カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ボクトウ キタン 1

2019-03-21 | ナガイ カフウ
 ボクトウ キタン

 ナガイ カフウ

 1

 ワタクシ は ほとんど カツドウ シャシン を み に いった こと が ない。
 おぼろげ な キオク を たどれば、 メイジ 30 ネン コロ でも あろう。 カンダ ニシキチョウ に あった カシセキ キンキカン で、 サン フランシスコ シガイ の コウケイ を うつした もの を みた こと が あった。 カツドウ シャシン と いう コトバ の できた の も おそらくは その ジブン から で あろう。 それから 40 ヨネン を すぎた コンニチ では、 カツドウ と いう コトバ は すでに すたれて タ の もの に かえられて いる らしい が、 はじめて ミミ に した もの の ほう が くちなれて いいやすい から、 ワタクシ は いぜん と して ムカシ の ハイゴ を ここ に もちいる。
 シンサイ の ノチ、 ワタクシ の イエ に あそび に きた セイネン サッカ の ヒトリ が、 ジセイ に おくれる から と いって、 むりやり に ワタクシ を アカサカ タメイケ の カツドウゴヤ に つれて いった こと が ある。 なんでも その コロ ヒジョウ に ヒョウバン の よい もの で あった と いう が、 みれば モーパッサン の タンペン ショウセツ を キャクショク した もの で あった ので、 ワタクシ は あれ なら シャシン を みる にも およばない。 ゲンサク を よめば いい。 その ほう が もっと おもしろい と いった こと が あった。
 しかし カツドウ シャシン は ロウニャク の ワカチ なく、 イマ の ヒト の よろこんで これ を みて、 ニチジョウ の ワヘイ に して いる もの で ある から、 せめて ワタクシ も、 ヒト が なんの ハナシ を して いる の か と いう くらい の こと は わかる よう に して おきたい と おもって、 カツドウゴヤ の マエ を とおりかかる とき には カンバン の エ と ナダイ と には つとめて メ を むける よう に こころがけて いる。 カンバン を イチベツ すれば シャシン を みず とも キャクショク の コウガイ も ソウゾウ が つく し、 どういう バメン が よろこばれて いる か と いう こと も エトク せられる。
 カツドウ シャシン の カンバン を イチド に もっとも おおく イチベツ する こと の できる の は アサクサ コウエン で ある。 ここ へ くれば あらゆる シュルイ の もの を ヒトメ に ながめて、 おのずから その コウセツ をも ヒカク する こと が できる。 ワタクシ は シタヤ アサクサ の ホウメン へ でかける とき には かならず おもいだして コウエン に いり ツエ を イケ の フチ に ひく。
 ユウカゼ も おいおい さむく なくなって きた ある ヒ の こと で ある。 1 ケン 1 ケン イリグチ の カンバン を みつくして コウエン の ハズレ から センゾクマチ へ でた ので。 ミギ の ほう は コトトイバシ ヒダリ の ほう は イリヤマチ、 いずれ の ほう へ ゆこう か と シアン しながら あるいて ゆく と、 40 ゼンゴ の フルヨウフク を きた オトコ が いきなり ヨコアイ から あらわれでて、
「ダンナ、 ゴショウカイ しましょう。 いかが です」 と いう。
「いや ありがとう」 と いって、 ワタクシ は すこし ホチョウ を はやめる と、
「ゼッコウ の チャンス です ぜ。 リョウキテキ です ぜ。 ダンナ」 と いって ついて くる。
「いらない。 ヨシワラ へ ゆく ん だ」
 ポンビキ と いう の か、 ゲンジ と いう の か よく しらぬ が、 とにかく あやしげ な カンユウシャ を おいはらう ため に、 ワタクシ は クチ から デマカセ に ヨシワラ へ ゆく と いった の で ある が、 ユクサキ の さだまらない サンポ の ホウコウ は、 かえって これ が ため に ケッテイ せられた。 あるいて ゆく うち ワタクシ は ドテシタ の ウラマチ に フルホンヤ を 1 ケン しって いる こと を おもいだした。
 フルホンヤ の ミセ は、 サンヤボリ の ナガレ が チカ の アンキョ に セツゾク する アタリ から、 オオモン マエ ニホンヅツミバシ の タモト へ でよう と する うすぐらい ウラドオリ に ある。 ウラドオリ は サンヤボリ の ミズ に そうた カタカワマチ で、 タイガン は イシガキ の ウエ に たちつづく ジンカ の ハイメン に かぎられ、 こなた は ドカン、 チガワラ、 カワツチ、 ザイモク など の トンヤ が ジンカ の アイダ に やや ひろい ミセグチ を しめして いる が、 ホリ の ハバ の せまく なる に つれて しだいに まずしげ な コイエガチ に なって、 ヨル は ホリ に かけられた ショウホウジバシ、 サンヤバシ、 ジカタバシ、 カミアライバシ など いう ハシ の ヒ が わずか に ミチ を てらす ばかり。 ホリ も つき ハシ も なくなる と、 ヒトドオリ も ともに とだえて しまう。 この ヘン で ヨル も わりあい に おそく まで アカリ を つけて いる イエ は、 かの フルホンヤ と タバコ を うる アラモノヤ ぐらい の もの で あろう。
 ワタクシ は フルホンヤ の ナ は しらない が、 ミセ に つんで ある シナモノ は たいてい しって いる。 ソウカン トウジ の ブンゲイ クラブ か ふるい ヤマト シンブン の コウダン フロク でも あれば、 イガイ の ホリダシモノ だ と おもわなければ ならない。 しかし ワタクシ が わざわざ マワリミチ まで して、 この ミセ を たずねる の は フルホン の ため では なく、 フルホン を ひさぐ テイシュ の ヒトガラ と、 クルワソト の ウラマチ と いう ジョウミ との ため で ある。
