カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

サクラ の モリ の マンカイ の シタ 2

2016-02-04 | サカグチ アンゴ
     *

 オトコ と オンナ と ビッコ の オンナ は ミヤコ に すみはじめました。
 オトコ は ヨゴト に オンナ の めいじる テイタク へ しのびいりました。 キモノ や ホウセキ や ソウシング も もちだしました が、 それ のみ が オンナ の ココロ を みたす もの では ありません でした。 オンナ の ナニ より ほしがる もの は、 その イエ に すむ ヒト の クビ でした。
 カレラ の イエ には すでに ナンジュウ の テイタク の クビ が あつめられて いました。 ヘヤ の シホウ の ツイタテ に しきられて クビ は ならべられ、 ある クビ は つるされ、 オトコ には クビ の カズ が おおすぎて どれ が どれ やら わからなく とも、 オンナ は いちいち おぼえて おり、 すでに ケ が ぬけ、 ニク が くさり、 ハッコツ に なって も、 どこ の タレ と いう こと を おぼえて いました。 オトコ や ビッコ の オンナ が クビ の バショ を かえる と おこり、 ここ は どこ の カゾク、 ここ は ダレ の カゾク と やかましく いいました。
 オンナ は マイニチ クビアソビ を しました。 クビ は ケライ を つれて サンポ に でます。 クビ の カゾク へ ベツ の クビ の カゾク が あそび に きます。 クビ が コイ を します。 オンナ の クビ が オトコ の クビ を ふり、 また、 オトコ の クビ が オンナ の クビ を すてて オンナ の クビ を なかせる こと も ありました。
 ヒメギミ の クビ は ダイナゴン の クビ に だまされました。 ダイナゴン の クビ は ツキ の ない ヨル、 ヒメギミ の クビ の こいする ヒト の クビ の フリ を して しのんで いって チギリ を むすびます。 チギリ の ノチ に ヒメギミ の クビ が キ が つきます。 ヒメギミ の クビ は ダイナゴン の クビ を にくむ こと が できず ワガミ の サダメ の カナシサ に ないて、 アマ に なる の でした。 すると ダイナゴン の クビ は アマデラ へ いって、 アマ に なった ヒメギミ の クビ を おかします。 ヒメギミ の クビ は しのう と します が ダイナゴン の ササヤキ に まけて アマデラ を にげて ヤマシナ の サト へ かくれて ダイナゴン の クビ の カコイモノ と なって カミノケ を はやします。 ヒメギミ の クビ も ダイナゴン の クビ も もはや ケ が ぬけ ニク が くさり ウジムシ が わき ホネ が のぞけて いました。 フタリ の クビ は サカモリ を して コイ に たわぶれ、 ハ の ホネ と かみあって かちかち なり、 くさった ニク が ぺちゃぺちゃ くっつきあい ハナ も つぶれ メノタマ も くりぬけて いました。
 ぺちゃぺちゃ と くっつき フタリ の カオ の カタチ が くずれる たび に オンナ は オオヨロコビ で、 けたたましく わらいさざめきました。
「ほれ、 ホッペタ を たべて やりなさい。 ああ おいしい。 ヒメギミ の ノド も たべて やりましょう。 はい、 メノタマ も かじりましょう。 すすって やりましょう ね。 はい、 ぺろぺろ。 あら、 おいしい ね。 もう、 たまらない のよ、 ねえ、 ほら、 うんと かじりついて やれ」
 オンナ は からから わらいます。 きれい な すんだ ワライゴエ です。 うすい トウキ が なる よう な さわやか な コエ でした。
 ボウズ の クビ も ありました。 ボウズ の クビ は オンナ に にくがられて いました。 いつも わるい ヤク を ふられ、 にくまれて、 ナブリゴロシ に されたり、 ヤクニン に ショケイ されたり しました。 ボウズ の クビ は クビ に なって ノチ に かえって ケ が はえ、 やがて その ケ も ぬけて くさりはて、 ハッコツ に なりました。 ハッコツ に なる と、 オンナ は ベツ の ボウズ の クビ を もって くる よう に めいじました。 あたらしい ボウズ の クビ は まだ うらわかい みずみずしい チゴ の ウツクシサ が のこって いました。 オンナ は よろこんで ツクエ に のせ サケ を ふくませ ホオズリ して なめたり くすぐったり しました が、 じき あきました。
