カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ハクチ 2

2014-05-05 | サカグチ アンゴ
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 その ヒ から ベツ な セイカツ が はじまった。
 けれども それ は ヒトツ の イエ に オンナ の ニクタイ が ふえた と いう こと の ホカ には ベツ でも なければ かわって すら も いなかった。 それ は まるで ウソ の よう な ソラゾラシサ で、 たしか に カレ の シンペン に、 そして カレ の セイシン に、 あらた な メバエ の ただ 1 ポン の ホサキ すら みいだす こと が できない の だ。 その デキゴト の イジョウサ を ともかく リセイテキ に ナットク して いる と いう だけ で、 セイカツ ジタイ に ツクエ の オキバショ が かわった ほど の ヘンカ も おきて は いなかった。 カレ は マイアサ シュッキン し、 その ルスタク の オシイレ の ナカ に ヒトリ の ハクチ が のこされて カレ の カエリ を まって いる。 しかも カレ は ヒトアシ でる と、 もう ハクチ の オンナ の こと など は わすれて おり、 ナニ か そういう デキゴト が もう キオク にも さだか では ない 10 ネン 20 ネン マエ に おこなわれて いた か の よう な とおい キモチ が する だけ だった。
 センソウ と いう やつ が、 フシギ に ケンゼン な ケンボウセイ なの で あった。 まったく センソウ の おどろく べき ハカイリョク や クウカン の ヘンテンセイ と いう やつ は たった 1 ニチ が ナンビャクネン の ヘンカ を おこし、 1 シュウカン マエ の デキゴト が スウネン マエ の デキゴト に おもわれ、 1 ネン マエ の デキゴト など は、 キオク の もっとも ドンゾコ の シタヅミ の ソコ へ へだてられて いた。 イザワ の チカク の ドウロ だの コウジョウ の シイ の タテモノ など が とりこわされ マチ ゼンタイ が ただ まいあがる ホコリ の よう な ソカイ サワギ を やらかした の も つい サキゴロ の こと で あり、 その アト すら も かたづいて いない のに、 それ は もう 1 ネン マエ の サワギ の よう に とおざかり、 マチ の ヨウソウ を イッペン する おおきな ヘンカ が 2 ド-メ に それ を ながめる とき には ただ トウゼン な フウケイ で しか なくなって いた。 その ケンコウ な ケンボウセイ の ザッタ な カケラ の ヒトツ の ナカ に ハクチ の オンナ が やっぱり かすんで いる。 キノウ まで ギョウレツ して いた エキマエ の イザカヤ の ソカイ アト の ボウキレ だの バクダン に ハカイ された ビル の アナ だの マチ の ヤケアト だの、 それら の ザッタ の カケラ の アイダ に はさまれて ハクチ の カオ が ころがって いる だけ だった。
 けれども マイニチ ケイカイ ケイホウ が なる。 ときには クウシュウ ケイホウ も なる。 すると カレ は ヒジョウ に フユカイ な セイシン ジョウタイ に なる の で あった。 それ は カレ の ルスタク の ちかい ところ に クウシュウ が あり、 しらない ヘンカ が げんに おこって いない か と いう ケネン で あった が、 その ケネン の ユイイツ の リユウ は ただ オンナ が とりみだして とびだして、 スベテ が キンリン へ しれわたって いない か と いう フアン なの だった。 しらない ヘンカ の フアン の ため に、 カレ は マイニチ あかるい うち に イエ へ かえる こと が できなかった。 この テイゾク な フアン を コクフク しえぬ ミジメサ に イクタビ むなしく ハンコウ した か、 カレ は せめて シタテヤ に スベテ を うちあけて しまいたい と おもう の だった が、 その ヒレツサ に ゼツボウ して、 なぜなら それ は ヒガイ の もっとも ケイショウ な コクハク を おこなう こと に よって フアン を まぎらす みじめ な シュダン に すぎない ので、 カレ は ジブン の ホンシツ が テイゾク な セケンナミ に すぎない こと を のろいいきどおる のみ だった。
 カレ には わすれえぬ フタツ の ハクチ の カオ が あった。 マチカド を まがる とき だの、 カイシャ の カイダン を のぼる とき だの、 デンシャ の ヒトゴミ を ぬけでる とき だの、 はからざる ズイショ に フタツ の カオ を ふと おもいだし、 その たび に カレ の イッサイ の シネン が こおり、 そして イッシュン の ギャクジョウ が ゼツボウテキ に こおりついて いる の で あった。
 その カオ の ヒトツ は カレ が はじめて ハクチ の ニクタイ に ふれた とき の ハクチ の カオ だ。 そして その デキゴト ジタイ は その ヨクジツ には 1 ネン ムカシ の キオク の かなた へ とおざけられて いる の で あった が、 ただ カオ だけ が きりはなされて おもいだされて くる の で ある。
