしまった。するとまだ起きていない出来事が書かれていた。どこまで先の内容を解説に書いているのかと少し腹が立つ。
と、思っていたら、丁度それらしい場面が。野崎は絹枝に告白しようと実家にいったら、入れ違いで博士の家から迎えが来て出たところだという。しかしそれはニセの呼び出しだった。そしてその通り、左胸を刺されて殺害された絹枝は水族館の水槽に浮かんでいた。あたかも人魚のように。
第3のターゲットは女優の富士洋子だ。犯人は明日(7/5)の映画のロケの最中にに実行すると宣言する。そうであるならロケを中止すべきだが、畔柳博士は犯人の尻尾をつかむため誰にも知らせずロケをさせようとする。自信満々だ。
今度は医者に化けて現れる犯人。しかしまた逃げられてしまう。ただし洋子は無事だ。
洋子をT氏の邸宅に匿う。しかし犯人から夜の十二時に洋子を連れ去ると言う宣言。今度は少人数で見張る。ベッドで横になる洋子だが、12時を過ぎても何事も起こらない。畔柳博士は犯人が宣言を守らなかったことはないと不審がる。果たして、ベッドで寝ていると思われた洋子だが、人形にすり変わっており、既に連れ去られたあとであった。
一方野崎は邸宅の外で見張っていると、自動車で逃亡する人物を見つける。昔の小説らしく、車の後部に掴まって追跡するのだった。着いたのはあの青髭(犯人の呼称)の館だった。しかし誘拐した洋子を担いで車から出てきた男は平田だった。いつの間に青髭の手下となったのか?面白くなってきた。
館に潜入した野崎だが、結局見つかり地下室に閉じ込められてしまう。そこで見つけた5つの漬物樽。餓死は免れると思っていたが、中身はなんとバラバラになった人体だった。つまり過去に誘拐してきた女性の成れの果て。幸い洋子は隙を見て脱出に成功。警察に通報することで野崎も救出される。しかし蜘蛛男と平田は逃亡したあとだった。
全身真っ白な出で立ちの紳士が登場する。これがしばらくインド辺りを旅していてやっと帰国してきた明智小五郎だった。2/3過ぎてやっと登場。何やら一寸法師の事件後3年ほどインドを旅していたらしい。乱歩の長編がちょっとずつ繋がって顔を出す。
早速明智は様々な疑問を解決していく。え?そんなところがおかしかったのか?的な。解決編にしては早い。
気丈な女優、富士洋子。今まで様々なピンチを乗り越えている。そんな悪人に負けていられないと言う性格だ。そんな(謂わばキャラのたつ)洋子の運命。明智は蜘蛛男を捕まえる。明智は民間人だ。捕まえる権利はない。そこで警察を呼びに行く。蜘蛛男と洋子は2人きりで残される。そこで、異様なことが起こる。洋子は蜘蛛男を逃がそうとする。その隙を狙って蜘蛛男はあろうことか洋子と逃亡するしかしそれも蜘蛛男の策略。あらかじめ手に入れていた自分(蜘蛛男)に似た遺体を確保しておりそれを身代わりに自分は死んだと見せかけこの世から消えてしまおうと言う算段。その道ずれにこの洋子は心中させられる。死なないと思われた洋子も崖から蜘蛛男と共に心中したと思わせた。
ところが死んだのは洋子だけであり、蜘蛛男はまんまと生き延びる。この辺りは残虐さが見える。有名人である洋子が変な妄想に刈られ蜘蛛男と心中しようと思ったり、さらには本当に崖に飛び込む。
蜘蛛男は鳴りを潜める。明智も(多分洋子を守れなかった罪悪感からか?)音沙汰がなくなる。
その後、最終対決。蜘蛛男は自分の美学。四十九人の女性をまるでショーのように観衆の前で殺害すると言う計画を着々と進めていた。明智はそれに先回りして行動する。
どこかで見たような場面。蜘蛛男が自分の計画を実行できず阻止された屈辱からピストル自殺しようとする。しかし、明智の手によって弾丸は抜き取られていた。自殺もできなくなった蜘蛛男。明智に破れ、自死も妨げられた哀れな蜘蛛男。一瞬の隙を着いて自ら設計した舞台装置である針の山に飛び込み、串刺しになって死ぬ場面で終わる。
実は天地茂の明智小五郎シリーズで見たことがあるような感覚になる。天国と地獄、だっただろうか?針の山で刺されて死ぬ場面。正月辺りで祖母の家に行った時に見た記憶。
これまで読んできた中でも、意外とグロテスクだ。幽鬼の塔などと異なり、死なないだろうと思われる人物が殺害される。またその殺害方法も残虐だ。また殺害後の(犯人による)ひけらかしが残酷。知らなかったが、これが社会一般における乱歩の変態的残虐さなのだろうか。
今まで見たことのない乱歩を読んで再発見した気持ちだ。
ある意味レトロなミステリーではないか。犯人はどこまでも残虐。警察に掴まるとかそんな現実の話ではない。ただ女を殺したい。
それからすると現代のミステリーは社会派であり、心理的である。
20240819読み始め。
20240916読了