カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

オンシュウ の かなた に 3

2012-09-22 | キクチ カン
 4

 イチクロウ の ケンコウ は、 カド の ロウドウ に よって、 いたましく きずつけられて いた が、 カレ に とって、 それ より も もっと おそろしい テキ が、 カレ の セイメイ を ねらって いる の で あった。

 イチクロウ の ため に ヒゴウ の オウシ を とげた ナカガワ サブロベエ は、 カシン の ため に サツガイ された ため、 カジ フトリシマリ と あって、 イエ は とりつぶされ、 その とき 3 サイ で あった イッシ ジツノスケ は、 エンジャ の ため に やしないそだてられる こと に なった。
 ジツノスケ は、 13 に なった とき、 はじめて ジブン の チチ が ヒゴウ の シ を とげた こと を きいた。 ことに、 アイテ が タイトウ の シジン で なく して、 ジブン の イエ に やしなわれた ヌボク で ある こと を しる と、 ショウネン の ココロ は、 ムネン の イキドオリ に もえた。 カレ は ソクザ に フクシュウ の イチギ を、 キモ ふかく めいじた。 カレ は、 はせて ヤギュウ の ドウジョウ に はいった。 19 の トシ に、 メンキョ カイデン を ゆるされる と、 カレ は ただちに ホウフク の タビ に のぼった の で ある。 もし、 シュビ よく ホンカイ を たっして かえれば、 イッカ サイコウ の キモイリ も しよう と いう、 シンルイ イチドウ の ゲキレイ の コトバ に おくられながら。
 ジツノスケ は、 なれぬ タビジ に、 オオク の カンナン を くるしみながら、 ショコク を ヘンレキ して、 ひたすら カタキ イチクロウ の アリカ を もとめた。 イチクロウ を ただ イチド さえ みた こと も ない ジツノスケ に とって は、 それ は クモ を つかむ が ごとき おぼつかなき ソウサク で あった。 ゴキナイ、 トウカイ、 トウサン、 サンイン、 サンヨウ、 ホクリク、 ナンカイ と、 カレ は サスライ の タビジ に トシ を おくり トシ を むかえ、 27 の トシ まで クウキョ な ヘンレキ の タビ を つづけた。 カタキ に たいする ウラミ も イキドオリ も、 タビジ の カンナン に ショウマ せん と する こと たびたび で あった。 が、 ヒゴウ に たおれた チチ の ムネン を おもい、 ナカガワ-ケ サイコウ の ジュウニン を かんがえる と、 ふんぜん と ココロザシ を ふるいおこす の で あった。
 エド を たって から ちょうど 9 ネン-メ の ハル を、 カレ は フクオカ の ジョウカ に むかえた。 ホンド を むなしく たずねあるいた ノチ に、 ヘンスイ の キュウシュウ をも さぐって みる キ に なった の で ある。
 フクオカ の ジョウカ から ナカツ の ジョウカ に うつった カレ は、 2 ガツ に はいった イチジツ、 ウサ ハチマングウ に さいして、 ホンカイ の 1 ニチ も はやく たっせられん こと を キネン した。 ジツノスケ は、 サンパイ を おえて から ケイダイ の チャミセ に いこうた。 その とき に、 ふと カレ は ソバ の ヒャクショウ-テイ の オトコ が、 いあわせた サンケイキャク に、
「その ゴシュッケ は、 モト は エド から きた オヒト じゃ げな。 わかい とき に ヒト を ころした の を ザンゲ して、 ショニン サイド の タイガン を おこした そう じゃ が、 イマ いうた ヒダ の コウカン は、 この ゴシュッケ ヒトリ の チカラ で できた もの じゃ」 と かたる の を ミミ に した。
 この ハナシ を きいた ジツノスケ は、 9 ネン コノカタ いまだ かんじなかった よう な キョウミ を おぼえた。 カレ は やや せきこみながら、
「ソツジ ながら、 しょうしょう モノ を たずねる が、 その シュッケ と もうす は、 トシ の コロ は どれ ぐらい じゃ」 と、 きいた。 その オトコ は、 ジブン の ダンワ が ブシ の チュウイ を ひいた こと を、 コウエイ で ある と おもった らしく、
