カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

カイメツ の ジョキョク 1

2017-09-23 | ハラ タミキ
 カイメツ の ジョキョク

 ハラ タミキ

 アサ から コナユキ が ふって いた。 その マチ に とまった タビビト は なんとなし に コナユキ の フゼイ に さそわれて、 カワ の ほう へ あるいて いって みた。 ホンカワバシ は ヤド から すぐ チカク に あった。 ホンカワバシ と いう ナ も カレ は ヒサシブリ に おもいだした の で ある。 ムカシ カレ が チュウガクセイ だった コロ の キオク が まだ そこ に のこって いそう だった。 コナユキ は カレ の センサイ な シカク を さらに するどく して いた。 ハシ の ナカホド に たたずんで、 キシ を みて いる と、 ふと、 「ホンカワ マンジュウ」 と いう ふるびた カンバン が ある の を みつけた。 とつぜん、 カレ は フシギ な ほど しずか な ムカシ の フウケイ の ナカ に ひたって いる よう な サッカク を おぼえた。 が、 つづいて、 ぶるぶる と センリツ が わく の を どう する こと も できなかった。 この コナユキ に つつまれた イッシュン の シズケサ の ナカ に、 もっとも いたましい シュウマツ の ヒ の スガタ が ひらめいた の で ある。 ……カレ は その こと を テガミ に しるして、 その マチ に すんで いる ユウジン に おくった。 そうして、 そこ の マチ を たちさり、 エンポウ へ たびだった。

 ……その テガミ を うけとった オトコ は、 2 カイ で ぼんやり マド の ソト を ながめて いた。 すぐ メノマエ に リンカ の ちいさな ドゾウ が みえ、 ヤネ ちかく その シラカベ の ヒトトコロ が ハクダツ して いて あらい アカツチ を ロシュツ させた さびしい ナガメ が、 ――そういう ササイ な ブブン だけ が、 むかしながら の オモカゲ を たたえて いる よう で あった。 ……カレ も チカゴロ この マチ へ すむ よう に なった の だ が、 ひさしい アイダ キョウリ を はなれて いた オトコ には、 スベテ が イマ は エン なき シュジョウ の よう で あった。 ショウネン の ヒ の カレ の ムソウ を はぐくんだ ヤマ や カワ は どう なった の だろう か、 ――カレ は アシ の おもむく まま に キョウリ の ケシキ を みて あるいた。 ザンセツ を いただいた チュウゴク サンミャク や、 その シタ を ながれる カワ は、 ぎごちなく ブソウ した、 ざわつく マチ の ため に キハク な インショウ を とどめて いた。 チマタ では、 ゆきあう ヒト から、 キ で ハナ を くくる よう な アツカイ を うけた サッキ-だった ナカ に、 なんとも いえぬ マ の ぬけた もの も かんじられる、 キカイ な セカイ で あった。
 ……いつのまにか カレ は ユウジン の テガミ に ある センリツ に ついて かんがえめぐらして いた。 ソウゾウ を ぜっした ジゴクヘン、 しかも、 それ は イッシュン に して まきおこる よう に おもえた。 そう する と、 カレ は やがて この マチ と ともに ほろびうせて しまう の だろう か、 それとも、 この ウマレコキョウ の マッキ の スガタ を みとどける ため に カレ は たちもどって きた の で あろう か。 カケ にも ひとしい ウンメイ で あった。 どうか する と、 その マチ が ナニゴト も なく ムキズ の まま のこされる こと、 ――そんな ムシ の いい、 おろかしい こと も、 やはり かんがえうかぶ の では あった。