 アルジ は アタマ を きれい に そった コガラ の ロウジン。 トシ は むろん 60 を こして いる。 その カオダチ、 モノゴシ、 コトバヅカイ から キモノ の キヨウ に いたる まで、 トウキョウ の シタマチ キッスイ の フウゾク を、 そのまま くずさず に のこして いる の が、 ワタクシ の メ には キコウ の コショ より も むしろ とうとく また なつかしく みえる。 シンサイ の コロ まで は シバイ や ヨセ の ガクヤ に ゆく と ヒトリ や フタリ、 こういう エド シタマチ の トシヨリ に あう こと が できた―― たとえば オトワヤ の オトコシュ の トメ ジイヤ だの、 タカシマヤ の つかって いた イチゾウ など いう トシヨリ たち で ある が、 イマ は いずれ も アノヨ へ いって しまった。
 フルホンヤ の テイシュ は、 ワタクシ が ミセサキ の ガラスド を あける とき には、 いつでも きまって、 ナカジキリ の ショウジギワ に きちんと すわり、 まるい セ を すこし ナナメ に ソト の ほう へ むけ、 ハナ の サキ へ おちかかる メガネ を タヨリ に、 ナニ か よんで いる。 ワタクシ の くる ジカン も たいてい ヨル の 7~8 ジ と きまって いる が、 その たび ごと に みる トシヨリ の スワリバショ も その カタチ も ほとんど きまって いる。 ト の あく オト に、 おりかがんだ まま、 クビ だけ ひょいと こなた へ むけ、 「おや、 いらっしゃいまし」 と メガネ を はずし、 チュウゴシ に なって ザブトン の チリ を ぽんと たたき、 はう よう な コシツキ で、 それ を しきのべながら、 さて テイネイ に アイサツ を する。 その コトバ も ヨウス も また カタドオリ に カワリ が ない。
「あいかわらず なにも ございません。 オメ に かける よう な もの は。 そうそう たしか ホウタン ザッシ が ありました。 そろっちゃ おりません が」
「タメナガ シュンコウ の ザッシ だろう」
「へえ。 ショゴウ が ついて おります から、 まあ オメ に かけられます。 おや、 どこ へ おいた かな」 と カベギワ に つみかさねた フルホン の アイダ から ガッポン 5~6 サツ を とりだし、 リョウテ で ぱたぱた チリ を はたいて さしだす の を、 ワタクシ は うけとって、
「メイジ 12 ネン オトドケ と して ある ね。 この ジブン の ザッシ を よむ と、 イノチ が のびる よう な キ が する ね。 ロブン チンポウ も ゼンブ そろった の が あったら ほしい と おもって いる ん だ が」
「ときどき でる にゃ でます が、 たいてい ばらばら で ございまして な。 ダンナ、 カゲツ シンシ は オモチアワセ で いらっしゃいます か」
「もって います」
 ガラスド の あく オト が した ので、 ワタクシ は テイシュ と ともに みかえる と、 これ も 60 あまり。 ホオ の こけた ハゲアタマ の ヒンソウ な オトコ が よごれた シマ の フロシキヅツミ を ミセサキ に ならべた フルホン の ウエ へ おろしながら、
「つくづく ジドウシャ は いや だ。 キョウ は すんでのこと に ころされる ところ さ」
「ベンリ で やすくって それ で マチガイ が ない なんて、 そんな もの は めった に ない よ。 それでも、 オマエサン。 ケガ あ しなさらなかった か」
「オマモリ が われた おかげ で ブジ だった。 ショウトツ した なあ サキ へ ゆく バス と エンタク だ が、 おもいだして も ぞっと する ね。 じつは キョウ ハトガヤ の イチ へ いった ん だ がね、 ミョウ な もの を かった。 ムカシ の もの は いい ね。 さしあたり ハケクチ は ない ん だ が みる と つい ドウラク が したく なる やつ さ」
 ハゲアタマ は フロシキヅツミ を とき、 オンナモノ らしい コモン の ヒトエ と ドウヌキ の ナガジュバン を だして みせた。 コモン は ネズミジ の コハマ チリメン、 ドウヌキ の ソデ に した ユウゼンゾメ も ちょっと かわった もの では ある が、 いずれ も イシン ゼンゴ の もの らしく とくに コダイ と いう ほど の シナ では ない。
 しかし ウキヨエ ニクヒツモノ の ヒョウソウ とか、 チカゴロ はやる テブンコ の ウチバリ とか、 また クサゾウシ の チツ など に もちいたら あんがい いい かも しれない と おもった ので、 その バ の デキゴコロ から ワタクシ は フルザッシ の カンジョウ を する ツイデ に ドウヌキ の ナガジュバン 1 マイ を かいとり、 ボウズアタマ の テイシュ が ホウタン ザッシ の ガッポン と ともに カミヅツミ に して くれる の を かかえて ソト へ でた。
 ニホンヅツミ を オウフク する ノリアイ ジドウシャ に のる つもり で、 ワタクシ は しばらく オオモン マエ の テイリュウジョウ に たって いた が、 ナガシ の エンタク に コエ を かけられる の が うるさい ので、 もと きた ウラドオリ へ まがり、 デンシャ と エンタク の とおらない うすぐらい ヨコチョウ を えらみえらみ あるいて ゆく と、 たちまち キ の アイダ から コトトイバシ の アカリ が みえる アタリ へ でた。 カワバタ の コウエン は ブッソウ だ と きいて いた ので、 カワ の キシ まで は ゆかず、 デントウ の あかるい コミチ に そうて、 クサリ の ひきまわして ある その ウエ に コシ を かけた。
 じつは こっち への キガケ に、 トチュウ で ショクパン と カンヅメ と を かい、 フロシキ へ つつんで いた ので、 ワタクシ は フルザッシ と フルギ と を ヒトツ に つつみなおして みた が、 フロシキ が すこし ちいさい ばかり か、 かたい もの と やわらかい もの とは どうも イッショ には うまく つつめない。 けっきょく カンヅメ だけ は ガイトウ の カクシ に おさめ、 ノコリ の もの を ヒトツ に した ほう が もちよい か と かんがえて、 シバフ の ウエ に フロシキ を たいら に ひろげ、 しきり に アンバイ を みて いる と、 いきなり ウシロ の コカゲ から、 「おい、 ナニ を して いる ん だ」 と いいさま、 サーベル の オト と ともに、 ジュンサ が あらわれ、 エンピ を のばして ワタクシ の カタ を おさえた。
 ワタクシ は ヘンジ を せず、 しずか に フロシキ の ムスビメ を なおして たちあがる と、 それ さえ まちどしい と いわぬ ばかり、 ジュンサ は ウシロ から ワタクシ の ヒジ を つき、 「そっち へ いけ」