「さよう で ございます な。 ワタクシ は その ゴシュッケ を おがんだ こと は ございませぬ が、 ヒト の ウワサ では、 もう 60 に ちかい と もうします」
「タケ は たかい か、 ひくい か」 と、 ジツノスケ は たたみかけて きいた。
「それ も しかと は、 わかりませぬ。 なにさま、 ドウクツ の おくふかく おられる ゆえ、 しかと は わかりませぬ」
「その モノ の ゾクミョウ は、 なんと もうした か ぞんぜぬ か」
「それ も、 とんと わかりません が、 オウマレ は エチゴ の カシワザキ で、 わかい とき に エド へ でられた そう で ござります」 と、 ヒャクショウ は こたえた。
 ここ まで きいた ジツノスケ は、 おどりあがって よろこんだ。 カレ が、 エド を たつ とき に、 シンルイ の ヒトリ は、 カタキ は エチゴ カシワザキ の ウマレ ゆえ、 コキョウ へ たちまわる かも はかりがたい、 エチゴ は ひとしお ココロ を いれて タンサク せよ と いう、 チュウイ を うけて いた の で あった。
 ジツノスケ は、 これ ぞ まさしく ウサ ハチマングウ の シンタク なり と いさみたった。 カレ は その ロウソウ の ナ と、 ヤマクニダニ に むかう ミチ を きく と、 もはや ヤツドキ を すぎて いた にも かかわらず、 ヒッシ の チカラ を ソウキャク に こめて、 カタキ の アリカ へ と いそいだ。 その ヒ の ショコウ ちかく、 ヒダ ムラ に ついた ジツノスケ は、 ただちに ドウクツ へ たちむかおう か と おもった が、 あせって は ならぬ と おもいかえして、 その ヨ は ヒダ エキ の シュク に ショウリョ の イチヤ を あかす と、 ヨクジツ は はやく おきいでて、 ケイソウ して ヒダ の コウカン へ と むかった。
 コウカン の イリグチ に ついた とき、 カレ は そこ に、 イシ の カケラ を はこびだして いる イシク に たずねた。
「この ドウクツ の ナカ に、 リョウカイ と いわるる ゴシュッケ が おわす そう じゃ が、 それ に ソウイ ない か」
「おわさない で なんと しょう。 リョウカイ サマ は、 この ホコラ の ヌシ も ドウヨウ な カタ じゃ、 はははは」 と、 イシク は こころなげ に わらった。
 ジツノスケ は、 ホンカイ を たっする こと、 はや ガンゼン に あり と、 よろこびいさんだ。 が、 カレ は あわてて は ならぬ と おもった。
「して、 デイリ の クチ は ここ 1 カショ か」 と、 きいた。 カタキ に にげられて は ならぬ と おもった から で ある。
「それ は しれた こと じゃ。 ムコウ へ クチ を あける ため に、 リョウカイ サマ は トタン の クルシミ を なさって いる の じゃ」 と、 イシク が こたえた。
 ジツノスケ は、 タネン の オンテキ が、 ノウチュウ の ネズミ の ごとく、 モクゼン に おかれて ある の を よろこんだ。 たとい、 その シタ に つかわるる イシク が イクニン いよう とも、 きりころす に なんの ゾウサ も ある べき と、 いさみたった。
「ソチ に すこし タノミ が ある。 リョウカイ ドノ に ギョイ えたい ため、 はるばる と たずねて まいった モノ じゃ と、 つたえて くれ」 と、 いった。 イシク が、 ドウクツ の ナカ へ はいった アト で、 ジツノスケ は イットウ の メクギ を しめした。 カレ は、 ココロ の ウチ で、 セイライ はじめて めぐりあう カタキ の ヨウボウ を ソウゾウ した。 ドウモン の カイサク を トウリョウ して いる と いえば、 50 は すぎて いる とは いえ、 キンコツ たくましき オトコ で あろう。 ことに ジャクネン の コロ には、 ヘイホウ に うとからざりし と いう の で ある から、 ゆめ ユダン は ならぬ と おもって いた。