 クロラシャ の リッパ な ジャンパー を コシ の ところ で しめ、 きれい に カミソリ の あたった アゴ を ひからせながら、 セイジ は いそがしげ に ショウゾウ の ヘヤ の イリグチ に たちはだかった。
「おい、 なんとか せよ」
 そういう ゴキ に くらべて、 セイジ の メ の イロ は よわかった。 カレ は ショウゾウ が テガミ を かきかけて いる ツクエ の カタワラ に すわりこむ と、 ソバ に あった ヴィンケルマン の 『ギリシャ ゲイジュツ モホウロン』 の サシエ を ぱらぱら と めくった。 ショウゾウ は ペン を おく と、 だまって アニ の シグサ を ながめて いた。 わかい とき イチジ、 ビジュツシ に ネッチュウ した こと の ある この アニ は、 イマ でも そういう もの には ひきつけられる の で あろう か……。 だが、 セイジ は すぐに ぱたん と その ホン を とじて しまった。
 それ は サキホド の 「なんとか せよ」 と いう ゴキ の ツヅキ の よう にも ショウゾウ には おもえた。 チョウケイ の ところ へ まいもどって きて から もう 1 カゲツ イジョウ に なる のに、 カレ は なんの ショク に つく でも なし、 ただ アサネ と ヨフカシ を つづけて いた。
 カレ に くらべる と、 この ジケイ は マイニチ を キリツ と キンチョウ の ウチ に おくって いる の で あった。 セイサクショ が ひけて から も おそく まで、 ジムショ の ほう に アカリ が ついて いる こと が ある。 そこ の ロジ を とおりかかった ショウゾウ が ジムシツ の ほう へ たちよって みる と、 セイジ は ヒトリ ツクエ に よって、 せっせと カキモノ を して いた。 コウイン に わたす ゲッキュウブクロ の ナツイン とか、 ドウインショ へ テイシュツ する ショルイ とか、 そういう ジムテキ な シゴト に マンゾク して いる こと は、 カレ が かく トクチョウ ある ヒッセキ にも うかがわれた。 ハン で おした よう な カタ に はまった きれい な モジ で、 いろんな ケイジ が ジムシツ の カベ に はりつけて ある。 ……ショウゾウ が ぼんやり その モジ に みとれて いる と、 セイジ は くるり と カイテン イス を きえのこった レンタン ストーブ の ほう へ むけながら、 「タバコ やろう か」 と、 ツクエ の ヒキダシ から ふるびた ホウヨク の フクロ を とりだし、 それから タナ の ウエ の ラジオ に スイッチ を いれる の だった。 ラジオ は イオウジマ の キュウ を つげて いた。 ハナシ は とかく センソウ の ミトオシ に なる の で あった。 セイジ は ぽつん と カイギテキ な こと を クチ に した し、 ショウゾウ は はっきり ゼツボウテキ な コトバ を はいた。 ……ヤカン、 ケイホウ が でる と、 セイジ は たいがい、 ジムショ へ かけつけて きた。 ケイホウ が でて から 5 フン も たたない コロ、 オモテ の ヨビリン が はげしく なる。 ネボケガオ の ショウゾウ が ロジ の ほう から、 ウチガワ の トビラ を あける と、 オモテ には わかい オンナ が フタリ たたずんで いる。 カンシ トウバン の ジョコウイン で あった。 「こんばんわ」 と ヒトリ が ショウゾウ の ほう へ コエ を かける。 ショウゾウ は じかに ムネ を つかれ、 エリ を たださねば ならぬ キモチ が する の で あった。 それから カレ が ジムシツ の ヤミ を てさぐりながら、 ラジオ に アカリ を いれた コロ、 あつい ボウクウ ズキン を かぶった セイジ が そわそわ やって くる。 「ダレ か いる の か」 と セイジ は アカリ の ほう へ コエ を かけ、 イス に コシ を おろす の だ が、 すぐに また たちあがって コウジョウ の ほう を みて まわった。 そうして、 ケイホウ が でた ヨクアサ も、 セイジ は はやく から ジテンシャ で シュッキン した。 オク の 2 カイ で ヒトリ アサネ を して いる ショウゾウ の ところ へ、 「いつまで ねて いる の だ」 と ケイコク し に くる の も カレ で あった。
 イマ も ショウゾウ は この アニ の いそがしげ な ヨウス に イツモ の ケイコク を かんじる の で あった が、 セイジ は 『ギリシャ ゲイジュツ モホウロン』 を モト の イチ に おく と、 ふと こう たずねた。
「アニキ は どこ へ いった」
「ケサ デンワ かかって、 タカス の ほう へ でかけた らしい」
 すると、 セイジ は かすか に メ に エミ を うかべながら、 ごろり と ヨコ に なり、 「また か、 こまった なあ」 と かるく つぶやく の で あった。 それ は ショウゾウ の クチ から ジュンイチ の コウドウ に ついて、 もっと いろんな こと を しゃべりだす の を まって いる よう で あった。 だが、 ショウゾウ には チョウケイ と アニヨメ との コノゴロ の イキサツ は、 どうも はっきり スジミチ が たたなかった し、 それに、 ジュンイチ は この こと に ついて は ヒツヨウ イガイ の こと は けっして しゃべらない の で あった。

 ショウゾウ が ホンケ へ もどって きた その ヒ から、 カレ は そこ の イエ に ただよう クウキ の イジョウサ に かんづいた。 それ は デントウ に かぶせた くろい ヌノ や、 いたる ところ に はりめぐらした アンマク の せい では なく、 また、 ツマ を うしなって しかたなく この フジユウ な ジセツ に まいもどって きた オトウト を カンゲイ しない ソブリ ばかり でも なく、 もっと、 ナニ か やりきれない もの が、 その イエ には ひそんで いた。 ジュンイチ の カオ には ときどき、 けわしい インエイ が えぐられて いた し、 アニヨメ の タカコ の カオ は おもいあまって ぼうと うずく よう な もの が かんじられた。 ミツビシ へ ガクト ドウイン で ツウキン して いる フタリ の チュウガクセイ の オイ も、 ミョウ に だまりこんで インウツ な カオツキ で あった。
 ……ある ヒ、 アニヨメ の タカコ が その イエ から スガタ を くらました。 すると ジュンイチ の ヒトリ いそがしげ な ガイシュツ が はじまり、 イエ の キリマワシ は、 キンジョ に すんで いる カフ の イモウト に まかせられた。 この ヤスコ は ヨル おそく まで 2 カイ の ショウゾウ の ヘヤ に やって きて は、 のべつまくなし に、 いろんな こと を しゃべった。 アニヨメ の シッソウ は コンド が はじめて では なく、 もう 2 カイ も ヤスコ が イエ の ルス を あずかって いる こと を ショウゾウ は しった。 この 30-スギ の コジュウト の クチ から ビョウシャ される イエ の クウキ は、 いろんな オクソク と ワイキョク に みちて いた が、 それ だけ に ショウゾウ の ズノウ に ねつっぽく こびりつく もの が あった。
 ……アンマク を はった オクザシキ に、 とびきり ゼイタク な ドンス の コタツ-ブトン が、 スタンド の ヒカリ に いられて あかく もえて いる、 ――その ソバ に、 キ の ぬけた よう な ジュンイチ の スガタ が みかけられる こと が あった。 その コウケイ は ショウゾウ に ナニ か やりきれない もの を つたえた。 だが、 ヨクアサ に なる と ジュンイチ は サギョウフク を きこんで、 せっせと ソカイ の ニヅクリ を はじめて いる。 その カオ は イチズ に ゴウガン な サッキ を ふくんで いた。 ……それから ときどき、 シガイ デンワ が かかって くる と、 チョウケイ は いそがしげ に でかけて ゆく。 タカス には ダレ か チョウテイシャ が いる らしかった――、 が、 それ イジョウ の こと は ショウゾウ には わからなかった。
 ……イモウト は この スウネン-カン の アニヨメ の ヘンボウブリ を、 ――それ は センソウ の ため あらゆる コンク を しいられて きた ジブン と ヒカク して、―― センソウ に よって エイヨウ エイガ を ほしいまま に して きた モノ の スガタ と して、 そして この ワケ の わからない コンド の シッソウ も、 コウネンキ の セイリテキ ゲンショウ だろう か と、 ナニ か ものおそろしげ に かたる の で あった。 ……だらだら と イモウト が しゃべって いる と、 セイジ が やって きて だまって きいて いる こと が あった。 「ようするに、 キンロウ セイシン が ない の だ。 すこし は コウイン の こと も かんがえて くれたら いい のに」 と ジケイ は ぽつん と クチ を はさむ。 「まあ、 リッパ な ユウカン マダム でしょう」 と イモウト も うなずく。 「だが、 この センソウ の キョギ が、 イマ では スベテ の ニンゲン の セイシン を ハカイ して ゆく の では ない かしら」 と、 ショウゾウ が いいだす と 「ふん、 そんな まわりくどい こと では ない、 だんだん エイヨウ の タネ が つきて ゆく ので、 アニヨメ は ムカッパラ たてだした の だ」 と セイジ は わらう。
 タカコ は イエ を とびだして、 1 シュウカン あまり する と、 けろり と イエ に かえって きた。 だが、 ナニ か まだ わりきれない もの が ある らしく、 4~5 ニチ する と、 また ユクエ を くらました。 すると、 また ジュンイチ の ツイキュウ が はじまった。 「コンド は ながい ぞ」 と ジュンイチ は こうぜん と して いいはなった。 「ぐずぐず すれば、 ミナ から バカ に される。 40 にも なって、 ろくに ヒト に アイサツ も できない ヤツ ばかり じゃ ない か」 と オトウト たち に あてこする こと も あった。 ……ショウゾウ は フタリ の アニ の セイカク の ナカ に カレ と おなじ もの を みいだす こと が あって、 ときどき、 いや な キモチ が した。 モリ セイサクショ の シドウイン を して いる ヤスコ は、 アニ たち の セケン に たいする タイド の セツレツサ を シテキ する の だった。 その セツレツサ は ショウゾウ にも あった。 ……しかし、 ながい アイダ、 はなれて いる うち に、 なんと アニ たち は ひどく かわって いった こと だろう。 それでは ショウゾウ ジシン は ちっとも かわらなかった の だろう か。 ……いな。 ミンナ が、 ミンナ、 ヒゴト に せまる キキ に さらされて、 まだまだ かわろう と して いる し、 かわって ゆく に ちがいない。 ぎりぎり の ところ を みとどけなければ ならぬ。 ――これ が、 その コロ の ショウゾウ に シゼン に うかんで くる テーマ で あった。