 その ヒ から ハクチ の オンナ は ただ まちもうけて いる ニクタイ で ある に すぎず、 その ホカ の なんの セイカツ も、 ただ ヒトキレ の カンガエ すら も ない の で あった。 つねに ただ まちもうけて いた。 イザワ の テ が オンナ の カラダ の イチブ に ふれる と いう だけ で、 オンナ の イシキ する ゼンブ の こと は ニクタイ の コウイ で あり、 そして カラダ も、 そして カオ も、 ただ まちもうけて いる のみ で あった。 おどろく べき こと に、 シンヤ、 イザワ の テ が オンナ に ふれる と いう だけ で、 ねむりしれた ニクタイ が ドウイツ の ハンノウ を おこし、 ニクタイ のみ は つねに いき、 ただ まちもうけて いる の で ある。 ねむりながら も! けれども、 めざめて いる オンナ の アタマ に ナニゴト が かんがえられて いる か と いえば、 もともと タダ の クウキョ で あり、 ある もの は ただ タマシイ の コンスイ と、 そして いきて いる ニクタイ のみ では ない か。 めざめた とき も タマシイ は ねむり、 ねむった とき も その ニクタイ は めざめて いる。 ある もの は ただ ムジカク な ニクヨク のみ。 それ は あらゆる ジカン に めざめ、 ムシ の ごとき うまざる ハンノウ の シュンドウ を おこす ニクタイ で ある に すぎない。
 も ヒトツ の カオ、 それ は おりから イザワ の ヤスミ の ヒ で あった が、 ハクチュウ とおからぬ チク に 2 ジカン に わたる バクゲキ が あり、 ボウクウゴウ を もたない イザワ は オンナ と ともに オシイレ に もぐり フトン を タテ に かくれて いた。 バクゲキ は イザワ の イエ から 400~500 メートル はなれた チク へ シュウチュウ した が、 チジク もろとも イエ は ゆれ、 バクゲキ の オト と ドウジ に コキュウ も シネン も チュウゼツ する。 おなじ よう に おちて くる バクダン でも ショウイダン と バクダン では スゴミ に おいて アオダイショウ と マムシ ぐらい の ソウイ が あり、 ショウイダン には がらがら と いう とくべつ ブキミ な オンキョウ が しかけて あって も チジョウ の バクハツオン が ない の だ から オト は ズジョウ で すうと きえうせ、 リュウトウ ダビ とは この こと で、 ダビ どころ か ぜんぜん シッポ が なくなる の だ から、 ケッテイテキ な キョウフカン に かけて いる。 けれども バクダン と いう やつ は、 ラッカオン こそ ちいさく ひくい が、 ざあ と いう アメフリ の オト の よう な ただ 1 ポン の ボウ を ひき、 こいつ が サイゴ に チジク もろとも ひきさく よう な バクハツオン を おこす の だ から、 ただ 1 ポン の ボウ に こもった ジュウジツ した スゴミ と いったら ロンガイ で、 ずど ずど ずど と バクハツ の アシ が ちかづく とき の ゼツボウテキ な キョウフ と きて は ガクメンドオリ に いきた ココロモチ が ない の で ある。 おまけに ヒコウキ の コウド が たかい ので、 ぶんぶん と いう ズジョウ ツウカ の テッキ の オト も しごく かすか に なに くわぬ ふう に ひびいて いて、 それ は まるで ヨソミ を して いる カイブツ に おおきな オノ で なぐりつけられる よう な もの だ。 コウゲキ する アイテ の ヨウス が ふたしか だ から バクオン の ウナリ の ヘン な トオサ が はなはだ フアン で ある ところ へ、 そこ から ざあ と アメフリ の ボウ 1 ポン の ラッカオン が のびて くる。 バクハツ を まつ マ の キョウフ、 まったく こいつ は コトバ も コキュウ も シネン も とまる。 いよいよ コンド は オダブツ だ と いう ゼツボウ が ハッキョウ スンゼン の ツメタサ で いきて ひかって いる だけ だ。
 イザワ の コヤ は さいわい シホウ が アパート だの キチガイ だの シタテヤ など の ニカイヤ で とりかこまれて いた ので、 キンリン の イエ は マドガラス が われ ヤネ の いたんだ イエ も あった が、 カレ の コヤ のみ ガラス に ヒビ すら も はいらなかった。 ただ ブタゴヤ の マエ の ハタケ に チダラケ の ボウクウ ズキン が おちて きた ばかり で あった。 オシイレ の ナカ で、 イザワ の メ だけ が ひかって いた。 カレ は みた。 ハクチ の カオ を。 コクウ を つかむ その ゼツボウ の クモン を。
 ああ ニンゲン には リチ が ある。 いかなる とき にも なお いくらか の ヨクセイ や テイコウ は カゲ を とどめて いる もの だ。 その カゲ ほど の リチ も ヨクセイ も テイコウ も ない と いう こと が、 これほど あさましい もの だ とは! オンナ の カオ と ゼンシン に ただ シ の マド へ ひらかれた キョウフ と クモン が こりついて いた。 クモン は うごき、 クモン は もがき、 そして クモン が イッテキ の ナミダ を おとして いる。 もし イヌ の メ が ナミダ を ながす なら、 イヌ が わらう と ドウヨウ に シュウカイ きわまる もの で あろう。 カゲ すら も リチ の ない ナミダ とは、 これほど も シュウアク な もの だ とは! バクゲキ の サナカ に おいて、 4~5 サイ ないし 6~7 サイ の ヨウジ たち は キミョウ に なかない もの で ある。 カレラ の シンゾウ は ナミ の よう な ドウキ を うち、 カレラ の コトバ は うしなわれ、 イヨウ な メ を おおきく みひらいて いる だけ だ。 ゼンシン に いきて いる の は メ だけ で ある が、 それ は イッケン した ところ、 ただ おおきく みひらかれて いる だけ で、 かならずしも フアン や キョウフ と いう もの の ちょくせつ ゲキテキ な ヒョウジョウ を きざんで いる と いう ほど では ない。 むしろ ホンライ の コドモ より も かえって リチテキ に おもわれる ほど ジョウイ を しずか に ころして いる。 その シュンカン には あらゆる オトナ も それ だけ で、 あるいは むしろ それ イカ で、 なぜなら むしろ ロコツ な フアン や シ への クモン を あらわす から で、 いわば コドモ が オトナ より も リチテキ に すら みえる の だった。