 コウエン の コミチ を すぐさま コトトイバシ の キワ に でる と、 ジュンサ は ひろい ドウロ の ムコウガワ に ある ハシュツジョ へ つれて ゆき タチバン の ジュンサ に ワタクシ を ひきわたした まま、 いそがしそう に また どこ へ か いって しまった。
 ハシュツジョ の ジュンサ は イリグチ に たった まま、 「イマジブン、 どこ から きた ん だ」 と ジンモン に とりかかった。
「ムコウ の ほう から きた」
「ムコウ の ほう とは どっち の ほう だ」
「ホリ の ほう から だ」
「ホリ とは どこ だ」
「マツチヤマ の フモト の サンヤボリ と いう カワ だ」
「ナ は なんと いう」
「オオエ タダス」 と こたえた とき、 ジュンサ は テチョウ を だした ので、 「タダス は ハコ に オウ の ジ を かきます。 ヒトタビ テンカ ヲ タダス と ロンゴ に ある ジ です」
 ジュンサ は だまれ と いわぬ ばかり、 ワタクシ の カオ を にらみ、 テ を のばして いきなり ワタクシ の ガイトウ の ボタン を はずし、 ウラ を かえして みて、
「シルシ は ついて いない な」 つづいて ウワギ の ウラ を みよう と する。
「シルシ とは どういう シルシ です」 と ワタクシ は フロシキヅツミ を シタ に おいて、 ウワギ と チョッキ の ムネ を イチド に ひろげて みせた。
「ジュウショ は」
「アザブ ク オタンスマチ 1 チョウメ 6 バンチ」
「ショクギョウ は」
「なんにも して いません」
「ムショクギョウ か。 トシ は イクツ だ」
「ツチノト の ウ です」
「イクツ だよ」
「メイジ 12 ネン ツチノト の ウ の トシ」 それきり だまって いよう か と おもった が、 アト が こわい ので、 「58」
「いやに わかい な」
「へへへへ」
「ナマエ は なんと いった ね」
「イマ いいました よ。 オオエ タダス」
「カゾク は イクタリ だ」
「3 ニン」 と こたえた。 じつは ドクシン で ある が、 コンニチ まで の ケイケン で、 ジジツ を いう と、 いよいよ あやしまれる カタムキ が ある ので、 3 ニン と こたえた の で ある。
「3 ニン と いう の は オクサン と ダレ だ」 ジュンサ の ほう が いい よう に カイシャク して くれる。
「カカア と ババア」
「オクサン は イクツ だ」
 ちょっと こまった が、 4~5 ネン マエ まで しばらく カンケイ の あった オンナ の こと を おもいだして、 「31。 メイジ 39 ネン 7 ガツ 10 ヨッカ ウマレ ヒノエウマ……」
 もし ナマエ を きかれたら、 ジサク の ショウセツ-チュウ に ある オンナ の ナ を いおう と おもった が、 ジュンサ は なんにも いわず、 ガイトウ や セビロ の カクシ を ウエ から おさえ、
「これ は ナン だ」
「パイプ に メガネ」
「うむ。 これ は」
「カンヅメ」
「これ は、 カミイレ だね。 ちょっと だして みせたまえ」
「カネ が はいって います よ」
「いくら はいって いる」
「さあ 20~30 エン も ありましょう かな」
 ジュンサ は カミイレ を ぬきだした が ナカ は あらためず に デンワキ の シタ に すえた テイブル の ウエ に おき、 「その ツツミ は ナン だ。 こっち へ はいって ほどいて みせたまえ」
 フロシキヅツミ を とく と カミ に つつんだ パン と フルザッシ まで は よかった が、 ドウヌキ の なまめかしい ナガジュバン の カタソデ が だらり と さがる や いなや、 ジュンサ の タイド と ゴチョウ とは たちまち イッペン して、
「おい、 ミョウ な もの を もって いる な」
「いや、 ははははは」 と ワタクシ は わらいだした。
「これ あ オンナ の きる もん だな」 ジュンサ は ナガジュバン を ユビサキ に つまみあげて、 アカリ に かざしながら、 ワタクシ の カオ を にらみかえして、 「どこ から もって きた」
「フルギヤ から もって きた」
「どうして もって きた」
「カネ を だして かった」
「それ は どこ だ」
「ヨシワラ の オオモン マエ」
「いくら で かった」
「3 エン 70 セン」
 ジュンサ は ナガジュバン を テイブル の ウエ に なげすてた なり だまって ワタクシ の カオ を みて いる ので、 おおかた ケイサツショ へ つれて いって ブタバコ へ なげこむ の だろう と、 ハジメ の よう に からかう ユウキ が なくなり、 こっち も ジュンサ の ヨウス を みつめて いる と、 ジュンサ は やはり だまった まま ワタクシ の カミイレ を しらべだした。 カミイレ には いれわすれた まま オリメ の やぶれた カサイ ホケン の カリショウショ と、 ナニ か の とき に イリヨウ で あった コセキ ショウホン に インカン ショウメイショ と ジツイン と が はいって いた の を、 ジュンサ は 1 マイ 1 マイ しずか に のべひろげ、 それから ジツイン を とって テンコク した モジ を アカリ に かざして みたり して いる。 だいぶ ヒマ が かかる ので、 ワタクシ は イリグチ に たった まま ドウロ の ほう へ メ を うつした。
 ドウロ は コウバン の マエ で ナナメ に フタスジ に わかれ、 その ヒトスジ は ミナミ センジュ、 ヒトスジ は シラヒゲバシ の ほう へ はしり、 それ と コウサ して アサクサ コウエン ウラ の オオドオリ が コトトイバシ を わたる ので、 コウツウ は ヨル に なって も なかなか ヒンパン で ある が、 どういう こと か、 ワタクシ の ジンモン される の を あやしんで たちどまる ツウコウニン は ヒトリ も ない。 ムコウガワ の カド の シャツ-ヤ では ニョウボウ らしい オンナ と コゾウ と が こっち を みて いながら さらに あやしむ ヨウス も なく、 そろそろ ミセ を しまいかけた。
「おい。 もう いい から しまいたまえ」
「べつに イリヨウ な もの でも ありません から……」 つぶやきながら ワタクシ は カミイレ を しまい フロシキヅツミ を モト の よう に むすんだ。
「もう ヨウ は ありません か」
「ない」