「きた ぞ」 と いって、 セイジ は ショウゾウ の メノマエ に 1 マイ の シヘン を さしだした。 テンコ レイジョウ で あった。 ショウゾウ は じっと その カミ に メ を おとし、 インサツ の スミズミ まで よみかえした。
「5 ガツ か」 と カレ は そう つぶやいた。 ショウゾウ は サクネン、 コクミンヘイ の キョウイク ショウシュウ を うけた とき ほど には もう おどろかなかった。 が しかし セイジ は カレ の カオ に ただよう クモン の ヒョウジョウ を みてとって、 「なあに、 どっちみち、 イマ と なって は、 ナイチ キンム だ、 たいした こと ない さ」 と かるく うそぶいた。 ……5 ガツ と いえば、 2 カゲツ サキ の こと で あった が、 それまで この センソウ が つづく だろう か、 と ショウゾウ は ひそか に かんがえふけった。
 なんと いう こと なし に ショウゾウ は、 ぶらぶら と マチ を よく サンポ した。 イモウト の ムスコ の ケンイチ を つれて、 ヒサシブリ に センテイ へも いって みた。 ムカシ、 カレ が おさなかった とき カレ も よく ダレ か に つれられて おとずれた こと の ある テイエン だ が、 イマ も あわい ソウシュン の ヒザシ の ナカ に ジュモク や ミズ は ひっそり と して いた。 ゼッコウ の ヒナン バショ、 そういう ソウネン が すぐ ひらめく の で あった。 ……エイガカン は ヒルマ から マンイン だった し、 サカリバ の ショクドウ は いつも にぎわって いた。 ショウゾウ は ミオボエ の ある コウジ を えらんで は あるいて みた が、 どこ にも もう コドモゴコロ に しるされて いた なつかしい もの は みいだせなかった。 カシカン に インソツ された ヘイシ の 1 タイ が ヒソウ な ウタ を うたいながら、 とつぜん、 ヨツカド から あらわれる。 トウハツ に シロハチマキ を した ジョシ キンロウ ガクト の 1 タイ が、 ヘイタイ の よう な ホチョウ で やって くる の とも すれちがった。
 ……ハシ の ウエ に たたずんで、 カワカミ の ほう を ながめる と、 ショウゾウ の メイショウ を しらない ヤマヤマ が あった し、 マチ の ハテ の セト ナイカイ の ホウガク には シマヤマ が、 タテモノ の カゲ から カオ を のぞけた。 この マチ を ホウイ して いる それら の ヤマヤマ に、 ショウゾウ は かすか に ナニ か よびかけたい もの を かんじはじめた。 ……ある ユウガタ、 カレ は ふと マチカド を とおりすぎる フタリ の わかい オンナ に メ が ひきつけられた。 ケンコウ そう な シタイ と、 ゆたか な パーマネント の スガタ は、 アス の あたらしい タイプ か と ちょっと ショウゾウ の コウキシン を そそった。 カレ は カノジョ たち の アト を おい、 その カイワ を もれきこう と こころみた。
「オイモ が あり さえ すりゃあ、 ええ わね」
 マ の のびた、 げっそり する よう な コエ で あった。

