カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ゲカシツ

2012-09-07 | イズミ キョウカ
 ゲカシツ

 イズミ キョウカ

 ジョウ

 じつは コウキシン の ゆえ に、 しかれども ヨ は ヨ が エシ たる を リキ と して、 ともかくも コウジツ を もうけつつ、 ヨ と キョウダイ も ただならざる イガクシ タカミネ を しいて、 それ の ヒ トウキョウ フカ の ある ビョウイン に おいて、 カレ が トウ を くだす べき、 キフネ ハクシャク フジン の シュジュツ をば ヨ を して みせしむる こと を よぎなく したり。
 その ヒ ゴゼン 9 ジ すぐる コロ イエ を いでて ビョウイン に ワンシャ を とばしつ。 ただちに ゲカシツ の カタ に おもむく とき、 ムコウ より ト を はいして すらすら と いできたれる カゾク の コマヅカイ とも みゆる みめよき オンナ 2~3 ニン と、 ロウカ の ナカバ に ゆきちがえり。
 みれば カレラ の アイダ には、 ヒフ きたる イッコ 7~8 サイ の ムスメ を ようしつ、 みおくる ほど に みえず なれり。 これ のみ ならず ゲンカン より ゲカシツ、 ゲカシツ より 2 カイ なる ビョウシツ に かよう アイダ の ながき ロウカ には、 フロック コート きたる シンシ、 セイフク つけたる ブカン、 あるいは ハオリハカマ の イデタチ の ジンブツ、 ソノタ、 キフジン レイジョウ-トウ いずれ も ただならず けだかき が、 あなた に ゆきちがい、 こなた に おちあい、 あるいは ほし、 あるいは ていし、 オウフク あたかも おる が ごとし。 ヨ は イマ モンゼン に おいて みたる スダイ の バシャ に おもいあわせて、 ひそか に ココロ に うなずけり。 カレラ の ある モノ は チンツウ に、 ある モノ は きづかわしげ に、 はた ある モノ は あわただしげ に、 いずれ も カオイロ おだやか ならで、 せわしげ なる コキザミ の クツ の オト、 ゾウリ の ヒビキ、 イッシュ せきばく たる ビョウイン の たかき テンジョウ と、 ひろき タテグ と、 ながき ロウカ との アイダ にて、 イヨウ の キョウオン を ひびかしつつ、 うたた インサン の オモムキ を なせり。
 ヨ は しばらく して ゲカシツ に いりぬ。
 ときに ヨ と あいもくして、 シンペン に ビショウ を うかべたる イガクシ は、 リョウテ を くみて やや アオムケ に イス に よれり。 イマ に はじめぬ こと ながら、 ほとんど ワガクニ の ジョウリュウ シャカイ ゼンタイ の キユウ に かんす べき、 この おおいなる セキニン を になえる ミ の、 あたかも バンサン の ムシロ に のぞみたる ごとく、 へいぜん と して ひややか なる こと、 おそらく カレ の ごとき は まれ なる べし。 ジョシュ 3 ニン と、 タチアイ の イハカセ 1 ニン と、 ベツ に セキジュウジ の カンゴフ 5 メイ あり。 カンゴフ その モノ に して、 ムネ に クンショウ おびたる も みうけたる が、 ある やんごとなき アタリ より とくに くだしたまえる も あり ぞ と おもわる。 タ に ニョショウ とて は あらざりし。 ナニガシ-コウ と、 ナニガシ-コウ と、 ナニガシ-ハク と、 ミナ タチアイ の シンゾク なり。 しかして イッシュ ケイヨウ す べからざる オモモチ にて、 しゅうぜん と して たちたる こそ、 ビョウシャ の オット の ハクシャク なれ。
 シツナイ の この ヒトビト に みまもられ、 シツガイ の かの カタガタ に きづかわれて、 チリ をも かぞう べく、 あかるく して、 しかも なんとなく すさまじく おかす べからざる ごとき カン ある ところ の ゲカシツ の チュウオウ に すえられたる、 シュジュツダイ なる ハクシャク フジン は、 ジュンケツ なる ビャクエ を まといて、 シガイ の ごとく よこたわれる、 カオ の イロ あくまで しろく、 ハナ たかく、 オトガイ ほそりて テアシ は リョウラ に だも たえざる べし。 クチビル の イロ すこしく あせたる に、 タマ の ごとき マエバ かすか に みえ、 メ は かたく とざしたる が、 マユ は オモイナシ か ひそみて みられつ。 わずか に つかねたる トウハツ は、 ふさふさ と マクラ に みだれて、 ダイ の ウエ に こぼれたり。