「もっと ふとった にくたらしい クビ よ」
 オンナ は めいじました。 オトコ は メンドウ に なって イツツ ほど ぶらさげて きました。 よぼよぼ の ロウソウ の クビ も、 マユ の ふとい ホッペタ の あつい、 カエル が しがみついて いる よう な ハナ の カタチ の カオ も ありました。 ミミ の とがった ウマ の よう な ボウズ の クビ も、 ひどく シンミョウ な クビ の ボウズ も あります。 けれども オンナ の キ に いった の は ヒトツ でした。 それ は 50 ぐらい の オオボウズ の クビ で、 ブオトコ で メジリ が たれ、 ホオ が たるみ、 クチビル が あつくて、 その オモサ で クチ が あいて いる よう な ダラシ の ない クビ でした。 オンナ は たれた メジリ の リョウハシ を リョウテ の ユビ の サキ で おさえて、 くりくり と つりあげて まわしたり、 シシバナ の アナ へ 2 ホン の ボウ を さしこんだり、 サカサ に たてて ころがしたり、 だきしめて ジブン の オチチ を あつい クチビル の アイダ へ おしこんで しゃぶらせたり して オオワライ しました。 けれども じきに あきました。
 うつくしい ムスメ の クビ が ありました。 きよらか な しずか な コウキ な クビ でした。 こどもっぽくて、 そのくせ しんだ カオ です から ミョウ に おとなびた ウレイ が あり、 とじられた マブタ の オク に たのしい オモイ も かなしい オモイ も ませた オモイ も イチド に ごっちゃ に かくされて いる よう でした。 オンナ は その クビ を ジブン の ムスメ か イモウト の よう に かわいがりました。 くろい カミノケ を すいて やり、 カオ に オケショウ して やりました。 ああ でも ない、 こう でも ない と ネン を いれて、 ハナ の カオリ の むらだつ よう な やさしい カオ が うきあがりました。
 ムスメ の クビ の ため に、 ヒトリ の わかい キコウシ の クビ が ヒツヨウ でした。 キコウシ の クビ も ネンイリ に オケショウ され、 フタリ の ワカモノ の クビ は もえくるう よう な コイ の アソビ に ふけります。 すねたり、 おこったり、 にくんだり、 ウソ を ついたり、 だましたり、 かなしい カオ を して みせたり、 けれども フタリ の ジョウネツ が イチド に もえあがる とき は ヒトリ の ヒ が めいめい タ の ヒトリ を やきこがして どっち も やかれて まいあがる カエン と なって もえまじりました。 けれども まもなく ワルザムライ だの イロゴノミ の オトナ だの アクソウ だの きたない クビ が ジャマ に でて、 キコウシ の クビ は けられて うたれた アゲク に ころされて、 ミギ から ヒダリ から マエ から ウシロ から きたない クビ が ごちゃごちゃ ムスメ に いどみかかって、 ムスメ の クビ には きたない クビ の くさった ニク が へばりつき、 キバ の よう な ハ に くいつかれ、 ハナ の サキ が かけたり、 ケ が むしられたり します。 すると オンナ は ムスメ の クビ を ハリ で つついて アナ を あけ、 コガタナ で きったり、 えぐったり、 ダレ の クビ より も きたならしい メ も あてられない クビ に して なげだす の でした。
 オトコ は ミヤコ を きらいました。 ミヤコ の メズラシサ も なれて しまう と、 なじめない キモチ ばかり が のこりました。 カレ も ミヤコ では ヒトナミ に スイカン を きて も スネ を だして あるいて いました。 ハクチュウ は カタナ を さす こと も できません。 イチ へ カイモノ に いかなければ なりません し、 シロクビ の いる イザカヤ で サケ を のんで も カネ を はらわねば なりません。 イチ の ショウニン は カレ を なぶりました。 ヤサイ を つんで うり に くる イナカオンナ も コドモ まで なぶりました。 シロクビ も カレ を わらいました。 ミヤコ では キゾク は ギッシャ で ミチ の マンナカ を とおります。 スイカン を きた ハダシ の ケライ は たいがい フルマイザケ に カオ を あかく して いばりちらして あるいて いきました。 カレ は マヌケ だの バカ だの ノロマ だの と イチ でも ロジョウ でも オテラ の ニワ でも どなられました。 それで もう それ ぐらい の こと には ハラ が たたなく なって いました。