 が、 しばらく して ジツノスケ の メンゼン へ と、 ドウモン から でて きた ヒトリ の コジキソウ が あった。 それ は、 でて くる と いう より も、 ガマ の ごとく はいでて きた と いう ほう が、 テキトウ で あった。 それ は、 ニンゲン と いう より も、 むしろ、 ニンゲン の ザンガイ と いう べき で あった。 ニク ことごとく おちて ホネ あらわれ、 アシ の カンセツ イカ は ところどころ ただれて、 ながく セイシ する に たえなかった。 やぶれた コロモ に よって、 ソウギョウ とは しれる ものの、 トウハツ は ながく のびて シワダラケ の ヒタイ を おおうて いた。 ロウソウ は、 ハイイロ を なした メ を しばたたきながら、 ジツノスケ を みあげて、
「ロウガン おとろえはてまして、 いずれ の カタ とも わきまえかねまする」 と、 いった。
 ジツノスケ の、 キョクド に まで、 はりつめて きた ココロ は、 この ロウソウ を ヒトメ みた セツナ たじたじ と なって しまって いた。 カレ は、 ココロ の ソコ から ゾウオ を かんじうる よう な アクソウ を ほっして いた。 しかるに カレ の マエ には、 ニンゲン とも シガイ とも つかぬ、 ハンシ の ロウソウ が うずくまって いる の で ある。 ジツノスケ は、 シツボウ しはじめた ジブン の ココロ を はげまして、
「ソノモト が、 リョウカイ と いわるる か」 と、 いきごんで きいた。
「いかにも、 さよう で ござります。 して ソノモト は」 と、 ロウソウ は いぶかしげ に ジツノスケ を みあげた。
「リョウカイ と やら、 いかに ソウギョウ に ミ を やつす とも、 よも わすれ は いたすまい。 ナンジ、 イチクロウ と よばれし ジャクネン の ミギリ、 シュジン ナカガワ サブロベエ を うって たちのいた オボエ が あろう。 ソレガシ は、 サブロベエ の イッシ ジツノスケ と もうす モノ じゃ。 もはや、 のがれぬ ところ と カクゴ せよ」
 と、 ジツノスケ の コトバ は、 あくまで おちついて いた が、 そこ に イッポ も、 ゆるす まじき ゲンセイサ が あった。
 が、 イチクロウ は ジツノスケ の コトバ を きいて、 すこしも おどろかなかった。
「いかさま、 ナカガワ サマ の ゴシソク、 ジツノスケ サマ か。 いや オチチウエ を うって たちのいた モノ、 この リョウカイ に ソウイ ござりませぬ」 と、 カレ は ジブン を カタキ と ねらう モノ に あった と いう より も、 キュウシュ の ワスレゴ に あった シタシサ を もって こたえた が、 ジツノスケ は、 イチクロウ の コワネ に あざむかれて は ならぬ と おもった。
「シュ を うって たちのいた ヒドウ の ナンジ を うつ ため に、 10 ネン に ちかい トシツキ を カンナン の ウチ に すごした わ。 ここ で あう から は、 もはや のがれぬ ところ と ジンジョウ に ショウブ せよ」 と、 いった。
 イチクロウ は、 すこしも わるびれなかった。 もはや キネン の うち に ジョウジュ す べき タイガン を みはてず して しぬ こと が、 やや かなしまれた が、 それ も オノレ が アクゴウ の ムクイ で ある と おもう と、 カレ は しす べき ココロ を きめた。
「ジツノスケ サマ、 いざ おきり なされい。 オキキオヨビ も なされたろう が、 これ は リョウカイ め が、 ツミホロボシ に ほりうがとう と ぞんじた ドウモン で ござる が、 19 ネン の サイゲツ を ついやして、 9 ブ まで は シュンコウ いたした。 リョウカイ、 ミ を はつる とも、 もはや トシ を かさねず して なりもうそう。 オンミ の テ に かかり、 この ドウモン の イリグチ に チ を ながして ヒトバシラ と なりもうさば、 はや おもいのこす こと も ござりませぬ」 と、 いいながら、 カレ は みえぬ メ を しばたたいた の で ある。