 その かよわげ に、 かつ けだかく、 きよく、 とうとく、 うるわしき ビョウシャ の オモカゲ を ヒトメ みる より、 ヨ は りつぜん と して サムサ を かんじぬ。
 イガクシ は と、 ふと みれば、 カレ は ツユ ほど の カンジョウ をも うごかしおらざる モノ の ごとく、 キョシン に へいぜん たる サマ あらわれて、 イス に すわりたる は シツナイ に ただ カレ のみ なり。 その いたく おちつきたる、 これ を たのもし と いわば いえ、 ハクシャク フジン の しかき ヨウダイ を みたる ヨ が メ より は むしろ こころにくき ばかり なりし なり。
 おりから しとやか に ト を はいして、 しずか に ここ に いりきたれる は、 さきに ロウカ にて ゆきあいたりし 3 ニン の コシモト の ナカ に、 ひときわ めだちし オンナ なり。
 そと キフネ-ハク に うちむかいて、 しずみたる オンチョウ もて、
「ゴゼン、 ヒイサマ は ようよう おなきやみ あそばして、 ベッシツ に おとなしゅう いらっしゃいます」
 ハク は モノ いわで うなずけり。
 カンゴフ は わが イガクシ の マエ に すすみて、
「それでは、 アナタ」
「よろしい」
 と ヒトコト こたえたる イガクシ の コエ は、 この とき すこしく フルイ を おびて ぞ ヨ が ミミ には たっしたる。 その カオイロ は いかに しけん、 にわか に すこしく かわりたり。
 さては いかなる イガクシ も、 すわ と いう バアイ に のぞみて は、 さすが に ケネン の なからん や と、 ヨ は ドウジョウ を ひょうしたりき。
 カンゴフ は イガクシ の ムネ を りょうして ノチ、 かの コシモト に たちむかいて、
「もう、 ナン です から、 あの こと を、 ちょっと、 アナタ から」
 コシモト は その イ を えて、 シュジュツダイ に すりよりつ。 ゆうに ヒザ の アタリ まで リョウテ を さげて、 しとやか に リツレイ し、
「オクサマ、 ただいま、 オクスリ を さしあげます。 どうぞ それ を、 おきき あそばして、 イロハ でも、 スウジ でも、 おかぞえ あそばします よう に」
 ハクシャク フジン は コタエ なし。
 コシモト は おそるおそる くりかえして、
「オキキズミ で ございましょう か」
「ああ」 と ばかり こたえたまう。
 ネン を おして、
「それでは よろしゅう ございます ね」
「ナニ かい、 ネムリグスリ を かい」
「はい、 シュジュツ の すみます まで、 ちょっと の アイダ で ございます が、 げしなりません と、 いけません そう です」
 フジン は もくして かんがえたる が、
「いや、 よそう よ」 と いえる コエ は はんぜん と して きこえたり。 イチドウ カオ を みあわせぬ。
 コシモト は さとす が ごとく、
「それ では オクサマ、 ゴリョウジ が できません」
「はあ、 できなくって も いい よ」
 コシモト は コトバ は なくて、 かえりみて ハクシャク の イロ を うかがえり。 ハクシャク は マエ に すすみ、
「オク、 そんな ムリ を いって は いけません。 できなくって も いい と いう こと が ある もの か。 ワガママ を いって は なりません」
 コウシャク は また カタワラ より クチ を はさめり。
「あまり、 ムリ を おいやったら、 ヒイ を つれて きて みせる が いい の。 はやく よく ならん で どう する もの か」
「はい」
「それでは ゴトクシン で ございます か」
 コシモト は その アイダ に シュウセン せり。 フジン は おもげ なる カブリ を ふりぬ。 カンゴフ の 1 ニン は やさしき コエ にて、
「なぜ、 そんな に おきらい あそばす の、 ちっとも いや な もん じゃ ございません よ。 うとうと あそばす と、 すぐ すんで しまいます」
 この とき フジン の マユ は うごき、 クチ は ゆがみて、 シュンカン クツウ に たえざる ごとく なりし。 なかば メ を みひらきて、
「そんな に しいる なら シカタ が ない。 ワタシ は ね、 ココロ に ヒトツ ヒミツ が ある。 ネムリグスリ は ウワゴト を いう と もうす から、 それ が こわくって なりません。 どうぞ もう、 ねむらず に オリョウジ が できない よう なら、 もうもう なおらん でも いい、 よして ください」