 オトコ は ナニ より も タイクツ に くるしみました。 ニンゲン ども と いう もの は タイクツ な もの だ、 と カレ は つくづく おもいました。 カレ は つまり ニンゲン が うるさい の でした。 おおきな イヌ が あるいて いる と、 ちいさな イヌ が ほえます。 オトコ は ほえられる イヌ の よう な もの でした。 カレ は ひがんだり ねたんだり すねたり かんがえたり する こと が きらい でした。 ヤマ の ケモノ や キ や カワ や トリ は うるさく は なかった がな、 と カレ は おもいました。
「ミヤコ は タイクツ な ところ だなあ」 と カレ は ビッコ の オンナ に いいました。 「オマエ は ヤマ へ かえりたい と おもわない か」
「ワタシ は ミヤコ は タイクツ では ない から ね」
 と ビッコ の オンナ は こたえました。 ビッコ の オンナ は イチニチジュウ リョウリ を こしらえ センタク し キンジョ の ヒトタチ と オシャベリ して いました。
「ミヤコ では オシャベリ が できる から タイクツ しない よ。 ワタシ は ヤマ は タイクツ で きらい さ」
「オマエ は オシャベリ が タイクツ で ない の か」
「アタリマエ さ。 ダレ だって しゃべって いれば タイクツ しない もの だよ」
「オレ は しゃべれば しゃべる ほど タイクツ する のに なあ」
「オマエ は しゃべらない から タイクツ なの さ」
「そんな こと が ある もの か。 しゃべる と タイクツ する から しゃべらない の だ」
「でも しゃべって ごらん よ。 きっと タイクツ を わすれる から」
「ナニ を」
「なんでも しゃべりたい こと を さ」
「しゃべりたい こと なんか ある もの か」
 オトコ は いまいましがって アクビ を しました。
 ミヤコ にも ヤマ が ありました。 しかし、 ヤマ の ウエ には テラ が あったり イオリ が あったり、 そして、 そこ には かえって オオク の ヒト の オウライ が ありました。 ヤマ から ミヤコ が ヒトメ に みえます。 なんと いう タクサン の イエ だろう。 そして、 なんと いう きたない ナガメ だろう、 と おもいました。
 カレ は マイバン ヒト を ころして いる こと を ヒル は ほとんど わすれて いました。 なぜなら カレ は ヒト を ころす こと にも タイクツ して いる から でした。 なにも キョウミ は ありません。 カタナ で たたく と クビ が ぽろり と おちて いる だけ でした。 クビ は やわらかい もの でした。 ホネ の テゴタエ は まったく かんじる こと が ない もの で、 ダイコン を きる の と おなじ よう な もの でした。 その クビ の オモサ の ほう が カレ には よほど イガイ でした。
 カレ には オンナ の キモチ が わかる よう な キ が しました。 カネツキドウ では ヒトリ の ボウズ が ヤケ に なって カネ を ついて います。 なんと いう ばかげた こと を やる の だろう と カレ は おもいました。 ナニ を やりだす か わかりません。 こういう ヤツラ と カオ を みあって くらす と したら、 オレ でも ヤツラ を クビ に して イッショ に くらす こと を えらぶ だろう さ、 と おもう の でした。
 けれども カレ は オンナ の ヨクボウ に キリ が ない ので、 その こと にも タイクツ して いた の でした。 オンナ の ヨクボウ は、 いわば つねに キリ も なく ソラ を チョクセン に とびつづけて いる トリ の よう な もの でした。 やすむ ヒマ なく つねに チョクセン に とびつづけて いる の です。 その トリ は つかれません。 つねに ソウカイ に カゼ を きり、 すいすい と こきみよく ムゲン に とびつづけて いる の でした。