 モリ セイサクショ では 60 メイ ばかり の ジョシ ガクト が、 ホウコウジョウ の ほう へ やって くる こと に なって いた。 ガクト ウケイレシキ の ジュンビ で、 セイジ は はりきって いた し、 その ヒ が ちかづく に つれて、 イマ まで ぶらぶら して いた ショウゾウ も しぜん、 ジムシツ の ほう へ スガタ を あらわし、 ザツヨウ を てつだわされた。 あたらしい サギョウフク を きて、 がらがら と ゲタ を ひきずりながら、 ドゾウ の ほう から イス を はこんで くる ショウゾウ の ヨウス は、 なれない シゴト に テイコウ しよう と する よう な、 ギゴチナサ が あった。 ……イス が はこばれ、 マク が はられ、 それに セイジ の かいた シキジュン の コウモク が ケイジ され、 シキジョウ は すでに ととのって いた。 その ヒ は 9 ジ から シキ が おこなわれる はず で あった。 だが、 ソウチョウ から はっせられた クウシュウ ケイホウ の ため に、 ヨテイ は すっかり くるって しまった。
「……ビゼン オカヤマ、 ビンゴナダ、 マツヤマ ジョウクウ」 と ラジオ は カンサイキ ライシュウ を こっこく と つげて いる。 ショウゾウ の ミジタク が できた コロ、 コウシャホウ が うなりだした。 この マチ では、 はじめて きく コウシャホウ で あった が、 どんより と くもった ソラ が かすか に キンチョウ して きた。 だが、 キエイ は みえず、 クウシュウ ケイホウ は いったん、 ケイカイ ケイホウ に うつったり して、 ヒトビト は ただ そわそわ して いた。 ……ショウゾウ が ジムシツ へ はいって ゆく と、 テツカブト を かぶった ウエダ の カオ と であった。
「とうとう、 やって きました の、 なんちゅう こと かいの」
 と、 イナカ から ツウキン して くる ウエダ は カレ に はなしかける。 その たくましい タイク や タンパク な ココロ を あらわして いる アイテ の カオツキ は、 イマ も なんとなし に ショウゾウ に アンド の カン を いだかせる の で あった。 そこ へ セイジ の ジャンパー スガタ が みえた。 カオ は さっそう と エミ を うかべよう と して、 メ は きらきら かがやいて いた。 ……ウエダ と セイジ が オモテ の ほう へ スガタ を けし、 ショウゾウ ヒトリ が イス に コシ を おろして いた とき で あった。 カレ は しばらく ぼんやり と なにも かんがえて は いなかった が、 とつぜん、 ヤネ の ほう を、 びゅん と うなる オト が して、 つづいて、 ばりばり と ナニ か さける ヒビキ が した。 それ は すぐ ズジョウ に おちて きそう な カンジ が して、 ショウゾウ の シカク は ガラスマド の ほう へ つっぱしった。 ムコウ の 2 カイ の ノキ と、 ニワ の マツ の コズエ が、 イッシュン、 イジョウ な ミツド で モウマク に えいじた。 オンキョウ は それきり、 もう きこえなかった。 しばらく する と、 オモテ から どやどや と ヒトビト が かえって きた。 「あ、 たまげた、 ドギモ を ぬかれた わい」 と ミウラ は ゆがんだ エガオ を して いた。 ……ケイホウ カイジョ に なる と、 オウライ を ぞろぞろ と ヒト が とおりだした。 ざわざわ した ナカ に、 どこ か うきうき した クウキ さえ かんじられる の で あった。 すぐ そこ で ひろった の だ と いって ダレ か が ホウダン の ハヘン を もって きた。
 その ヨクジツ、 シロハチマキ を した ちいさな ジョガクセイ の ヒト-クラス が コウチョウ と シュニン キョウシ に インソツ されて ぞろぞろ と やって くる と、 すぐに シキジョウ の ほう へ みちびかれ、 コウイン たち も ゼンブ チャクセキ した コロ、 ショウゾウ は ミウラ と イッショ に いちばん アト から シンガリ の イス に コシ を おろして いた。 ケンチョウ ドウイン カ の オトコ の シキジ や、 コウチョウ の クンジ は イイカゲン に ききながして いた が、 やがて、 リッパ な コクミンフク スガタ の ジュンイチ が トウダン する と、 ショウゾウ は キョウミ を もって、 エンゼツ の イチゴン イック を ききとった。 こういう ギョウジ には バ を ふんで きた もの らしく、 コエ も タイド も きびきび して いた。 だが、 かすか に コトバ に ――と いう より も ココロ の ムジュン に―― つかえて いる よう な ところ も あった。 ショウゾウ が じろじろ カンサツ して いる と、 ジュンイチ の シセン と ぴったり でくわした。 それ は ナニ か に いどみかかる よう な、 フシギ な ヒカリ を はなって いた。 ……ガクト の ガッショウ が おわる と、 カノジョ たち は その ヒ から にぎやか に コウジョウ へ ながれて いった。 マイアサ はやく から やって きて、 ユウガタ きちんと セイレツ して センセイ に インソツ されながら かえって ゆく スガタ は、 ここ の セイサクショ に イチミャク の シンセンサ を もたらし、 タショウ の ウルオイ を まじえる の で あった。 その いじらしい スガタ は ショウゾウ の メ にも うつった。
 ショウゾウ は ジムシツ の カタスミ で ボタン を かぞえて いた。 タク の ウエ に ちらかった ボタン を 100 コ ずつ まとめれば いい の で ある が、 のろのろ と なれない ユビサキ で ブキヨウ な こと を つづけて いる と、 ライキャク と オウタイ しながら じろじろ ながめて いた ジュンイチ は とうとう たまりかねた よう に、 「そんな カゾエカタ が ある か、 アソビゴト では ない ぞ」 と コエ を かけた。 せっせと テガミ を かきつづけて いた カタヤマ が、 すぐに ペン を おいて、 ショウゾウ の ソバ に やって きた。 「あ、 それ です か、 それ は こうして、 こんな ふう に やって ごらんなさい」 カタヤマ は シンセツ に おしえて くれる の で あった。 この カレ より も トシシタ の、 ゲンキ な カタヤマ は、 おそろしい ほど キ が きいて いて、 いつも カレ を アットウ する の で あった。