 ハクチ の クモン は コドモ たち の おおきな メ とは にて も につかぬ もの で あった。 それ は ただ ホンノウテキ な シ への キョウフ と シ への クモン が ある だけ で、 それ は ニンゲン の もの では なく、 ムシ の もの で すら も なく、 シュウアク な ヒトツ の ウゴキ が ある のみ だった。 やや にた もの が ある と すれば、 1 スン 5 ブ ほど の イモムシ が 5 シャク の ナガサ に ふくれあがって もがいて いる ウゴキ ぐらい の もの だろう。 そして メ に イッテキ の ナミダ を こぼして いる の で ある。
 コトバ も サケビ も ウメキ も なく、 ヒョウジョウ も なかった。 イザワ の ソンザイ すら も イシキ して は いなかった。 ニンゲン ならば かほど の コドク が ありうる はず は ない。 オトコ と オンナ と ただ フタリ オシイレ に いて、 その イッポウ の ソンザイ を わすれはてる と いう こと が、 ヒト の バアイ に ありう べき はず は ない。 ヒト は ゼッタイ の コドク と いう が、 タ の ソンザイ を ジカク して のみ ゼッタイ の コドク も ありうる ので、 かほど まで モウモクテキ な、 ムジカク な、 ゼッタイ の コドク が ありえよう か。 それ は イモムシ の コドク で あり、 その ゼッタイ の コドク の ソウ の アサマシサ。 ココロ の カゲ の ヘンリン も ない クモン の ソウ の みる に たえぬ シュウアクサ。
 バクゲキ が おわった。 イザワ は オンナ を だきおこした が、 イザワ の ユビ の 1 ポン が ムネ に ふれて も ハンノウ を おこす オンナ が、 その ニクヨク すら うしなって いた。 この ムクロ を だいて ムゲン に ラッカ しつづけて いる、 くらい、 くらい、 ムゲン の ラッカ が ある だけ だった。
 カレ は その ヒ バクゲキ チョクゴ に サンポ に でて、 なぎたおされた ミンカ の アイダ で ふきとばされた オンナ の アシ も、 チョウ の とびだした オンナ の ハラ も、 ねじきれた オンナ の クビ も みた の で あった。
 3 ガツ トオカ の ダイクウシュウ の ヤケアト も まだ ふきあげる ケムリ を くぐって イザワ は アテ も なく あるいて いた。 ニンゲン が ヤキトリ と おなじ よう に あっちこっち に しんで いる。 ヒトカタマリ に しんで いる。 まったく ヤキトリ と おなじ こと だ。 こわく も なければ、 きたなく も ない。 イヌ と ならんで おなじ よう に やかれて いる シタイ も ある が、 それ は まったく イヌジニ で、 しかし そこ には その イヌジニ の ヒツウサ も カンガイ すら も あり は しない。 ニンゲン が イヌ の ごとく に しんで いる の では なく、 イヌ と、 そして、 それ と おなじ よう な ナニモノ か が、 ちょうど ヒトサラ の ヤキトリ の よう に もられ ならべられて いる だけ だった。 イヌ でも なく、 もとより ニンゲン で すら も ない。
 ハクチ の オンナ が やけしんだら―― ツチ から つくられた ニンギョウ が ツチ に かえる だけ では ない か。 もし この マチ に ショウイダン の ふりそぞく ヨル が きたら…… イザワ は それ を かんがえる と、 へんに おちついて しずみかんがえて いる ジブン の スガタ と ジブン の カオ、 ジブン の メ を イシキ せず に いられなかった。 オレ は おちついて いる。 そして、 クウシュウ を まって いる。 よかろう。 カレ は せせらわらう の だった。 オレ は ただ シュウアク な もの が きらい な だけ だ。 そして、 もともと タマシイ の ない ニクタイ が やけて しぬ だけ の こと では ない か。 オレ は オンナ を ころし は しない。 オレ は ヒレツ で、 テイゾク な オトコ だ。 オレ には それ だけ の ドキョウ は ない。 だが、 センソウ が たぶん オンナ を ころす だろう。 その センソウ の レイコク な テ を オンナ の ズジョウ へ むける ため の ちょっと した テガカリ だけ を つかめば いい の だ。 オレ は しらない。 たぶん、 ナニ か、 ある シュンカン が、 それ を シゼン に カイケツ して いる に すぎない だろう。 そして イザワ は クウシュウ を きわめて レイセイ に まちかまえて いた。

     *

 それ は 4 ガツ 15 ニチ で あった。