 ジツノスケ は、 この ハンシ の ロウソウ に せっして いる と、 オヤ の カタキ に たいして いだいて いた ニクシミ が、 いつのまにか、 きえうせて いる の を おぼえた。 カタキ は、 チチ を ころした ツミ の ザンゲ に、 シンシン を コ に くだいて、 ハンセイ を くるしみぬいて いる。 しかも、 ジブン が イチド なのりかける と、 いい と して イノチ を すてよう と して いる の で ある。 かかる ハンシ の ロウソウ の イノチ を とる こと が、 なんの フクシュウ で ある か と、 ジツノスケ は かんがえた の で ある。 が、 しかし この カタキ を うたざる カギリ は、 タネン の ホウロウ を きりあげて、 エド へ かえる べき ヨスガ は なかった。 まして カメイ の サイコウ など は、 おもい も およばぬ こと で あった の で ある。 ジツノスケ は、 ゾウオ より も、 むしろ ダサン の ココロ から この ロウソウ の イノチ を ちぢめよう か と おもった。 が、 はげしい もゆる が ごとき ゾウオ を かんぜず して、 ダサン から ニンゲン を ころす こと は、 ジツノスケ に とって しのびがたい こと で あった。 カレ は、 きえかかろう と する ゾウオ の ココロ を はげましながら、 ウチガイ なき カタキ を うとう と した の で ある。
 その とき で あった。 ドウクツ の ナカ から はしりでて きた 5~6 ニン の イシク は、 イチクロウ の キキュウ を みる と、 テイシン して カレ を かばいながら、
「リョウカイ サマ を なんと する の じゃ」 と、 ジツノスケ を とがめた。 カレラ の オモテ には、 シギ に よって は ゆるす まじき イロ が ありあり と みえた。
「シサイ あって、 その ロウソウ を カタキ と ねらい、 はしなくも コンニチ めぐりおうて、 ホンカイ を たっする もの じゃ。 サマタゲ いたす と、 ヨジン なり とも ヨウシャ は いたさぬ ぞ」 と、 ジツノスケ は りんぜん と いった。
 が、 その うち に、 イシク の カズ は ふえ、 コウロ の ヒトビト が イクニン と なく たちどまって、 カレラ は ジツノスケ を とりまきながら、 イチクロウ の カラダ に ユビ の 1 ポン も ふれさせまい と、 メイメイ に いきまきはじめた。
「カタキ を うつ うたぬ など は、 それ は まだ ヨ に ある うち の こと じゃ。 みらるる とおり、 リョウカイ ドノ は、 センイ チハツ の ミ で ある うえ に、 この ヤマクニダニ 7 ゴウ の モノ に とって は、 ジジ ボサツ の サイライ とも あおがれる カタ じゃ」 と、 その ウチ の ある モノ は、 ジツノスケ の カタキウチ を、 かなわぬ ヒボウ で ある か の よう に いいはった。
 が、 こう シュウイ の モノ から さまたげられる と、 ジツノスケ の カタキ に たいする イカリ は いつのまにか よみがえって いた。 カレ は ブシ の イジ と して、 テ を こまねいて たちさる べき では なかった。
「たとい シャモン の ミ なり とも、 シュウゴロシ の タイザイ は まぬかれぬ ぞ。 オヤ の カタキ を うつ モノ を サマタゲ いたす モノ は、 ヒトリ も ヨウシャ は ない」 と、 ジツノスケ は イットウ の サヤ を はらった。 ジツノスケ を かこう グンシュウ も、 ミナ ことごとく みがまえた。 すると、 その とき、 イチクロウ は しわがれた コエ を はりあげた。
「ミナノシュウ、 おひかえ なされい。 リョウカイ、 うたる べき オボエ じゅうぶん ござる。 この ドウモン を うがつ こと も、 ただ その ツミホロボシ の ため じゃ。 イマ かかる コウシ の オテ に かかり、 ハンシ の ミ を おわる こと、 リョウカイ が イチゴ の ネガイ じゃ。 ミナノシュウ サマタゲ ムヨウ じゃ」
 こう いいながら イチクロウ は、 ミ を ていして、 ジツノスケ の ソバ に いざりよろう と した。 かねがね、 イチクロウ の キョウゴウ なる イシ を しりぬいて いる シュウイ の ヒトビト は、 カレ の ケッシン を ひるがえす べき ヨシ も ない の を しった。 イチクロウ の イノチ、 ここ に おわる か と おもわれた。 その とき に、 イシク の トウリョウ が、 ジツノスケ の マエ に すすみいでながら、
「オブケ サマ も、 オキキオヨビ でも ござろう が、 この コウカン は リョウカイ サマ、 イッショウ の ダイセイガン にて、 20 ネン に ちかき ゴシンク に シンシン を くだかれた の じゃ。 いかに、 ゴジシン の アクゴウ とは いえ、 タイガン ジョウジュ を メノマエ に おきながら、 おはて なさるる こと、 いかばかり ムネン で あろう。 ワレラ の こぞって の オネガイ は、 ながく とは もうさぬ、 この コウカン の つうじもうす アイダ、 リョウカイ サマ の オイノチ を、 ワレラ に あずけて は くださらぬ か。 コウカン さえ つうじた セツ は、 ソクザ に リョウカイ サマ を ぞんぶん に なさりませ」 と、 カレ は マコト を あらわして アイガン した。 グンシュウ は、 クチグチ に、