 カンサイキ が この マチ に あらわれて から ココノカ-メ に、 また クウシュウ ケイホウ が でた。 が、 ブンゴ スイドウ から シンニュウ した ヘンタイ は サダ ミサキ で ウカイ し、 ぞくぞく と キュウシュウ へ むかう の で あった。 コンド は、 この マチ には ナニゴト も なかった ものの、 この コロ に なる と、 にわか に ヒト も マチ も うきあしだって きた。 グンタイ が シュツドウ して、 マチ の タテモノ を つぎつぎ に ハカイ して ゆく と、 チュウヤ なし に ソカイ の バシャ が たえなかった。
 ヒルスギ、 ミンナ が ガイシュツ した アト の ジムシツ で、 ショウゾウ は ヒトリ イワナミ シンショ の 『ゼロ の ハッケン』 を よみふけって いた。 ナポレオン センエキ の とき、 ロシア グン の ホリョ に なった フランス の イチ シカン が、 ユウモン の あまり スウガク の ケンキュウ に ボットウ して いた と いう ハナシ は、 ミョウ に カレ の ココロ に ふれる もの が あった。 ……ふと、 そこ へ、 せかせか と セイジ が もどって きた。 ナニ か よほど コウフン して いる らしい こと が、 カオツキ に あらわれて いた。
「アニキ は まだ かえらぬ か」
「まだ らしい な」 ショウゾウ は ぼんやり こたえた。 あいかわらず、 ジュンイチ は ルスガチ の こと が おおく、 タカコ との フンソウ も、 ソノゴ どう なって いる の か、 ダイサンシャ には つかめない の で あった。
「ぐずぐず して は いられない ぞ」 セイジ は ドキ を おびた コエ で はなしだした。 「ソト へ いって みて くる と いい。 タケヤ-チョウ の トオリ も ヒラタヤ-チョウ ヘン も みんな とりはらわれて しまった ぞ。 ヒフク シショウ も いよいよ ソカイ だ」
「ふん、 そういう こと に なった の か。 してみると、 ヒロシマ は トウキョウ より まず ミツキ ほど たちおくれて いた わけ だね」 ショウゾウ が なんの イミ も なく そんな こと を つぶやく と、
「それだけ ヒロシマ が おくれて いた の は ありがたい と おもわねば ならぬ では ない か」 と セイジ は メ を まじまじ させて なおも かたい ヒョウジョウ を して いた。
 ……オオゼイ の コドモ を かかえた セイジ の イエ は、 チカゴロ は ツギ から ツギ へ と ごったかえす ヨウケン で フンキュウ して いた。 どの ヘヤ にも ソカイ の イルイ が はねくりだされ、 それに フタリ の コドモ は シュウダン ソカイ に くわわって ちかく シュッパツ する こと に なって いた ので、 その ジュンビ だけ でも タイヘン だった。 テギワ の わるい ミツコ は のろのろ と シゴト を かたづけ、 どうか する と ムダバナシ に トキ を ロウヒ して いる。 セイジ は ソト から かえって くる と、 いつも いらいら した キブン で ツマ に あたりちらす の で あった が、 そのくせ、 ユウショク が すむ と、 オク の ヘヤ に ひきこもって、 せっせと ミシン を ふんだ。 リュックサック なら すでに フタツ も カレ の イエ には あった し、 いそぐ シナ でも なさそう で あった。 セイジ は ただ、 それ を こしらえる オモシロサ に ムチュウ だった。 「なあにくそ、 なあにくそ」 と つぶやきながら、 ハリ を はこんだ。 「ショクニン なんか に まけて たまる もの か」 じじつ、 カレ の こしらえた リュック は ヘタ な ショクニン の シナ より か ユウシュウ で あった。
 ……こうして、 セイジ は セイジ なり に ナニ か キモチ を まぎらしつづけて いた の だ が、 キョウ、 ヒフク シショウ に シュットウ する と、 コウジョウ ソカイ を めいじられた の には、 キュウ に アシモト が ゆれだす オモイ が した。 それから キロ、 タケヤ-チョウ ヘン まで さしかかる と、 キノウ まで 40 ナンネン-カン も みなれた コウジ が、 すっかり ハ の ぬけた よう に なって いて、 ヘイタイ は めちゃくちゃ に ナタ を ふるって いる。 20 ダイ に 2~3 ネン タキョウ に ユウガク した ホカ は、 ほとんど この キョウド を はなれた こと も なく、 あたえられた シゴト を たえしのび、 その チイ も ようやく アンテイ して いた セイジ に とって、 これ は たえがたい こと で あった。 ……いったい ぜんたい どう なる の か。 ショウゾウ など に わかる こと では なかった。 カレ は、 イッコク も はやく ジュンイチ に あって、 コウジョウ ソカイ の こと を つげて おきたかった。 シンミ で アニ と ソウダン したい こと は、 いくらも ある よう な キモチ が した。 それなのに、 ジュンイチ は ジュンイチ で タカコ の こと に キ を うばわれ、 イマ は なんの タヨリ にも ならない よう で あった。
 セイジ は ゲートル を とりはずし、 しばらく ぼんやり して いた。 その うち に ウエダ や ミウラ が かえって くる と、 ジムシツ は タテモノ ソカイ の ハナシ で もちきった。 「ランボウ な こと を する のう。 ウチ に、 ノコギリ で ハシラ を ごしごし ひいて、 ナワ かけて えんやさ えんやさ と ひっぱり、 それ で カタッパシ から めいで いく の だ から、 カワラ も なにも わやくちゃ じゃ」 と ウエダ は ヘイタイ の ハヤワザ に カンシン して いた。 「ナガタ の カミヤ なんか かわいそう な もの さ。 あの ウチ は ソト から みて も、 それ は リッパ な フシン だ が、 オヤジサン トコバシラ を なでて わいわい ないた よ」 と ミウラ は みて きた よう に かたる。 すると、 セイジ も イマ は にこにこ しながら、 この ハナシ に くわわる の で あった。 そこ へ さえない カオツキ を して ジュンイチ も もどって きた。