 その フツカ マエ、 13 ニチ に、 トウキョウ では 2 ド-メ の ヤカン ダイクウシュウ が あり、 イケブクロ だの スガモ だの ヤマノテ ホウメン に ヒガイ が あった が、 たまたま その リサイ ショウメイ が テ に はいった ので、 イザワ は サイタマ へ カイダシ に でかけ、 いくらか の コメ を リュック に せおって かえって きた。 カレ が イエ へ つく と ドウジ に ケイカイ ケイホウ が なりだした。
 ツギ の トウキョウ の クウシュウ が この マチ の アタリ だろう と いう こと は、 ヤケノコリ の チイキ を かんがえれば ダレ にも ソウゾウ の つく こと で、 はやければ アス、 おそく とも 1 カゲツ とは かからない この マチ の ウンメイ の ヒ が ちかづいて いる。 はやければ アス と かんがえた の は、 これまで の クウシュウ の ソクド、 ヘンタイ ヤカン バクゲキ の ジュンビ キカン の カンカク が はやくて アス ぐらい で あった から で、 この ヒ が その ヒ に なろう とは イザワ は ヨソウ して いなかった。 それゆえ カイダシ にも でかけた ので、 カイダシ と いって も モクテキ は ホカ にも あり、 この ノウカ は イザワ の ガクセイ ジダイ に エンコ の あった イエ で あり、 カレ は フタツ の トランク と リュック に つめた ブッピン を あずける こと が むしろ シュヨウ な モクテキ で あった。
 イザワ は つかれきって いた。 リョソウ は ボウクウ フクソウ でも あった から、 リュック を マクラ に そのまま ヘヤ の マンナカ に ひっくりかえって、 カレ は じっさい この さしせまった ジカン に うとうと と ねむって しまった。 ふと メ が さめる と ショホウ の ラジオ が がんがん がなりたてて おり、 ヘンタイ の セントウ は もう イズ ナンタン に せまり、 イズ ナンタン を ツウカ した。 ドウジ に クウシュウ ケイホウ が なりだした。 いよいよ この マチ の サイゴ の ヒ だ、 イザワ は チョッカク した。 ハクチ を オシイレ の ナカ に いれ、 イザワ は タオル を ぶらさげ ハブラシ を くわえて イドバタ へ でかけた が、 イザワ は その スウジツ マエ に ライオン ネリハミガキ を テ に いれ ながい アイダ わすれて いた ネリハミガキ の クチジュウ に しみわたる ソウカイサ を なつかしんで いた ので、 ウンメイ の ヒ を チョッカク する と どういう ワケ だ か ハ を みがき カオ を あらう キ に なった が、 ダイイチ に その ネリハミガキ が とうぜん ある べき バショ から ほんの ちょっと うごいて いた だけ で ながい ジカン (それ は じつに ながい ジカン に おもわれた) みあたらず、 ようやく それ を みつける と コンド は セッケン (この セッケン も ホウコウ の ある ムカシ の ケショウ セッケン) が これ も ちょっと バショ が うごいて いた だけ で ながい ジカン みあたらず、 ああ オレ は あわてて いる な、 おちつけ、 おちつけ、 アタマ を トダナ に ぶつけたり ツクエ に つまずいたり、 その ため に カレ は ザンジ の アイダ イッサイ の ウゴキ と シネン を チュウゼツ させて セイシン トウイツ を はかろう と する が、 カラダ ジタイ が ホンノウテキ に あわてだして すべり うごいて いく の で ある。 ようやく セッケン を みつけだして イドバタ へ でる と シタテヤ フウフ が ハタケ の スミ の ボウクウゴウ へ ニモツ を なげこんで おり、 アヒル に よく にた ヤネウラ の ムスメ が ニモツ を ぶらさげて うろうろ して いた。 イザワ は ともかく ネリハミガキ と セッケン を ダンネン せず に つきとめた シツヨウサ を シュクフク し、 はたして この ヨル の ウンメイ は どう なる の だろう と おもった。 まだ カオ を ふきおわらぬ うち に コウシャホウ が なりはじめ、 アタマ を あげる と、 もう ズジョウ に 10 ナンボン の ショウクウトウ が いりみだれて マウエ を さして さわいで おり、 コウボウ の マンナカ に テッキ が ぽっかり ういて いる。 つづいて 1 キ、 また 1 キ、 ふと メ を カホウ へ おろしたら、 もう エキマエ の ホウガク が ヒ の ウミ に なって いた。
 いよいよ きた。 ジタイ が はっきり する と イザワ は ようやく おちついた。 ボウクウ ズキン を かぶり、 フトン を かぶって ノキサキ に たち 24 キ まで イザワ は かぞえた。 ぽっかり コウボウ の マンナカ に ういて、 みんな ズジョウ を ツウカ して いる。 コウシャホウ の オト だけ が キ が ちがった よう に なりつづけ、 バクゲキ の オト は いっこう に おこらない。 25 キ を かぞえる とき から レイ の がらがら と ガード の ウエ を カモツ レッシャ が かけさる とき の よう な ショウイダン の ラッカオン が なりはじめた が、 イザワ の ズジョウ を とおりこして、 コウホウ の コウジョウ チタイ へ シュウチュウ されて いる らしい。 ノキサキ から は みえない ので ブタゴヤ の マエ まで いって ウシロ を みる と、 コウジョウ チタイ は ヒ の ウミ で、 あきれた こと には、 イマ まで ズジョウ を ツウカ して いた ヒコウキ と セイハンタイ の ホウコウ から も つぎつぎ と テッキ が きて コウホウ イッタイ に バクゲキ を くわえて いる の だ。 すると もう ラジオ は とまり、 ソラ イチメン は あかあか と あつい ケムリ の マク に かくれて、 テッキ の スガタ も ショウクウトウ の コウボウ も まったく シカイ から うしなわれて しまった。 ホッポウ の イッカク を のこして シシュウ は ヒ の ウミ と なり、 その ヒ の ウミ が しだいに ちかづいて いた。