 きく が ごとくんば、 ハクシャク フジン は、 イチュウ の ヒミツ を ユメウツツ の アイダ に ヒト に つぶやかん こと を おそれて、 シ を もて これ を まもろう と する なり。 オット たる モノ が これ を きける キョウチュウ いかん。 この コトバ を して もし ヘイゼイ に あらしめば かならず イチジョウ の フンヌン を ひきおこす に ソウイ なき も、 ビョウシャ に たいして カンゴ の チイ に たてる モノ は なんら の こと も これ を フモン に きせざる べからず。 しかも わが クチ より して、 あからさま に ヒミツ ありて ヒト に きかしむる こと を えず と、 だんこ と して いいいだせる、 フジン の キョウチュウ を すいすれば。
 ハクシャク は おんこ と して、
「ワシ にも、 きかされぬ こと なん か。 え、 オク」
「はい、 ダレ にも きかす こと は なりません」
 フジン は けつぜん たる もの ありき。
「なにも マスイザイ を かいだ から って、 ウワゴト を いう と いう、 きまった こと も なさそう じゃ の」
「いいえ、 この くらい おもって いれば、 きっと いいます に チガイ ありません」
「そんな、 また、 ムリ を いう」
「もう、 ごめん くださいまし」
 なげすつる が ごとく かく いいつつ、 ハクシャク フジン は ネガエリ して、 ヨコ に そむかん と したりし が、 やめる ミ の ままならで、 ハ を ならす オト きこえたり。
 ために カオ の イロ の うごかざる モノ は、 ただ かの イガクシ 1 ニン ある のみ。 カレ は さきに いかに しけん、 ヒトタビ その ヘイゼイ を しっせし が、 いまや また じじゃく と なりたり。
 コウシャク は ジュウメン つくりて、
「キフネ、 こりゃ なんでも ヒイ を つれて きて、 みせる こと じゃ の、 なんぼでも コ の カワイサ には ガ おれよう」
 ハクシャク は うなずきて、
「これ、 アヤ」
「は」 と コシモト は ふりかえる。
「ナニ を、 ヒイ を つれて こい」
 フジン は たまらず さえぎりて、
「アヤ、 つれて こん でも いい。 なぜ、 ねむらなけりゃ、 リョウジ は できない か」
 カンゴフ は きゅうしたる エミ を ふくみて、
「オムネ を すこし きります ので、 おうごき あそばしちゃあ、 けんのん で ございます」
「なに、 ワタシャ、 じっと して いる。 うごきゃあ しない から、 きって おくれ」
 ヨ は その あまり の ムジャキサ に、 おぼえず シンカン を きんじえざりき。 おそらく キョウ の セッカイジュツ は、 マナコ を ひらきて これ を みる モノ あらじ とぞ おもえる をや。
 カンゴフ は また いえり。
「それ は オクサマ、 いくら なんでも ちっと は おいたみ あそばしましょう から、 ツメ を おとり あそばす とは ちがいます よ」
 フジン は ここ に おいて ぱっちり と メ を ひらけり。 キ も たしか に なりけん、 コエ は りん と して、
「トウ を とる センセイ は、 タカミネ サマ だろう ね!」
「はい、 ゲカ カチョウ です。 いくら タカミネ サマ でも いたく なく おきり もうす こと は できません」
「いい よ、 いたかあ ない よ」
「フジン、 アナタ の ゴビョウキ は そんな てがるい の では ありません。 ニク を そいで、 ホネ を けずる の です。 ちっと の アイダ ゴシンボウ なさい」
 リンケン の イハカセ は イマ はじめて かく いえり。 これ とうてい カン ウンチョウ に あらざる より は、 たえう べき こと に あらず。 しかるに フジン は おどろく イロ なし。
「その こと は ぞんじて おります。 でも ちっとも かまいません」
「あんまり タイビョウ なんで、 どうか しおった と おもわれる」
 と ハクシャク は しゅうぜん たり。 コウシャク は カタワラ より、
「ともかく、 キョウ は まあ みあわす と したら どう じゃ の。 アト で ゆっくり と いいきかす が よかろう」
 ハクシャク は イチギ も なく、 シュウ ミナ これ に どうずる を みて、 かの イハカセ は さえぎりぬ。