 4 ガツ に はいる と、 マチ には そろそろ ワカバ も みえだした が、 カベツチ の ドシャ が カゼ に あおられて、 クウキ は ひどく ざらざら して いた。 シャバ の オウライ は らくえき と つづき、 ニンゲン の セイカツ が イマ は ムキダシ で さらされて いた。
「あんな もの まで はこんで いる」 と、 セイジ は ジムシツ の マド から ソト を ながめて わらった。 ダイハチグルマ に キジ の ハクセイ が ゆれながら みえた。 「なさけない もの じゃ ない か。 チュウゴク が ヒサン だ とか なんとか いいながら、 こちら だって チュウゴク の よう に なって しまった じゃ ない か」 と、 ルテン の スガタ に ココロ を うたれて か、 ジュンイチ も つぶやいた。 この チョウケイ は、 ヨウジン-ぶかく センソウ の ヒハン を さける の で あった が、 イオウジマ が カンラク した とき には、 「トウジョウ なんか ヤツザキ に して も あきたらない」 と もらした。 だが、 セイジ が コウジョウ ソカイ の こと を せかす と、 「ヒフク シショウ から マッサキ に うきあしだったり して どう なる の だ」 と、 あまり サンセイ しない の で あった。
 ショウゾウ も ゲートル を まいて ガイシュツ する こと が おおく なった。 ギンコウ、 ケンチョウ、 シヤクショ、 コウツウ コウシャ、 ドウインショ―― どこ へ いって も カンタン な ツカイ で あった し、 カエリ には ぶらぶら と チマタ を みて あるいた。 ……ホリカワ-チョウ の トオリ が ぐいと おもいきり きりひらかれ、 ドゾウ だけ を のこし、 ぎらぎら と ハカイ の アト が エンポウ まで テンボウ される の は、 インショウハ の エ の よう で あった。 これ は これ で オモムキ も ある、 と ショウゾウ は しいて そんな カンソウ を いだこう と した。 すると、 ある ヒ、 その インショウハ の エ の ナカ に マッシロ な カモメ が ムスウ に うごいて いた。 キンロウ ホウシ の ジョガクセイ たち で あった。 カノジョ たち は ぴかぴか と ひかる ハヘン の ウエ に おりたち、 しろい ウワギ に あかるい ヨウコウ を あびながら、 てんでに ベントウ を ひらいて いる の で あった。 ……フルホンヤ へ たちよって みて も、 ショセキ の ヘンドウ が いちじるしく、 ロウバイ と ムチツジョ が ここ にも うかがわれた。 「ナニ か テンモンガク の ホン は ありません か」 そんな こと を たずねて いる セイネン の コエ が ふと カレ の ミミ に のこった。
 ……デンキ ヤスミ の ヒ、 カレ は ツマ の ハカ を おとずれ、 その ツイデ に ニギツ コウエン の ほう を あるいて みた。 イゼン この ヘン は ハナミ ユサン の ヒトデ で にぎわった もの だ が、 そう おもいながら、 ひっそり と した コカゲ を みやる と、 ロウバ と ちいさな ムスメ が ひそひそ と ベントウ を ひろげて いた。 モモ の ハナ が マンカイ で、 ヤナギ の ミドリ は もえて いた。 だが、 ショウゾウ には どうも、 マトモ に キセツ の カンカク が うつって こなかった。 ナニ か が ずれさがって、 おそろしく チョウシ を くるわして いる。 ――そんな カンソウ を カレ は ユウジン に かきおくった。 イワテ ケン の ほう に ソカイ して いる トモ から も よく タヨリ が あった。 「ゲンキ で いて ください。 サイシン に やって ください」 そういう みじかい コトバ の ハシ にも ショウゾウ は、 ひたすら シュウセン の ヒ を いのって いる モノ の キモチ を かんじた。 だが、 その あたらしい ヒ まで オレ は いきのびる だろう か。……

 カタヤマ の ところ に ショウシュウ レイジョウ が やって きた。 セイカン な カレ は、 イツモ の よう に ジョウダン を いいながら、 てきぱき と ジム の アトシマツ を して ゆく の で あった。
「これまで テンコ を うけた こと は ある の です か」 と ショウゾウ は カレ に たずねた。
「それ も コトシ はじめて ある はず だった の です が、 ……いきなり これ でさあ。 なにしろ、 1000 ネン に イチド ある か ない か の オオイクサ です よ」 と カタヤマ は わらった。
 ながい アイダ、 ビョウキ の ため スガタ を あらわさなかった ミツイ ロウジン が ジムシツ の カタスミ から、 うれわしげ に カレラ の ヨウス を ながめて いた が、 この とき しずか に カタヤマ の ソバ に ちかよる と、
「ヘイタイ に なられたら、 バカ に なりなさい よ、 モノ を かんがえて は いけません よ」 と、 ムスコ に いいきかす よう に いいだした。
 ……この ミツイ ロウジン は ショウゾウ の チチ の ジダイ から ミセ に いた ヒト で、 コドモ の とき ショウゾウ は イチド ガッコウ で キブン が わるく なり、 この ヒト に むかえ に きて もらった キオク が ある。 その とき ミツイ は あおざめた カレ を はげましながら、 カワ の ホトリ で オウト する カタ を なでて くれた。 そんな、 とおい、 こまか な こと を、 ムヒョウジョウ に ちかい、 すぼんだ カオ は おぼえて いて くれる の だろう か。 ショウゾウ は この ロウジン が コンニチ の よう な ジダイ を どう おもって いる か、 たずねて みたい キモチ に なる こと も あった。 だが、 ロウジン は いつも ジムシツ の カタスミ で、 ナニ か ヒト を よせつけない かたくな な もの を もって いた。
 ……ある とき、 ケイリ ブ から、 アンマク に つける ワ を もとめて きた こと が ある。 ウエダ が さっそく、 ソウコ から ワ の ハコ を とりだし、 ジムシツ の タク に ならべる と、 「そいつ は ヒトハコ イクツ はいって います か」 と ケイリ ブ の ヘイ は たずねた。 「1000 コ でさあ」 と ウエダ は ムゾウサ に こたえた。 スミ の ほう で、 じろじろ ながめて いた ロウジン は この とき キュウ に コトバ を さしはさんだ。
「1000 コ? そんな はず は ない」
 ウエダ は フシギ そう に ロウジン を ながめ、
「1000 コ でさあ、 これまで いつも そう でした よ」
「いいや、 どうしても ちがう」
 ロウジン は たちあがって ハカリ を もって きた。 それから、 100 コ の ワ の メカタ を はかる と、 ツギ に ハコ ゼンタイ の ワ を ハカリ に かけた。 ゼンタイ を 100 で わる と、 700 コ で あった。