「コトワリ じゃ、 コトワリ じゃ」 と、 サンセイ した。
 ジツノスケ も、 そう いわれて みる と、 その アイガン を きかぬ わけ には ゆかなかった。 イマ ここ で カタキ を うとう と して、 グンシュウ の ボウガイ を うけて フカク を とる より も、 コウカン の シュンコウ を まった ならば、 イマ で さえ みずから すすんで うたれよう と いう イチクロウ が、 ギリ に かんじて クビ を さずける の は、 ヒツジョウ で ある と おもった。 また そうした ダサン から はなれて も、 カタキ とは いいながら この ロウソウ の ダイセイガン を とげさして やる の も、 けっして フカイ な こと では なかった。 ジツノスケ は、 イチクロウ と グンシュウ と を トウブン に みながら、
「リョカイ の ソウギョウ に めでて その ネガイ ゆるして とらそう。 つがえた コトバ は わすれまい ぞ」 と、 いった。
「ネン も ない こと で ござる。 イチブ の アナ でも、 イッスン の アナ でも、 この コウカン が ムコウガワ へ つうじた セツ は、 その バ を さらず リョウカイ サマ を うたさせもうそう。 それまで は ゆるゆる と、 この アタリ に ゴタイザイ なされませ」 と、 イシク の トウリョウ は、 おだやか な クチョウ で いった。
 イチクロウ は、 この フンジョウ が ブジ に カイケツ が つく と、 それ に よって トヒ した ジカン が いかにも おしまれる よう に、 にじりながら ドウクツ の ナカ へ はいって いった。
 ジツノスケ は、 タイセツ の バアイ に おもわぬ ジャマ が はいって、 モクテキ が たっしえなかった こと を いきどおった。 カレ は いかんとも しがたい ウップン を おさえながら、 イシク の ヒトリ に アンナイ せられて、 キゴヤ の ウチ へ はいった。 ジブン ヒトリ に なって かんがえる と、 カタキ を モクゼン に おきながら、 うちえなかった ジブン の フガイナサ を、 ムネン と おもわず には いられなかった。 カレ の ココロ は いつのまにか いらだたしい イキドオリ で いっぱい に なって いた。 カレ は、 もう コウカン の シュンセイ を まつ と いった よう な、 カタキ に たいする ゆるやか な ココロ を まったく うしなって しまった。 カレ は コヨイ にも ドウクツ の ナカ へ しのびいって、 イチクロウ を うって たちのこう と いう ケッシン の ホゾ を かためた。 が、 ジツノスケ が イチクロウ の ハリバン を して いる よう に、 イシク たち は ジツノスケ を みはって いた。
 サイショ の 2~3 ニチ を、 ココロ にも なく ムイ に すごした が、 ちょうど イツカ-メ の バン で あった。 マイヨ の こと なので、 イシク たち も ケイカイ の メ を ゆるめた と みえ、 ウシ に ちかい コロ には ナンビト も いぎたない ネムリ に いって いた。 ジツノスケ は、 コヨイ こそ と おもいたった。 カレ は、 がばと おきあがる と、 マクラモト の イットウ を ひきよせて、 しずか に キゴヤ の ソト に でた。 それ は ソウシュン の ヨ の ツキ が さえた バン で あった。 ヤマクニガワ の ミズ は ゲッコウ の モト に あおく うずまきながら ながれて いた。 が、 シュウイ の フウブツ には メ も くれず、 ジツノスケ は、 アシ を しのばせて ひそか に ドウモン に ちかづいた。 けずりとった セッカイ が、 トコロドコロ に ちらばって、 ホ を はこぶ たび ごと に アシ を いためた。
 ドウクツ の ナカ は、 イリグチ から くる ゲッコウ と、 トコロドコロ に くりあけられた マド から さしいる ゲッコウ と で、 ところどころ ほのじろく ひかって いる ばかり で あった。 カレ は ウホウ の ガンペキ を たぐりたぐり オク へ オク へ と すすんだ。