 けれども カレ は タダ の トリ でした。 エダ から エダ を とびまわり、 たまに タニ を わたる ぐらい が せいぜい で、 エダ に とまって ウタタネ して いる フクロウ にも にて いました。 カレ は ビンショウ でした。 ゼンシン が よく うごき、 よく あるき、 ドウサ は いきいき して いました。 カレ の ココロ は しかし シリ の おもたい トリ なの でした。 カレ は ムゲン に チョクセン に とぶ こと など は おもい も よらない の です。
 オトコ は ヤマ の ウエ から ミヤコ の ソラ を ながめて います。 その ソラ を 1 ワ の トリ が チョクセン に とんで いきます。 ソラ は ヒル から ヨル に なり、 ヨル から ヒル に なり、 ムゲン の メイアン が くりかえし つづきます。 その ハテ に なにも なく いつまで たって も ただ ムゲン の メイアン が ある だけ、 オトコ は ムゲン を ジジツ に おいて ナットク する こと が できません。 その サキ の ヒ、 その サキ の ヒ、 その また サキ の ヒ、 メイアン の ムゲン の クリカエシ を かんがえます。 カレ の アタマ は われそう に なりました。 それ は カンガエ の ツカレ で なし に、 カンガエ の クルシサ の ため でした。
 イエ へ かえる と、 オンナ は イツモ の よう に クビアソビ に ふけって いました。 カレ の スガタ を みる と、 オンナ は まちかまえて いた の でした。
「コンヤ は シラビョウシ の クビ を もって きて おくれ。 とびきり うつくしい シラビョウシ の クビ だよ。 マイ を まわせる の だ から。 ワタシ が イマヨウ を うたって きかせて あげる よ」
 オトコ は さっき ヤマ の ウエ から みつめて いた ムゲン の メイアン を おもいだそう と しました。 この ヘヤ が あの いつまでも ハテ の ない ムゲン の メイアン の クリカエシ の ソラ の はず です が、 それ は もう おもいだす こと が できません。 そして オンナ は トリ では なし に、 やっぱり うつくしい イツモ の オンナ で ありました。 けれども カレ は こたえました。
「オレ は いや だよ」
 オンナ は びっくり しました。 その アゲク に わらいだしました。
「おやおや。 オマエ も オクビョウカゼ に ふかれた の。 オマエ も タダ の ヨワムシ ね」
「そんな ヨワムシ じゃ ない の だ」
「じゃ、 ナニ さ」
「キリ が ない から いや に なった のさ」
「あら、 おかしい ね。 なんでも キリ が ない もの よ。 マイニチ マイニチ ゴハン を たべて、 キリ が ない じゃ ない か。 マイニチ マイニチ ねむって、 キリ が ない じゃ ない か」
「それ と ちがう の だ」
「どんな ふう に ちがう のよ」
 オトコ は ヘンジ に つまりました。 けれども ちがう と おもいました。 それで いいくるめられる クルシサ を のがれて ソト へ でました。
「シラビョウシ の クビ を もって おいで」
 オンナ の コエ が ウシロ から よびかけました が、 カレ は こたえません でした。
 カレ は なぜ、 どんな ふう に ちがう の だろう と かんがえました が わかりません。 だんだん ヨル に なりました。 カレ は また ヤマ の ウエ へ のぼりました。 もう ソラ も みえなく なって いました。
 カレ は キ が つく と、 ソラ が おちて くる こと を かんがえて いました。 ソラ が おちて きます。 カレ は クビ を しめつけられる よう に くるしんで いました。 それ は オンナ を ころす こと でした。
 ソラ の ムゲン の メイアン を はしりつづける こと は、 オンナ を ころす こと に よって、 とめる こと が できます。 そして、 ソラ は おちて きます。 カレ は ほっと する こと が できます。 しかし、 カレ の シンゾウ には アナ が あいて いる の でした。 カレ の ムネ から トリ の スガタ が とびさり、 かききえて いる の でした。
 あの オンナ が オレ なん だろう か? そして ソラ を ムゲン に チョクセン に とぶ トリ が オレ ジシン だった の だろう か? と カレ は うたぐりました。 オンナ を ころす と、 オレ を ころして しまう の だろう か。 オレ は ナニ を かんがえて いる の だろう?