 シタテヤ フウフ は ヨウジン-ぶかい ヒトタチ で、 ツネ から ボウクウゴウ を ニモツ-ヨウ に つくって あり メバリ の ドロ も ヨウイ して おき、 バンジ テジュン-どおり に ボウクウゴウ に ニモツ を つめこみ メバリ を ぬり、 その また ウエ へ ハタケ の ツチ も かけおわって いた。 この ヒ じゃ とても ダメ です ね。 シタテヤ は ムカシ の ヒケシ の ショウゾク で ウデグミ を して ヒノテ を ながめて いた。 けせ ったって、 これ じゃ ムリ だ。 アタシャ もう にげます よ、 ケムリ に まかれて しんで みて も はじまらねえ や。 シタテヤ は リヤカー にも ヒトヤマ の ニモツ を つみこんで おり、 センセイ、 イッショ に ひきあげましょう。 イザワ は その とき、 そうぞうしい ほど フクザツ な キョウフカン に おそわれた。 カレ の カラダ は シタテヤ と イッショ に すべりだしかけて いる の で あった が、 カラダ の ウゴキ を ふりきる よう な ヒトツ の ココロ の テイコウ で スベリ を とめる と、 ココロ の ナカ の イッカク から はりさける よう な ヒメイ の コエ が ドウジ に おこった よう な キ が した。 この イッシュン の チエン の ため に やけて しぬ、 カレ は ほとんど キョウフ の ため に ホウシン した が、 ふたたび ともかく シゼン に よろめきだす よう な カラダ の スベリ を こらえて いた。
「ボク は ね、 ともかく、 もう ちょっと、 のこります よ。 ボク は ね、 シゴト が ある の だ。 ボク は ね、 ともかく ゲイニン だ から、 イノチ の トコトン の ところ で ジブン の スガタ を みつめうる よう な キカイ には、 その トコトン の ところ で サイゴ の トリヒキ を して みる こと を ヨウキュウ されて いる の だ。 ボク は にげたい が、 にげられない の だ。 この キカイ を のがす わけ に いかない の だ。 もう アナタガタ は にげて ください。 はやく、 はやく。 イッシュンカン が スベテ を テオクレ に して しまう」
 はやく、 はやく。 イッシュンカン が スベテ を テオクレ に。 スベテ とは、 それ は イザワ ジシン の イノチ の こと だ。 はやく はやく、 それ は シタテヤ を せきたてる コエ では なくて、 カレ ジシン が イッシュン も はやく にげたい ため の コエ だった。 カレ が この バショ を にげだす ため には、 アタリ の ヒトビト が ミンナ たちさった アト で なければ ならない の だ。 さも なければ、 ハクチ の スガタ を みられて しまう。
 じゃ センセイ、 オダイジ に。 リヤカー を ひっぱりだす と シタテヤ も あわてて いた。 リヤカー は ロジ の カドカド に ぶつかりながら たちさった。 それ が この ロジ の ジュウニン たち の サイゴ に にげさる スガタ で あった。 イワ を あらう ドトウ の ムゲン の オト の よう な、 ヤネ を うつ コウシャホウ の ムスウ の ハヘン の ムゲン の ラッカ の オト の よう な、 キュウシ と コウテイ の なにも ない ざあざあ と いう ブキミ な オト が ムゲン に レンゾク して いる の だ が、 それ が フドウ を ながれて いる ヒナンミン たち の ヒトカタマリ の アシオト なの だ。 コウシャホウ の オト など は もう マ が ぬけて、 アシオト の ナガレ の ナカ に キミョウ な イノチ が こもって いた。 この コウテイ と キュウシ の ない キカイ な オト の ムゲン の ナガレ を ヨ の ナンピト が アシオト と ハンダン しえよう。 テンチ は ただ ムスウ の オンキョウ で いっぱい だった。 テッキ の バクオン、 コウシャホウ、 ラッカオン、 バクハツ の オンキョウ、 アシオト、 ヤネ を うつ ダンペン、 けれども イザワ の シンペン の ナンジュウ メートル か の シュウイ だけ は あかい テンチ の マンナカ で ともかく ちいさな ヤミ を つくり、 ぜんぜん ひっそり して いる の だった。 へんてこ な セイジャク の アツミ と、 キ の ちがいそう な コドク の アツミ が とっぷり シシュウ を つつんで いる。 もう 30 ビョウ、 もう 10 ビョウ だけ まとう。 なぜ、 そして ダレ が メイレイ して いる の だ か、 どうして それ に したがわねば ならない の だ か、 イザワ は キチガイ に なりそう だった。 とつぜん、 もだえ、 なきわめいて モウモクテキ に はしりだしそう だった。
