カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

カイメツ の ジョキョク 2

2017-09-07 | ハラ タミキ
 ヤスコ の ニモツ は ムスコ の ガクドウ ソカイチ へ すこし おくった の と、 シリアイ の イナカ へ ヒトハコ あずけた ホカ は、 まだ ダイブブン ジュンイチ の イエ の ドゾウ に あった。 ミノマワリ の シナ と シゴト ドウグ は、 ミシン を すえた 6 ジョウ の マ に おかれた が、 ヘヤ いっぱい、 シカカリ の シゴト を ひろげて、 その ナカ で ノボセギミ に はたらく の が すき な カノジョ は、 そこ が ランザツ に なる こと は いっこう キ に ならなかった。 アメガチ の テンキ で、 はやく から ヒ が くれる と ネズミ が ごそごそ はいのぼって、 ボール-バコ の カゲ へ かくれたり した。 キレイズキ の ジュンイチ は ときどき、 イモウト を しかりつける の だ が、 ヤスコ は その とき だけ ちょっと かたづけて みる ものの、 ヘヤ は すぐ マエ イジョウ に みだれた。 シゴト やら、 ダイドコロ やら、 ソウジ やら、 こんな ひろい イエ を アニ の キ に いる とおり に できない、 と、 よく ヤスコ は セイジ に こぼす の で あった。 ……イツカイチ チョウ へ イエ を かりて イライ、 ジュンイチ は つぎつぎ に ソカイ の シナ を おもいつき、 ほとんど マイニチ、 ニヅクリ に ヨネン ない の だった が、 ニ を サンラン した アト は イエ の ウチ を きちんと かたづけて おく シュウカン だった。 ジュンイチ の モチニゲ-ヨウ の リュックサック は ショクリョウヒン が つめられて、 エンガワ の テンジョウ から つるされて いる ツナ に くくりつけて あった。 つまり、 ネズミ の シンガイ を ふせぐ ため で あった。 ……ニシザキ に ナワ を かけさせた ニ を フタリ で セイサクショ の カタスミ へ もちはこぶ と、 ジュンイチ は ジムシツ で ロウガンキョウ を かけ 2~3 の ショルイ を よみ、 それから ふいと フロバ へ スガタ を あらわし、 ごしごし と ナガシバ の ソウジ に とりかかる。
 ……コノゴロ、 ジュンイチ は ミ も ココロ も コマ の よう に よく カイテン した。 タカコ を ソカイ させた ものの、 チョウカイ では ボウクウ ヨウイン の ソカイ を こばみ、 イドウ ショウメイ を ださなかった。 したがって、 ジュンイチ は ショクリョウ も、 タカコ の ところ へ はこばねば ならなかった。 イツカイチ チョウ まで の テイキ ジョウシャケン も テ に いれた し、 コメ は ことかかない だけ、 たえず ながれこんで くる。 ……フロ ソウジ が すむ コロ、 ジュンイチ には もう アス の ニヅクリ の プラン が できて いる。 そこで、 テアシ を ぬぐい、 ゲタ を つっかけ、 ドゾウ を のぞいて みる の で あった が、 イリグチ の すぐ ソバ に ランザツ に つみかさねて ある ヤスコ の ニモツ―― ナニ か とりだして、 そのまま フタ の あいて いる ハコ や、 フタ から はみだして いる イルイ…… が、 イツモ の こと ながら メ に つく。 しばらく ジュンイチ は それ を れいぜん と みつめて いた が、 ふと、 ここ へは もっと ミズオケ を そなえつけて おいた ほう が いい な、 と、 ヒトリ うなずく の で あった。
 30 も ナカバスギ の ヤスコ は、 もう ジョガクセイ の コロ の あかるい アタマ には かえれなかった し、 すんだ タマシイ と いう もの は いつのまにか みうしなわれて いた。 が、 そのかわり ナニ か イマ では ふてぶてしい もの が ミ に そなわって いた。 ビョウジャク な オット と シベツ し、 ヨウジ を かかえて、 ジュンイチ の キンジョ へ うつりすむ よう に なった コロ から、 セケン は フクザツ に なった し、 その アイダ、 1 ネン あまり ヨウサイ シュギョウ の タビ にも でたり した が、 セイカツナン の ソコ で、 シュウトメ や トナリグミ や アニヨメ や アニ たち に こづかれて ゆく うち に、 たしょう モノ の ウラオモテ も わかって きた。 コノゴロ、 ナニ より も カノジョ に とって キョウミ が ある の は、 タニン の こと で、 ヒト の キモチ を あれこれ オクソク したり する こと が、 ほとんど ヤミツキ に なって いた。 それから、 カノジョ は カノジョ-リュウ に、 ヒト を ショウチュウ に まるめる、 と いう より ヒト と おもしろく つきあって、 ささやか な アイジョウ の ヤリトリ を する こと に、 キ を まぎらす の で あった。 ハントシ マエ から シリアイ に なった キンジョ の シンコン の ムジャキ な フサイ も たまらなく コウイ が もてた ので、 ジュンイチ が イツカイチ の ほう へ でかけて いって ルス の ヨル など、 ヤスコ は この フタリ を ショウタイ して、 ドラヤキ を こしらえた。 トウカ カンセイ の モト で、 アス をも しれない キョウイ の ナカ で、 これ は ママゴト アソビ の よう に たのしい ヒトトキ で あった。
 ……ホンケ の ダイドコロ を あずかる よう に なって から は、 オイ の チュウガクセイ も 「ネエサン、 ネエサン」 と よく なついた。 フタリ の ウチ ちいさい ほう は ハハオヤ に くっついて イツカイチ チョウ へ いった が、 タバコ の アジ も おぼえはじめた、 ウエ の ほう の チュウガクセイ は サカリバ の ヨル の ミリョク に ひかれて か、 やはり、 ここ に ふみとどまって いた。 ユウガタ、 ミツビシ コウジョウ から もどって くる と、 さっそく カレ は ダイドコロ を のぞく。 すると、 トダナ には ムシパン や ドウナッツ が、 カレ の キ に いる よう に いつも メサキ を かえて、 こしらえて あった。 ハライッパイ、 ユウショク を たべる と、 のそり と くらい オウライ へ でかけて ゆき、 それから もどって くる と ヒトフロ あびて アセ を ながす。 ノンキ そう に ユ の ナカ で オオゴエ で うたって いる フシマワシ は、 すっかり ショッコウ キドリ で あった。 まだ、 カオ は こどもっぽかった が、 カラダ は ソウテイ-ナミ に ハッタツ して いた。 ヤスコ は オイ の ウタゴエ を きく と、 いつも くすくす わらう の だった。 ……アン を いれた マンジュウ を こしらえ、 バンシャク の アト だす と、 ジュンイチ は ひどく ほめて くれる。 あおい ワイシャツ を きて わかがえった つもり の ジュンイチ は、 「ふとった では ない か、 ほほう、 ヒビ に ふとって ゆく ぞ」 と キゲン よく ジョウダン を いう こと が あった。 じっさい、 ヤスコ は シタバラ の ほう が でっぱって、 カオ は いつのまにか 20 ダイ の ツヤ を たたえて いた。 だが、 シュウ に イチド ぐらい は イツカイチ チョウ の ほう から アニヨメ が もどって きた。 ハデ な モンペ を きた タカコ は コウリョウ の ニオイ を まきちらしながら、 それとなく ヤスコ の ヤリクチ を カンシ に くる よう で あった。 そういう とき ケイホウ が でる と、 すぐ この タカコ は カオ を しかめる の で あった が、 カイジョ に なる と、 「さあ、 また ケイホウ が でる と うるさい から かえりましょう」 と そそくさ と たちさる の だった。