「ごくろうさま でした な」 ワタクシ は マキタバコ も キングチ の ウエストミンスター に マッチ の ヒ を つけ、 カオリ だけ でも かいで おけ と いわぬ ばかり、 ケムリ を コウバン の ナカ へ ふきちらして アシ の むく まま コトトイバシ の ほう へ あるいて いった。 アト で かんがえる と、 コセキ ショウホン と インカン ショウメイショ と が なかった なら、 おおかた その ヨ は ブタバコ へ いれられた に ソウイ ない。 いったい フルギ は キミ の わるい もの だ。 フルギ の ナガジュバン が たたりそこねた の で ある。

 2

「シッソウ」 と だいする ショウセツ の フクアン が できた。 かきあげる こと が できた なら、 この ショウセツ は われながら、 さほど セツレツ な もの でも あるまい と、 イクブン か ジシン を もって いる の で ある。
 ショウセツ-チュウ の ジュウヨウ な ジンブツ を、 タネダ ジュンペイ と いう。 トシ 50 ヨサイ、 シリツ チュウガッコウ の エイゴ の キョウシ で ある。
 タネダ は ショコン の コイニョウボウ に さきだたれて から 3~4 ネン に して、 ケイサイ ミツコ を むかえた。
 ミツコ は チメイ の セイジカ ナニガシ の イエ に やとわれ、 フジン-ヅキ の コマヅカイ と なった が、 シュジン に あざむかれて ミオモ に なった。 シュカ では その シツジ エンドウ ナニガシ を して アト の シマツ を つけさせた。 その ジョウケン は ミツコ が ブジ に サン を した なら 20 カネン コドモ の ヨウイクヒ と して マイツキ 50 エン を おくる。 そのかわり コドモ の コセキ に ついて は シュカ では ぜんぜん あずかりしらない。 また ミツコ が タ へ かする バアイ には ソウトウ の ジサンキン を おくる と いう よう な こと で あった。
 ミツコ は シツジ エンドウ の イエ へ ひきとられ オトコ の コ を うんで 60 ニチ たつ か たたぬ うち やはり エンドウ の ナカダチ で チュウガッコウ の エイゴ キョウシ タネダ ジュンペイ なる モノ の ゴサイ と なった。 ときに ミツコ は 19、 タネダ は 30 サイ で あった。
 タネダ は ハジメ の コイニョウボウ を うしなって から、 ハッキュウ な セイカツ の ゼント に なんの キボウ をも みず、 チュウネン に ちかづく に したがって ゲンキ の ない カゲ の よう な ニンゲン に なって いた が、 キュウユウ の エンドウ に ときすすめられ、 ミツコ オヤコ の カネ に ふと ココロ が まよって サイコン を した。 その とき コドモ は うまれた ばかり で コセキ の テツヅキ も せず に あった ので、 エンドウ は ミツコ オヤコ の セキ を イッショ に タネダ の イエ に うつした。 それゆえ ノチ に なって コセキ を みる と、 タネダ フウフ は ひさしく ナイエン の カンケイ を つづけて いた ノチ、 チョウナン が うまれた ため、 はじめて ケッコン ニュウセキ の テツヅキ を した もの の よう に おもわれる。
 2 ネン たって オンナ の コ が うまれ、 つづいて また オトコ の コ が うまれた。
 オモテムキ は チョウナン で、 じつは ミツコ の ツレコ に なる タメトシ が テイネン に なった とき、 タネン ヒミツ の チチ から ミツコ の テモト に おくられて いた キョウイクヒ が とだえた。 ヤクソク の ネンゲン が おわった ばかり では ない。 ジップ は センネン ビョウシ し、 その フジン も また つづいて ヨ を さった ゆえ で ある。
 チョウジョ ヨシコ と スエコ タメアキ の セイチョウ する に したがって セイカツヒ は ネンネン おおく なり、 タネダ は 2~3 ゲン ヤガッコウ を カケモチ して あるかねば ならない。
 チョウナン タメトシ は シリツ ダイガク に ザイガクチュウ、 スポーツマン と なって ヨウコウ する。 イモウト ヨシコ は ジョガッコウ を ソツギョウ する や いなや カツドウ ジョユウ の ハナガタ と なった。
 ケイサイ ミツコ は ケッコン トウジ は あいくるしい マルガオ で あった の が いつか ヒマン した ババ と なり、 ニチレンシュウ に こりかたまって、 シント の ダンタイ の イイン に あげられて いる。
 タネダ の イエ は ある とき は さながら コウジュウ の ヨリアイジョ、 ある とき は ジョユウ の アソビバ、 ある とき は スポーツ の レンシュウジョウ も よろしく と いう アリサマ。 その サワガシサ には ダイドコロ にも ネズミ が でない くらい で ある。
 タネダ は もともと キ の よわい コウサイギライ な オトコ なので、 トシ を とる に つれて カナイ の ケンソウ には たえられなく なる。 サイシ の このむ もの は ことごとく タネダ の このまぬ もの で ある。 タネダ は カゾク の こと に ついて は つとめて ココロ を とめない よう に した。 オノレ の サイシ を レイガン に みる の が、 キ の よわい チチオヤ の せめても の フクシュウ で あった。
 51 サイ の ハル、 タネダ は キョウシ の ショク を やめられた。 タイショク テアテ を うけとった その ヒ、 タネダ は イエ に かえらず、 アト を くらまして しまった。
 これ より サキ、 タネダ は かつて その イエ に ゲジョ-ボウコウ に きた オンナ スミコ と ぐうぜん デンシャ の ナカ で カイコウ し、 その オンナ が アサクサ コマガタマチ の カフェー に はたらいて いる こと を しり、 1~2 ド おとずれて ビール の ヨイ を かった こと が ある。
 タイショク テアテ の カネ を フトコロ に した その ヨ で ある。 タネダ は はじめて ジョキュウ スミコ の ヘヤガリ を して いる アパート に ゆき、 ジジョウ を うちあけて ヒトバン とめて もらった……。

     *     *     *

 それから サキ どういう ふう に モノガタリ の ケツマツ を つけたら いい もの か、 ワタクシ は まだ テイアン を えない。