 その とき コマク の ナカ を かきまわす よう な ラッカオン が アタマ の マウエ へ おちて きた。 ムチュウ に ふせる と、 ズジョウ で オンキョウ は とつぜん きえうせ、 ウソ の よう な セイジャク が ふたたび シシュウ に もどって いる。 やれやれ、 おどかしやがる。 イザワ は ゆっくり おきあがって、 ムネ や ヒザ の ツチ を はらった。 カオ を あげる と、 キチガイ の イエ が ヒ を ふいて いる。 ナン だい、 とうとう おちた の か。 カレ は キミョウ に おちついて いた。 キ が つく と、 その サユウ の イエ も、 すぐ メノマエ の アパート も ヒ を ふきだして いる の だ。 イザワ は イエ の ナカ へ とびこんだ。 オシイレ の ト を はねとばして (じっさい それ は はずれて とんで ばたばた と たおれた) ハクチ の オンナ を だく よう に フトン を かぶって はしりでた。 それから 1 プン-カン ぐらい の こと が ぜんぜん ムチュウ で わからなかった。 ロジ の デクチ に ちかづいた とき、 また、 オンキョウ が ズジョウ めがけて おちて きた。 フセ から おきあがる と、 ロジ の デグチ の タバコヤ も ヒ を ふき、 ムカイ の イエ では ブツダン の ナカ から ヒ が ふきだして いる の が みえた。 ロジ を でて ふりかえる と、 シタテヤ も ヒ を ふきはじめ、 どうやら イザワ の コヤ も もえはじめて いる よう だった。
 シシュウ は まったく ヒ の ウミ で フドウ の ウエ には ヒナンミン の スガタ も すくなく、 ヒノコ が とびかい まいくるって いる ばかり、 もう ダメ だ と イザワ は おもった。 ジュウジロ へ くる と、 ここ から タイヘン な コンザツ で、 あらゆる ヒトビト が ただ イッポウ を めざして いる。 その ホウコウ が いちばん ヒノテ が とおい の だ。 そこ は もう ミチ では なくて、 ニンゲン と ニモツ と ヒメイ の かさなりあった ナガレ に すぎず、 おしあい へしあい つきすすみ ふみこえ おしながされ、 ラッカオン が ズジョウ に せまる と、 ナガレ は イチジ に チジョウ に ふして フシギ に ぴったり とまって しまい、 ナンニン か の オトコ だけ が ナガレ の ウエ を ふみつけて かけさる の だ が、 ナガレ の タイハン の ヒトビト は ニモツ と コドモ と オンナ と ロウジン の ツレ が あり、 よびかわし たちどまり もどり つきあたり はねとばされ、 そして ヒノテ は すぐ ミチ の サユウ に せまって いた。
 ちいさな ジュウジロ へ きた。 ナガレ の ゼンブ が ここ でも イッポウ を めざして いる の は やはり そっち が ヒノテ が もっとも とおい から だ が、 その ホウコウ には アキチ も ハタケ も ない こと を イザワ は しって おり、 ツギ の テッキ の ショウイダン が ユクテ を ふさぐ と この ミチ には シ の ウンメイ が ある のみ だった。 イッポウ の ミチ は すでに リョウガワ の イエイエ が もえくるって いる の だ が、 そこ を こす と オガワ が ながれ、 オガワ の ナガレ を スウチョウ のぼる と ムギバタケ へ でられる こと を イザワ は しって いた。 その ミチ を かけぬけて いく ヒトリ の カゲ すら も ない の だ から イザワ の ケツイ も にぶった が、 ふと みる と 150 メートル ぐらい サキ の ほう で モウカ に ミズ を かけて いる たった ヒトリ の オトコ の スガタ が みえる の で あった。 モウカ に ミズ を かける と いって も けっして いさましい スガタ では なく、 ただ バケツ を ぶらさげて いる だけ で、 たまに ミズ を かけて みたり、 ぼんやり たったり あるいて みたり へんに チドン な ウゴキ で、 その オトコ の シンリ の カイシャク に くるしむ よう な マ の ぬけた スガタ なの だった。 ともかく ヒトリ の ニンゲン が ヤケジニ も せず たって いられる の だ から と、 イザワ は おもった。 オレ の ウン を ためす の だ。 ウン。 まさに、 もう のこされた の は、 ヒトツ の ウン、 それ を えらぶ ケツダン が ある だけ だった。 ジュウジロ に ミゾ が あった。 イザワ は ミゾ に フトン を ひたした。
 イザワ は オンナ と カタ を くみ、 フトン を かぶり、 グンシュウ の ナガレ に ケツベツ した。 モウカ の まいくるう ミチ に むかって ヒトアシ あるきかける と、 オンナ は ホンノウテキ に たちどまり、 グンシュウ の ながれる ほう へ ひきもどされる よう に ふらふら と よろめいて いく。
「バカ!」
 オンナ の テ を ちからいっぱい にぎって ひっぱり、 ミチ の ウエ へ よろめいて でる オンナ の カタ を だきすくめて、
「そっち へ いけば しぬ だけ なの だ」 オンナ の カラダ を ジブン の ムネ に だきしめて、 ささやいた。
「しぬ とき は、 こうして、 フタリ イッショ だよ。 おそれるな。 そして、 オレ から はなれるな。 ヒ も バクダン も わすれて、 おい、 オレタチ フタリ の イッショウ の ミチ は な、 いつも この ミチ なの だよ。 この ミチ を ただ まっすぐ みつめて、 オレ の カタ に すがりついて くる が いい。 わかった ね」
 オンナ は ごくん と うなずいた。