 ……ヤスコ が ユウゲ の シタク に とりかかる コロ には たいがい、 ジケイ の セイジ が やって くる。 ソカイ ガクドウ から きた と いって、 うれしそう に ハガキ を みせる こと も あった。 が、 ときどき、 セイジ は 「ふらふら だ」 とか 「メマイ が する」 と うったえる よう に なった。 カオ に セイキ が なく、 ショウソウ の イロ が めだった。 ヤスコ が ニギリメシ を さしだす と、 カレ は だまって うまそう に ぱくついた。 それから、 この イエ の いそがしい ソカイブリ を ながめて、 「ついでに イシドウロウ も ウエキ も みんな もって いく と いい」 など わらう の で あった。
 マエ から ヤスコ は ドゾウ の ナカ に ホウリッパナシ に なって いる タンス や キョウダイ が キ に かかって いた。 「この キョウダイ は ワク つくらす と いい」 と ジュンイチ も いって くれた ほど だし、 ヒトコト カレ が ニシザキ に めいじて くれれば すぐ カイケツ する の だった が、 オノレ の ソカイ に かまけて いる ジュンイチ は、 もう そんな こと は わすれた よう な カオツキ だった。 ちょくせつ、 ニシザキ に たのむ の は どうも キ が ひけた。 タカコ の メイレイ なら ムジョウケン に したがう ニシザキ も ヤスコ の こと に なる と、 とかく しぶる よう に おもえた。 ……その アサ、 ヤスコ は ジムシツ から クギヌキ を もって ドゾウ の ほう へ やって きた ジュンイチ の スガタ を チュウイ して みる と、 その カオ は おだやか に ないで いた ので、 たのむ なら この とき と おもって、 さっそく、 キョウダイ の こと を もちかけた。
「キョウダイ?」 と ジュンイチ は ムカンドウ に つぶやいた。
「ええ、 あれ だけ でも はやく ソカイ させて おきたい の」 と ヤスコ は とりすがる よう に アニ の ヒトミ を みつめた。 と、 アニ の シセン は ちらと ワキ へ そらされた。
「あんな、 ガラクタ、 どう なる の だ」 そう いう と ジュンイチ は くるり と ソッポ を むいて いって しまった。 はじめ、 ヤスコ は すとん と クウキョ の ナカ に なげだされた よう な キモチ で あった。 それから、 つぎつぎ に イキドオリ が ゆれ、 もう じっと して いられなかった。 ガラクタ と いって も、 たびかさなる イドウ の ため に あんな ふう に なった ので、 カノジョ が ケッコン する とき まだ いきて いた ハハオヤ が みたてて くれた キネン の シナ で あった。 ジブン の もの に なる と ホウキ 1 ポン に まで アイチャク する ジュンイチ が、 この せつない、 ヒト の キモチ は わかって くれない の だろう か。 ……カノジョ は また あの バン の こわい ジュンイチ の カオツキ を おもいうかべて いた。
 それ は タカコ が イツカイチ チョウ に ソカイ する テハズ の できかかった コロ の こと で あった。 ツマ の カワリ に イモウト を この イエ に うつし イッサイ を きりまわさす こと に する と、 ジュンイチ は シュチョウ する の で あった が、 ヤスコ は なかなか ショウダク しなかった。 ヒトツ には ミガッテ な アニヨメ に たいする アテコスリ も あった が、 カケ チョウ の ほう へ ソカイ した コドモ の こと も キ に なり、 いっそ の こと ホボ と なって そこ へ いって しまおう か とも おもいまどった。 アニヨメ と ジュンイチ とは ヤスコ を めぐって なだめたり すかしたり しよう と する の で あった が、 もう ヨ も ふけかかって いた。
「どうしても ショウダク して くれない の か」 と ジュンイチ は きっと なって たずねた。
「ええ、 やっぱし ヒロシマ は キケン だし、 いっそ の こと カケ チョウ の ほう へ……」 と、 ヤスコ は おなじ こと を くりかえした。 とつぜん、 ジュンイチ は ナガヒバチ の ソバ に あった ネーブル の カワ を つかむ と、 ムコウ の カベ へ びしゃり と なげつけた。 キョウボウ な クウキ が さっと みなぎった。
「まあ、 まあ、 もう イッペン アス まで よく かんがえて みて ください」 と アニヨメ は とりなす よう に コトバ を はさんだ が、 けっきょく、 ヤスコ は その ヨル の うち に ショウダク して しまった の で あった。 ……しばらく ヤスコ は メモト が くらくら する よう な ジョウタイ で イエ の ウチ を アテ も なく あるきまわって いた が、 いつのまにか カイダン を のぼる と 2 カイ の ショウゾウ の ヘヤ に きて いた。 そこ には アサッパラ から ヒトリ ひきこもって クツシタ の シュウゼン を して いる ショウゾウ の スガタ が あった。 ジュンイチ の こと を イッキ に しゃべりおわる と、 はじめて ナミダ が あふれながれた。 そして、 いくらか キモチ が おちつく よう で あった。 ショウゾウ は うれわしげ に ただ もくもく と して いた。

 テンコ が おわって から の ショウゾウ は、 ジブン でも どうにも ならぬ キョムカン に おちいりがち で あった。 その コロ、 ヨウジ も あまり なかった し、 ジムシツ へも めった に スガタ を あらわさなく なって いた。 たまに でて くれば、 シンブン を よむ ため で あった。 ドイツ は すでに ムジョウケン コウフク を して いた が、 イマ この クニ では ホンド ケッセン が さけばれ、 チクジョウ など と いう コトバ が みえはじめて いた。 ショウゾウ は シャセツ の ウラ に ナニ か シンソウ の ニオイ を かぎとろう と した。 しかし、 どうか する と、 フツカ も ミッカ も シンブン が よめない こと が あった。 これまで ジュンイチ の タクジョウ に おかれて いた はず の もの が、 どういう もの か どこ か に かくされて いた。
 たえず ナニ か に おいつめられて ゆく よう な キモチ で いながら、 だらけて ゆく もの を どうにも できず、 ショウゾウ は ミズカラ を もてあます よう に、 ぶらぶら と ひろい イエ の ウチ を あるきまわる こと が おおかった。 ……ヒルドキ に なる と、 ジョセイト が ダイドコロ の ほう へ オチャ を とり に くる。 すると、 クロイタ の ヘイ ヒトエ を へだてて、 コウジョウ の ロジ の ほう で イマ サギョウ から カイホウ された ガクト たち の にぎやか な コエ が きこえる。 ショウゾウ が こちら の ショクドウ の エンガワ に コシ を おろし、 すぐ アシモト の ちいさな イケ に ユウウツ な マナザシ を おとして いる と、 コウジョウ の ほう では ガクト たち の タイソウ が はじまり、 イチ、 ニ、 イチ、 ニ と クミチョウ の はれやか な ゴウレイ が きこえる。 その やさしい ハズミ を もった ショウジョ の コエ だけ が、 キミョウ に ショウゾウ の ココロ を なぐさめて くれる よう で あった。 ……3 ジ-ゴロ に なる と、 カレ は ふと おもいついた よう に、 2 カイ の ジブン の ヘヤ に かえり、 クツシタ の シュウゼン を した。 すると、 ニワ を へだてて、 ムコウ の ジムシツ の 2 カイ では、 せっせと たちはたらいて いる ジョコウ たち の スガタ が みえ、 モーター ミシン の カイテン する オンキョウ も ここ まで きこえて くる。 ショウゾウ は ハリ の メド に ユビサキ を まどわしながら、 「これ を はいて にげる とき」 と そんな ネンソウ が ひらめく の で あった。