 カゾク が ソウサク ネガイ を だす。 タネダ が ケイジ に とらえられて セツユ せられる。 チュウネン-ゴ に おぼえた ドウラク は、 ムカシ から ナナツサガリ の アメ に たとえられて いる から、 タネダ の マツロ は わけなく どんな に でも ヒサン に する こと が できる の だ。
 ワタクシ は イロイロ に タネダ の ダラク して ゆく ミチスジ と、 その オリオリ の カンジョウ と を かんがえつづけて いる。 ケイジ に つかまって コウイン されて ゆく とき の ココロモチ、 サイシ に ひきわたされた とき の トウワク と メンボクナサ。 その ミ に なったら どんな もの だろう。 ワタクシ は サンヤ の ウラマチ で オンナ の フルギ を かった カエリミチ、 ジュンサ に つかまり、 ミチバタ の コウバン で きびしく ミモト を しらべられた。 この ケイケン は タネダ の シンリ を ビョウシャ する には もっとも ツゴウ の よい シリョウ で ある。
 ショウセツ を つくる とき、 ワタクシ の もっとも キョウ を もよおす の は、 サクチュウ ジンブツ の セイカツ および ジケン が カイテン する バショ の センタク と、 その ビョウシャ と で ある。 ワタクシ は しばしば ジンブツ の セイカク より も ハイケイ の ビョウシャ に オモキ を おきすぎる よう な アヤマチ に おちいった こと も あった。
 ワタクシ は トウキョウ シチュウ、 コライ メイショウ の チ に して、 シンサイ の ノチ あたらしき マチ が たてられて まったく キュウカン を うしなった、 その ジョウキョウ を ビョウシャ したい が ため に、 タネダ センセイ の センプク する バショ を、 ホンジョ か フカガワ か、 もしくは アサクサ の ハズレ。 さなくば、 それ に せっした キュウ グンブ の ロウコウ に もって ゆく こと に した。
 これまで オリオリ の サンサク に、 スナマチ や カメイド や、 コマツガワ、 テラジママチ アタリ の ケイキョウ には タイリャク つうじて いる つもり で あった が、 いざ フデ を つけよう と する と、 にわか に カンサツ の いたらない キ が して くる。 かつて、 (メイジ 35~36 ネン の コロ) ワタクシ は フカガワ スサキ ユウカク の ショウギ を シュダイ に して ショウセツ を つくった こと が ある が、 その とき これ を よんだ ユウジン から、 「スサキ ユウカク の セイカツ を ビョウシャ する の に、 8~9 ガツ-ゴロ の ボウフウウ や ツナミ の こと を うつさない の は ズサン の はなはだしい もの だ。 サクシャ センセイ の おかよい なすった キノエネ-ロウ の トケイダイ が ふきたおされた の も 1 ド や 2 ド の こと では なかろう」 と いわれた。 ハイケイ の ビョウシャ を セイサイ に する には キセツ と テンコウ と にも チュウイ しなければ ならない。 たとえば ラフカジオ ハーン センセイ の メイチョ チタ あるいは ユーマ の ごとく に。
 6 ガツ スエ の ある ユウガタ で ある。 ツユ は まだ あけて は いない が、 アサ から よく はれた ソラ は、 ヒ の ながい コロ の こと で、 ユウメシ を すまして も、 まだ たそがれよう とも しない。 ワタクシ は ハシ を おく と ともに すぐさま モン を いで、 とおく センジュ なり カメイド なり、 アシ の むく ほう へ いって みる つもり で、 ひとまず デンシャ で カミナリモン まで ゆく と、 ちょうど おりよく きあわせた の は テラジマ タマノイ と して ある ノリアイ ジドウシャ で ある。
 アズマバシ を わたり、 ひろい ミチ を ヒダリ に おれて ゲンモリバシ を わたり、 マッスグ に アキバ ジンジャ の マエ を すぎて、 また しばらく ゆく と クルマ は センロ の フミキリ で とまった。 フミキリ の リョウガワ には サク を マエ に して エンタク や ジテンシャ が イクリョウ と なく、 カモツ レッシャ の ゆるゆる とおりすぎる の を まって いた が、 あるく ヒト は あんがい すくなく、 ヒンカ の コドモ が イククミ と なく ムレ を なして あそんで いる。 おりて みる と、 シラヒゲバシ から カメイド の ほう へ はしる ひろい ミチ が ジュウモンジ に コウサク して いる。 ところどころ クサ の はえた アキチ が ある の と、 ヤナミ が ひくい の と で、 どの ミチ も ミワケ の つかぬ ほど おなじ よう に みえ、 ユクサキ は どこ へ つづく の やら、 なんとなく ものさびしい キ が する。
 ワタクシ は タネダ センセイ が カゾク を すてて ヨ を しのぶ ところ を、 この ヘン の ウラマチ に して おいたら、 タマノイ の サカリバ も ほどちかい ので、 ケツマツ の シュコウ を つける にも ツゴウ が よかろう と かんがえ、 1 チョウ ほど あるいて せまい ヨコミチ へ まがって みた。 ジテンシャ も コワキ に ニモツ を つけた もの は、 すれちがう こと が できない くらい な せまい ミチ で、 5~6 ポ ゆく ごと に まがって いる が、 リョウガワ とも わりあい に こぎれい な クグリモン の ある シャクヤ が ならんで いて、 ツトメサキ から の カエリ とも みえる ヨウフク の オトコ や オンナ が ヒトリ フタリ ずつ ゼンゴ して あるいて ゆく。 あそんで いる イヌ を みて も クビワ に カンサツ が つけて あって、 さほど きたならしく も ない。 たちまち に して トウブ テツドウ タマノイ テイシャジョウ の ヨコテ に でた。
 センロ の サユウ に ジュモク の うつぜん と おいしげった コウダイ な ベッソウ らしい もの が ある。 アズマバシ から ここ に くる まで、 このよう に ロウジュ の モリン を なした ところ は 1 カショ も ない。 いずれ も ひさしく テイレ を しない と みえて、 はいのぼる ツルクサ の オモサ に、 タケヤブ の タケ の ひくく しなって いる サマ や、 ドブギワ の イケガキ に ユウガオ の さいた の が、 いかにも フウガ に おもわれて ワタクシ の アユミ を ひきとどめた。