 その ウナズキ は チセツ で あった が、 イザワ は カンドウ の ため に くるいそう に なる の で あった。 ああ、 ながい ながい イクタビ か の キョウフ の ジカン、 ヨルヒル の バクゲキ の シタ に おいて、 オンナ が あらわした はじめて の イシ で あり、 ただ イチド の コタエ で あった。 その イジラシサ に イザワ は ギャクジョウ しそう で あった。 イマ こそ ニンゲン を だきしめて おり、 その だきしめて いる ニンゲン に、 ムゲン の ホコリ を もつ の で あった。 フタリ は モウカ を くぐって はしった。 ネップウ の カタマリ の シタ を ぬけでる と、 ミチ の リョウガワ は まだ もえて いる ヒ の ウミ だった が、 すでに ムネ は やけおちた アト で カセイ は おとろえ ネッキ は すくなく なって いた。 そこ にも ミゾ が あふれて いた。 オンナ の アシ から カタ の ウエ まで ミズ を あびせ、 もう イチド フトン を ミズ に ひたして かぶりなおした。 ミチ の ウエ に やけた ニモツ や フトン が とびちり、 ニンゲン が フタリ しんで いた。 40 ぐらい の オンナ と オトコ の よう だった。
 フタリ は ふたたび カタ を くみ、 ヒ の ウミ を はしった。 フタリ は ようやく オガワ の フチ へ でた。 ところが ここ は オガワ の リョウガワ の コウジョウ が モウカ を ふきあげて もえくるって おり、 すすむ こと も しりぞく こと も たちどまる こと も できなく なった が、 ふと みる と オガワ に ハシゴ が かけられて いる ので、 フトン を かぶせて オンナ を おろし、 イザワ は イッキ に とびおりた。 ケツベツ した ニンゲン たち が さんさんごご カワ の ナカ を あるいて いる。 オンナ は ときどき ジハツテキ に カラダ を ミズ に ひたして いる。 イヌ で すら そう せざる を えぬ ジョウキョウ だった が、 ヒトリ の あらた な かわいい オンナ が うまれでた シンセンサ に イザワ は メ を みひらいて ミズ を あびる オンナ の シタイ を むさぼりみた。 オガワ は ホノオ の シタ を ではずれて クラヤミ の シタ を ながれはじめた。 ソラ イチメン の ヒ の イロ で シン の クラヤミ は ありえなかった が、 ふたたび いきて みる こと を えた クラヤミ に、 イザワ は むしろ エタイ の しれない おおきな ツカレ と、 はてしれぬ キョム との ため に ただ ホウシン が ひろがる サマ を みる のみ だった。 その ソコ に ちいさな アンド が ある の だ が、 それ は へんに けちくさい、 ばかげた もの に おもわれた。 なにもかも ばかばかしく なって いた。
 カワ を あがる と、 ムギバタケ が あった。 ムギバタケ は サンポウ オカ に かこまれて、 3 チョウ シホウ ぐらい の ヒロサ が あり、 その マンナカ を コクドウ が オカ を きりひらいて とおって いる。 オカ の ウエ の ジュウタク は もえて おり、 ムギバタケ の フチ の セントウ と コウジョウ と ジイン と ナニ か が もえて おり、 その オノオノ の ヒ の イロ が、 シロ、 アカ、 ダイダイ、 アオ、 ノウタン とりどり みんな ちがって いる の で ある。 にわか に カゼ が ふきだして、 ごうごう と クウキ が なり、 キリ の よう な こまかい スイテキ が イチメン に ふりかかって きた。
 グンシュウ は なお えんえん と コクドウ を ながれて いた。 ムギバタケ に やすんで いる の は スウヒャクニン で、 えんえん たる コクドウ の グンシュウ に くらべれば モノ の カズ では ない の で あった。 ムギバタケ の ツヅキ に ゾウキバヤシ の オカ が あった。 その オカ の ハヤシ の ナカ には ほとんど ヒト が いなかった。 フタリ は コダチ の シタ へ フトン を しいて ねころんだ。 オカ の シタ の ハタケ の フチ に 1 ケン の ノウカ が もえて おり、 ミズ を かけて いる スウニン の ヒト の スガタ が みえる。 その ウラテ に イド が あって ヒトリ の オトコ が ポンプ を がちゃがちゃ やり ミズ を のんで いる の で ある。 それ を めがけて ハタケ の シホウ から たちまち 20 ニン ぐらい の ロウヨウ ナンニョ が かけあつまって きた。 カレラ は ポンプ を がちゃがちゃ やり、 かわるがわる ミズ を のんで いる の で ある。 それから もえおちよう と する イエ の ヒ に テ を かざして、 ぐるり と ならんで ダン を とり、 くずれおちる ヒ の カタマリ に とびのいたり、 ケムリ に カオ を そむけたり、 ハナシ を したり して いる。 ダレ も ショウカ に てつだう モノ は いなかった。
 ねむく なった と オンナ が いい、 ワタシ つかれた の、 とか、 アシ が いたい の、 とか、 メ も いたい の、 とか の ツブヤキ の ウチ ミッツ に ヒトツ ぐらい は ワタシ ねむりたい の、 と いった。 ねむる が いい さ、 と イザワ は オンナ を フトン に くるんで やり、 タバコ に ヒ を つけた。 ナンボン-メ か の タバコ を すって いる うち に、 とおく かなた に カイジョ の ケイホウ が なり、 スウニン の ジュンサ が ムギバタケ の ナカ を あるいて カイジョ を しらせて いた。 カレラ の コエ は イチヨウ に つぶれ、 ニンゲン の コエ の よう では なかった。 カマタ ショ カンナイ の モノ は ヤグチ コクミン ガッコウ が やけのこった から あつまれ、 と ふれて いる。 ヒトビト が ハタケ の ウネ から おきあがり、 コクドウ へ おりて あるきはじめる。 コクドウ は ふたたび ヒト の ナミ だった。 しかし、 イザワ は うごかなかった。 カレ の マエ にも ジュンサ が きた。