 モリ セイサクショ では カタヤマ の ソウベツカイ が おこなわれた。 すると、 ショウゾウ の しらぬ ヒトビト が ジムシツ に あらわれ、 いろんな もの を どこ か から ととのえて くる の で あった。 ジュンイチ の くわわって いる、 サマザマ な グループ、 それ が たがいに ブッシ の ユウズウ を しあって いる こと を ショウゾウ は ようやく きづく よう に なった。 ……その コロ に なる と、 タカコ と ジュンイチ の ながい アイダ の カットウ は けっきょく、 アイマイ に なり、 おもいがけぬ ホウガク へ カイケツ されて ゆく の で あった。
 ソカイ の イミ で、 タカコ には イツカイチ チョウ の ほう へ 1 ケン、 イエ を もたす、 そして モリ-ケ の ダイドコロ は ちょうど、 ムスコ を ガクドウ ソカイ に だして ヒトリ きり に なって いる ヤスコ に ゆだねる、 ――そういう こと が ケッテイ する と、 タカコ も はれがましく イエ に もどって きて、 イテン の ニゴシラエ を した。 だが、 タカコ にも まして、 この ニヅクリ に ネッチュウ した の は ジュンイチ で あった。 カレ は いろんな シナモノ に テイネイ に ツナ を かけ、 オオイ や ワク を こしらえた。 そんな サギョウ の アイマ には、 ジムシツ に もどり、 チェック プロテクター を つかったり、 ライキャク と オウタイ した。 ヨル は イモウト を アイテ に ヒトリ で バンシャク を した。 サケ は どこ か から はいって きた し、 ジュンイチ の キゲン は よかった……
 と、 ある アサ、 B-29 が この マチ の ジョウクウ を かすめて いった。 モリ セイサクショ の ホウコウジョウ に いた ガクト たち は、 イッセイ に マド から のぞき、 ヤネ の ほう へ はいだし、 ソラ に のこる ヒコウキグモ を みとれた。 「きれい だ わね」 「おお はやい こと」 と、 ショウジョ たち は てんでに タンセイ を はなつ。 B-29 も、 ヒコウキグモ も、 この マチ に スガタ を あらわした の は これ が はじめて で あった。 ――サクネンライ、 トウキョウ で みなれて いた ショウゾウ には ヒサシブリ に みる ヒコウキグモ で あった。
 その ヨクジツ、 バシャ が きて、 タカコ の ニ は イツカイチ チョウ の ほう へ はこばれて いった。 「ヨメイリ の ヤリナオシ です よ」 と、 タカコ は わらいながら、 キンジョ の ヒトビト に アイサツ して シュッパツ した。 だが、 4~5 ニチ する と、 タカコ は あらためて キンジョ との ソウベツカイ に もどって きた。 デンキ キュウギョウ で、 アサ から ダイドコロ には モチウス が ヨウイ されて、 ジュンイチ や ヤスコ は モチツキ の シタク を した。 その うち に トナリグミ の オンナ たち が ぞろぞろ と ダイドコロ に やって きた。 ……イマ では ショウゾウ も イモウト の クチ から、 この キンリン の ヒトビト の こと も、 うんざり する ほど きかされて いた。 ダレ と ダレ と が ケッタク して いて、 どこ と どこ が タイリツ し、 いかに トウセイ を くぐりぬけて ミンナ それぞれ ヤリクリ を して いる か。 ダイドコロ に スガタ を あらわした オンナ たち は、 ミンナ ヒトスジナワ では ゆかぬ ソウボウ で あった が、 ショウゾウ など の および も つかぬ セイカツリョク と、 キョギ を ムジャキ に ふるまう ホンノウ を さずかって いる らしかった。…… 「イマ の うち に のんで おきましょう や」 と、 その コロ ジュンイチ の ところ には いろんな ナカマ が エンカイ の ソウダン を もちかけ、 モリ-ケ の ダイドコロ は にぎわった。 そんな とき キンジョ の オカミサン たち も やって きて カセイ する の で あった。

 ショウゾウ は ユメ の ナカ で、 アラシ に モミクチャ に されて おちて いる の を かんじた。 つづいて、 マドガラス が どしん、 どしん と ひびいた。 その うち に、 「ケムリ が、 ケムリ が……」 と どこ か すぐ チカク で さけんで いる の を ミミ に した。 ふらふら する アシドリ で、 2 カイ の マドギワ へ よる と、 はるか ニシ の ほう の ソラ に コクエン が もうもう と たちのぼって いた。 フクソウ を ととのえ カイカ に いった とき には、 しかし、 もう ヒコウキ は すぎて しまった アト で あった。 ……セイジ の シンパイ そう な カオ が あった。 「アサネ なんか して いる サイ じゃ ない ぞ」 と カレ は ショウゾウ を しかりつけた。 その アサ、 ケイホウ が でた こと も ショウゾウ は まるで しらなかった の だ が、 ラジオ が 1 キ、 ハマダ (ニホンカイ-ガワ、 シマネ ケン の ミナト) へ おもむいた と ほうじた か と おもう と、 まもなく これ で あった。 カミヤ-チョウ スジ に ヒトスジ ぱらぱら と バクダン が まかれて いった の だ。 4 ガツ マツジツ の こと で あった。