 イリグチ から、 2 チョウ ばかり すすんだ コロ、 ふと カレ は ドウクツ の ソコ から、 かっかっ と マ を おいて ひびいて くる オト を ミミ に した。 カレ は サイショ それ が ナン で ある か わからなかった。 が、 イッポ すすむ に したがって、 その オト は カクダイ して いって、 オシマイ には ドウクツ の ナカ の ヨル の ジャクジョウ の ウチ に、 こだまする まで に なった。 それ は、 あきらか に ガンペキ に むかって テッツイ を おろす オト に ソウイ なかった。 ジツノスケ は、 その ヒソウ な、 スゴミ を おびた オト に よって、 ジブン の ムネ が はげしく うたれる の を かんじた。 オク に ちかづく に したがって、 タマ を くだく よう な するどい オト は、 ドウヘキ の シュウイ に こだまして、 ジツノスケ の チョウカク を、 もうぜん と おそって くる の で あった。 カレ は、 この オト を タヨリ に はいながら ちかづいて いった。 この ツチ の オト の ヌシ こそ、 カタキ リョウカイ に ソウイ あるまい と おもった。 ひそか に イットウ の コイグチ を しめしながら、 イキ を ひそめて よりそうた。 その とき、 ふと カレ は ツチ の オト の アイダアイダ に ささやく が ごとく、 うめく が ごとく、 リョウカイ が キョウモン を じゅする コエ を きいた の で ある。
 その しわがれた ヒソウ な コエ が、 ミズ を あびせる よう に ジツノスケ に てっして きた。 シンヤ、 ヒト さり、 クサキ ねむって いる ナカ に、 ただ アンチュウ に タンザ して テッツイ を ふるって いる リョウカイ の スガタ が、 スミ の ごとき ヤミ に あって なお、 ジツノスケ の シンガン に、 ありあり と して うつって きた。 それ は、 もはや ニンゲン の ココロ では なかった。 キド アイラク の ジョウ の ウエ に あって、 ただ テッツイ を ふるって いる ユウモウ ショウジン の ボサツシン で あった。 ジツノスケ は、 にぎりしめた タチ の ツカ が、 いつのまにか ゆるんで いる の を おぼえた。 カレ は ふと、 ワレ に かえった。 すでに ブッシン を えて、 シュジョウ の ため に、 サイシン の クルシミ を なめて いる コウトク の ヒジリ に たいし、 シンヤ の ヤミ に じょうじて、 ヒハギ の ごとく、 ケモノ の ごとく、 シンイ の ケン を ぬきそばめて いる ジブン を かえりみる と、 カレ は つよい センリツ が カラダ を つとうて ながれる の を かんじた。
 ドウクツ を ゆるがせる その ちからづよい ツチ の オト と、 ヒソウ な ネンブツ の コエ とは、 ジツノスケ の ココロ を サンザン に うちくだいて しまった。 カレ は、 いさぎよく シュンセイ の ヒ を まち、 その ヤクソク の はたさるる の を まつ より ホカ は ない と おもった。
 ジツノスケ は、 ふかい カンゲキ を いだきながら、 ドウガイ の ゲッコウ を めざし、 ドウクツ の ソト に はいでた の で ある。

 その こと が あって から まもなく、 コウカン の コウジ に したがう イシク の ウチ に、 ブケ スガタ の ジツノスケ の スガタ が みられた。 カレ は もう、 ロウソウ を ヤミウチ に して たちのこう と いう よう な けわしい ココロ は、 すこしも もって いなかった。 リョウカイ が ニゲカクレ も せぬ こと を しる と、 カレ は コウイ を もって、 リョウカイ が その イッショウ の タイガン を ジョウジュ する ヒ を、 まって やろう と おもって いた。
 が、 それにしても、 ぼうぜん と まって いる より も、 ジブン も この タイギョウ に イッピ の チカラ を つくす こと に よって、 いくばく か でも フクシュウ の キジツ が タンシュク せられる はず で ある こと を さとる と、 ジツノスケ は みずから イシク に ごして、 ツチ を ふるいはじめた の で ある。