 ……それから ニチボツ の マチ を ぶぜん と あるいて いる カレ の スガタ が よく みかけられた。 マチ は つぎつぎ に タテモノ が とりはらわれて ゆく ので、 おもいがけぬ ところ に ヒロバ が のぞき、 ソマツ な ツチ の ゴウ が うずくまって いた。 めった に デンシャ も とおらない だだびろい ミチ を まがる と、 カワ に そった ツツミ に でて、 くずされた ドベイ の ホトリ に、 イチジク の ハ が おもくるしく しげって いる。 うすぐらく なった まま ヨウイ に ヨル に とけこまない クウカン は、 どろん と した シッケ が あふれて、 ショウゾウ は まるで みしらぬ トチ を あるいて いる よう な キモチ が する の で あった。 ……だが、 カレ の アシ は その ツツミ を とおりすぎる と、 キョウバシ の タモト へ で、 それから さらに カワ に そった ツツミ を あるいて ゆく。 セイジ の イエ の カドグチ まで きかかる と、 ミチバタ で あそんで いた メイ が まず コエ を かけ、 つづいて 1 ネンセイ の オイ が すばやく とびついて くる。 オイ は ぐいぐい カレ の テ を ひっぱり、 かたい ちいさな ツメ で、 ショウゾウ の テクビ を つねる の で あった。
 その コロ、 ショウゾウ は モチニゲ-ヨウ の ザツノウ を ほしい と おもいだした。 ケイホウ の たび ごと に カレ は フロシキヅツミ を もちあるいて いた が、 アニ たち は リッパ な リュック を もって いた し、 ヤスコ は カタ から さげる カバン を こしらえて いた。 ヌノジ さえ あれば いつでも ぬって あげる と ヤスコ は うけあった。 そこで、 ショウゾウ は ジュンイチ に ハナシ を もちかける と、 「カバン に する ヌノジ?」 と ジュンイチ は つぶやいて、 そんな もの が ある の か ない の か アイマイ な カオツキ で あった。 その うち には だして くれる の か と まって いた が いっこう はっきり しない ので、 ショウゾウ は また ジュンイチ に サイソク して みた。 すると、 ジュンイチ は イジワル そう に わらいながら、 「そんな もの は いらない よ。 かついで にげたい の だったら、 そこ に つるして ある リュック の ウチ、 どれ でも いい から もって にげて くれ」 と いう の で あった。 その カバン は ジュウヨウ ショルイ と ほんの ミ に つける シナ だけ を いれる ため なの だ と、 ショウゾウ が いくら セツメイ して も、 ジュンイチ は とりあって くれなかった。…… 「ふーん」 と ショウゾウ は おおきな タメイキ を ついた。 カレ には ジュンイチ の シンリ が どうも つかめない の で あった。 「すねて やる と いい のよ。 ワタシ なんか ないたり して こまらして やる」 と、 ヤスコ は ジュンイチ の ソウジュウホウ を セツメイ して くれた。 キョウダイ の ケン に して も、 ソノゴ けろり と して ジュンイチ は ソカイ させて くれた の で あった。 だが、 ショウゾウ には じわじわ した カケヒキ は できなかった。 ……カレ は セイジ の イエ へ いって カバン の こと を はなした。 すると セイジ は ちょうど いい ヌノジ を とりだし、 「これ ぐらい あったら つくれる だろう。 コメ 1 ト と いう ところ だ が、 ナニ か よこす か」 と いう の で あった。 ヌノジ を テ に いれる と ショウゾウ は ヤスコ に カバン の セイサク を たのんだ。 すると、 イモウト は、 「にげる こと ばかり かんがえて どう する の」 と、 これ も また イジ の わるい こと を いう の で あった。

 4 ガツ 30 ニチ に バクゲキ が あった きり、 ソノゴ ここ の マチ は まだ クウシュウ を うけなかった。 したがって マチ の ソカイ にも カンキュウ が あり、 ジンシン も キンチョウ と シカン が たえず コウタイ して いた。 ケイホウ は ほとんど レンヤ でた が、 それ は キライ トウカ と きまって いた ので、 モリ セイサクショ でも カンシ トウバンセイ を ハイシ して しまった。 だが、 ホンド ケッセン の ケハイ は しだいに もう ノウコウ に なって いた。
「ハタ ゲンスイ が ヒロシマ に きて いる ぞ」 と、 ある ヒ、 セイジ は ジムシツ で ショウゾウ に いった。 「ヒガシ レンペイジョウ に チクジョウ ホンブ が ある。 ヒロシマ が サイゴ の ガジョウ に なる らしい ぞ」 そういう こと を かたる セイジ は ――タショウ の カイギ も もちながら―― ショウゾウ に くらべる と、 ケッセン の ココログミ に きおって いる ふう にも みえた。…… 「ハタ ゲンスイ が のう」 と、 ウエダ も マノビ した クチョウ で いった。 「ありゃあ、 フタバ の サト で、 マイニチ フタツ ずつ おおきな マンジュウ を たべてん だ そう な」 ……ユウコク、 ジムシツ の ラジオ は ケイヒン チク に B-29 500 キ ライシュウ を ほうじて いた。 シカメツラ して きいて いた ミツイ ロウジン は、
「へーえ、 500 キ!……」
 と おもわず キョウタン の コエ を あげた。 すると、 ミナ は くすくす わらいだす の で あった。
 ……ある ヒ、 ヒガシ ケイサツショ の 2 カイ では、 シナイ の コウジョウシュ を あつめて ナニ か クンジ が おこなわれて いた。 ダイリ で でかけて きた ショウゾウ は、 こういう セキ には はじめて で あった が、 キョウ も なさげ に ヒトリ カッテ な こと を かんがえて いた。 が、 その うち に ふと キ が つく と、 ベンシ が いれかわって、 イマ タイク どうどう たる ジュンサ が しゃべりだそう と する ところ で あった。 ショウゾウ は その フウサイ に ちょっと キョウミ を かんじはじめた。 タイカク と いい、 カオツキ と いい、 いかにも テンケイテキ な ケイサツカン と いう ところ が あった。 「ええ、 これから ボウクウ エンシュウ の ケン に ついて、 いささか もうしあげます」 と、 その コエ は また メイロウ カッタツ で あった。 ……おやおや、 ゼンコク の トシ が イマ ダンウ の シタ に さらされて いる とき、 ここ では エンシュウ を やる と いう の かしら、 と ショウゾウ は あやしみながら ミミ を かたむけた。
「ええ、 ゴショウチ の とおり ゲンザイ、 わが ヒロシマ シ へは トウキョウ を ハジメ、 ナゴヤ、 あるいは オオサカ、 コウベ ホウメン から、 つまり カク-ホウメン の リサイシャ が ぞくぞく と あいついで ながれこんで おります。 それら の リサイシャ が わが シミン ショクン に かたる ところ は ナン で ある か と もうします と、 『いやはや、 クウシュウ は こわかった こわかった。 なんでも かんでも はやく にげだす に かぎる』 と、 ほざく の で あります。 しかし、 ひっきょう する に カレラ は ボウクウジョウ の ザンパイシャ で あり、 あわれむ べき グミン で あります。 みずから たのむ ところ あつき ワレワレ は けっして カレラ の ゲン に ミミ を かたむけて は ならない の で あります。 なるほど センキョク は カレツ で あり、 クウシュウ は ゲキカ の イチロ に あります。 だが、 いかなる キケン と いえど も、 それ に たいする かっこ たる ボウビ さえ あれば、 いささかも おそる には たりない の で あります」
 そう いいながら、 カレ は くるり と コクバン の ほう へ むいて、 コンド は ズシ に よって、 ジッサイテキ の セツメイ に はいった。 ……その いささかも フアン も なさげ な、 カレ の ハナシ を きいて いる と、 じっさい、 クウシュウ は カンタン メイリョウ な コトガラ で あり、 ドウジ に ヒト の イノチ も また タンジュン メイカク な ブツリテキ サヨウ の モト に ある だけ の こと の よう に おもえた。 めずらしい オトコ だな、 と ショウゾウ は かんがえた。 だが、 このよう な コウカン ロボット なら、 イマ ニホン には いくらでも いる に ちがいない。