「ヒトトキ おくれて は、 トリカエシ が なりません。 いったい、 アナタガタ は ヤマイ を ケイベツ して おらるる から ラチ あかん。 カンジョウ を とやかく いう の は コソク です。 カンゴフ ちょっと おおさえ もうせ」
 いと おごそか なる メイ の モト に 5 メイ の カンゴフ は ばらばら と フジン を かこみて、 その テ と アシ と を おさえん と せり。 カレラ は フクジュウ を もって セキニン と す。 たんに、 イシ の メイ を だに ほうずれば よし、 あえて タ の カンジョウ を かえりみる こと を ようせざる なり。
「アヤ! きて おくれ。 あれ!」
 と フジン は たえいる イキ にて、 コシモト を よびたまえば、 あわてて カンゴフ を さえぎりて、
「まあ、 ちょっと まって ください。 オクサマ、 どうぞ、 ゴカンニン あそばして」 と やさしき コシモト は オロオロゴエ。
 フジン の オモテ は そうぜん と して、
「どうしても ききません か。 それじゃ なおって も しんで しまいます。 いい から コノママ で シュジュツ を なさい と もうす のに」
 と ましろく ほそき テ を うごかし、 かろうじて エモン を すこし くつろげつつ、 タマ の ごとき キョウブ を あらわし、
「さ、 ころされて も いたかあ ない。 ちっとも うごき や しない から、 だいじょうぶ だよ。 きって も いい」
 けつぜん と して いいはなてる、 ジショク とも に うごかす べからず。 さすが コウイ の オンミ とて、 イゲン アタリ を はらう にぞ、 マンドウ ひとしく コエ を のみ、 たかき シワブキ をも もらさず して、 せきぜん たりし その シュンカン、 サキ より ちと の ミウゴキ だも せで、 シカイ の ごとく、 みえたる タカミネ、 かるく ミ を おこして イス を はなれ、
「カンゴフ、 メス を」
「ええ」 と カンゴフ の 1 ニン は、 メ を みはりて ためらえり。 イチドウ ひとしく がくぜん と して、 イガクシ の オモテ を みまもる とき、 タ の 1 ニン の カンゴフ は すこしく ふるえながら、 ショウドク したる メス を とりて これ を タカミネ に わたしたり。
 イガクシ は とる と そのまま、 クツオト かるく ホ を うつして、 つと シュジュツダイ に キンセツ せり。
 カンゴフ は おどおど しながら、
「センセイ、 コノママ で いい ん です か」
「ああ、 いい だろう」
「じゃあ、 おおさえ もうしましょう」
 イガクシ は ちょっと テ を あげて、 かるく おしとめ、
「なに、 それ にも およぶまい」
 いう とき はやく その テ は すでに ビョウシャ の ムネ を かきあけたり。 フジン は リョウテ を カタ に くみて ミウゴキ だも せず。
 かかりし とき イガクシ は、 ちかう が ごとく、 シンチョウ ゲンシュク なる オンチョウ もて、
「フジン、 セキニン を おって シュジュツ します」
 ときに タカミネ の フウサイ は イッシュ シンセイ に して おかす べからざる イヨウ の もの にて ありし なり。
「どうぞ」 と ヒトコト いらえたる、 フジン が ソウハク なる リョウ の ホオ に はける が ごとき クレナイ を ちょうしつ。 じっと タカミネ を みつめたる まま、 ムネ に のぞめる ナイフ にも マナコ を ふさがん とは なさざりき。
 と みれば ユキ の カンコウバイ、 チシオ は ムネ より つと ながれて、 さと ビャクエ を そむる と ともに、 フジン の カオ は モト の ごとく、 いと あおじろく なりける が、 はたせるかな じじゃく と して、 アシ の ユビ をも うごかさざりき。
 コト の ここ に およべる まで、 イガクシ の キョドウ ダット の ごとく シンソク に して いささか カン なく、 ハクシャク フジン の ムネ を さく や、 イチドウ は もとより かの イハカセ に いたる まで、 コトバ を さしはさむ べき スンゲキ とて も なかりし なる が、 ここ に おいて か、 わななく あり、 オモテ を おおう あり、 ソガイ に なる あり、 あるいは コウベ を たるる あり、 ヨ の ごとき、 ワレ を わすれて、 ほとんど シンゾウ まで さむく なりぬ。
 3 セコンド に して カレ が シュジュツ は、 はや その カキョウ に すすみつつ、 メス ホネ に たっす と おぼしき とき、