 なぜ ソラ を おとさねば ならない の だ か、 それ も わからなく なって いました。 あらゆる ソウネン が とらえがたい もの で ありました。 そして ソウネン の ひいた アト に のこる もの は クツウ のみ でした。 ヨ が あけました。 カレ は オンナ の いる イエ へ もどる ユウキ が うしなわれて いました。 そして スウジツ、 サンチュウ を さまよいました。
 ある アサ、 メ が さめる と、 カレ は サクラ の ハナ の シタ に ねて いました。 その サクラ の キ は 1 ポン でした。 サクラ の キ は マンカイ でした。 カレ は おどろいて とびおきました が、 それ は にげだす ため では ありません。 なぜなら、 たった 1 ポン の サクラ の キ でした から。 カレ は スズカ の ヤマ の サクラ の モリ の こと を とつぜん おもいだして いた の でした。 あの ヤマ の サクラ の モリ も ハナザカリ に チガイ ありません。 カレ は ナツカシサ に ワレ を わすれ、 ふかい モノオモイ に しずみました。
 ヤマ へ かえろう。 ヤマ へ かえる の だ。 なぜ この タンジュン な こと を わすれて いた の だろう? そして、 なぜ ソラ を おとす こと など を かんがえふけって いた の だろう? カレ は アクム の さめた オモイ が しました。 すくわれた オモイ が しました。 イマ まで その チカク まで うしなって いた ヤマ の ソウシュン の ニオイ が ミ に せまって つよく つめたく わかる の でした。
 オトコ は イエ へ かえりました。
 オンナ は うれしげ に カレ を むかえました。
「どこ へ いって いた のさ。 ムリ な こと を いって オマエ を くるしめて すまなかった わね。 でも、 オマエ が いなく なって から の ワタシ の サビシサ を さっして おくれ な」
 オンナ が こんな に やさしい こと は イマ まで に ない こと でした。 オトコ の ムネ は いたみました。 もうすこし で カレ の ケツイ は とけて きえて しまいそう です。 けれども カレ は おもいけっしました。
「オレ は ヤマ へ かえる こと に した よ」
「ワタシ を のこして かえ。 そんな むごたらしい こと が どうして オマエ の ココロ に すむ よう に なった の だろう」
 オンナ の メ は イカリ に もえました。 その カオ は うらぎられた クヤシサ で いっぱい でした。
「オマエ は いつから そんな ハクジョウモノ に なった のよ」
「だから さ。 オレ は ミヤコ が きらい なん だ」
「ワタシ と いう モノ が いて も かえ」
「オレ は ミヤコ に すんで いたく ない だけ なん だ」
「でも、 ワタシ が いる じゃ ない か。 オマエ は ワタシ が きらい に なった の かえ。 ワタシ は オマエ の いない ルス は オマエ の こと ばかり かんがえて いた の だよ」
 オンナ の メ に ナミダ の シズク が やどりました。 オンナ の メ に ナミダ の やどった の は はじめて の こと でした。 オンナ の カオ には もはや イカリ は きえて いました。 ツレナサ を うらむ セツナサ のみ が あふれて いました。
「だって オマエ は ミヤコ で なきゃ すむ こと が できない の だろう。 オレ は ヤマ で なきゃ すんで いられない の だ」
「ワタシ は オマエ と イッショ で なきゃ いきて いられない の だよ。 ワタシ の オモイ が オマエ には わからない の かねえ」
「でも オレ は ヤマ で なきゃ すんで いられない の だぜ」
「だから、 オマエ が ヤマ へ かえる なら、 ワタシ も イッショ に ヤマ へ かえる よ。 ワタシ は たとえ 1 ニチ でも オマエ と はなれて いきて いられない の だ もの」
 オンナ の メ は ナミダ に ぬれて いました。 オトコ の ムネ に カオ を おしあてて あつい ナミダ を ながしました。 ナミダ の アツサ は オトコ の ムネ に しみました。
 たしか に、 オンナ は オトコ なし では いきられなく なって いました。 あたらしい クビ は オンナ の イノチ でした。 そして その クビ を オンナ の ため に もたらす モノ は カレ の ホカ には なかった から です。 カレ は オンナ の イチブ でした。 オンナ は それ を はなす わけ に いきません。 オトコ の ノスタルジー が みたされた とき、 ふたたび ミヤコ へ つれもどす カクシン が オンナ には ある の でした。