 ジュンイチ は テブラ で イツカイチ チョウ の ほう へ でむく こと は なく、 いつも リュックサック に こまごま した ソカイ の シナ を つめこみ、 ユウショク-ゴ ヒトリ いそいそ と でかけて ゆく の で あった が、 ある とき、 ショウゾウ に 「マンイチ の バアイ しって いて くれぬ と こまる から、 これから イッショ に いこう」 と さそった。 ちいさな ニモツ もたされて、 ショウゾウ は ジュンイチ と イッショ に デンシャ の テイシャジョウ へ おもむいた。 コイーユキ は なかなか やって こず、 ショウゾウ は ひろびろ と した ドウロ の ハテ に メ を やって いた。 が、 その うち に、 タテモノ の ムコウ に はっきり と ゴサソウザン が うずくまって いる スガタ が うつった。
 それ は イマ、 ナツ の ユウグレ の スイジョウキ を ふくんで あざやか に セイドウ して いた。 その ヤマ に つらなる ホカ の ヤマヤマ も イツモ は カスイ の あわい スガタ しか しめさない のに、 キョウ は おそろしく セイキ に みちて いた。 そこしれない スガタ の ナカ を クモ が ゆるゆる と ながれた。 すると、 いまにも ヤマヤマ は ゆれうごき、 さけびあおう と する よう で あった。 フシギ な コウケイ で あった。 ふと、 この マチ を めぐる、 ある おおきな もの の コウズ が、 この とき ショウゾウ の メ に えがかれて きだした。 ……セイレツ な カセン を イクツ か のりこえ、 デンシャ が シガイ に でて から も、 ショウゾウ の メ は マド の ソト の フウケイ に くいいって いた。 その エンセン は ムカシ カイスイヨクキャク で にぎわった ので、 イマ も マド から ふきこむ カゼ が ふと なつかしい キオク の ニオイ を もたらしたり した。 が、 サキホド から ショウゾウ を おどろかして いる チュウゴク サンミャク の ヒョウジョウ は なおも おとろえなかった。 くれかかった ソラ に ヤマヤマ は いよいよ あざやか な ミドリ を なげだし、 セト ナイカイ の シマカゲ も くっきり と うきあがった。 ナミ が、 あおい おだやか な ナミ が、 ムゲン の アラシ に あおられて、 いまにも くるいまわりそう に おもえた。

 ショウゾウ の メ には、 いつも みなれて いる ニホン チズ が うかんだ。 コウボウ はてしない タイヘイヨウ の ハテ に、 はじめ ニホン レットウ は ちいさな テンテン と して うつる。 マリアナ キチ を とびたった B-29 の ヘンタイ が、 クモ の ウラ を ぬって ホシ の よう に ながれて ゆく。 ニホン レットウ が ぐんと こちら に ひきよせられる。 ハチジョウジマ の ウエ で フタツ に わかれた ヘンタイ の ヒトツ は、 まっすぐ フジ-サン の ほう に むかい、 ホカ は、 クマノナダ に そって キイ スイドウ の ほう へ すすむ。 が、 その ヘンタイ から、 いま 1 キ が ふわり と はなれる と、 ムロト ミサキ を こえて、 ぐんぐん トサ ワン に むかって ゆく。 ……あおい ヘイゲン の ウエ に あわだち むらがる サンミャク が みえて くる が、 その ミネ を とびこえる と、 カガミ の よう に しずまった セト ナイカイ だ。 1 キ は その キョウメン に サンプ する シマジマ を テンケン しながら、 ゆうぜん と ヒロシマ ワン-ジョウ を まって いる。 つよすぎる マヒル の コウセン で、 チュウゴク サンミャク も ワンコウ に のぞむ イッカイ の トシ も ウスムラサキ の おぼろ で ある。 ……が、 その うち に、 ウジナ-コウ の リンカク が はっきり と みえ、 そこ から ヒロシマ シ の ゼンボウ が ヒトメ に みおろされる。 サンキョウ に そって ながれて いる オオタガワ が、 この マチ の イリグチ の ところ で ブンキ する と、 ブンキ の カズ は さらに ふえ、 マチ は サンカクス の ウエ に ひろがって いる。 マチ は すぐ ハイゴ に ひくい ヤマヤマ を めぐらし、 レンペイジョウ の シカクケイ が フタツ、 おおきく しろく ひかって いる。 だが、 チカゴロ その カワ に くぎられた マチ には、 いたる ところ に、 ソカイ アト の しろい アキチ が できあがって いる。 これ は ショウイダン コウゲキ に たいして テッペキ の ジン を しいた と いう の で あろう か。 ……ボウエンキョウ の オモテ に、 ふと キョウリョウ が あらわれる。 マメツブ ほど の ニンゲン の ムレ が イマ も いそがしげ に うごきまわって いる。 たしか ヘイタイ に ちがいない。 ヘイタイ、 ――それ が チカゴロ この マチ の いたる ところ を センユウ して いる らしい。 レンペイジョウ に アリ の ごとく うごめく カゲ は もとより、 ちょっと した タテモノ の ホトリ にも、 それ らしい カゲ が テンザイ する。 ……サイレン は なった の だろう か。 ニグルマ が イクツ も マチジュウ を うごいて いる。 マチハズレ の アオタ には オモチャ の キシャ が のろのろ はしって いる。 ……しずか な マチ よ、 さようなら。 B-29 1 キ は くるり と カジ を かえ ゆうぜん と とびさる の で あった。

 リュウキュウ レットウ の タタカイ が おわった コロ、 リンケン の オカヤマ シ に ダイクウシュウ が あり、 つづいて、 6 ガツ 30 ニチ の シンコウ から 7 ガツ ツイタチ の ミメイ まで、 クレ シ が エンショウ した。 その ヨ、 ヒロシマ ジョウクウ を よこぎる ヘンタイ バクオン は つぎつぎ に シミン の ミミ を おびやかして いた が、 セイジ も ボウクウ ズキン に メ ばかり ひからせながら、 モリ セイサクショ へ やって きた。 コウジョウ にも ジムシツ にも ヒトカゲ は なく、 イエ の ゲンカン の ところ に、 ヤスコ と ショウゾウ と オイ の チュウガクセイ の 3 ニン が うずくまって いる の だった。 たった これ だけ で、 こんな ひろい バショ を ふせぐ と いう の だろう か、 ――セイジ は すぐに そんな こと を かんがえる の で あった。 と、 オモテ の ほう で ハンショウ が なり 「タイヒ」 と さけぶ コエ が きこえた。 4 ニン は あたふた と ニワ の ゴウ へ ミ を ひそめた。 ミツウン の ソラ は ヨウイ に あけよう とも せず、 バクオン は つぎつぎ に ききとれた。 モノ の カタチ が はっきり みえはじめた コロ ようやく クウシュウ カイジョ と なった。
 ……その ヘイセイ に かえった マチ を、 ひどく コウフン しながら、 ジュンイチ は オオイソギ で あるいて いた。 カレ は イツカイチ チョウ で イッスイ も しなかった し、 ウミ を へだてて ムコウ に あかあか と もえる カエン を よどおし ながめた の だった。 うかうか して は いられない。 ヒ は もう カカト に もえついて きた の だ、 ――そう つぶやきながら、 イッコク も はやく ジタク に かけつけよう と した。 デンシャ は その アサ も ヨウイ に やって こず、 ジョウキャク は ミンナ ぼうと した カオツキ で あった。 ジュンイチ が ジムシツ に あらわれた の は、 アサ の ヒ も だいぶ たかく なって いた コロ で あった が、 ここ にも ぼうと した カオツキ の ねむそう な ヒトビト ばかり と であった。