 ムカシ シラヒゲサマ の アタリ が テラジマ ムラ だ と いう ハナシ を きく と、 ワレワレ は すぐに 5 ダイメ キクゴロウ の ベッソウ を おもいだした もの で ある が、 コンニチ たまたま この ところ に このよう な テイエン が のこった の を メ に する と、 そぞろ に すぎさった ジダイ の ブンガ を おもいおこさず には いられない。
 センロ に そうて ウリカシチ の フダ を たてた ひろい クサバラ が テッキョウ の かかった ドテギワ に たっして いる。 キョネン-ゴロ まで ケイセイ デンシャ の オウフク して いた センロ の アト で、 くずれかかった イシダン の ウエ には とりはらわれた タマノイ テイシャジョウ の アト が ザッソウ に おおわれて、 こなた から みる と シロアト の よう な オモムキ を なして いる。
 ワタクシ は ナツクサ を わけて ドテ に のぼって みた。 メノシタ には さえぎる もの も なく、 イマ あるいて きた ミチ と アキチ と シンカイ の マチ と が ひくく みわたされる が、 ドテ の ムコウガワ は、 トタンブキ の ロウオク が チツジョ も なく、 ハテシ も なく、 ごたごた に たてこんだ アイダ から ユヤ の エントツ が キツリツ して、 その イタダキ に ナナ、 ヨウカ-ゴロ の ユウヅキ が かかって いる。 ソラ の イッポウ には ユウバエ の イロ が うすく のこって いながら、 ツキ の イロ には はやくも ヨル-らしい カガヤキ が でき、 トタンブキ の ヤネ の アイダアイダ から は ネオン サイン の ヒカリ と ともに ラディオ の ヒビキ が きこえはじめる。
 ワタクシ は アシモト の くらく なる まで イシ の ウエ に コシ を かけて いた が、 ドテシタ の マドマド にも ヒ が ついて、 むさくるしい 2 カイ の ナカ が すっかり みおろされる よう に なった ので、 クサ の アイダ に のこった ヒト の アシアト を たどって ドテ を おりた。 すると イガイ にも、 そこ は もう タマノイ の サカリバ を ナナメ に つらぬく ハンカ な ヨコチョウ の ナカホド で、 ごたごた たてつらなった ショウテン の アイダ の ロジグチ には 「ぬけられます」 とか、 「アンゼン ツウロ」 とか、 「ケイセイ バス チカミチ」 とか、 あるいは 「オトメ-ガイ」 あるいは 「ニギワイ ホンドオリ」 など かいた ヒ が ついて いる。
 だいぶ その ヘン を あるいた ノチ、 ワタクシ は ユウビンバコ の たって いる ロジグチ の タバコヤ で、 タバコ を かい、 5 エン サツ の ツリ を まって いた とき で ある。 とつぜん、 「ふって くる よ」 と さけびながら、 しろい ウワッパリ を きた オトコ が ムコウガワ の オデンヤ らしい ノレン の カゲ に かけこむ の を みた。 つづいて カッポウギ の オンナ や トオリガカリ の ヒト が ばたばた かけだす。 アタリ が にわか に ものけだつ か と みる マ も なく、 ふきおちる シップウ に ヨシズ や ナニ か の たおれる オト が して、 カミクズ と ゴミ と が モノノケ の よう に ミチ の ウエ を はしって ゆく。 やがて イナズマ が するどく ひらめき、 ゆるやか な ライ の ヒビキ に つれて、 ぽつり ぽつり と おおきな アメ の ツブ が おちて きた。 あれほど よく はれて いた ユウガタ の テンキ は、 いつのまにか かわって しまった の で ある。
 ワタクシ は タネン の シュウカン で、 カサ も もたず に モン を でる こと は めった に ない。 いくら はれて いて も ニュウバイチュウ の こと なので、 その ヒ も むろん カサ と フロシキ と だけ は テ に して いた から、 さして おどろき も せず、 しずか に ひろげる カサ の シタ から ソラ と マチ の サマ と を みながら あるきかける と、 いきなり ウシロ から、 「ダンナ、 そこ まで いれてって よ」 と いいさま、 カサ の シタ に マッシロ な クビ を つっこんだ オンナ が ある。 アブラ の ニオイ で ゆった ばかり と しられる おおきな ツブシ には ナガメ に きった ギンシ を かけて いる。 ワタクシ は イマガタ トオリガカリ に ガラスド を あけはなした オンナ カミユイ の ミセ の あった こと を おもいだした。
 ふきあれる カゼ と アメ と に、 ユイタテ の マゲ に かけた ギンシ の みだれる の が、 いたいたしく みえた ので、 ワタクシ は カサ を さしだして、 「オレ は ヨウフク だ から かまわない」
 じつは ミセツヅキ の あかるい トウカ に、 さすが の ワタクシ も アイアイガサ には すこしく キョウシュク した の で ある。
「じゃ、 よくって。 すぐ、 そこ」 と オンナ は カサ の エ に つかまり、 カタテ に ユカタ の スソ を おもうさま まくりあげた。

 3

 イナズマ が また ぴかり と ひらめき、 カミナリ が ごろごろ と なる と、 オンナ は わざとらしく 「あら」 と さけび、 ヒトアシ おくれて あるこう と する ワタクシ の テ を とり、 「はやく さ。 アナタ」 と もう なれなれしい チョウシ で ある。
「いい から サキ へ おいで。 ついて ゆく から」
 ロジ へ はいる と、 オンナ は まがる たび ごと に、 まよわぬ よう に ワタクシ の ほう に ふりかえりながら、 やがて ドブ に かかった コバシ を わたり、 ノキナミ イッタイ に ヨシズ の ヒオイ を かけた イエ の マエ に たちどまった。
「あら、 アナタ。 タイヘン に ぬれちまった わ」 と カサ を つぼめ、 ジブン の もの より も サキ に テノヒラ で ワタクシ の ウワギ の シズク を はらう。
「ここ が オマエ の ウチ か」
「ふいて あげる から、 よって いらっしゃい」
「ヨウフク だ から いい よ」
「ふいて あげる って いう のに さ。 ワタシ だって オレイ が したい わよ」
「どんな オレイ だ」
「だから、 まあ おはいんなさい」
 カミナリ の オト は すこし とおく なった が、 アメ は かえって ツブテ を うつ よう に いっそう はげしく ふりそそいで きた。 ノキサキ に かけた ヒオイ の シタ に いて も はねあがる シブキ の ハゲシサ に、 ワタクシ は とやかく いう イトマ も なく ウチ へ はいった。