「あ」 と シンコク なる コエ を しぼりて、 ハツカ イライ ネガエリ さえ も え せず と ききたる、 フジン は がぜん キカイ の ごとく、 その ハンシン を はねおきつつ、 トウ とれる タカミネ が メテ の カイナ に リョウテ を しかと とりすがりぬ。
「いたみます か」
「いいえ、 アナタ だ から、 アナタ だ から」
 かく いいかけて ハクシャク フジン は、 がっくり と あおむきつつ、 セイレイ きわまりなき サイゴ の マナコ に、 コクシュ を じっと みまもりて、
「でも、 アナタ は、 アナタ は、 ワタクシ を しりますまい!」
 いう とき おそし、 タカミネ が テ に せる メス に カタテ を そえて、 チ の シタ ふかく かききりぬ。 イガクシ は マッサオ に なりて おののきつつ、
「わすれません」
 その コエ、 その イキ、 その スガタ、 その コエ、 その イキ、 その スガタ。 ハクシャク フジン は うれしげ に、 いと あどけなき エミ を ふくみて タカミネ の テ より テ を はなし、 ばったり、 マクラ に ふす とぞ みえし、 クチビル の イロ かわりたり。
 その とき の フタリ が サマ、 あたかも フタリ の シンペン には、 テン なく、 チ なく、 シャカイ なく、 まったく ヒト なき が ごとく なりし。

 ゲ

 かぞうれば、 はや 9 ネン-ゼン なり。 タカミネ が その コロ は いまだ イカ ダイガク に ガクセイ なりし ミギリ なりき。 ある ヒ ヨ は カレ と ともに、 コイシカワ なる ショクブツエン に サンサク しつ。 5 ガツ イツカ ツツジ の ハナ さかん なりし。 カレ と ともに テ を たずさえ、 ホウソウ の アイダ を でつ、 いりつ、 エンナイ の コウエン なる イケ を めぐりて、 さきそろいたる フジ を みつ。
 ホ を てんじて かしこ なる ツツジ の オカ に のぼらん とて、 イケ に そいつつ あゆめる とき、 かなた より きたりたる、 ヒトムレ の カンカク あり。
 ヒトリ ヨウフク の イデタチ にて エントツボウ を いただきたる チクゼン の オトコ ゼンエイ して、 ナカ に 3 ニン の フジン を かこみて、 アト より も また おなじ サマ なる オトコ きたれり。 カレラ は キゾク の ギョシャ なりし。 ナカ なる 3 ニン の オンナ たち は、 イチヨウ に フカバリ の ヒガサ を さしかざして、 スソサバキ の オト いと さやか に、 するする と ねりきたれる、 と ユキチガイザマ タカミネ は、 おもわず アト を みかえりたり。
「みた か」
 タカミネ は うなずきぬ。 「むむ」
 かくて オカ に のぼりて ツツジ を みたり。 ツツジ は ビ なりし なり。 されど ただ あかかりし のみ。
 カタワラ の ベンチ に こしかけたる、 アキュウド-テイ の ワカモノ あり。
「キッサン、 キョウ は いい こと を した ぜなあ」
「そう さね、 たまにゃ オマエ の いう こと を きく も いい かな、 アサクサ へ いって ここ へ こなかったろう もん なら、 おがまれる ん じゃ なかったっけ」
「なにしろ、 3 ニン とも そろってらあ、 どれ が モモ やら サクラ やら だ」
「ヒトリ は マルマゲ じゃあ ない か」
「どのみち はや ゴソウダン に なる ん じゃ なし、 マルマゲ でも、 ソクハツ でも、 ないし シャグマ でも なんでも いい」
「ところで と、 あの ふう じゃあ、 ぜひ、 ブンキン と くる ところ を、 イチョウ と でた なあ どういう キ だろう」
「イチョウ、 ガテン が いかぬ かい」
「ええ、 わりい シャレ だ」
「なんでも、 アナタガタ が オシノビ で、 めだたぬ よう に と いう ハラ だ。 ね、 それ、 マンナカ の に ミズギワ が たってたろう。 いま ヒトリ が カゲムシャ と いう の だ」
「そこで オメシモノ は なんと ふんだ」
「フジイロ と ふんだ よ」
「え、 フジイロ と ばかり じゃ、 ホンヨミ が おさまらねえ ぜ。 ソコ の よう でも ない じゃ ない か」
「まばゆくって うなだれた ね、 おのずと アタマ が あがらなかった」
「そこで オビ から シタ へ メ を つけたろう」
「バカ を いわっし、 もったいない。 みし や それ とも わかぬ マ だった よ。 ああ のこりおしい」