 5 ガツ に はいる と、 キンジョ の コクミン ガッコウ の コウドウ で マイバン、 テンコ の ヨシュウ が おこなわれて いた。 それ を ショウゾウ は しらなかった の で ある が、 ようやく それ に きづいた の は、 テンコ マエ ヨッカ の こと で あった。 その ヒ から、 カレ も ハヤメ に ユウショク を おえて は、 そこ へ でかけて いった。 その ガッコウ も イマ では すでに ヘイシャ に あてられて いた。 アカリ の うすぐらい コウドウ の イタノマ には、 そうとう ネンパイ の イチグン と、 ぐんと わかい ヒトクミ が いりまじって いた。 ケッショク の いい、 わかい キョウカン は ぴんと ミ を そりかえらす よう な シセイ で、 ぴかぴか の チョウカ の スネ は ゴム の よう に はずんで いた。
「ミンナ が、 こうして ヨシュウ に きて いる の を、 キミ だけ きづかなかった の か」
 はじめ キョウカン は おだやか に ショウゾウ に たずね、 ショウゾウ は ぼそぼそ と ベンカイ した。
「コエ が ちいさい!」
 とつぜん、 キョウカン は、 びっくり する よう な コエ で どなった。
 ……そのうち、 ショウゾウ も ここ では ミナ が ミンナ バンセイ の ダシアイ を して いる こと に きづいた。 カレ も クビ を ふるい、 ヤケクソ に できる カギリ の コエ を しぼりだそう と した。 つかれて イエ に もどる と、 ドゴウ の チョウシ が ミウチ に うずまいた。 ……キョウカン は わかい ヒトクミ を あつめて、 ヒトリヒトリ に テンコ の レンシュウ を して いた。 キョウカン の トイ に たいして、 セイネン たち は ゲンキ よく こたえ、 レンシュウ は ジュンチョウ に すすんで いた。 アシ が たしょう ビッコ の セイネン が でて くる と、 キョウカン は ダンジョウ から カレ を みおろした。
「ショクギョウ は シャシンヤ か」
「さよう で ございます」 セイネン は コシ の ひくい ショウニン クチョウ で ひょこん と こたえた。
「よせ よ、 はい、 で ケッコウ だ。 せっかく、 イマ まで いい キブン で いた のに、 そんな ヘンジ されて は げっそり して しまう」 と キョウカン は ニガワライ した。 この コクハク で ショウゾウ は はっと きづいた。 トウスイ だ、 と カレ は おもった。
「ばかばかしい キワミ だ。 ニホン の グンタイ は ただ ケイシキ に トウスイ して いる だけ だ」 イエ に かえる と ショウゾウ は イモウト の マエ で ぺらぺら と しゃべった。

 いまにも アメ に なりそう な うすぐらい アサ で あった。 ショウゾウ は その コクミン ガッコウ の ウンドウジョウ の レツ の ナカ に いた。 5 ジ から やって きた の で ある が、 クンジ や セイレツ の クリカエシ ばかり で、 なかなか シュッパツ には ならなかった。 その アサ、 タイド が けしからん と いって、 イチ セイネン の ホオゲタ を はりとばした キョウカン は、 ナニ か まだ はずむ キモチ を もてあまして いる よう で あった。 そこ へ ちょうど、 ひどく あかじみた チュウネン オトコ が やって くる と、 もそもそ と ナニ か うったえはじめた。
「ナン だ と!」 と キョウカン の コエ だけ が マンジョウ に ききとれた。 「イチド も ヨシュウ に でなかった くせ に して、 ケサ だけ でる つもり か」
 キョウカン は じろじろ カレ を ながめて いた が、
「ハダカ に なれ!」 と ダイカツ した。 そう いわれて、 アイテ は おずおず と ボタン を はずしだした。 が、 キョウカン は いよいよ たけって きた。
「ハダカ に なる とは、 こう する の だ」 と、 アイテ を ぐんぐん ウンドウジョウ の ショウメン に ひっぱって くる と、 くるり と ウシロムキ に させて、 ぱっと アイテ の シャツ を はぎとった。 すると アオミドリイロ の モヤ が たちこめた うすぐらい コウセン の ナカ に、 カサブタ-だらけ の みにくい セナカ が ロシュツ された。
「これ が ゼッタイ アンセイ を ようした カラダ なの か」 と、 キョウカン は ツギ の ドウサ に うつる ため ちょっと マ を おいた。
「フココロエモノ!」 この コエ と ドウジ に ぴしり と テッケン が ひらめいた。 と、 その とき、 コウテイ に ある サイレン が ケイカイ ケイホウ の ウナリ を はなちだした。 その、 ものがなしげ な ふとい ヒビキ は、 この コウケイ に さらに セイサン な オモムキ を くわえる よう で あった。 やがて サイレン が やむ と、 キョウカン は ジブン の えんじた コウカ に だいぶ マンゾク した らしく、
「イマ から、 この オトコ を ケンペイタイ へ キソ して やる」 と イチドウ に センゲン し、 それから、 はじめて シュッパツ を めいじる の で あった。 ……イチドウ が ニシ レンペイジョウ へ さしかかる と、 アメ が ぽちぽち おちだした。 あらあらしい ホチョウ の オト が ホリ に そって すすんだ。 その ホリ の ムコウ が セイブ 2 ブタイ で あった が、 ほのぐらい ミドリ の ツツミ に イマ ツツジ の ハナ が チ の よう に さきみだれて いる の が、 ふと ショウゾウ の メ に とまった。

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