「でも オマエ は ヤマ で くらせる かえ」
「オマエ と イッショ なら どこ で でも くらす こと が できる よ」
「ヤマ には オマエ の ほしがる よう な クビ が ない の だぜ」
「オマエ と クビ と、 どっち か ヒトツ を えらばなければ ならない なら、 ワタシ は クビ を あきらめる よ」
 ユメ では ない か と オトコ は うたぐりました。 あまり うれしすぎて しんじられない から でした。 ユメ に すら こんな ねがって も ない こと は かんがえる こと が できなかった の でした。
 カレ の ムネ は あらた な キボウ で いっぱい でした。 その オトズレ は トウトツ で ランボウ で、 イマ の サッキ まで の くるしい オモイ が、 もはや とらえがたい かなた へ へだてられて いました。 カレ は こんな に やさしく は なかった キノウ まで の オンナ の こと も わすれました。 イマ と アス が ある だけ でした。
 フタリ は ただちに シュッパツ しました。 ビッコ の オンナ は のこす こと に しました。 そして シュッパツ の とき、 オンナ は ビッコ の オンナ に むかって、 じき かえって くる から まって おいで、 と ひそか に いいのこしました。

     *

 メノマエ に ムカシ の ヤマヤマ の スガタ が あらわれました。 よべば こたえる よう でした。 キュウドウ を とる こと に しました。 その ミチ は もう ふむ ヒト が なく、 ミチ の スガタ は きえうせて、 タダ の ハヤシ、 タダ の ヤマサカ に なって いました。 その ミチ を いく と、 サクラ の モリ の シタ を とおる こと に なる の でした。
「せおって おくれ。 こんな ミチ の ない ヤマサカ は ワタシ は あるく こと が できない よ」
「ああ、 いい とも」
 オトコ は かるがる と オンナ を せおいました。
 オトコ は はじめて オンナ を えた ヒ の こと を おもいだしました。 その ヒ も カレ は オンナ を せおって トウゲ の アチラガワ の ヤマミチ を のぼった の でした。 その ヒ も シアワセ で いっぱい でした が、 キョウ の シアワセ は さらに ゆたか な もの でした。
「はじめて オマエ に あった ヒ も オンブ して もらった わね」
 と、 オンナ も おもいだして、 いいました。
「オレ も それ を おもいだして いた の だぜ」
 オトコ は うれしそう に わらいました。
「ほら、 みえる だろう。 あれ が みんな オレ の ヤマ だ。 タニ も キ も トリ も クモ まで オレ の ヤマ さ。 ヤマ は いい なあ。 はしって みたく なる じゃ ない か。 ミヤコ では そんな こと は なかった から な」
「はじめて の ヒ は オンブ して オマエ を はしらせた もの だった わね」
「ホント だ。 ずいぶん つかれて、 メ が まわった もの さ」
 オトコ は サクラ の モリ の ハナザカリ を わすれて は いません でした。 しかし、 この コウフク な ヒ に、 あの モリ の ハナザカリ の シタ が ナニホド の もの でしょう か。 カレ は おそれて いません でした。
 そして サクラ の モリ が カレ の ガンゼン に あらわれて きました。 まさしく イチメン の マンカイ でした。 カゼ に ふかれた ハナビラ が ぱらぱら と おちて います。 ツチハダ の ウエ は イチメン に ハナビラ が しかれて いました。 この ハナビラ は どこ から おちて きた の だろう? なぜなら、 ハナビラ の ヒトヒラ が おちた とも おもわれぬ マンカイ の ハナ の フサ が みはるかす ズジョウ に ひろがって いる から でした。
 オトコ は マンカイ の ハナ の シタ へ あるきこみました。 アタリ は ひっそり と、 だんだん つめたく なる よう でした。 カレ は ふと オンナ の テ が つめたく なって いる の に キ が つきました。 にわか に フアン に なりました。 トッサ に カレ は わかりました。 オンナ が オニ で ある こと を。 とつぜん どっ と いう つめたい カゼ が ハナ の シタ の シホウ の ハテ から ふきよせて いました。