 カタキ と カタキ と が、 あいならんで ツチ を おろした。 ジツノスケ は、 ホンカイ を たっする ヒ の 1 ニチ も はやかれ と、 ケンメイ に ツチ を ふるった。 リョウカイ は ジツノスケ が シュツゲン して から は、 1 ニチ も はやく タイガン を ジョウジュ して コウシ の ネガイ を かなえて やりたい と おもった の で あろう、 カレ は、 また さらに ショウジン の ユウ を ふるって、 キョウジン の よう に ガンペキ を うちくだいて いた。
 その うち に、 ツキ が さり ツキ が きた。 ジツノスケ の ココロ は、 リョウカイ の ダイ ユウモウシン に うごかされて、 カレ みずから コウカン の タイギョウ に シュウテキ の ウラミ を わすれよう と しがち で あった。
 イシク ども が、 ヒル の ツカレ を やすめて いる マヨナカ にも、 カタキ と カタキ とは あいならんで、 もくもく と して ツチ を ふるって いた。
 それ は、 リョウカイ が ヒダ の コウカン に ダイイチ の ツチ を おろして から 21 ネン-メ、 ジツノスケ が リョウカイ に めぐりあって から 1 ネン 6 カゲツ を へた、 エンキョウ 3 ネン 9 ガツ トオカ の ヨ で あった。 この ヨ も、 イシク ども は ことごとく コヤ に しりぞいて、 リョウカイ と ジツノスケ のみ、 シュウジツ の ヒロウ に めげず ケンメイ に ツチ を ふるって いた。 その ヨ ココノツ に ちかき コロ、 リョウカイ が チカラ を こめて ふりおろした ツチ が、 クチキ を うつ が ごとく なんの テゴタエ も なく チカラ あまって、 ツチ を もった ミギ の テノヒラ が イワ に あたった ので、 カレ は 「あっ」 と、 おもわず コエ を あげた。 その とき で あった。 リョウカイ の もうろう たる ロウガン にも、 まぎれなく その ツチ に やぶられたる ちいさき アナ から、 ツキ の ヒカリ に てらされたる ヤマクニガワ の スガタ が、 ありあり と うつった の で ある。 リョウカイ は 「おう」 と、 ゼンシン を ふるわせる よう な メイジョウ しがたき サケビゴエ を あげた か と おもう と、 それ に つづいて、 きょうした か と おもわれる よう な カンキ の ナキワライ が、 ドウクツ を ものすごく うごめかした の で ある。
「ジツノスケ ドノ、 ゴラン なされい。 21 ネン の ダイセイガン、 はしなくも コヨイ ジョウジュ いたした」 こう いいながら、 リョウカイ は ジツノスケ の テ を とって、 ちいさい アナ から ヤマクニガワ の ナガレ を みせた。 その アナ の マシタ に くろずんだ ツチ の みえる の は、 キシ に そう カイドウ に マギレ も なかった。 カタキ と カタキ とは、 そこ に テ を とりおうて、 ダイカンキ の ナミダ に むせんだ の で ある。 が、 しばらく する と リョウカイ は ミ を すさって、
「いざ、 ジツノスケ ドノ、 ヤクソク の ヒ じゃ。 おきり なされい。 かかる ホウエツ の マンナカ に オウジョウ いたす なれば、 ゴクラク ジョウド に うまるる こと、 ひつじょう ウタガイ なし じゃ。 いざ おきり なされい。 アス とも なれば、 イシク ども が、 サマタゲ を いたそう、 いざ おきり なされい」 と、 カレ の しわがれた コエ が ドウクツ の ヨル の クウキ に ひびいた。 が、 ジツノスケ は、 リョウカイ の マエ に テ を こまねいて すわった まま、 ナミダ に むせんで いる ばかり で あった。 ココロ の ソコ から わきいずる カンキ に なく しなびた ロウソウ の カオ を みて いる と、 カレ を カタキ と して ころす こと など は、 おもいおよばぬ こと で あった。 カタキ を うつ など と いう ココロ より も、 この かよわい ニンゲン の ソウ の カイナ に よって なしとげられた イギョウ に たいする キョウイ と カンゲキ の ココロ と で、 ムネ が いっぱい で あった。 カレ は いざりよりながら、 ふたたび ロウソウ の テ を とった。 フタリ は そこ に スベテ を わすれて、 カンゲキ の ナミダ に むせびおうた の で あった。

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