「うかうか して いる とき では ない。 さっそく、 コウジョウ は ソカイ させる」
 ジュンイチ は セイジ の カオ を みる と、 すぐに そう センコク した。 ミシン の トリハズシ、 ニバシャ の カフ を ケンチョウ へ シンセイ する こと、 カザイ の サイセイリ。 ――ジュンイチ には また キュウ な ヨウケン が ヤマヅミ した。 ソウダン アイテ の セイジ は、 しかし、 マッセツ に ギギ を はさむ ばかり で、 いっこう てきぱき した ところ が なかった。 ジュンイチ は ぴしぴし と ムチ を ふるいたい オモイ に もえたつ の だった。

 その ヨクヨクジツ、 コンド は ヒロシマ の ダイクウシュウ だ と いう ウワサ が ぱっと ひろがった。 ウエダ が ユウコク、 リョウマツショウ から の ケイコク を ジュンイチ に つたえる と、 ジュンイチ は イモウト を せかして ユウショク を ハヤメ に すまし、 ショウゾウ と ヤスコ を かえりみて いった。
「ワシ は これから でかけて いく が、 アト は よろしく たのむ」
「クウシュウ ケイホウ が でたら にげる つもり だ が……」 ショウゾウ が ネン を おす と ジュンイチ は うなずいた。
「ダメ らしかったら ミシン を イド へ なげこんで おいて くれ」
「クラ の トビラ を ぬりつぶしたら…… イマ の うち に やって しまおう かしら」
 ふと、 ショウゾウ は ソウレツ な キモチ が わいて きた。 それから ドゾウ の マエ に ちかづいた。 かねて アカツチ は ねって あった が、 その ドゾウ の トビラ を ぬりつぶす こと は、 チチ の ダイ には ついに イチド も なかった こと で ある。 ハシゴ を かける と、 ショウゾウ は ぺたぺた と シラカベ の トビラ の スキマ に アカツチ を ねじこんで いった。 それ が おわった コロ ジュンイチ の スガタ は もう そこ には みえなかった。 ショウゾウ は キ に なる ので、 セイジ の イエ に たちよって みた。 「コンヤ が あぶない そう だ が……」 ショウゾウ が いう と、 「ええ、 それ が その ヒミツ なの だ けど キンジョ の コジマ さん も そんな こと を ユウガタ ヤクショ から きいて かえり……」 と、 ナニ か イッショウ ケンメイ、 フクロ に モノ を つめながら ミツコ は だらだら と べんじだした。
 ひととおり ヨウイ も できて、 カイカ の 6 ジョウ、 ――その コロ ショウゾウ は カイカ で ねる よう に なって いた、―― の カヤ に もぐりこんだ とき で あった。 ラジオ が トサ オキ カイメン ケイカイ ケイホウ を つげた。 ショウゾウ は カヤ の ナカ で ミミ を すました。 コウチ ケン、 エヒメ ケン が ケイカイ ケイホウ に なり、 つづいて それ は クウシュウ ケイホウ に うつって いた。 ショウゾウ は カヤ の ソト に はいだす と、 ゲートル を まいた。 それから ザツノウ と スイトウ を カタ に コウサク させる と、 その ウエ を バンド で しめた。 ゲンカン で クツ を さがし、 サイゴ に テブクロ を はめた とき、 サイレン が ケイカイ ケイホウ を はなった。 カレ は とっとと オモテ へ とびだす と、 セイジ の イエ の ほう へ いそいだ。 クラヤミ の ナカ を かたい クツゾコ に テイコウ する アスファルト が あった。 ショウゾウ は ぴんと たって うまく あるいて いる オノレ の アシ を イシキ した。 セイジ の イエ の モン は あけはなたれて いた。 ゲンカン の ト を いくら たたいて も なんの テゴタエ も ない。 すでに にげさった アト らしかった。 ショウゾウ は あたふた と ツツミ の ミチ を つっきって サカエバシ の ほう へ すすんだ。 ハシ の チカク まで きた とき、 サイレン は クウシュウ を うなりだす の で あった。
 ムチュウ で ハシ を わたる と、 ニギツ コウエン ウラ の ドテ を まわり、 いつのまにか カレ は ウシタ ホウメン へ むかう ツツミ まで きて いた。 この コロ、 ようやく ショウゾウ は カレ の すぐ シュウイ を ぞろぞろ と ひしめいて いる ヒト の ムレ に きづいて いた。 それ は ロウニャク ナンニョ、 あらゆる シミン の ヒッシ の イデタチ で あった。 ナベカマ を マンサイ した リヤカー や、 ロウボ を のせた ウバグルマ が、 ザットウ の ナカ を かきわけて ゆく。 グンヨウケン に ジテンシャ を ひかせながら、 さっそう と テツカブト を かぶって いる オトコ、 ツエ に とりすがり ビッコ を ひいて いる ロウジン。 ……トラック が きた。 ウマ が とおる。 ウスヤミ の せまい ロジョウ が イマ サイジツ の よう に にぎわって いる の だった。 ……ショウゾウ は コカゲ の スイソウ の カタワラ に ある ザイモク の ウエ に コシ を おろした。
「この ヘン なら だいじょうぶ でしょう か」 と トオリガカリ の ロウバ が たずねた。
「だいじょうぶ でしょう、 カワ も すぐ マエ だし、 チカク に イエ も ない し」 そう いって カレ は スイトウ の セン を ひねった。 イマ ヒロシマ の マチ の ソラ は ぼうと しらんで、 それ は もう いつ ヒノテ が あがる かも しれない よう に おもえた。 マチ が ゼンショウ して しまったら、 アス から オレ は どう なる の だろう、 そう おもいながら も、 ショウゾウ は メノマエ の ヒナンミン の ユクエ に キョウミ を かんじる の で あった。
『ヘルマン と ドロテア』 の ハジメ に でて くる ヒナンミン の コウケイ が うかんだ。 だが、 それ に くらべる と なんと これ は おそろしく クウハク な ジョウケイ なの だろう。 ……しばらく する と、 クウシュウ ケイホウ が カイジョ に なり、 つづいて ケイカイ ケイホウ も とかれた。 ヒトビト は ぞろぞろ と ツツミ の ミチ を ひきあげて ゆく。 ショウゾウ も その ミチ を ヒトリ ひきかえして いった。 ミチ は きた オリ より も さらに ザットウ して いた。 ナニ か わめきながら、 タンカ が あいついで やって くる。 ビョウニン を はこぶ カンゴニン たち で あった。

 ソラ から サンプ された ビラ は クウシュウ の セッパク を ケイコク して いた し、 おびえた シミン は、 その コロ、 ニチボツ と ドウジ に ぞろぞろ と ヒナン コウドウ を カイシ した。 まだ なんの ケイホウ も ない のに、 カワ の ジョウリュウ や、 コウガイ の ヒロバ や、 ヤマ の フモト は、 そうした ヒトビト で いっぱい に なり、 クサムラ では、 カヤ や、 ヤグ や、 スイジ ドウグ さえ もちだされた。 アサヒル なし に コンザツ する ミヤジマ セン の デンシャ は、 ユウコク に なる と さらに サッキ-だつ。 だが、 こうした シゼン の ホウノウ をも、 すぐに その スジ は きびしく とりしまりだした。 ここ では ボウクウ ヨウイン の ソカイ を みとめない こと は、 すでに マエ から キテイ されて いた が、 コンド は ボウクウ ヨウイン の フザイ をも カンシ しよう と し、 カッコ に セイメイ ネンレイ を キサイ させた カミ を はりださせた。 ヨル は、 ハシ の タモト や ツジツジ に ジュウケン-ツキ の ヘイタイ や ケイカン が がんばった。 カレラ は よわい シミン を キョウハク して、 あくまで この マチ を シシュ させよう と する の で あった が、 キュウソ の ごとく おいつめられた ヒトビト は、 たくみ に また その ウラ を くぐった。 ヤカン、 ショウゾウ が にげて ゆく トジョウ アタリ を チュウイ して みる と、 どうも フザイ らしい イエ の ほう が おおい の で あった。