 オトコ の セナカ に しがみついて いる の は、 ゼンシン が ムラサキイロ の カオ の おおきな ロウバ でした。 その クチ は ミミ まで さけ、 ちぢくれた カミノケ は ミドリ でした。 オトコ は はしりました。 ふりおとそう と しました。 オニ の テ に チカラ が こもり カレ の ノド に くいこみました。 カレ の メ は みえなく なろう と しました。 カレ は ムチュウ でした。 ゼンシン の チカラ を こめて オニ の テ を ゆるめました。 その テ の スキマ から クビ を ぬく と、 セナカ を すべって、 どさり と オニ は おちました。 コンド は カレ が オニ に くみつく バン でした。 オニ の クビ を しめました。 そして カレ が ふと きづいた とき、 カレ は ゼンシン の チカラ を こめて オンナ の クビ を しめつけ、 そして オンナ は すでに いきたえて いました。
 カレ の メ は かすんで いました。 カレ は より おおきく メ を みひらく こと を こころみました が、 それ に よって シカク が もどって きた よう に かんじる こと が できません でした。 なぜなら、 カレ の しめころした の は サッキ と かわらず やはり オンナ で、 おなじ オンナ の シタイ が そこ に ある ばかり だ から で ありました。
 カレ の コキュウ は とまりました。 カレ の チカラ も、 カレ の シネン も、 スベテ が ドウジ に とまりました。 オンナ の シタイ の ウエ には、 すでに イクツ か の サクラ の ハナビラ が おちて きました。 カレ は オンナ を ゆさぶりました。 よびました。 だきました。 トロウ でした。 カレ は わっと なきふしました。 たぶん カレ が この ヤマ に すみついて から、 この ヒ まで、 ないた こと は なかった でしょう。 そして カレ が シゼン に ワレ に かえった とき、 カレ の セ には しろい ハナビラ が つもって いました。
 そこ は サクラ の モリ の ちょうど マンナカ の アタリ でした。 シホウ の ハテ は ハナ に かくれて オク が みえません でした。 ヒゴロ の よう な オソレ や フアン は きえて いました。 ハナ の ハテ から ふきよせる つめたい カゼ も ありません。 ただ ひっそり と、 そして ひそひそ と、 ハナビラ が ちりつづけて いる ばかり でした。 カレ は はじめて サクラ の モリ の マンカイ の シタ に すわって いました。 いつまでも そこ に すわって いる こと が できます。 カレ は もう かえる ところ が ない の です から。
 サクラ の モリ の マンカイ の シタ の ヒミツ は ダレ にも イマ も わかりません。 あるいは 「コドク」 と いう もの で あった かも しれません。 なぜなら、 オトコ は もはや コドク を おそれる ヒツヨウ が なかった の です。 カレ ミズカラ が コドク ジタイ で ありました。
 カレ は はじめて シホウ を みまわしました。 ズジョウ に ハナ が ありました。 その シタ に ひっそり と ムゲン の コクウ が みちて いました。 ひそひそ と ハナ が ふります。 それ だけ の こと です。 ホカ には なんの ヒミツ も ない の でした。
 ほどへて カレ は ただ ヒトツ の なまあたたか な ナニモノ か を かんじました。 そして それ が カレ ジシン の ムネ の カナシミ で ある こと に キ が つきました。 ハナ と コクウ の さえた ツメタサ に つつまれて、 ほのあたたかい フクラミ が、 すこし ずつ わかりかけて くる の でした。
 カレ は オンナ の カオ の ウエ の ハナビラ を とって やろう と しました。 カレ の テ が オンナ の カオ に とどこう と した とき に、 ナニ か かわった こと が おこった よう に おもわれました。 すると、 カレ の テ の シタ には ふりつもった ハナビラ ばかり で、 オンナ の スガタ は かききえて ただ イクツ か の ハナビラ に なって いました。 そして、 その ハナビラ を かきわけよう と した カレ の テ も カレ の カラダ も のばした とき には もはや きえて いました。 アト に ハナビラ と、 つめたい コクウ が はりつめて いる ばかり でした。

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