 あらい オオサカ-ゴウシ を たてた ナカジキリ へ、 スズ の ついた リボン の スダレ が さげて ある。 その シタ の アガリガマチ に コシ を かけて クツ を ぬぐ うち に オンナ は ゾウキン で アシ を ふき、 はしょった スソ も おろさず シタザシキ の デントウ を ひねり、
「ダレ も いない から、 おあがんなさい」
「オマエ ヒトリ か」
「ええ。 ユウベ まで、 もう ヒトリ いた のよ。 スミカエ に いった のよ」
「オマエサン が ゴシュジン かい」
「いいえ。 ゴシュジン は ベツ の ウチ よ。 タマノイ-カン って いう ヨセ が ある でしょう。 その ウラ に スマイ が ある のよ。 マイバン 12 ジ に なる と チョウメン を み に くる わ」
「じゃあ ノンキ だね」 ワタクシ は すすめられる が まま ナガヒバチ の ソバ に すわり、 タテヒザ して チャ を いれる オンナ の ヨウス を みやった。
 トシ は 24~25 には なって いる で あろう。 なかなか いい キリョウ で ある。 ハナスジ の とおった マルガオ は オシロイヤケ が して いる が、 ユイタテ の シマダ の ハエギワ も まだ ぬけあがって は いない。 クロメガチ の メ の ナカ も くもって いず クチビル や ハグキ の ケッショク を みて も、 その ケンコウ は まだ さして ハカイ されて も いない よう に おもわれた。
「この ヘン は イド か スイドウ か」 と ワタクシ は チャ を のむ マエ に なにげなく たずねた。 イド の ミズ だ と こたえたら、 チャ は のむ フリ を して おく ヨウイ で ある。
 ワタクシ は カリュウビョウ より も むしろ チブス の よう な デンセンビョウ を おそれて いる。 ニクタイテキ より も はやく から セイシンテキ ハイジン に なった ワタクシ の ミ には、 カリュウビョウ の ごとき ビョウセイ の カンマン な もの は、 ロウゴ の コンニチ、 さして キ には ならない。
「カオ でも あらう の。 スイドウ なら そこ に ある わ」 と オンナ の チョウシ は きわめて キガル で ある。
「うむ。 アト で いい」
「ウワギ だけ おぬぎなさい。 ホント に ずいぶん ぬれた わね」
「ひどく ふってる な」
「ワタシ カミナリサマ より ひかる の が いや なの。 これ じゃ オユ にも ゆけ や しない。 アナタ。 まだ いい でしょう。 ワタシ カオ だけ あらって オシマイ して しまう から」
 オンナ は クチ を ゆがめて、 フトコロガミ で ハエギワ の アブラ を ふきながら、 ナカジキリ の ソト の カベ に とりつけた センメンキ の マエ に たった。 リボン の スダレゴシ に、 モロハダ を ぬぎ、 おりかがんで カオ を あらう スガタ が みえる。 ハダ は カオ より も ずっと イロ が しろく、 チブサ の カタチ で、 まだ コドモ を もった こと は ない らしい。
「なんだか ダンナ に なった よう だな。 こうして いる と。 タンス は ある し、 チャダナ は ある し……」
「あけて ごらんなさい。 オイモ か ナニ か ある はず よ」
「よく かたづいて いる な。 カンシン だ。 ヒバチ の ナカ なんぞ」
「マイアサ、 ソウジ だけ は ちゃんと します もの。 ワタシ、 こんな ところ に いる けれど、 ショタイモチ は ジョウズ なの よ」
「ながく いる の かい」
「まだ 1 ネン と、 ちょっと……」
「この トチ が はじめて じゃ ない ん だろう。 ゲイシャ でも して いた の かい」
 くみかえる ミズ の オト に、 ワタクシ の いう こと が きこえなかった の か、 または きこえない フリ を した の か、 オンナ は なんとも こたえず、 ハダヌギ の まま、 キョウダイ の マエ に すわり ケスキ で ビン を あげ、 カタ の ほう から オシロイ を つけはじめる。
「どこ に でて いた ん だ。 これ ばかり は かくせる もの じゃ ない」
「そう…… でも トウキョウ じゃ ない わ」
「トウキョウ の イマワリ か」
「いいえ。 ずっと トオク……」
「じゃ、 マンシュウ……」
「ウツノミヤ に いた の。 キモノ も みんな その ジブン の よ。 これ で タクサン だ わねえ」 と いいながら たちあがって、 エモンダケ に かけた スソモヨウ の ヒトエ に きかえ、 あかい ベンケイジマ の ダテジメ を おおきく マエ で むすぶ ヨウス は、 すこし おおきすぎる ツブシ の ギンシ と つりあって、 ワタクシ の メ には どうやら メイジ ネンカン の ショウギ の よう に みえた。 オンナ は エモン を なおしながら ワタクシ の ソバ に すわり、 チャブダイ の ウエ から バット を とり、
「エンギ だ から ゴシュウギ だけ つけて ください ね」 と ヒ を つけた 1 ポン を さしだす。
 ワタクシ は この トチ の アソビカタ を まんざら しらない の でも なかった ので、
「50 セン だね。 オブダイ は」
「ええ。 それ は オキマリ の ゴキソク-どおり だわ」 と わらいながら だした テノヒラ を ひっこまさず、 そのまま さしのばして いる。
「じゃ、 1 ジカン と きめよう」
「すみません ね。 ホントウ に」
「そのかわり」 と さしだした テ を とって ひきよせ、 ミミモト に ささやく と、
「しらない わよ」 と オンナ は メ を みはって にらみかえし、 「バカ」 と いいさま ワタクシ の カタ を うった。

 タメナガ シュンスイ の ショウセツ を よんだ ヒト は、 サクシャ が ジョジ の トコロドコロ に ジカ ベンゴ の ブン を さしはさんで いる こと を しって いる で あろう。 ハツコイ の ムスメ が ハズカシサ を わすれて おもう オトコ に よりそう よう な ジョウケイ を かいた とき には、 その アト で、 ドクシャ は この ムスメ が この バアイ の ヨウス や コトバヅカイ のみ を みて、 イタズラモノ だ と ダンテイ して は ならない。 シンソウ の ジョ も イチュウ を うちあける バアイ には ゲイシャ も およばぬ なまめかしい ヨウス に なる こと が ある。 また、 すでに さとなれた ユウジョ が ぐうぜん オサナナジミ の オトコ に めぐりあう ところ を うつした とき には、 クロト でも こういう とき には ムスメ の よう に もじもじ する もの で、 これ は この ミチ の ケイケン に とんだ ヒトタチ の ミナ ショウチ して いる ところ で、 サクシャ の カンサツ の いたらない わけ では ない の だ から、 その つもり で およみなさい と いう よう な こと が かきそえられて いる。