「その ヒト は ナニ かね。 ケガ を した の かね」
「いいえ、 つかれて、 ねて いる の です」
「ヤグチ コクミン ガッコウ を しって いる かね」
「ええ、 ヒトヤスミ して、 アト から いきます」
「ユウキ を だしたまえ。 コレシキ の こと に」
 ジュンサ の コエ は もう つづかなかった。 ジュンサ の スガタ は きえさり、 ゾウキバヤシ の ナカ には とうとう フタリ の ニンゲン だけ が のこされた。 フタリ の ニンゲン だけ が―― けれども オンナ は やはり ただ ヒトツ の ニクカイ に すぎない では ない か。 オンナ は ぐっすり ねむって いた。 スベテ の ヒトビト が イマ ヤケアト の ケムリ の ナカ を あるいて いる。 スベテ の ヒトビト が イエ を うしない、 そして ミナ あるいて いる。 ネムリ の こと を かんがえて すら いない で あろう。 イマ ねむる こと が できる の は、 しんだ ニンゲン と この オンナ だけ だ。 しんだ ニンゲン は ふたたび めざめる こと が ない が、 この オンナ は やがて めざめ、 そして めざめる こと に よって ねむりこけた ニクカイ に ナニモノ を つけくわえる こと も ありえない の だ。
 オンナ は かすか で ある が イマ まで キキオボエ の ない イビキゴエ を たてて いた。 それ は ブタ の ナキゴエ に にて いた。 まったく この オンナ ジタイ が ブタ ソノモノ だ と イザワ は おもった。 そして カレ は コドモ の コロ の ちいさな キオク の ダンペン を ふと おもいだして いた。 ヒトリ の ガキダイショウ の メイレイ で 10 ナンニン か の コドモ たち が コブタ を おいまわして いた。 おいつめて、 ガキダイショウ は ジャックナイフ で いくらか の ブタ の シリニク を きりとった。 ブタ は いたそう な カオ も せず、 トクベツ の ナキゴエ も たてなかった。 シリ の ニク を きりとられた こと も しらない よう に、 ただ にげまわって いる だけ だった。 イザワ は テキ が ジョウリク して ジュウホウダン が ハッポウ に うなり コンクリート の ビル が ふきとび、 ズジョウ に テッキ が キュウコウカ して キジュウ ソウシャ を くわえる シタ で、 ツチケムリ と くずれた ビル と アナ の アイダ を ころげまわって にげあるいて いる ジブン と オンナ の こと を かんがえて いた。 くずれた コンクリート の カゲ で、 オンナ が ヒトリ の オトコ に おさえつけられ、 オトコ は オンナ を ねじたおして、 ニクタイ の コウイ に ふけりながら、 オトコ は オンナ の シリ の ニク を むしりとって たべて いる。 オンナ の シリ の ニク は だんだん すくなく なる が、 オンナ は ニクヨク の こと を かんがえて いる だけ だった。
 アケガタ に ちかづく と ひえはじめて、 イザワ は フユ の ガイトウ も きて いた し あつい ジャケツ も きて いる の だ が、 カンキ が たえがたかった。 シタ の ムギバタケ の フチ の ショホウ には なお もえつづけて いる イチメン の ヒ の ハラ が あった。 そこ まで いって ダン を とりたい と おもった が、 オンナ が メ を さます と こまる ので、 イザワ は ミウゴキ が できなかった。 オンナ の メ を さます の が なぜか たえられぬ オモイ が して いた。
 オンナ の ねむりこけて いる うち に オンナ を おいて たちさりたい とも おもった が、 それ すら も めんどうくさく なって いた。 ヒト が モノ を すてる には、 たとえば カミクズ を すてる にも、 すてる だけ の ハリアイ と ケッペキ ぐらい は ある だろう。 この オンナ を すてる ハリアイ も ケッペキ も うしなわれて いる だけ だ。 ミジン の アイジョウ も なかった し、 ミレン も なかった が、 すてる だけ の ハリアイ も なかった。 いきる ため の、 アス の キボウ が ない から だった。 アス の ヒ に、 たとえば オンナ の スガタ を すてて みて も、 どこ か の バショ に ナニ か キボウ が ある の だろう か。 ナニ を タヨリ に いきる の だろう。 どこ に すむ イエ が ある の だ か、 ねむる アナボコ が ある の だ か、 それ すら も わかり は しなかった。 テキ が ジョウリク し、 テンチ に あらゆる ハカイ が おこり、 その センソウ の ハカイ の キョダイ な アイジョウ が、 スベテ を さばいて くれる だろう。 かんがえる こと も なくなって いた。
 ヨ が しらんで きたら、 オンナ を おこして ヤケアト の ほう には ミムキ も せず、 ともかく ネグラ を さがして、 なるべく とおい テイシャジョウ を めざして あるきだす こと に しよう と イザワ は かんがえて いた。 デンシャ や キシャ は うごく だろう か。 テイシャジョウ の シュウイ の マクラギ の カキネ に もたれて やすんで いる とき、 ケサ は はたして ソラ が はれて、 オレ と オレ の トナリ に ならんだ ブタ の セナカ に タイヨウ の ヒカリ が そそぐ だろう か と イザワ は かんがえて いた。 あまり ケサ が さむすぎる から で あった。


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