「あの また、 アルキブリ と いったら なかった よ。 ただ もう、 すうっと こう カスミ に のって ゆく よう だっけ。 スソサバキ、 ツマハズレ なんと いう こと を、 なるほど と みた は キョウ が はじめて よ。 どうも オソダチガラ は また かくべつ ちがった もん だ。 ありゃ もう しぜん、 てんねん と ウンジョウ に なった ん だな。 どうして ゲカイ の ヤツバラ が まねよう たって できる もの か」
「ひどく いう な」
「ホン の こった が ワッシャ それ ゴゾンジ の とおり、 ナカ を 3 ネン が アイダ、 コンピラサマ に たった と いう もん だ。 ところが、 なんの こたあ ない。 ハダマモリ を かけて、 ヨナカ に ドテ を とおろう じゃあ ない か。 バチ の あたらない の が フシギ さね。 もうもう キョウ と いう キョウ は ホッシン きった。 あの スベッタ ども どう する もの か。 みなさい、 あれあれ ちらほら と こう そこいら に、 あかい もの が ちらつく が、 どう だ。 まるで そら、 ゴミ か、 ウジ が うごめいて いる よう に みえる じゃあ ない か。 ばかばかしい」
「これ は きびしい ね」
「ジョウダン じゃあ ない。 あれ みな、 やっぱり それ、 テ が あって、 アシ で たって、 キモノ も ハオリ も ぞろり と オメシ で、 おんなじ よう な コウモリガサ で たってる ところ は、 はばかりながら これ ニンゲン の オンナ だ、 しかも オンナ の シンゾ だ。 オンナ の シンゾ に チガイ は ない が、 イマ おがんだ の と くらべて、 どう だい。 まるで もって、 くすぶって、 なんと いって いい か よごれきって いらあ。 あれ でも おんなじ オンナ だっさ、 へん、 きいて あきれらい」
「おやおや、 どうした タイヘン な こと を いいだした ぜ。 しかし まったく だよ。 ワッシ も さ、 イマ まで は こう、 ちょいと した オンナ を みる と、 つい その ナン だ。 イッショ に あるく オメエ にも、 ずいぶん メイワク を かけたっけ が、 イマ の を みて から もうもう ムネ が すっきり した。 なんだか せいせい と する、 イライ オンナ は ふっつり だ」
「それ じゃあ ショウガイ ありつけまい ぜ。 ゲンキチ と やら、 ミズカラ は、 と あの ヒイサマ が、 いいそう も ない から ね」
「バチ が あたらあ、 アテコト も ない」
「でも、 アナタ やあ、 と きたら どう する」
「ショウジキ な ところ、 ワッシ は にげる よ」
「ソコ も か」
「え、 キミ は」
「ワッシ も にげる よ」 と メ を あわせつ。 しばらく コトバ とだえたり。
「タカミネ、 ちっと あるこう か」
 ヨ は タカミネ と ともに たちあがりて、 とおく かの ワカモノ を はなれし とき、 タカミネ は さも かんじたる オモモチ にて、
「ああ、 シン の ビ の ヒト を うごかす こと あの とおり さ、 キミ は オテノモノ だ、 ベンキョウ したまえ」
 ヨ は エシ たる が ゆえ に うごかされぬ。 ゆく こと スヒャッポ、 かの クス の タイジュ の うつおう たる コノシタカゲ の、 やや うすぐらき アタリ を ゆく フジイロ の キヌ の ハシ を トオク より ちらと ぞ みたる。
 エン を いずれば タケ たかく こえたる ウマ 2 トウ たちて、 スリガラス いりたる バシャ に、 ミタリ の ベットウ やすらいたりき。 その ノチ 9 ネン を へて ビョウイン の かの こと ありし まで、 タカミネ は かの フジン の こと に つきて、 ヨ に すら ヒトコト をも かたらざりしかど、 ネンレイ に おいて も、 チイ に おいて も、 タカミネ は シツ あらざる べからざる ミ なる にも かかわらず、 イエ を おさむる フジン なく、 しかも カレ は ガクセイ たりし ジダイ より ヒンコウ いっそう キンゲン にて ありし なり。 ヨ は オオク を いわざる べし。
 アオヤマ の ボチ と、 ヤナカ の ボチ と トコロ こそ は かわりたれ、 おなじ ヒ に ゼンゴ して あいゆけり。
 ゴ を よす、 テンカ の シュウキョウカ、 カレラ フタリ は ザイアク ありて、 テン に ゆく こと を えざる べき か。

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