 ワタクシ は シュンスイ に ならって、 ここ に ジョウゴ を くわえる。 ドクシャ は はじめて ロボウ で あった この オンナ が、 ワタクシ を ぐうする タイド の なれなれしすぎる の を あやしむ かも しれない。 しかし これ は ジッチ の ソウグウ を ジュンショク せず に、 そのまま キジュツ した の に すぎない。 なんの サクイ も ない の で ある。 シュウウ ライメイ から ジケン の おこった の を みて、 これ また サクシャ ジョウトウ の ヒッポウ だ と わらう ヒト も ある だろう が、 ワタクシ は これ を おもんぱかる が ため に、 わざわざ コト を タ に もうける こと を ほっしない。 ユウダチ が テビキ を した この ヨ の デキゴト が、 まったく デントウテキ に、 オアツライドオリ で あった の を、 ワタクシ は かえって おもしろく おもい、 じつは それ が かいて みたい ため に、 この イッペン に フデ に とりはじめた わけ で ある。
 いったい、 この サカリバ の オンナ は 700~800 ニン と かぞえられて いる そう で ある が、 その ナカ に、 シマダ や マルマゲ に ゆって いる モノ は、 10 ニン に ヒトリ くらい。 ダイタイ は ジョキュウ マガイ の ニホンフウ と、 ダンサー-ゴノミ の ヨウソウ と で ある。 アマヤドリ を した イエ の オンナ が ごく ショウスウ の キュウフウ に ぞくして いた こと も、 どうやら チンプ の ヒッポウ に テキトウ して いる よう な ココロモチ が して、 ワタクシ は ジジツ の ビョウシャ を きずつける に しのびなかった。
 アメ は やまない。
 はじめ ウチ へ あがった とき には、 すこし コエ を たかく しなければ ハナシ が ききとれない ほど の フリカタ で あった が、 イマ では トグチ へ ふきつける カゼ の オト も カミナリ の ヒビキ も やんで、 トタンブキ の ヤネ を うつ アメ の オト と、 アマダレ の おちる コエ ばかり に なって いる。 ロジ には ひさしく ヒト の コエ も アシオト も とだえて いた が、 とつぜん、
「あらあら タイヘン だ。 キイ ちゃん。 ドジョウ が およいでる よ」 と いう きいろい コエ に つれて ゲタ の オト が しだした。
 オンナ は つと たって リボン の アイダ から ドマ の ほう を のぞき、 「ウチ は だいじょうぶ だ。 ドブ が あふれる と、 こっち まで ミズ が ながれて くる ん です よ」
「すこし は コブリ に なった よう だな」
「ヨイ の クチ に ふる と オテンキ に なって も ダメ なの よ。 だから、 ゆっくり して いらっしゃい。 ワタシ、 イマ の うち に ゴハン たべて しまう から」
 オンナ は チャダナ の ナカ から タクアンヅケ を ヤマモリ に した コザラ と、 チャヅケ-ヂャワン と、 それから アルミ の コナベ を だして、 ちょっと フタ を あけて ニオイ を かぎ、 ナガヒバチ の ウエ に のせる の を、 ナニ か と みれば サツマイモ の にた の で ある。
「わすれて いた。 いい もの が ある」 と ワタクシ は キョウバシ で ノリカエ の デンシャ を まって いた とき、 アサクサノリ を かった こと を おもいだして、 それ を だした。
「オクサン の オミヤゲ」
「オレ は ヒトリ なん だよ。 たべる もの は ジブン で かわなけりゃ」
「アパート で カノジョ と ゴイッショ。 ほほほほほ」
「それなら、 イマジブン うろついちゃあ いられない。 アメ でも カミナリ でも、 かまわず かえる さ」
「そう ねえ」 と オンナ は いかにも もっとも だ と いう よう な カオ を して あたたかく なりかけた オナベ の フタ を とり、 「イッショ に どう」
「もう たべて きた」
「じゃあ。 アナタ は ムコウ を むいて いらっしゃい」
「ゴハン は ジブン で たく の かい」
「スマイ の ほう から、 オヒル と ヨル の 12 ジ に もって きて くれる のよ」
「オチャ を いれなおそう かね。 オユ が ぬるい」
「あら。 はばかりさま。 ねえ。 アナタ。 ハナシ を しながら ゴハン を たべる の は タノシミ な もの ね」
「ヒトリ っきり の、 スッポリメシ は いや だな」
「まったく よ。 じゃあ、 ホント に オヒトリ。 かわいそう ねえ」
「さっして おくれ だろう」
「いい の、 さがして あげる わ」
 オンナ は チャヅケ を 2 ハイ ばかり。 なにやら はしゃいだ チョウシ で、 ちゃらちゃら と チャワン の ナカ で ハシ を ゆすぎ、 さも いそがしそう に サラコバチ を てばやく チャダナ に しまいながら も、 オトガイ を うごかして こみあげる タクアンヅケ の オクビ を おさえつけて いる。
 ソト には ヒト の アシオト と ともに 「ちょいと ちょいと」 と よぶ コエ が きこえだした。
「やんだ よう だ。 また ちかい うち に でて こよう」
「きっと いらっしゃい ね。 ヒルマ でも います」
 オンナ は ワタクシ が ウワギ を きかける の を みて、 ウシロ へ まわり エリ を おりかえしながら カタゴシ に ホオ を すりつけて、 「きっと よ」
「なんて いう ウチ だ。 ここ は」
「イマ、 メイシ あげる わ」
 クツ を はいて いる アイダ に、 オンナ は コマド の シタ に おいた もの の ナカ から シャミセン の バチ の カタチ に きった メイシ を だして くれた。 みる と テラジママチ 7 チョウメ 61 バンチ (2 ブ) アンドウ マサ-カタ ユキコ。
「さよなら」
「マッスグ に おかえんなさい」

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ボクトウ キタン 2 | トップ | ハル は バシャ に のって »

コメントを投稿

ナガイ カフウ 」カテゴリの最新記事