 ショウゾウ も また あの 7 ガツ ミッカ の バン から 8 ガツ イツカ の バン ――それ が サイシュウ の トウボウ だった―― まで、 ヤカン ケイセイ が あやしげ に なる と たちまち にげだす の で あった。 ……トサ オキ カイメン ケイカイ ケイホウ が でる と もう ミジタク に とりかかる。 コウチ ケン、 エヒメ ケン に クウシュウ ケイホウ が はっせられて、 ヒロシマ ケン、 ヤマグチ ケン が ケイカイ ケイホウ に なる の は 10 プン と かからない。 ゲートル は クラヤミ の ナカ でも すぐ まける が、 テヌグイ とか クツベラ とか いう こまか な もの で ショウゾウ は ちょっと てまどる こと が ある。 が、 ケイカイ ケイホウ の サイレン まで には きっと ゲンカンサキ で クツ を はいて いる。 ヤスコ は ヤスコ で ミジタク を ととのえ、 やはり その コロ、 ゲンカンサキ に きて いる。 フタリ は アトサキ に なり、 カドグチ を でて ゆく の で あった。 ……ある マチカド を まがり、 10 ポ ばかり ゆく と ショウゾウ は もう なりだす ぞ と おもう。 はたして、 クウシュウ ケイホウ の ものものしい サイレン が ハッポウ の ヤミ から わめきあう。 おお、 なんと いう、 コウテイ サマザマ の、 いや な ウナリゴエ だ。 これ は きずついた ケモノ の ドウコク と でも いう の で あろう か。 ノチ の レキシカ は これ を なんと ケイヨウ する だろう か。 ――そんな カンソウ や、 それから、 ……それにしても ムカシ、 この ジブン は マチ に やって くる シシ の フエ を エンポウ から きいた だけ でも マッサオ に なって にげて いった が、 あの コロ の キョウフ の ジュンスイサ と、 この イマ の キョウフ と では、 どうも イマ では キョウフ まで が ナニ か ドンジュウ な ワク に はめこまれて いる。 ――そんな ネンソウ が ショウゾウ の アタマ に うかぶ の も スウビョウ で、 カレ は いきせききらせて、 ツツミ に でる イシダン を のぼって いる。 セイジ の イエ の カドグチ に かけつける と、 イッカ そろって シタク を おえて いる こと も あった が、 まだ なんの ミジタク も して いない こと も あった。 ショウゾウ が ここ へ あらわれる と ゼンゴ して ヤスコ は ヤスコ で そこ へ かけつけて くる。…… 「ここ の ヒモ むすんで ちょうだい」 と ちいさな メイ が ショウゾウ に ズキン を さしだす。 カレ は その ヒモ を かたく むすんで やる と、 くるり と メイ を セ に せおい、 ミナ より ヒトアシ サキ に カドグチ を でて ゆく。 サカエバシ を わたって しまう と、 とにかく ほっと して アシドリ も すこし ゆるく なる。 テツドウ の フミキリ を こえ、 ニギツ の ツツミ に でる と、 ショウゾウ は せおって いた メイ を クサムラ に おろす。 カワ の ミズ は ほのじろく、 スギ の タイボク は くろい カゲ を ミチ に なげて いる。 この ちいさな メイ は この ケシキ を キオク する で あろう か。 おさない ヒビ が ヨゴト、 ヨゴト の トウボウ に はじまる 「ある オンナ の ショウガイ」 と いう ショウセツ が、 ふと、 アセマミレ の ショウゾウ の アタマ には うかぶ の で あった。 ……しばらく する と、 セイジ の イッカ が やって くる。 アニヨメ は アカンボウ を せおい、 ジョチュウ は ナニ か ニ を かかえて いる。 ヤスコ は ちいさな オイ の テ を ひいて、 とっとと セントウ に いる。 (カノジョ は ヒトリ で にげて いる と、 ケイボウダン に つかまり ひどく しかられた こと が ある ので、 それ イライ この オイ を かりる よう に なった) セイジ と チュウガクセイ の オイ は ならんで アト から やって くる。 それから、 その ヘン の ジンカ の ラジオ に ミミ を かたむけながら、 ジョウセイ-シダイ に よって は さらに カワカミ に さかのぼって ゆく の だ。 ながい ツツミ を ずんずん ゆく と、 ジンカ も まばら に なり、 タノモ や サンロク が おぼろ に みえて くる。 すると、 カエル の ナキゴエ が イマ アタリ イチメン に きこえて くる。 ひっそり と した ヤイン の ナカ を にげのびて ゆく ヒトカゲ は やはり たえない。 いつのまにか ヨ が あけて、 おびただしい ガス が キロ イチメン に たちこめて いる こと も あった。
 ときには ショウゾウ は タンドク で トウボウ する こと も あった。 カレ は 1 カゲツ マエ から ザイゴウ グンジン の クンレン に ときおり、 ひっぱりだされて いた が、 ハジメゴロ 20 ニン あまり シュウゴウ して いた ドウルイ も、 しだいに カズ を げんじ、 イマ では 4~5 メイ に すぎなかった。 「いずれ 8 ガツ には ダイショウシュウ が かかる」 と ブンカイチョウ は いった。 はるか ウジナ の ほう の ソラ では タンショウトウ が ゆれうごいて いる ユウヤミ の コウテイ に たたされて、 ヨビ ショウイ の ハナシ を きかされて いる とき、 ショウゾウ は キ も そぞろ で あった。 クンレン が おえて、 イエ へ もどった か と おもう と、 サイレン が なりだす の だった。 だが、 つづいて クウシュウ ケイホウ が なりだす コロ には、 ショウゾウ は ぴちん と ミジタク を おえて いる。 あわただしい クンレン の ツヅキ の よう に、 カレ は ヤミ の オウライ へ とびだす の だ。 それから、 かっか と なる クツオト を ききながら、 カレ は キタク を いそいで いる モノ の よう な フウ を よそおう。 ハシ の セキショ を ブジ に とおりこす と、 やがて ニギツ ウラ の ツツミ へ くる。 ここ で はじめて、 ショウゾウ は たちどまり、 クサムラ に コシ を おろす の で あった。 すぐ カワシモ の ほう には テッキョウ が あり、 ミズ の ひいた カワ には しろい サス が おぼろ に うきあがって いる。 それ は ショウネン の コロ から よく サンポ して みおぼえて いる ケシキ だ が、 ショウゾウ には、 ズジョウ に かぶさる ホシゾラ が、 ふと ヤセン の アリサマ を ソウゾウ さす の だった。 『センソウ と ヘイワ』 に でて くる、 ある ジンブツ の メ に えいじる うつくしい ダイシゼン の ナガメ、 しずまりかえった シンキョウ、 ――そういった もの が、 この オレ の シニギワ にも、 はたして おとずれて くる だろう か。 すると、 ふと ショウゾウ の うずくまって いる クサムラ の すぐ ウエ の スギ の コズエ の ほう で、 ナニ か ビミョウ な ナキゴエ が した。 おや、 ホトトギス だな、 そう おもいながら ショウゾウ は なんとなく フシギ な キモチ が した。 この センソウ が ホンド ケッセン に うつり、 もしも ヒロシマ が サイゴ の ガジョウ と なる と したら、 その とき、 オレ は けつぜん と イノチ を すてて たたかう こと が できる で あろう か。 ……だが、 この マチ が サイゴ の タテ に なる なぞ、 なんと いう キョウキ イジョウ の モウソウ だろう。 かりに これ を ジョジシ に する と したら、 もっとも ワイショウ で インサン かぎりない もの に なる に ソウイ ない。 ……だが、 ショウゾウ は やはり ズジョウ に かぶさる みえない もの の ハバタキ を、 すぐ ミヂカ に きく よう な オモイ が する の で あった。

 ケイホウ が カイジョ に なり、 セイジ の イエ まで ミンナ ひきかえして も、 ショウゾウ は そこ の ゲンカン で しばらく ラジオ を きいて いる こと が あった。 どうか する と、 また にげださなければ ならぬ ので、 オイ も メイ も まだ クツ の まま で いる。 だが、 オトナ たち が ラジオ に キ を とられて いる うち、 サキホド まで コエ の して いた オイ が、 いつのまにか ゲンカン の イシ の ウエ に テアシ を なげだし、 オオイビキ で ねむって いる こと が あった。 この オキフシ つねなき セイカツ に なれて しまった らしい コドモ は、 まるで ヘイシ の よう な イビキ を かいて いる。 (この スガタ を ショウゾウ は なにげなく ながめた の で あった が、 それ が やがて、 ヘイシ の よう な シニカタ を する とは おもえなかった。 まだ 1 ネンセイ の オイ は シュウダン ソカイ へも サンカ できず、 ときたま コクミン ガッコウ へ かよって いた。 8 ガツ ムイカ も ちょうど、 ガッコウ へ ゆく ヒ で、 その アサ、 ニシ レンペイジョウ の チカク で、 この コドモ は あえなき サイゴ を とげた の だった)
 ……しばらく まって いて も ベツジョウ ない こと が わかる と、 ヤスコ が サキ に かえって ゆき、 つづいて ショウゾウ も セイジ の カドグチ を でて ゆく。 だが、 ホンケ に もどって くる と、 2 マイ かさねて きて いる フク は アセ で びっしょり して いる し、 シャツ も クツシタ も イッコク も はやく ぬぎすてて しまいたい。 フロバ で ミズ を あび、 ダイドコロ の イス に コシ を おろす と、 はじめて ショウゾウ は ヒトゴコチ に かえる よう で あった。 ――コンヤ の マキ も おわった。 だが、 アス は。 ――その アス も、 かならず トサ オキ カイメン から はじまる。 すると、 ゲートル だ、 ザツノウ だ、 クツ だ、 スベテ の ヨウイ が ヤミ の ナカ から とびついて くる し、 トウボウ の ミチ は セイカク に よこたわって いた。…… (この こと を アト に なって カイソウ する と、 ショウゾウ は その コロ ヒカクテキ ケンコウ でも あった が、 よくも あんな に ビンショウ に ふるまえた もの だ と おもえる の で あった。 ヒト は ショウガイ に おいて かならず イガイ な ジキ を もつ もの で あろう か)

 モリ セイサクショ の コウジョウ ソカイ は のろのろ と おこなわれて いた。 ミシン の トリハズシ は できて いて も、 バシャ の ワリアテ が まわって くる の が ヨウイ で なかった。 バシャ が やって きた アサ は、 ミンナ ウンパン に いそがしく、 ジュンイチ は とくに カッキ-づいた。 ある とき、 ザシキ に しかれて いた タタミ が そっくり、 この バシャ で はこばれて いった。 タタミ の はがれた ザシキ は、 ザイタ だけ で ひろびろ と し、 ソファ が 1 キャク ぽつん と おかれて いた。 こう なる と、 いよいよ この イエ も サイゴ が ちかい よう な キ が した が、 ショウゾウ は エンガワ に たたずんで、 よく ニワ の スミ の しろい ハナ を ながめた。 それ は ツユ-ゴロ から さきはじめて、 ヒトツ が くちかかる コロ には ヒトツ が さき、 イマ も 6 ベン の、 ひっそり した スガタ を たたえて いる の だった。 ジケイ に その メイショウ を きく と、 クチナシ だ と いった。 そう いえば コドモ の コロ から みなれた ハナ だ が、 ひっそり と した スガタ が イマ は たまらなく なつかしかった。……
「これまで ナンド、 クウシュウ ケイホウ に あった か しれない。 イマ も、 カイガン の ほう が、 あかあか と もえて いる。 ケイホウ が でる たび に、 オレ は ゲンコウ を かかえて、 ゴウ に もぐりこむ コノゴロ。 オレ は コウトウ スウガク の ケンキュウ を して いる の だ。 スウガク は うつくしい。 ニホン の ゲイジュツカ は、 これ が わからぬ から ダメ さ」 こんな ふう な テガミ が トウキョウ の ユウジン から ヒサシブリ に ショウゾウ の テモト に とどいた。 イワテ ケン の ほう に いる トモ から は コノゴロ、 タヨリ が なかった。 カマイシ が カンポウ シャゲキ に あい、 あの ヘン も もう アンゼン では なさそう で あった。
 ある アサ、 ショウゾウ が ジムシツ に いる と、 キンジョ の カイシャ に つとめて いる オオタニ が やって きた。 カレ は タカコ の ミウチ の ヒトリ で、 ジュンイチ たち の ゴタゴタ の コロ から、 よく ここ へ たちよる ので、 ショウゾウ にも もう めずらしい カオ では なかった。 ほそい スネ に くろい ゲートル を まき、 ひょろひょろ の ドウ と ほそながい メン は、 ナニ か あぶなかしい インショウ を あたえる の だ が、 それ を ささえよう と する キハク も そなわって いた。 その オオタニ は ジュンイチ の テーブル の マエ に つかつか と ちかよる と、
「どう です、 ヒロシマ は。 サクヤ も まさに やって くる か と おもう と、 ウベ の ほう へ それて しまった。 テキ も よく しって いる よ、 ウベ には ジュウヨウ コウジョウ が あります から な。 それ に くらべる と、 どうも ヒロシマ なんか ヘイタイ が いる だけ で、 コウギョウテキ ケンチ から いわす と ほとんど モンダイ では ない から ね。 きっと だいじょうぶ ここ は たすかる と ボク は コノゴロ おもいだした よ」 と、 たいそう ジョウキゲン で べんじる の で あった。 (この オオタニ は 8 ガツ ムイカ の アサ、 シュッキン の トジョウ ついに ユクエ フメイ に なった の で ある)
 ……だが、 ヒロシマ が たすかる かも しれない と おもいだした ニンゲン は、 この オオタニ ヒトリ では なかった。 イチジ は あれほど インシン を きわめた ヨル の トウボウ も、 しだいに ヒトアシ が げんじて きた の で ある。 そこ へ もって きて、 コガタキ の ライシュウ が スウカイ あった が、 ハクチュウ、 ヒロシマ ジョウクウ を よこぎる その タイグン は、 なんら この マチ に トウダン する こと が なかった ばかり か、 たまたま ニシ レンペイジョウ の コウシャホウ は チュウガタ 1 キ を うちおとした の で あった。 「ヒロシマ は ふせげる でしょう ね」 と デンシャ の ナカ の イチ シミン が ショウコウ に むかって はなしかける と、 ショウコウ は もくもく と うなずく の で あった。…… 「あ、 おもしろかった。 あんな クウチュウセン たら めった に みられない のに」 と ヤスコ は ショウゾウ に いった。 ショウゾウ は タタミ の ない ザシキ で、 ジード の 『ヒトツブ の ムギ もし しなずば』 を よみふけって いる の で あった。 アフリカ の シャクネツ の ナカ に テンカイ される、 セイシュン と ジガ の、 あやしげ な ズ が、 いつまでも カレ の アタマ に こびりついて いた。

 セイジ は この マチ ゼンタイ が たすかる とも かんがえなかった が、 カワバタ に のぞんだ ジブン の イエ は やけない で ほしい と いつも いのって いた。 ミヨシ チョウ に ソカイ した フタリ の コドモ が ブジ で この イエ に もどって きて、 ミンナ で また カワアソビ が できる ヒ を ゆめみる の で あった。 だが、 そういう ヒ が いつ やって くる の か、 つきつめて かんがえれば ぼうと して わからない の だった。
「ちいさい コドモ だけ でも、 どこ か へ ソカイ させたら……」 ヤスコ は ヨゴト の トウボウ イライ、 しきり に キ を もむ よう に なって いた。 「はやく なんとか して ください」 と ツマ の ミツコ も その コロ に なる と ソカイ を クチ に する の で あった が、 「オマエ いって きめて こい」 と、 セイジ は すこぶる フキゲン で あった。 ニョウボウ、 コドモ を ソカイ させて、 この ジブン は ――ジュンイチ の よう に なにもかも うまく ゆく では なし―― この イエ で どうして くらして ゆける の か、 まるで ケントウ が つかなかった。 どこ か イナカ へ イエ を かりて カザイ だけ でも はこんで おきたい、 そんな ソウダン なら マエ から ツマ と して いた。 だが、 イナカ の どこ に そんな イエ が みつかる の か、 セイジ には まるで アテ が なかった。 この コロ に なる と、 セイジ は チョウケイ の コウドウ を かれこれ、 あてこすらない カワリ に、 じっと うらめしげ に、 ヒトリ かんがえこむ の で あった。
 ジュンイチ も しかし セイジ の イッカ を みすてて は おけなく なった。 けっきょく、 ジュンイチ の キモイリ で、 イナカ へ 1 ケン、 イエ を かりる こと が できた。 が、 ニ を はこぶ バシャ は すぐに は やとえなかった。 イナカ へ イエ が みつかった と なる と、 セイジ は ほっと して、 ニヅクリ に ボウサツ されて いた。 すると、 ミヨシ の ほう の シュウダン ソカイチ の センセイ から、 フケイ の メンカイビ を ツウチ して きた。 ミヨシ の ほう へ たずねて ゆく と なれば、 フユモノ イッサイ を もって いって やりたい し、 ソカイ の ニヅクリ やら、 ガクドウ へ もって いって やる シナ の ジュンビ で、 イエ の ウチ は また ごったかえした。 それに セイジ は ミョウ な クセ が あって、 ガクドウ へ もって いって やる シナジナ には、 きちんと モウヒツ で ナマエ を キニュウ して おいて やらぬ と キ が すまない の だった。
 あれ を かたづけたり、 これ を とりちらかしたり した アゲク、 ユウガタ に なる と セイジ は ふいと キ を かえて、 ツリザオ を もって、 すぐ マエ の カワラ に でた。 コノゴロ あまり つれない の で ある が、 イト を たれて いる と、 いちばん キ が おちつく よう で あった。 ……ふと、 とっと とっと と いう カワ の ドヨメキ に セイジ は びっくり した よう に メ を みひらいた。 ナニ か カワ を みつめながら、 サキホド から ユメ を みて いた よう な キモチ が する。 それ も ムカシ よんだ キュウヤク セイショ の テンペン チイ の コウケイ を うつらうつら たどって いた よう で ある。 すると、 ガケ の ウエ の イエ の ほう から、 「オトウサン、 オトウサン」 と オオゴエ で ミツコ の よぶ スガタ が みえた。 セイジ が ツリザオ を かかえて イシダン を のぼって ゆく と、 ツマ は だしぬけ に、 「ソカイ よ」 と いった。
「それ が どうした」 と セイジ は なんの こと か わからない ので といかえした。
「さっき オオカワ が やって きて、 そう いった の です よ、 ミッカ イナイ に たちのかねば すぐに この ウチ とりこわされて しまいます」
「ふーん」 と セイジ は うめいた が、 「それで、 オマエ は ショウダク した の か」
「だから そう いって いる の じゃ ありません か。 なんとか しなきゃ タイヘン です よ。 このまえ、 オオカワ に あった とき には オタク は この ケイカク の クイキ に はいりません と、 ちゃんと ズメン みせながら セツメイ して くれた くせ に、 コンド は ヤブ から ボウ に、 20 メートル ごと の キテイ です と くる の です」
「マンシュウ ゴロ に イッパイ くわされた か」
「くやしい では ありません か。 なんとか しなきゃ タイヘン です よ」 と、 ミツコ は いらいら しだす。
「オマエ いって きめて こい」 そう セイジ は うそぶいた が、 ぐずぐず して いる バアイ でも なかった。 「ホンケ へ いこう」 と、 フタリ は それから まもなく ジュンイチ の イエ を おとずれた。 しかし、 ジュンイチ は その バン も すでに イツカイチ チョウ の ほう へ でかけた アト で あった。 シガイ デンワ で ジュンイチ を よびだそう と する と、 どうした もの か、 その ヨル は いっこう、 デンワ が つうじない。 ミツコ は ヤスコ を とらえて、 また オオカワ の ヤリクチ を だらだら と ののしりだす。 それ を きいて いる と、 セイジ は ミッカ-ゴ に とりこわされる イエ の スガタ が ムネ に つまり、 イマ は もう ゼッタイ ゼツメイ の キモチ だった。
「どうか カミサマ、 ミッカ イナイ に この ヒロシマ が ダイクウシュウ を うけます よう に」
 わかい コロ クリスチャン で あった セイジ は、 ふと クチ を ひらく と こんな イノリ を ささげた の で あった。

 その ヨクアサ、 セイジ の ツマ は ジムシツ に ジュンイチ を おとずれて、 ソカイ の こと を だらだら と うったえ、 タテモノ ソカイ の こと は シカイ ギイン の タザキ が ホンケ ホンモト らしい の だ から、 タザキ の ほう へ なんとか たのんで もらいたい と いう の で あった。
 ふん、 ふん と ジュンイチ は きいて いた が、 やがて、 イツカイチ へ デンワ を かける と、 タカコ に すぐ かえって こい と めいじた。 それから、 セイジ を かえりみて、 「なんて アリサマ だ。 オタク は タテモノ ソカイ です と いわれて、 はい そう です か、 と、 なす が まま に されて いる の か。 クウシュウ で やかれた ブン なら、 ホケン が もらえる が、 ソカイ で とりはらわれた イエ は、 ホケンキン だって つかない じゃ ない か」 と、 クジョウ いう の で あった。
 そのうち しばらく する と、 タカコ が やって きた。 タカコ は コト の ナリユキ を ひととおり きいて から、 「じゃあ、 ちょっと タザキ さん の ところ へ いって きましょう」 と、 キガル に でかけて いった。 1 ジカン も たたぬ うち に、 タカコ は はればれ した カオ で もどって きた。
「あの ヘン の タテモノ ソカイ は あれ で うちきる こと に させる と、 タザキ さん は ヤクソク して くれました」
 こうして、 セイジ の イエ の ナンダイ も すらすら カイケツ した。 と、 その とき、 ちょうど、 ケイカイ ケイホウ が カイジョ に なった。
「さあ、 また ケイホウ が でる と うるさい から イマ の うち に かえりましょう」 と タカコ は いそいで ソト に でて ゆく の で あった。
 しばらく する と、 ドゾウ ワキ の トリゴヤ で、 2 ワ の ヒナ が てんでに トキ を つげだした。 その チョウシ は まだ ととのって いない ので、 ときに ジュンイチ たち を きょうがらせる の で あった が、 イマ は ダレ も ニワトリ の ナキゴエ に ミミ を かたむけて いる モノ も なかった。 あつい ヒザシ が、 サルスベリ の ウエ の、 しずか な ソラ に みなぎって いた。 ……ゲンシ バクダン が この マチ を おとずれる まで には、 まだ 40 ジカン あまり あった。

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